【完結】ONE PIECE Film OOO ―UNLIMITED DESIREー   作:春風駘蕩

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ONE PIECE! 前回までの3つの出来事!!
ひとつ! ガラとの戦いの末、エールは自身の記憶を取り戻した!!
ひとつ! エールは紫のメダルの力で、ついにガラを倒した!!
ひとつ! 第7のメダルの力でよみがえったガラに、エールはすべてのメダルを奪われた!!


第四章 心と絆と本当にほしかったもの
1.秘めた想い


 ゴゴゴゴゴゴ…………

 重低音を響かせて、ゆっくりと城が崩れていく。夕日を反射したキラキラした茜色の輝きを放ちながら、瓦礫が小さな粒となって海へと落下していく。

 ルフィたちの向かった城を見つめていたヒナたちは、その光景に目を瞠り、凍りつく。

「……!! 大変だ……!!」

 思わず駆け出そうとしたヒナを、シンゴが抱き留める。

「ヒナ、だめだ!!」

「だって……、だって……!!」

 涙ぐむヒナ。その目の向く先で、大きな影が城から落ちているのが映った。

 

 *

 

「ぅおわアアアアアアアアア!!!」

 赤い空に、青年たちの声が響き渡る。

 チョッパーは泣きながらバタバタと両手を振り回し、ウソップは白目を剥いて絶叫する。

 ナミはそんなときにも冷静になり、すぐそばにいるロビンに手を伸ばし、ロビンもその腕を取る。

「ルフィ!!」

 ナミが叫ぶと、ルフィはゴムの腕を伸ばしてナミの体に巻きつける。そのまま限界まで伸ばし続け、ゾロとサンジを巻き取る。ガンッ!! とぶつかって、睨みあい始めた二人をほっといて、フランキーの方を見やる。

「フランキー!!」

「オウ!!」

 フランキーは鎖付きの右腕を伸ばし、空気抵抗のおかげでみんなより遅く落下して、半泣きになって悲鳴を上げるブルックを枝のように掴み取る。

[カッターウィング!]

[クレーンアーム!]

 コトがメダルを二枚ずつベルトに入れ、ダイヤルを回すと、球体が開いてパーツが飛び出し、背中に鋭いブーメラン型の翼と右腕にフックのついた武装が張り付く。

 コトは翼で空中でのバランスを取り、じたばたと暴れるウソップとチョッパー向かって右腕を振るう。フック部分を外し、間をワイヤーでつながれた先端を二人に巻きつける。

「麦わらさん!! 手を!!」

 ルフィはその声に従い、空いた左手をコトに向かって伸ばす。

 コトはその手をがっしりと掴み、ルフィが引き寄せるのと同時に自分も寄っていく。

 ルフィはそのまま首も伸ばして、遠い位置を落下するエールの襟首に噛みつく。

()――――――――――ル!!!」

 ギュン!! とすぐに首を縮め、代わりにナミがエールを抱きとめる。

 触れた胸が、吹き出した血に濡れるのにも構わず、ナミはエールを抱きしめる。

「エール!! しっかりしろ!! エール!!」

 ルフィはエールの襟首から歯を離し、必死にエールに呼びかける。

 だが、エールはぐったりとうなだれたまま、血の気の失せた顔でうめき声を上げ続けるだけだ。

 ふと、集まった一味の視界が暗くなり、訝しげに頭上を見上げる。

 一味の真上から、支えを失ったサウザンドサニー号が急速なスピードで落下してきていたのだ。

「わ――――!?」

 咄嗟にコトが一味を引っ張ると、サニー号はエールのそばをかすってから一同よりもはやい速度で落ちていく。

「サニー号が!!」

 ナミが目を見開いて叫ぶ。ライオンヘッドの船は、重力の法則に従って、はるか下の海面に向かっていった。

「サニ――――――――!!!」

 欠くことなどできないもう一人の仲間の危機に、ルフィは絶叫する。

 だが、その時。

[タカ!]

