【完結】ONE PIECE Film OOO ―UNLIMITED DESIREー   作:春風駘蕩

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6.最後の誓い

 何もない空間に突如、炎が舞い始める。

「さぁ、くるがいい!!」

 そう挑発すると、ガラは周囲に舞う炎を集め、熱の波へと変えてルフィたちに放った。

 とっさにそれを避けた11人は、各々の判断で王の間に散らばり始める。

 最も遠く離れたウソップは、自慢の巨大パチンコ・カブトでガラに狙いを定める。

「〝必殺・火薬星〟!!」

 天賦の才を有する狙撃手の弾丸は、寸分違わずガラの顔面へと命中し、小さな爆発を起こす。

 攻撃が当たったことに喜び、ウソップはガッツポーズをした。

「よっしゃぁ!! どんなもんで……」

 だが、ただの爆発で倒されるほど相手は甘くなかった。

 ゴロゴロゴロ!! と低く雷鳴が轟き、突如緑色の雷がウソップに襲いかかった。

「ギャアアアアアアア!!!」

 咄嗟の判断で伏せたウソップの頭上を、雷がかすっていく。雷は背後の壁に当たり、そこを広く真っ黒に焦がした。

 ガラの注意がそれた隙に、ゾロとサンジが懐に入る。

 ゾロは乱れ刃の刀を振り抜き、サンジは遠心力のついた回し蹴りを放つ。

「うらぁぁぁ!!」

「おらぁぁ!!」

 雄叫びを上げるゾロの『秋水』とサンジの蹴りがガラの顔面に決まりかけた瞬間。

「ふん!!」

 ガラは両腕を振り払い、強力な衝撃波を放って二人を弾き飛ばす。

 吹っ飛ばされた二人は、両側の壁に勢いよく激突し、形が付くほどまでめり込んだ。

「うお!!」

「がふっ!!」

 間髪入れず、ガラは別の標的を探す。

 すると、その目がいきなり暗転した。

「!?」

「〝二輪咲き(ドス・フルール)〟」

 腕を交差したロビンが、ガラの視界を塞いでいる間に、チョッパーとフランキーが突進し、同時に拳を構える。

「〝ダブル・ゴング〟!!」

 ゴォォォン!! と鐘のような音が響き、ガラの体が一瞬傾く。

 するとその場に、ゴロゴロとまたも雷鳴が轟く。だが今度は、一味の頼もしい航海士によるものだ。

 モクモクと真っ黒で小さな雲が発生し、時折電流が走る。チョッパーとフランキーが慌てて逃げるのを確認してから、間にガラをはさむようにナミがスタンバイし、準備が完了する。

「天候は嵐!! 落雷にご注意を……❤」

 ガラの背後にたまる雷雲がカッとひかり、ガラの腹を雷が貫く。

「〝サンダー=ランス=テンポ〟!!」

 一瞬遅れて轟音が鳴り響き、大気を揺るがす。

 しかし、ガラはいまだ倒れない。怒りのこもった目でナミを睨む。

「おのれ……」

「〝鼻唄三丁〟……」

 身構えたガラの背後に、杖の仕込み刀を持ったブルックが、亡霊のように現れる。

「〝矢筈斬り〟!!」

 チン、と刃が鞘に納められた瞬間、バキン!! とガラの鎧が切り裂かれ、砕けた破片が宙に散った。

「ぐっ……!!」

 さすがにうめくガラの耳に、低い電子音性が届く。 

[ブレストキャノン]

[キャタピラレッグ]

 次いで、キャタピラの足と胸に大砲を装備したコトが、ベルトに二枚のセルメダルを投入する。

[セル・バースト]

