【完結】ONE PIECE Film OOO ―UNLIMITED DESIREー 作:春風駘蕩
「せいやぁぁぁぁぁぁ!!!」
威勢のいい声を張り上げて、エールがガラを殴りつける。黒く染まった爪で皮膚が切り裂かれて、何枚ものメダルが宙に舞った。
『ぐぉお!!』
うめき声を上げるガラ。傷口から、何枚ものセルメダルが零れて、下に溜まっていく。
「〝ゴムゴムのッ〟!!」
反撃の間もなく、足元から声が響く。
ルフィは何度も両腕をジャブのように突き出しては引っ込めるを繰り返し、その勢いを徐々に速めていく。
まずいと思って見下ろした瞬間。
「〝
下からルフィが顎を打ち上げ、ガラの口からメダルが勢いよく吹き出す。
何度も脳を揺さぶられて、ガラの視界がぐらぐらと歪む。
追撃をかまそうと足を踏み出したエールとルフィだったが、その前に衛兵ヤミーが列をなして立ちふさがった。
「うげ」
キキキッ、とブレーキをかけてルフィたちのもとに飛びのくと、一味は互いに背中を合わせて身構える。
「……一体一体はザコなのに、この数はちょっとやばいわね」
周囲を取り囲み始めた異形たちを睨みながら、ナミがぼそりと呟く。
「ぼやいてる暇があんならもうちっと前出ろや」
「あたしはか弱いのよ!」
「どの口がいっ……ゲフッ!!」
口を滑らせたウソップがガンッ!! と
すると、待ちくたびれたヤミーが一斉に襲い掛かってくる。
しかしその瞬間、どこからともなく飛来した巨大な岩が直撃し、ぺしゃんこに押し潰された。
「ギャアアアアア!!」
「!!?」
驚いたルフィたちが振り向くと、そこにいたのは。
「お〰〰〰い!!」
離れたところでぴょんぴょんと跳ね、腕を振る小さな影。パタパタと腕を振っているのは、まぎれもなくヒナだった。
「!? ヒナちゃん!?」
エールが目を剥いていると、どこからかまた覚えのある声が聞こえた。
「オラァァァァァァ!! うちのお客に、何さらしてくれとんじゃ、おどれらァァァァァァ!!!」
大きな体を豪快に動かし、強烈な掌底でヤミーを塊にして吹っ飛ばす。
両手の指をまっすぐに伸ばし、関節で曲げた独特の構えを取ると、その体を目に見えるほどのオーラが覆い始める。
「……!? あの構えは!!」
サンジが目を剥き、クスクシエの店長を凝視した、その瞬間。
「〝オカマ拳法〟!!」
高く跳んだ店長が、高く高く上げた踵を振り下ろし、ヤミーたちの上に叩き込む。
「〝あの冬の日の
店長の鋭い蹴りが、荒ぶる竜巻のようにヤミーたちに襲い掛かる。尖らせた足の先がヤミーたちのそれぞれの顔面に突き刺さり、重層の鎧を貫いていく。
銀のきらめきが輝く夕暮れの中で、店長の瞳がきらりと光輝いた。
「……あたしの客には、指一本触れさせないわ」
その隣で、一際激しい爆発が起き、何十体ものヤミーが紙切れのように吹き飛んだ。
思わず振り返るエールたちの目に入ったのは、その中心に立つ一人の女性。
チエだ。
「私も頑張るわよ~」
そういって、姿勢を低く構えた彼女は、左手を掌底の形に、右手の拳を握りしめて、ヤミーたちに向ける。
ゴッ!! と、チエの周りを凄まじいオーラが覆ったと思った瞬間、風にあおられた髪の間の耳にあたる部分で、真っ白な魚のヒレが露わになる。
「……え?」
驚愕に固まるナミの前で、チエの拳がヤミーに突き刺さる。
「〝魚人空手・千枚瓦正拳〟!!」
凄まじい勢いで打ち込まれた拳が、太った猫の姿のヤミーの腹を貫く。
その衝撃は、背後にいた数体のヤミーにまで及び、そのどてっぱらに大きな穴をあけた。
攻撃を受けたヤミーは、うめき声をあげながら爆散した。
「うっそぉ!!?」