 聞き覚えのある小さな鳴き声のような声が、コトの耳に届く。

「!」

 次いで、バサバサという音が、何重何百にも重なって聞こえ始める。それに全員が気付いた瞬間には、一同は何百何千もの鳥の群れに取り囲まれていた。

 鳥たちは、光沢のある赤や紫、オレンジのボディを寄せ集め、まるで大きな塊のようにルフィたちにまとわりつく。そして、なるべく彼らの真下に入れるように飛んできていた。

 突然の猛襲に目を瞑っていた波は、その正体に気付いて目を丸くする。

「これ……、あのカンモドキ!?」

 鳥―――もとい、タカ、プテラ、クジャクのカンドロイドたちは、ルフィたちの落下のスピードを緩めさせ、空中に立つための足場となる。ぐらぐら揺れて不安定この上なかったが、落下こそ防ぐことができた。

 すると、一羽のタカカンドロイドが、バッタのカンドロイドを掴みながら飛んできた。

《―――いかがかね!? 私からのプレゼントは!?》

 知った声が、バッタから発せられる。

 ルフィはその声がコウガミのものであることに驚き、真ん丸に目を見開いた。

「!? おっさん!?」

「こ…、コウガミさん!?」

「社長!!」

《ここから、城が崩れていくのが見えたからねェ!! ありったけのカンドロイドを総動員したのさ!!》

 ルフィは二羽のタカの上でバランスを取り、声を放っているバッタカンドロイドを掴む。

「おっさん!! サニー号が!!」

《心配いらない》

 コウガミに言われて、ルフィははるか下を見やる。

 落下していくサニー号の下に、青い小さな群れが続々と集まって行っている。

[タコ!]

 八本の足をくるくると回転させながら集まってくるタコカンドロイドたちは、何匹にも集まって自らの体でドームを作り上げる。

 驚異の弾力と柔らかさを誇るタコカンドロイドのドームは、落下してきたサニー号をちょうど真ん中で受け止める。

 ボヨヨ〰〰〰ン!!