 エネルギーを充填した砲門が、ガラに牙をむく。

「〝バースキャノン・フルブラスト〟!!」

 紅色をした光線が、轟音をあげて噴き出し、ガラに直撃する。衝撃によろめくも、コトは両足を踏ん張って反動に耐え続ける。

 ガラは怒りに顔をしかめながら、ビームを弾き飛ばす。だが、その威力に、周囲の判断が一瞬鈍った。

「〝ゴムゴムのォ〰〰〰〰〰〰〰〰〟!!」

 床を蹴り、ルフィが猛スピードで走る。右腕をスタート地点まで伸ばしながら、その反発力を蓄積していく。

 そして、振り向いたガラの目の前まで達すると、一気に腕を引き戻していく。

「〝弾丸(ブレッド)〟ォ!!!」

 ガァァァン!! ルフィの拳がもろにガラの顔に炸裂する。

 が、それを受けてもガラは平然と立っていた。

「げ!!」

 ルフィがしまった、という顔をした瞬間。

「こざかしいわ!!」

 ガラが爪を振りかざし、ルフィの胸を切り裂いた。

「いでぇッ!!」

 咄嗟に飛びのいたため致命傷までは至らなかったが、決して少ない量の鮮血が当たりに飛び散る。

 間を空けずに、エールが戦斧を片手に駆けだす。メダルを一枚戦斧にのみこませ、顎を動かす。

[ゴックン!]

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 自身の怒りを込めた渾身の一撃は。

 ガラがつい、と出した片手にいとも簡単に止められた。

「!?」

「……メダル、頂いていくぞ」

 驚愕に硬直するエールの胸に、ガラがズン!! と鉤爪を突き立てる。

 ビクン!! と痙攣し、痛みに悶絶するエール。

 だが、その腕をエールはがっしりと掴み返した。

 ガラを数センチの距離で睨みつけ、耳まで裂けるような憎たらしい笑みを見せてやる。

「……!! 何を!?」

「…………今、私の中には、お前を絶対に倒せるだけの力がある!!」

 そういって、エールはガラから戦斧を引きはがし、胸からガラの腕を引き抜く。ずるりと黒い腕が引き抜かれた瞬間、それは起こった。

 穿たれた傷口から、大量のセルメダルが吹き出し始めたのだ。

「!!」

 身の危険を感じて離れようとしたガラの腕を、エールはがっちりと掴む。驚くガラに、エールはにやりと笑って見せた。

 流れ出たメダルは、まるで決壊したダムのごとき勢いで、洪水のように王の間を漂い始める。エールとガラを取り巻くその光景は、まさに銀色の荒潮のようだった。

 噴き出し続けるメダルの奔流を前に、ガラは表情をひきつらせた。

「……貴様、まさか!!」

「ああ、そうだよ!! 私はただじゃ倒れない!! この時を、ずっと待っていた!!」

 その時、戦斧に付いた恐竜の目が光輝き、刃が淡い紫色に光った。

 すると、周囲に散らばり、空中に漂っていたメダルが突如としてまとまり始め、エールの方へと殺到し始める。

「ああああああああああ!!!」

 エールが吠えると、戦斧の刃が流れ込んできたセルメダルをいきなり『喰らい』始めた。

 顎を全開にした竜は、貪欲に欲望のメダルを飲み込んでいく。取り込まれたセルメダルは、紫の光となって刃に収束していく。

 すると、徐々に柄を持つエールの腕が重くなり、斧がぶるぶると震えはじめる。戦斧自体からも鈍く軋むような音が鳴り始め、耳ざわりな金属音がし始める。

「あああああああああああああ!!!」

「バカな……、それではお前まで………!!」

「構うかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 吸い込まれていくセルメダル。

 すると、それに巻き込まれていくように王の間の壁が砕け、セルメダルに還りはじめた。

「ガラ!! お前にだけは、渡さない!!」

 戦斧がついに、全てのセルメダルを食らい尽くし、耳ざわりな甲高い音を響かせる。まるで、ガラへの怒りの咆哮のように。

「この仲間(たから)だけは、渡さない!!」

 エールは叫び、唸りを上げる戦斧を振りかざす。

 そして、一際眩しく、戦斧の目が光輝いた。

「セイヤァァァァァァァァァ!!!!」

 

 ―――斬!!