絶叫するナミに、ビシッと親指を立ててみせるチエ。
元から謎の多い者たちだったが、これでまた謎が深まってきた。
その向こうでは、小さな体を一軒の家ほどもあろう岩の下に潜り込ませ、とんでもない怪力で持ち上げるヒナが奮闘していた。
「ふにゅぅぅぅぅぅ!!」
奇声をあげたヒナが大岩をブン投げ、集まってきたヤミーたちを叩き潰す。
出会ってたった一日しかかかわっていないはずの彼女らが、一味を助けるために力を振り絞っている。
目を見開いたエールとルフィは、続いて聞こえてきた怒号に振り返る。
一味を取り囲んでいた衛兵型のヤミーの頭に箒やら棒やらが勢いよく振り下ろされる。
さすがに驚くヤミーの集団に、怒声を上げながら島の人々が次々に躍り掛かっていった。
「みんな………!!」
非力で、今までにいなかった天敵に怯え、震えていた人々が、果敢に戦いに赴いている。
予想外の出来事に、ヤミーたちも気おされて打ちのめされていく。
傷の回復を待っていたガラも、その光景に目を瞠っていた。
『……バカな!? 臆病者の愚民どもが、なぜこれほどまで……!!』
それを聞いたエールとルフィは、キッとガラを睨みつける。
そして二人で同時に拳を握りしめ、渾身のパンチを繰り出した。
「私たちは臆病者なんかじゃない!!!」
『!!』
よろけたガラを睨みながら、エールはびしっと指を突き付けた。
「よく見ておけ、ガラ!! これがお前が見下していた、人の……、生きとし生ける全ての者たちの力だ!!」
「俺たちを馬鹿にすんな!!」
ガラは悔しそうに歯を食いしばり、エールとルフィを鋭く睨みかえす。
『……おのれ、小賢しい奴らめが』
呪詛のように低い声で、ガラは毒づく。
するといきなり、ガラは巨大な翼を広げ、爆風を生み出しながら天高く飛び立った。
「!」
「あ! 待て!!」
慌てて追おうとゴムの手を伸ばすルフィ。
その時。
「ギャアアアアアアアアアアア!!!」
甲高い悲鳴が響き、全員がとっさにその方向を向いた。
「!!」
そこに広がっていたのは、一体のクワガタヤミーがそばにいたカマキリヤミーに喰らいつき、バリバリと咀嚼しているという光景だった。
食われたカマキリヤミーは一瞬でメダルに変わり、食ったクワガタヤミーに吸収されていく。
そして、クワガタヤミーの体が大きく歪み、すぐさま巨大化していった。
節だった足が両方に何百本も生え、まるで千手観音のようになる。顎がメキメキと伸びては、その中から何本もの鋭い牙が生えてくる。
足は象のように膨れ上がり、昆虫ヤミーはもはや昆虫とはいえない異形へと変貌していった。
「きゃああああああああ!!」
ウソップたちが悲鳴を上げるその光景に嘆息しながら、ロビンはぼそりと呟く。
「ひどいことするわ」
「まったくだね」
言いながら、ロビンはヤミーを締め上げ、エールは剣で切り裂く。
見れば、周りでも同じようなことが起き、ヤミーが次々に巨大化し、凶悪な見た目に変貌しつつあった。
それを見て青くなったコトは、背後から襲ってきたヤミーの一体に気付くのが遅れた。
「!!」
ゴツッ!! と鈍い音を立てて、鎧を着たコトの体が跳ね飛ばされる。
「キャッ!!」
尻餅をついたコトに、鋭い爪をきらめかせた獅子のヤミーが襲い掛かる。
しかしその刹那、ギュッと目を瞑ったコトの目の前で、ヤミーが体から火花を散らせて吹っ飛んだ。
「……え?」
思わず振り返ったコトの目に、懐かしい者の姿が映る。
そこにいたのは、見知ったジャケットを肩にかけ、大きな牛乳缶を背負った妙齢の女。
彼女はにっとコトに笑いかけると、腰に一本のベルトを巻きつける。
「だ~て~ま~る~」
ピン、と弾いたメダルを入れてダイヤルを回すと、その体が緑の光に包まれる。