 まるでトランポリンのようにたゆんだドームは、そのままサニー号を高く放り上げ、すぐそばの海面に落とした。

 普通の船なら木端微塵になっている高さだったが、勢いが死んでいたのと、サニー号自身の材質である〝宝珠・アダム〟の誇る硬さで、衝撃にも難なく耐えた。

 バッカカンドロイドのスピーカーの向こうで、コウガミが高々と笑う。

《ははははははは!!! どうかね、ルフィくん!! 我がコウガミコーポレーションの技術は……》

 言いかけたコウガミだが、ルフィは全く聞いていなかった。

「おっさん!! エールを助けてくれ!!」

 タカカンの上に乗ったルフィが、目の前にバッタに掴みかかる。

『!? どうかしたのかね!?』

「ガラは一回倒したけど、エールのメダル全部持ってかれた!!」

『なんと!!』

 コウガミは本気で驚いたようで、バッタの目が様子を伝えるようにピカピカと光った。

『なんという執念!! さすがはコアメダルを生み出した男、ガラだ!!』

「おィィィ!! 感心してる場合じゃないでしょォォ!!」

 通信機の向こうで笑っていそうなコウガミを、ナミがそのままスピーカーを突き抜けて殴りに行きそうな勢いで怒鳴りつける。

 いつの間にか地面に着いたタカたちから降り、ルフィはコウガミの答えを待つ。

『しかしそうなら話は簡単だ!! ガラからメダルを一枚でもいい、取り返してエールくんに渡したまえ!! そうすれば体の崩壊は止まる!!』

「そうか!! わかった!!」

 ルフィは至極単純な答えに頷くと、エールをその場に横たえさせる。

 荒い息をついて目を閉じている彼女を見やり、ルフィは決意を新たにする。

 ナミがエールを受け取り、離れたところへと引きずっていくと、チョッパーも人型になってそれに続いた。

 ルフィたちは一列に並び、上空で旋回しているガラを睨みつける。

「いくぜぇ!! 野郎ども!!」

「オウ!!」

 しかし、一歩踏み出そうとしたルフィの足が、ピタリと止まる。

 白く細い腕が、ルフィの腕を掴んでいたからだ。

「…………エール」

 ナミの制止を振り切り、震える手で引きとめてくる少女に、ルフィは目を瞠った。

「……だめだ、ルフィ。行ったら……、殺される」

 痩せた顔で、懇願するエールの手を、ルフィはギュッと掴む。

「死なねェよ」

「もう、やめてルフィ!! 私はもう、大切なものを失くしたくないんだ!!」

 ついには泣き出してしまったエールに、ルフィは怒りを込めた表情を向けた。

「俺達だってそうだ!!」

 ルフィはそう怒鳴ってから、エールの手を振り払って背を向ける。伸ばされたエールの手が虚しく宙をさまよい、やがてぱたりと落ちた。

 一列に並んで、まっすぐに歩くルフィたち。

 ルフィは麥わら帽を深くかぶり、ゾロは三本の刀を備える。サンジは煙草をくゆらせ、フランキーはゴキゴキと拳を鳴らす。ブルックは仕込み刀をすっと静かに抜き、ウソップはゴーグルをかける。コトは銃にメダルを装填し、ロビンは上着を脱ぎ捨てる。

 勢揃いした麦わらの一味と若き弟子の前に、大きな影が落ちる。

 ズン!!

 目の前に降り立った、巨大な竜を前に、ルフィたちは身構える。ウソップは早速ガタガタと震え始めてしまったが、それでもひかずにカブトを構える。

 邪竜は、彼らを真っ黒な目で見下し、威嚇するように高く吠えた。

 それをきっかけに、ルフィたちはいっせいに駆け出す。

 ガラは駆け寄ってくるルフィたちに、真っ赤な熱の咆哮をお見舞いした。

「うぉっ!!」

 とっさに躱したルフィは、反撃とばかりに腕を限界まで伸ばして、渾身の掌底を放つ。

「〝ゴムゴムのバズーカ〟!!」

 しかし、放たれた掌底も、ガラの体表を少し弾くだけにとどまる。

 お返しとばかりに翼で殴られて、ルフィの体が軽々とふっとんだ。

「うっ!!」

 ルフィは呻きながら、砂浜の上を転がる。

 続いてゾロ、サンジ、ブルックが三方から迫り、それぞれの得物を携えて襲い掛かる。

 だが、ガラは渾身の攻撃もものともせず、三人を尾で片っ端から薙ぎ払った。

 ドリルを装着したコトと鋼鉄の腕を構えたフランキーが殴りかかるも、当然のごとく弾かれる。

 その時、いくつかの爆発がガラの顔に起きる。

 ウソップが放ったものだとわかったガラは、すかさず怒りを込めた大火炎を放った。

 火炎の魔の手から、ウソップは必死に逃げる。

「ギャァァァァァァァァァァ!!!」

 ウソップの悲鳴が高く響く。

 誰も、ガラに敵わないのは明らかだった。

 だが、それでも彼らは、諦めることなく立ち向かっていく。力の差を見せつけられながらも。

 エールの目から、一筋の雫が落ちる。

「……私のせいだ。私には、仲間なんて持つ資格ないのに……」

 かすれたエールの声が、虚しく響く。

「……なくすくらいなら、最初からない方がいい……。そう思って、拒んできたのに、……勝手だよね」

 ナミもチョッパーも、エールの自嘲を黙って聞く。その顔には、悲しみが浮かんでいた。

 ふと、ナミが口を開いた。

「……資格とか、あいつは考えてないと思うわ」

 エールはナミの顔を見つめ、その言葉の真意を目で尋ねる。

「あいつはさ、自分がそうしたいから、そうしてんだと思う。どれだけ拒まれたって、あいつがあんたを仲間にしたいって言ったのは、たぶん、あいつの欲が底なしだからなんじゃないかな」

 ナミは言ってから、苦笑する。

「……あいつが今戦ってんのは、あんたが欲しいからだよ。あんたと一緒に冒険するっていう欲が、あいつを動かしてる。……みんなそうだよ。あんたと一緒に行きたいと、願ってる」

 ナミは、見つめてくるエールの髪を撫で、潤んだ目で彼女を見下ろす。

「だからあんたは、それを否定しちゃダメ」

 ナミの言葉に、エールは目を見開く。

 そして、肩をがくりと落として、自分自身に落胆する。

 白い自分の手を見つめ、ぐっと握りしめる。

 熱いものが、目じりからこぼれ落ち、その手の上に落ちていく。

「…………私は、生きたい!! 諦めたくない!!」

 エールはボロボロと泣きながら、自分の思いをぶちまける。

「私だって、仲間になりたい!! あの人と一緒に……!! あなたたちと一緒に、一緒に冒険したい!! アイツの残してくれた未来で、私は…………………………生きたい!!!」 

