【完結】ONE PIECE Film OOO ―UNLIMITED DESIREー   作:春風駘蕩

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5.人ならざる者

 ガン!! と戦斧が薙ぎ払われると、火花とともに翼竜の異形が弾き飛ばされる。それと同時に強烈な衝撃波が発生し、周りの怪物達をもまとめて吹き飛ばした。

 すかさず背後から真っ赤な鳥の怪人と緑色の昆虫型の異形が襲い掛かると、エールは尻の長い尾でそれを薙ぎ払う。

 次々に飛び掛かってくる異形たちを鋭い鉤爪で切り裂き、ときには強靭な牙で噛み砕く。

 まるで獣のような姿で戦うエールの目には、もはや上空に浮かぶ城の天辺しか見えていない。

「ガルルルルル!!」

 エールは低くうなり、急降下して異形たちの真下に降りると、翼を大きく広げて強烈な冷気を放つ。瞬間、周囲一帯にいた異形たちは凍りつき、重力に従って落下していく。

 落下してくる氷の塊に向かって、エールは甲高く響く咆哮を上げる。

 ―――ゴアアアアアアアアアア!!!!

 ビリビリと大気が震え、氷の塊が一瞬で砕け散り、大量のセルメダルがエールの上に降り注ぐ。

 するとエールは、落ちてくるメダルを体で受け止め、胸の中に吸収していく。

 体にまた大きな力が漲るのを感じながら、エールは上空をキッと鋭く睨みつける。そして、歯をぎりぎりと食いしばって表情を険しくさせる。

 空はまた、黒い塊で埋まっていた。

 先ほどと同じか、それ以上の数の化け物たちに支配され、空はまるで曇天のように曇っていた。 

「……きりがない」

 エールは意を決して、その群れの中に突っ込んでいく。

 異形たちはそれを迎え撃たんと翼を広げ、エールとまっすぐに対峙し、どんどん距離を詰めはじめる。

 エールは戦斧を振りかざし、異形たちも舌なめずりをしながらぶつかり合おうとする。

 だがその刹那、エールの姿が一瞬で消え失せた。

 翼の向きを変えたエールは、集まりだした異形たちの真下をくぐるように方向転換し、急降下を始めた。

「!! 下ダァ!!」

 異形たちが慌てて追おうとするが、密集した群れの中で押し合いへし合いになり、身動きが取れなくなる。

 もつれ合う異形たちの真下からエールは急上昇し、戦斧を気合を込めて一閃した。

「セイヤァァァァァ!!!」

 ドッカァァァン!! と爆炎が巻き起こり、その場にいたほとんどの異形たちがメダルの粒へと還っていく。

 落ちてくるセルメダルを残さず喰らい、エールはにっと笑ってまた飛び立つ。

 敵をほとんど一掃した空に浮かぶ城に辿りつき、エールはその城壁を尾を薙いで破壊し、低くうなりながら侵入する。

 勝利を確信した笑みを浮かべながら見上げた彼女は、次の瞬間言葉を失って凍りついた。

 城の中も、メダルの怪人たちが敷き詰められていた。

 飛行能力のない陸上斥候部隊としての怪物たちが、舌なめずりをしながらエールを待ち構えていたのだ。

 舌打ちして唸るエールを待つその場所は、獲物を待つ蜘蛛の巣そのものだった。

 腹を決めたエールが高く吠えてから異形たちの群れに突っ込もうとした、その瞬間。

 

「〝風来《クー・ド》バースト〟!!」

 