「……リタァ~ンズ」
伊達丸は、コトの武装と全く同じだがところどころに赤いラインの入った武装をまとって、コトの隣に駆け寄った。
「……師匠」
「まったく、手間のかかる弟子だよ、お前は」
そういいながらも、伊達丸はどこか嬉しそうに笑って、襲いかかってきたヤミーに銃弾をお見舞いした。ヤミーたちはうめき声をあげながら、強烈な衝撃に倒れ伏す。
トリガーを引きながら、伊達丸はコトの方を向いて声を張り上げる。
「コト! 今日は出血大サービスだ!! あたしのメダル使っていいから〝とっておき〟使いな!!」
「え……、いいんですか!?」
「構わん!! 奮発したらァ!!」
コトはちらりと伊達丸の牛乳缶を見やってから、「はい!!」と強く頷いた。
牛乳缶に駆け寄り、手のひらに入るだけのセルメダルを掴み取り、まずベルトに一枚入れ、ダイヤルを回す。
[キャタピラ・レッグ!]
脚に武装が付いてから、もう一度メダルを入れてダイヤルを回す。
[カッター・ウィング!]
もう一度入れて、回す。
[ブレスト・キャノン!]
もう一度。
[クレーン・アーム!]
もう一度!
[ドリル・アーム!]
もう一度!!
[ショベル・アーム!]
全武装を装備し終えて、コトの頭部のU字の飾りが赤く輝く。
「〝バース・デイ〟、装着完了!!」
ゴツい武装を備えたことに、ルフィたちの目が向く。
「すっげェェェ!! カッチョェェェ!!!」
「え!? 何!? あ、すげェェェ!!」
ルフィとウソップ、チョッパーの三人は全員で目をキラキラ光らせ、男心をくすぐるメカの登場に興奮する。つられて振り向いたエールも、キラン!! と目を輝かせた。
だが、ナミとロビン、伊達丸だけが、「シーン」と静まり返っていた。
コトはクレーンの先についたドリルをギュイン、ギュインと回転させ、キャタピラを回して駆ける。
「ハァァァァァァァ!!!」
地響きを立てながら、目前の巨大な昆虫型のヤミーに迫ったコトが、クレーンの先のドリルを突き立てた。
ギュィィィィイン!!!
火花を上げて円錐形の先が突き刺さり、ガリガリと強烈な勢いでメダルを削り取っていく。
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ギュガァァァァァァァァァァ!!」
昆虫の異形は悲鳴を上げ、コトに向かって巨大な百本の脚を突き立てはじめる。
コトはそれを左手のバケットで防ぎ、異形の腹に大穴を穿ち続ける。
「うおりゃぁぁぁぁぁ!!」
怒号を上げ、コトは怪物を両足のキャタピラで蹴りつけた。
ガシャァァァン!! と甲高い音を立てて、怪物の腹が弾ける。
すると、その中から二つの緑の光が舞い上がった。
「……!! あれは!!」
それに気づいたコトは、背中の翼で飛んでこれをキャッチする。
バケットの中に入った二枚のメダルを目にすると、コトはそれらを大きく振りかぶった。
「エールさん!!」
コトは大声で少女の名を呼びながら、メダルを勢いをつけて投げつける。
「え!? わわっ、と!!」
エールはかろうじてそれを両手で受け取り、恐る恐る手の中を覗き込む。そして、その中の二枚のコアメダルの存在に、目を見開いて表情を喜色に輝かせた。
「……!! やった!! ありがとう、コトちゃん!!」
エールはコトに礼を言ってから、ベルトの右と真ん中のスリットからメダルを抜き取り、緑のメダルに持ち替えた。
「これでガタガタ……、〝ガタキリバ〟!!」
ガシャン、と音を立てて、メダルがベルトに収まる。
斜めに傾けて、腰のスキャナーを取り外し、メダルに順にかざしていく。
―――キン!キン!キン!