 答えは、至って簡単だった。

 

「――――素晴らしい!!」

 

 朦朧としていたエールの耳に、その男の声は届いた。

 ナミとチョッパーがはっと振り返る。

 現れたコウガミは、暑苦しい顔に満面の笑みを浮かべながら、ゆったりと歩み寄った。

「ようやくこの時が来た!! 私はずっと待っていたのだよ!! 欲望の王が、こうして完全に復活する瞬間をね!!」

 狂気じみたコウガミの言葉に、ナミもチョッパーも、エールでさえも言葉を失って目を瞠るしかない。

「……何を、言ってるの……?」

 コウガミはその問いには答えず、ただエールだけを見つめ続ける。

「立ちたまえエールくん!! 君の願いは、こんなものじゃないはずだよ!! 君の欲しいものを守るため、こんなところで立ち止まってていいのかね!?」

「ちょ……、なに勝手なこと言ってんのよ!!」

「そうだ!! こんな、こんな状態なのに……!!」

 ナミとチョッパーが憤慨する中、エールは小さく何かを呟いた。

「……そうだ」

「!!?」

 振り返った二人の目の前で、エールは拳を強く握る。皮膚が破けて、血がにじむほどに。

 ……何をやっているんだ。

 自分を仲間と呼んでくれた者たちが戦っているのに、この体たらくはなんだ。

「私は……、もうあきらめない。こんな痛みがなんだ。苦しみがなんだ。ルフィたちだって今、同じ気持ちで戦ってるんだ。何やってんだ私は!!」

「エール!! 無茶すんな!!」

 ぶるぶると震える体を叱咤し、エールは身を起こそうと奮起する。傷口から血が流れても、かまわない。好きなだけ流せばいい。こんなもの、いくら失っても構わない。

「動けよ、立てよ、立って戦えよ!! 言ったじゃないか、この仲間(たから)だけは……!!」

 カッ!! エールの目が、決意を秘めて見開かれる。

 その奥に宿るのは、いつかの不死鳥のものに似た、真っ赤な熱い炎だ。

「渡さないって言ったじゃないか!!」

 地面をガン!! と殴りつけ、エールは身を起こす。その気迫に、ナミもチョッパーも気おされて、抑え込むのを忘れてしまった。

 コウガミは高々と笑うと、エールにさらなる激励の言葉を放つ。

「さぁ!! 立ちたまえ、エールくん!! 君の欲望のために、守りたいという願いのために!! 立って、それを手にしたまえ!!」

 その言葉が、エールに最後の力を与えた。

 無言のまま、少女はゆらりと起き上がり、幽鬼のような足取りで、立ち上がったのだ。

「……エール」

 ナミの悲しそうな目を向けられると、エールは黙って微笑んでみせた。

 大丈夫、ありがとう。

 そういうように。

 その瞬間、ありえないことが起こった。 

 貫かれ、大穴が開いて鮮血が吹き出していた胸の傷穴が、じわりじわりと再生し、塞がり始めたのだ。

 ナミはその光景に目を瞠りながら、諦めたように笑った。

「……ほんと、欲望の王って言われるだけ、底なしよね」

 ナミに言われて、エールも苦笑し、肩をすくめる。チョッパーは医者として色々言いたそうだったが、似たような状況を船長と味わっていたので、もう何も言わなかった。

「これが、私が選んだことだから」

 エールがそう答えると、ナミもチョッパーも、それ以上は何も言うまいと頷き、彼女の隣に並び、戦いの方向を見据えた。

 気迫を背負い、両の足でしっかりと立つエールを見て、コウガミは満足そうに笑う。

「それでいい。では、新たなる〝君〟の誕生を祝福し、これを贈ろう!!」

 そういって、コウガミは懐から何かを取り出し、掲げてみせる。

 コウガミの手に握られる、三枚のメダル。

 真紅の輝きを放つ、いと高き翼を司る鷹の力。

 猛々しく吠え、勇ましき力を司る、黄色い虎のメダル。

 緑の体に、強靭な脚力を誇る飛蝗(バッタ)の力。

 

「お見せしよう!! これが、800年前の王が初めての変身に使ったコンボ――――〝タトバコンボ〟だ!!」




次回、ついにタトバコンボ登場。
……長かった。ほんとに長かった。

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