 ドビュン!! 砂浜を強烈な力が走り、巨大な船を空気の推進力が押しだす。

 強烈な衝撃波が顔を襲い、ヒナと店主たちは思わず顔を覆う。

 風がおとなしくなってから目を開けると、ヒナたちはその光景に目を瞠った。

「ふ……、船が」

 飛沫がキラキラと辺り一面に舞い、夕日に輝く。滴が輝く夕焼けの空を背景に、サニー号はそこにいた。

「空を、飛んだ!?」

 風を切り、貫きながら、空飛ぶ船サウザンド・サニー号は、欲望の王の待つ天空の城に向かって一直線に飛んで行った。

 サニー号の内部では、一味の狙撃手が脂汗をにじませながらあるレバーを握りしめていた。

 すると、そばにある喊声管から、フランキーの野太い声が大きく響く。

『オウ、ウソップ!! しくじんじゃねぇぞ!! タイミングを外したら船も俺たちも木端微塵だ!!』

「わかってらァ!! プレッシャーかけんじゃねェェェ!!」

 涙目でモニターを睨むウソップの目の前に、城の外壁が徐々に迫る。

 すると、突然サニー号のライオンヘッドの口がバクン! と開き、中から黒い大砲が伸びた。

『5………4………3………2………1………0!! Go!!!』

 ウソップはフランキーの合図を信じ、レバーのボタンを強く押す。

 キュィィィン!! と、サニー号の船首の砲門に光が集まり、城と船体を明るく照らし出す。

 船体が、鋼鉄の城に激突しようとした、その瞬間。

『〝ガオン砲〟!! 発射ァ!!!』

 一瞬で光が弾け、全てを吹き飛ばす風の砲弾が、城の外壁に直撃し、炸裂する。すさまじい衝撃が弾け、一瞬遅れて轟音が鳴り響く。

 そして、鋼鉄の硬さを誇るはずの壁が砕け、ぽっかりと大きな口を開けた。

 その穴へ、反動で減速したサニー号が頭から突っ込み、ガリガリと壁を削りながらやがて静かに停止した。

 ズン……!! と重い音を響かせたサニー号の甲板から、ルフィがタンッと飛び降りる。そしてゴムの体を大きく膨らませて、腹の底から広く響く声を張り上げた。

「エ〰〰ル〰〰〰〰〰!! 来たぞ〰〰〰〰〰〰〰!!」

 来たぞ―――、来たぞ――、来たぞー……。

 暗い空間に、ルフィの声だけが長く山彦のように響き渡る。

 だが、エールはおろか、あれほどひしめき合っていた異形たちでさえも答えなかった。

「……ん? いねーのか?」

 首を傾げたルフィのもとに、仲間たちが続々と集まってくる。

「……あいつら、どこに消えたんだ?」

「ぺしゃんこに潰されていたりして」

「怖ェェ事言ってんじゃねェよ!!」

 ちょっとした漫才をしていると、ふと、近くの瓦礫がガタンッ、と音を立てて動いた。

「ん?」

 見ると、瓦礫の中から見覚えのある紫色の長い尾が生えていた。

「………こっ……こっ………こっ………………!!」

 瓦礫がガタガタと揺れ始めたかと思うと、次の瞬間。

「殺す気かァァァァ〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰!!!」

 怒気のこもった声を張り上げ、エールがうがぁぁぁぁ! と起き上がった。

「あっ、よかった! ご無事でしたか!!」

 ブルックが駆け寄ると、エールはガルルルル!! とうなりながらその頭につかみかかった。

「これが無事に見えるかァ!? お前の目は節穴か!!」

「え、節穴ですけど」

「そーだったね!! 骨だもんね!!」

 もはややけくそになって喚くと、エールはキッとルフィを睨む。

「………どうして来たの?」

 エールの咎める視線を受けて、ルフィは逆にむっとしたような顔になった。

「来るなって、言ったのに……!!」

 エールは拗ねたように口をとがらせ、うらめしそうにルフィたちを睨む。

 対するルフィは、憮然とした様子で口を開いた。

「……お前ひとりに、戦わせねェよ」

「これは私の戦いなんだ!! 関係ないやつは引っ込んで……!!」

「関係なくねェ!!」

 いきなり声を張り上げられ、エールは思わず口をつぐむ。ルフィは目を見開いたエールを睨み、ふん、と鼻息を荒くする。

「俺たちはずっと、いろんな奴らに助けてもらってきた。今まで出会ってきた奴らは、みんな俺たちの大事な仲間だ!!」

 思い浮かぶのは、今までの出会いの数々。

 ルフィの命の恩人にして、世界に名をとどろかせる大海賊、〝赤髪〟のシャンクスと、その仲間たち。

 誰にも知られぬ戦いを知っていてくれている、カヤと子供たち。

 旅立ちを見送ってくれた、レストラン・バラティエのコックたち。

 今もなお、ブルックを待つクジラ、ラブーン。

 誇りのために終わりなき戦いを続ける二人の巨人、ドリーとブロギー。

 ドクター・くれはと、ドラム国の国民たち。

「みんな、俺たちに命を預けてきた!! だから俺たちも、みんなに命を預けてきた!! みんなでずっと、みんなの命を懸けてここまで来たんだ!!」

 最初はぶつかり合い、けれども最後は一緒になって戦った、空島の戦士たち。

 誤解や勘違いで仲たがいしたけれども、共に戦ってくれたウォーターセブンの船大工たち。

 スリラーバークでルフィたちを助け、勝利を信じてくれたローリング海賊団。

 ―――みんな命を懸けて共に戦ってきた。

「ここでお前を捨てちまったら、絶対死ぬほど後悔する!! おれはそんなの絶対にやだ!!」

 途中で別れてきた、もう一人の仲間。アラバスタ王国の王女ビビ―――彼女との別れは、激しい悲しさと後悔を残し、だがそれでも、今でも彼らを強い絆でつないでいる。

「お前の命は、もうお前だけのもんじゃねェ!!」

 ドン、と気迫を背負い、ルフィは高々と言い放つ。

 

「俺たちは、仲間だ!!」

 