緑の光の輪が広がり、周囲に再びメダルの幻影が浮かび上がった。
[クワガタ・カマキリ・バッタ! ガ――ッタ・ガタガタキリッバ・ガタキリバ!!]
先程とは違う歌が響き、エールの体が緑色の光に包まれる。
バッタの袴はそのままに、上半身は袖なしの忍び装束のような衣装に変わり、腕に黄緑色の双剣が現れ、腰に大きな白いしめ縄が巻かれる。顔にはクワガタムシを模したフェイスアーマーが張り付き、口元を自動的に覆面が覆う。
最後に胸に金色のリングが現れ、上からクワガタ、カマキリ、バッタの紋章が彫られたプレートアーマーが装着された。
「……ニン!」
洒落のつもりで、2本の指を突き出してポーズをとってみせたエールの体が、淡いみどりの光に包まれた。
その瞬間、エールの姿が、二つにブレる。
一人が二人、二人が四人、四人が八人、八人が十六人……。
まるで影分身のようにエールの姿は増え、一分もたたないうちに、何十人ものエールによる軍団が形成された。
「すっげェェェ!! 忍者だ忍者だ!! 今度は本物だ!!」
「もはや何でもアリか!!」
ナミのツッコミも、もはや意味がない。
一部のエール達は両腕の双剣を構え、バッタの足を蹴ってガラの巨体に飛び掛かり、その他は分かれてほかのヤミー退治の援護に向かう。
ガラの体に憑りつき、何度も体に斬撃を喰らわせる。喊声をあげながら斬りかかり、ガラの体に傷をつける。
しかし、数がカバーしているとはいえ、その攻撃力はトラの腕の威力には及ばないようで、次々にガラに撥ね飛ばされていく。
それでも、エールたちは諦めずに飛び掛かり、斬撃を浴びせ続ける。
「ウオラァァァァァ!!!」
ゾロの渾身の一撃が、エールの攻撃でガラについた深い傷にクリーンヒットする。
すると、傷口から黄色の三つの輝きが舞い、ゾロのでこに当たって跳ね返った。
「お?」
思わず手に取ったゾロは、それに刻まれた
「うらっ!!」
同じく、傷口部分に蹴りを放ったサンジの手元にも、青い三つの輝きが飛んでくる。青い
「! こいつは…」
ガラの足にしがみついていたチョッパーも、飛んできた灰色のメダル、
ガラの頭を殴りつけたフランキーは、もはや知った紫のメダルを手にする。
尻尾を切りつけたブルックは、傷口から飛び出したオレンジのメダルを掴み取る。描かれているのは、
「ふん!!」
最後に、ガラの顎を渾身の力で蹴り上げたルフィが、ガラが吐き出した赤い輝きに気付き、右手を伸ばした。
描かれているのは、雄々しく立つ
「あ!!」
ルフィはそれで、
オーズが使うのは、三枚のメダル。そして、メダルの絵の種類も、三種類。
それにはっとなった仲間たちは、それを近くにいたエールの分身に向かって投げ飛ばした。
「エール!」「エール!!」「エールちゃん!!」「エール!」「エール!!」「エールさん!」「エール!!!」
その声に気付いたエールたちは、それぞれでメダルを受け取り、覆面の下でにやりと笑う。
「……三枚、揃った!!」