 

 咆哮とともに放たれた竜の一閃は、城をも巻き込んでガラを両断した。

 玉座が砕け、屋根が割れ、床に亀裂が入る。

 胸を真っ二つに斬られたガラは、火花を散らしながらよろめき、最期に憎しみのこもった目でエールを凝視してから、真っ赤な炎をあげて爆発炎上した。

 ドゴォォ……ォォン!!!

 爆音が断末魔のように響き、ビリビリと空気が震える。

 メダルの破片が宙に舞い、戦斧を振り抜いたエールは、その場に膝をついた。

 紫の鎧が消え去り、エールは荒い息のまま両手をつく。

「はぁっ………、はぁっ…………」

 ぼたぼたと粘つく汗を零し、エールは大きく呼吸する。

「エール!!」

 血相を変えたルフィたちが声をあげ、一斉に駆け寄ってくる。

 その声は、ノイズに紛れてまったくわからない。だが、エールはその声だけがうれしくて、震える体に鞭うち、重い顔を上げる。

「…………アンク……、やったよ…………? 私……、勝ったよ……?」

 呼びかける相手は、もういない。

 エールは、疲労で限界の体を引きずり、ようやく得た仲間たちに向かって手を伸ばす。虚ろに陰った、見えない目で虚空を見つめ、エールは手を伸ばす。

「これで、私、は……、自由…だ……!!」

 エールがそう、喜びをあらわにした瞬間。

 

 ――――ドスッ!!

 

 鈍い衝撃が、エールの胸を貫いた。

「……え?」

 呆然とした様子で、エールは声を漏らす。目の前では、目を見開いたルフィたちがエールの方を凝視していて、言葉にならない声を漏らしている。

 少しずつ少しずつ、胸にじくじくとした痛みが広がり、口の端から生暖かい液体が漏れだしていく。

 見下ろすと、黒い鋭利な何かが、エールの胸から生えていた。

『………第7のメダルの事を知らなかったのが、貴様の敗因だな……』

 震えはじめたエールの耳に、あるはずのない声が届く。背後でジャラジャラと金属音が響き、大きく広がっていく。

 グイ、と体が持ち上げられ、エールが軽く宙に浮く。だらりと垂れさがる四肢を自分のものではないように呆然と見下ろしてから、エールはゆっくりと、背後を振り返る。

『紫のメダルですべてを決するつもりだったようだが、それもまた無意味だったな』

 そこにいたのは、巨大な竜だった。

 長い首と尾。ワニのような鋭い牙を備え、両の目は鋭い眼光を放ち、黒い光沢を帯びた鱗の上には、金色の鎧をまとう。発達した翼を両腕に備えた姿は、翼竜に近く、先に生えた鋭い爪が、エールの体を突き刺している。

 伝説や神話に登場する神々しい姿とはかけ離れた、まさに、悪しき邪竜。

 もはや、それは本当の怪物だった。

『すべてを破壊する〝無〟のメダル……? そんなものが存在すると思っていたのか』

 ゴボッと、エールの口からどす黒い血が噴き出される。ビクンと大きく痙攣した体が力なく揺れ、吐き出した血がぼたぼたと落ちていく。

『絶滅した生物の力を集めて作り出した、そう言ったがな。実際にはそれらは実在するのだよ。一部の海にはな……』

 ブン! とガラは爪を振り払い、エールの体が放り出される。

「エール!!」

 飛び出したルフィが抱き留めると、ガラはその様子を鼻で笑った。

『ありもしない希望を信じ、自信を破滅へと追いやったか。……本当に、愚かな』

 ガラはズン、と片足を床に突き立て、ギラリとルフィたちを睨みつける。

『愚か者どもがぁ!!!』

 そして、その巨大な咢から、大音量の咆哮が放たれる。

 ―――ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 ガラの罵倒の声とともに、王の間は最後の力を失い、轟音をあげて砕け散った。砕けた瓦礫は、瞬く間にセルメダルに戻り、ガラに取り込まれていく。

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 足場を失ったルフィたちは、悲鳴を上げて落下していく。

 目下に広がる、海へと―――――!!




次回、いよいよ最終章突入。

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