【完結】ONE PIECE Film OOO ―UNLIMITED DESIREー   作:春風駘蕩

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2.〝王〟の資格

 エールの目に届く、三つの輝き。

 翼を大きく広げた、赤い〝タカ〟のメダル。

 縞々の顔で威嚇してくる、黄色い〝トラ〟のメダル。

 強靭な両足を見せつける、緑の〝バッタ〟のメダル。

 コウガミは、その場で大きく振りかぶり、エールに向かって三枚のメダルを投げ飛ばす。

 彼に背を向けたまま、エールは飛んでくるメダルを無言で掴み取り、そのうちの二枚を静かにベルトのスリットに収めた。

 最後に、赤いタカのメダルを入れようとした時、そのメダルがきらりと光った。

 ハッとなったエールは、それに懐かしい感じを覚えて思わず見つめる。

「…………アンク?」

 思わずそう尋ねるも、メダルは答えない。

 けれど、エールには彼が「そうだ」と言っているように思えた。

 

 ―――なんだ。こんなところにいたんだね。

 

 エールは懐かしい赤い輝きに表情をほころばせ、熱い視線を友に送る。

 ふと、不機嫌そうな声が、エールの耳に響く。

 

 ―――バカが。

    しっかり護り抜け。

 

 エールは懐かしい声を胸に抱き、メダルをベルトのスリットに収める。

 ガシャン!

 腰からスキャナーを取り外すと、ベルトは再びあの共鳴音を鳴り響かせる。それはまるで、長い間眠っていた主の覚醒を待ちわび、歓喜しているかのようだった。

「………行くよ。アンク」

 エールは微笑みを消し、燃え上がる決意の炎を瞳にたぎらせる。

「変身!!」

 自分を変える魔法の呪文を唱え、スキャナーが三色の輝きを放つ。

 ―――キン!キン!キン!

 かざしたスキャナーを胸の前にかかげると、いくつもの光の円陣が舞い、少女を包んでいく。

 顔には顔の周囲を取り囲む赤い鳥を模したフェイスアーマー。腕には黄色い猛獣の爪甲。両足には節だった昆虫の形をした緑の鎧。胸には、縦に三体並んだ獣の紋章の彫られたプレートアーマー。緑色に変わった目と、体に走るラインが光を放ち、ベルトが歓喜の歌を響かせる。

 

[タカ・トラ・バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タッ・トッ・バッ!!]

 

 かつて、この世のすべてを統べるために生み出され、全てを封じた鋼の武器。そしてその運命に抗うために戦った、一人の少女。

 800年の時を超え、欲望の王が真に復活したのだ。

 ザッ、と砂を軽く蹴り、オーズはゆっくりと一歩を踏み出す。そこには、昨日までのおびえた少女の姿などみじんもない、一人の歴戦の戦士がいた。

「!!」

 ゆっくりと歩み寄る少女に気付いたルフィたちは、驚きながら振り返った。

「……エール」

「エールちゃん…」

 見つめてくる仲間たちにふわりと笑いかけながら、エールはその前に立つ。

 その姿に安心したルフィは、にっこりと満面の笑みを浮かべ、エールの隣に立つ。仲間たちも続き、一味と少女は一列に並び、欲望の王を睨みつける。

 ついに、みんなそろった。

 そばにいる大切な者たちを見て、エールはそう思った。

「死にぞこないが……。ゴミどもとともに消えるがいい!!」

 高らかに言い放つガラだが、その言葉の向く一味はというと……。

「そういやおめー、開いてた穴どうした?」

「気合で塞いだ」

「マジで!?」

「いやいや、無理だろ」

「意外に、あなたならできるんじゃないの?」

「おめーはエールの事どんなふうに見てんだ!!」

「もはや人外ですもんね」

「…穴あいてる時点でダメだろ、普通」

「エールちゃぁぁぁん!! 無事でよかったよぉ〰〰〰!!」

「おめーら、いい加減危機感持てや!!」

 …と、好き勝手にくっちゃべっていた。

 完全に無視だ。

 ガラの眉間に、ビキビキと血管が浮かび、体がぴくぴくと震えだす。

『……そうか。それほどまでに……』

 ズシン!! 地面が踏み砕かれ、邪竜の巨体が宙に浮かぶ。

 ゴァァァァアアア!!!!

 怒りの咆哮をあげながら、ガラがルフィたちに襲い掛かる。

『自ら死にたいと申すかぁぁアァぁあアァアああ!!!』

 がばぁっ、と開かれた大アゴの牙が目前にまで迫り、ウソップとチョッパーとナミはいっせいに悲鳴を上げた。

「「「ギャアアアアアアアアアア!!!」」」

 互いに抱き合う三人の前に、エールがずい、と出ていく。

「〝黒鉄(クロガネ)武装〟」

 呟かれた言葉とともに、エールの右腕が黒い光沢を帯びた鋼のようになっていく。

 エールは右腕を振りかぶり、迫りくるガラの顎に向かって打ち付ける。

「〝打鉄(うちがね)〟!!」

 ゴキィ!!!

 もろに喰らった一撃は、そのままガラの顎を粉々に砕き割り、ガラの巨体が地面から浮かぶ。

『!!?』

 拳の一撃を食らったガラは、何が起こったのかもわからず呆然となる。

「〝轟天〟!!」

 しかし考える間もなく、今度はエールの左足が黒く染まり、高速の勢いで打ち出された蹴りに顎先を吹っ飛ばされた。

『ぐぶぅ!!』

 明らかに少女よりも重い邪竜の巨体が、たった一回の蹴りで空中に浮く。

 砕けた牙の破片が口から漏れだしていくのを頭の隅で感じながら、ガラはひっくり返った。

 ズズゥゥン!!