 気迫に押されたエールはしばしの間返す言葉を失い、ややあってから呆れたようにため息をついた。

「……その様子だと、拒んでも無駄そうだね」

 ふっと微笑むと、彼女は見つめてくるルフィを見つめ返す。

「……失くすのが怖くて、失くすくらいなら、最初から何もない方が良いって、そう思ってた」

 静かに告げるエールは、ふいに自嘲気味に微笑む。

「でも、やっぱり、我慢できなかった。800年ぶりに感じたぬくもりを……捨てるなんてこと」

 エールは頬を赤らめると、きっと決意の表情に改め、ルフィたちを見据えた。

「……これだけは、守って。―――――死なないで」

 それだけを返すと、正解だといわんばかりにルフィは笑った。まるで、太陽のように。

「おう!!」

「よっしゃぁ!!」

 ナミやウソップたちも同調し、一同はガツンと互いの拳を合わせ始める。

 エールは周りを見渡し、ついに見せなかった優しい笑みを見せると、次いで申し訳なさそうに首をかしげた。

「……今更、わがままかもしれないけれど、私と一緒に、戦ってくれるかな?」

 答えなどいらない。

 先手を切って、ルフィが宣言する。

「この先何があっても、俺たちは離れない!! 最後まで一緒に戦って、ガラの野郎をブッ飛ばす!!」

 その手に掴んだつながりを前に、エールはもう、迷ったりしない。ルフィをじっと見つめ、みんなとともに声をあげる。

「オウ!!!!」

 広い空間に響き渡った声。その時。

 ―――オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 それにおびき出されたのか、城の奥からまたも大量のヤミーたちが続々と現れ、ルフィたちに襲い掛かってきた。

 一味はいっせいに得物を構えると、両目をギラリと光らせる。

「〝ゴムゴムのォ〰〰〰〰〰〰銃乱射(ガトリング)〟!!!」

 ルフィは姿勢を低く落とし、両手を何度もジャブし、次第にその勢いと威力を上げていく。そしてその勢いのまま、ルフィはヤミーたちに強力な拳の雨を浴びせかけ始め。

「〝恐獣絶対零度砲(プトティラ・ゼロ)〟!!」

 エールは翼をいっぱいに開き、全身に冷気をまとわせ始めると、一気に強烈な氷の風が襲いかかり。

「〝ウェポンズ・(レフト)ォ〟!!」

 銃器を仕込んだフランキーの左腕が火を噴き。

「〝反作法(アンチ・マナー)キックコース〟!!」

 サンジの蹴りの嵐が吹き飛ばし。

「〝六輪咲き(セイス・フルール)・クラッチ〟!!」

 ロビンの生やした無数の手が絡めとり。

「ヨホホホホ!! 〝八筈切り〟!!」

 ブルックの一閃が真っ二つにし。

「〝ドリル・クラッシャー〟!!」

 コトの鎧が唸りをあげ。

「いけェェェ!!」

「いいぞ〰〰〰〰〰!!」

「よろしく〰〰〰!!」

 三人の声援が響き渡る。

 

「〝麦わら無敵艦隊(アルマーダ)〟!!!!」

 

 完全に息の合った10人の力が、ヤミー軍団を吹き飛ばした。

 ジャラジャラジャラ!!

 辺り一面に散らばるメダルの雨を前に、エールはキッと前方を睨みつける。

「……待ってろ、ガラ。決着をつける時だ」

 

 *

 

 城の最上階。

 ガラが己のためにのみ作り出した王の空間。

 その奥に供えられた玉座の上で、ガラは招かれざる客が近づいているのを感じ取った。

 その時だ。

 ドーン!!

 重層な扉が粉砕され、重々しい音を立てて崩れ落ちる。

 開け放たれた扉の向こうから、11の人影が現れ、しっかりとした足取りで向かってくる。

 玉座の上で、ガラは興味深そうに「ほう…」と声を漏らした。

「……来たぞ、ガラ」

 王を見据え、静かに呟いた少女に、ガラは牙をギチギチと鳴らしながらにやりと笑った。

「……ここまで愚かだとは思わなかったぞ。よもや無関係のものまで巻き込んで仇を討ちに来るとは思わなんだぞ」

 憎たらしい表情で挑発するも、エールは決意の表情を変えない。その姿にいささか興をそがれたガラは、舌打ちしてエールを睨んだ。

「……また絶望するか。今度は、己の欲のために、仲間を犠牲にして」

「残念だが、それは違うね」

「何?」

 ピクリとガラの頬が震える。

「ここに来たのは、仇を討ちにでも、絶望しにでも、……ましてや、お前を倒しに来たためでもない」

 ザッと隣に立つ、頼もしい仲間たちの気配。

 彼らはお互いに顔を見せあうこともなく、ただ目の前の敵をまっすぐに見据える。その目に宿るのは、覚悟と意志の光だ。

「この戦いに終止符を打ち、そして、本当の自由を手に入れるため」

 戦斧の柄を握りしめ、刃に鈍い音を反響させながら、切っ先をガラに向ける。

 エールの瞳にも、ルフィたちと同じ光が宿っていた。

 

「明日を生きるためにだ!!!」


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