 轟音を立てて、ガラの体が大地に沈む。顎と頬に走る激痛に悶え、白目を剥いて呻いた。

 即座に後方に飛びのいたエールは、先ほどとは真逆に、にやりとガラに笑って見せる。

 だが、驚いているのは、ガラだけではなかった。

「……ん?」

 反応がない背後を振り向くと、皆が皆、驚愕の表情を浮かべて固まっていた。

「……どうしたの?」

「いやどうもこうもあるかぁ!!」

 いち早く復活したウソップが鋭く突っ込む。

 対してエールは、何をそんなに驚いているのかと首を傾げるばかりだ。

「……え、みんなも出来るっしょ? これ」

「いやいやいやいや無理無理無理無理!!」

「つーかさっきまで苦戦してた俺らってなんじゃぁ!!」

 一斉に手を振って否定を示すナミやウソップらと、不満をぶつけるゾロに、エールは何やら納得したとばかりに手をポン、と叩いた。

「……そうか、あいつらが普通じゃなかったのか」

 一人で頷くエールの背後で、ガラがゆらりと起き上がろうとしていた。

『………お、おのれ、小娘がぁ……!!』

 エールを怒りのこもった目で睨みつけ、ガラは牙をギシギシと軋ませ、唸り声を響かせる。

 そして、その怒りが爆発したといわんばかりに、突如天に向けて甲高い咆哮を放った。

 オオオオオオアアアアアアアアアア!!!!

 ガラの翼から何枚ものセルメダルがこぼれ落ち、あたり一面に散らばっていく。

 すると、セルメダルが次々に集まって、人型へと変わっていった。

 鳥や獣を無理やり人の姿にしたような異形の群れはもちろん、今度は鉄の兜をかぶった兵士のようなヤミーまでもが、それぞれに剣や槍を備えて整列し始める。

 瞬く間に、ガラの城にいたヤミーたちをも超える、ヤミーの軍隊が形成された。

 新たに現れたガラの兵隊(おもちゃ)を前に身構えるルフィに、エールはふっと微笑みかけ、その肩に手をかけた。

「……ルフィ。〝先輩〟から教えてもらったものとして忠告しといてあげる。〝新世界〟へ行くなら、……これくらいはできないとだめだよ」

 そういってエールは、静かに目を閉じる。

 そしてスーッと息を吸い込み、再びカッと目を開けると。

 

 ドクン!!!

 

 何か、形容しがたい感覚が体を突き抜け、遠く遠く広がっていく。ぞくっと背筋が震え、同時に何故か心強さを感じる力が、エールの方から放たれた。

 その時だ。

「――――」

 無言のまま、ヤミーの兵隊たちが、次々に倒れはじめたのは。

 異形たちは一斉に白目を剥き、糸の切れた人形のように次々に倒れ伏していく。あるものは泡を吹き、あるものはうめき声を上げながら、あるものはその場でメダルへと還りながら、大地へと沈んでいく。

 ガラの目が、驚愕で大きく見開かれる。

『………バカな』

 その呟きが聞こえたのか、エールはガラに向かってにやりと笑ってみせる。

 自信満々でたたずむエールに、ウソップとチョッパーは尊敬の目を向けていた。

「すっげぇ~!! なんだ今の!!」

「一瞬でほとんどやっちまったぞ!!」

 味方だという確信のため、二人は純粋に驚けている。だが、そのほかのメンバー、理性的に考えるナミや、強者としての力を持つルフィたちには、それはただ単にすごいといえるようなことではなかった。

「…………」

 ルフィは思わず麦藁帽に触れて、ごくりと唾をのむ。

 サンジやゾロ、フランキー、ロビン、ブルックたちも、ただただ目を見開くばかりだ。

「これは……、まさか!?」

 コトも、突然の事態に目を瞠り、固まる。

 信じられないといった様子で、この光景を凝視していたコトは、ポツリと呟いた。

「………覇王色の、覇気」

 驚きをあらわにするコトをよそに、エールは腰に手を当ててガラを鼻で笑う。

「……驚いているみたいだね。そして、恐れてもいる。自分の知らない力に、自分に手も足も出なかった相手が、自分を圧倒していることに」

『……貴様、何をした』

「別に何も? ただ思い出しただけさ。戦い方をさ」

 小馬鹿にしたようなエールの態度に、ガラはさらに怒りを募らせる。

 だが、次にエールが口にした言葉に、その怒りも忘れさせられた。

「あんたはずっと寝てただろうけど、私には時間が有り余っていたからね」

『!?』

 その意味を理解したガラは、信じられないとばかりに目を瞠った。

 ナミもまた、思わずエールを二度見する。

「……あんた、まさか」

「うん。精神……っていうか、魂? だけが起きてたみたい」

 あっけらかんと言ったエールから、ナミはさっと距離を取った。

 意味が理解できないルフィが、エールの方を向いた。

「どういう意味だ?」

 エールは顎に手をやり、ルフィが理解できるような答えを探る。

「ん~。いうなれば、……生きたまま幽霊になってたようなもんかな?」

「すっげぇ〰〰〰〰!!!!」

 一瞬で尊敬の目に変わったルフィは、キラキラした目でエールを見つめた。

 ガラはのほほんと笑っているエールを凝視し、震える声を漏らす。

『バカな……!! 800年もの間、自我を保っていられるなど……!!』

 ガラの呟きが聞こえたエールは、口元をゆがめて目を細めた。

「忘れたの? 私は、世界で最も強欲だった男の娘だよ!!」

 挑戦的な目で、エールはガラを嗤う。

「欲しいものを手に入れるためなら、800年間待つことぐらい屁でもないよ!!」

 エールはそう自信満々に言うと、両腕の爪甲を展開し身構える。

 ジャキン!! という音が、戦いの火蓋を再び切って落とした。


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