【完結】ONE PIECE Film OOO ―UNLIMITED DESIREー 作:春風駘蕩
遥か高い上空で、いくつもの紅い炎が爆ぜる。
オレンジ色の空に真紅の翼がきらめいて、一筋の軌跡を描く。
光沢を帯びた鎧が光を反射し、エールは蒼空を閃光となって突き進んでいった。
「フッ!!」
エールが左腕を目の前にかかげると、胸のサークルが輝いて円陣が飛び出し、赤い盾のような武装となった。
「〝スピナー・ブラスト〟!!」
エールが盾を向けると、先端から深紅の炎が生まれ、ガラに向かって矢のように飛んでいく。
炎の矢がガラに突き刺さると、その体表で紅い火花が弾けた。
巨大な翼を広げて滑空する竜は、体表で起こる爆発などものともせずに、目の前でひらりひらりと飛び続ける少女に喰らいつこうとする。
エールはガラを睨みつけ、いったん大きく距離を取ってから向き直る。
そして舞のように両手を広げると、背中のあたりから光り輝く尾羽が扇のように展開された。
「〝
背中から放たれた矢が一直線にガラに向かい、翼に突き刺さっていく。そして、突き刺さった部分が次々に音を立てて燃え上がった。
忌々しそうに顔をゆがませるガラ。
すると、あたりが急に影に包まれ、暗くなる。
はっとなって見上げたガラの目に、腕を巨人サイズにまで膨らませたルフィの姿が映った。
「〝ギア・
巨大化した鉄拳が、隕石のようにガラに向かって落とされる。
鋼鉄の硬さを誇る拳が、ガラの背中に突き刺さった。
『ぐおっ……!! 小癪な!!』
ガラは唸り声をあげながらルフィを睨みつけ、口から火炎弾を撃ち放つ。
しかし、それらは当たらなかった。
ルフィの口からため込んだ空気が漏れ、栓の解かれた風船のように縦横無尽に空中をさまよい始めたからだ。
ルフィがひらひらと火炎弾を躱し、攻撃が空振りする。
怒りに燃えたガラは、自らの爪と牙をふるった。
だが斬撃が当たる刹那、横から現れた紅い閃光がルフィをさらう。
窮地を救ったエールは、ルフィをその胸にしっかりと抱きしめた。
「ちくしょー。硬ってェな、あいつ」
「……てか、誰!?」
ギア3の反動で小っちゃくなったルフィの姿に、エールが目を剥く。
エールとルフィはガラの爆撃を躱しながら、いまだ傷一つつかない鱗を睨みつけた。
「全然きいてねぇぞ!! どうすりゃいい!?」
「ううん。効いてるよ。今までの攻撃で、ある程度あいつからメダルは削り取れた」
悔しそうなルフィとは違い、エールは冷静に相手の様子を探る。
「後は、あいつの鎧を貫く一撃を入れられれば……!!」
その時、上空から火炎弾を放っていたガラが急に加速し、二人の真上に到達した。
ガラは顎を引くと、後頭部に生えた角に緑色の電撃をため込み始めた。
「!! いけない!!」
急旋回して離脱を図ったエールだが、ガラが雷撃を放つ方が早かった。
ゴロゴロゴロ……ピシャァァァァン!!
緑の稲妻が、二人を貫いた。
ゴムの体を持つルフィは平気だったが、そうでないエールは凄まじい閃光をもろに喰らってしまった。
「う"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
雷撃を受け、悲鳴を上げるエール。
閃光が消えると、がっくりとうなだれたエールは、そのままゆっくりと落下し始めた。
「エール!!」
しがみついていたルフィの手が離れ、二人ははるか下の海へと落ちていった。
「エール! ルフィ!」
落ちていく二人の姿に、ナミが悲鳴を上げた。
思わず一歩踏み出した彼女を、エール・タトバが諌めた。
「大丈夫だよ」
それは、他のエールたちも同じだった。
飛ぶ術もないのに進み出ようとする船員たちの肩に手を置き、代わってエールが前に出た。
「……不死鳥は、死なないんだから」
そういって、エールは傾けていたベルトを水平に直した。
すると、ベルトから三枚のメダルが勝手に抜け出て、エールの姿が薄れていく。
天へ飛んでいくメダルを見ながら、蜃気楼のように掻き消えていくエールは一人、微笑んだ。
全身の激痛にうなされながら、エールは意識を取り戻した。
負けられない。こんなところで、寝てられない。
歯を食いしばり、拳を握りしめながら、エールは無理矢理体を起こす。
「エール!!」
そんな声が聞こえて、エールははっと目を開いた。
目の前にその少年の手が差し向けられている。
長く伸びたその先を見やると、麦わら帽を抑えていたルフィが、まっすぐに彼女を見返していた。
エールは茫然としたまま、伸ばされた手を見つめた。
―――私は、ずっと欲しかった。
風を肌に受けながら、エールは自身の願いに気付く。
思わず、笑みがこぼれた。
―――どんなに遠くても、どこまでも届く大きな手、力!!
もしかしたら、あいつに届いたかもしれない、そんな大きな手!!
……もう、叶ってた。
「ルフィ!!」
伸ばされた手をしっかりと掴み、エールは彼の名を呼ぶ。
繋いだ手をしっかりと掴み、少女はまっすぐな目をルフィに向ける。
―――この人となら、きっと、それができる。
最初から、わかってたんだ。
同じように見つめてくる少年を見つめ、エールは満面の笑みを見せた。
その口から漏れたのは、純粋な想い。
「―――ありがとう!!」
その言葉を受け取ったルフィは、太陽のような輝く満面の笑顔を浮かべた。
エールの両足の鎧に赤い光がともり、両側が開いて鳥の脚のように変形する。
エールはルフィの体をほうり上げると、ルフィは開いた鎧の爪に両手を引っ掛けた。
エールは翼を広げ、大きく後ろに反り返って空中で連続バック転を始めた。
ぐるんぐるんと徐々に勢いが増していくとともに、繋いだルフィの腕も長く長く伸びていく。
「〝ゴムゴムのォ〰〰〰〰〰〰〰〟!!」
溜めにためられたゴムの力が、一気に解き放たれる。
「〝JETボーガン〟!!」
天を貫く矢となったルフィがまっすぐに飛び、ガラの片方の翼を貫いた。
『ぐぬぅ!!』
翼をやられて、バランスを崩すガラ。
必死に羽ばたく彼の下で、赤い煌きが放たれた。
[スキャニングチャージ!]
翼を広げたエールが、両足に紅蓮をまとわせながら、縦方向に回転を始める。
鋭い刃を備えた不死鳥が、炎の剣となってガラに迫った。
「〝
炎の牙は、反撃もままならないガラのもう片方の翼をも切り裂いた。
切り離された翼竜の翼は、無数のメダルの塊となって四散した。
『グォッ………オオオオオオオ!!』
翼を失ったガラは、四肢をばたつかせながら、重力の法則に従って落下し始めた。
ルフィとエールの勢いは止まらない。
ルフィはゴムの推進力が切れて空中に留まると、その場で器用に右腕をふるい、さらに上空に向かってゴムの腕を伸ばしていく。
太陽に届くまで、ルフィは手を伸ばし続けた。
その時、伸ばした右の拳が、黒い光沢を放ち始めた。
まるで、鋼のように。
「〝ゴムゴムのォ〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〟!!」
そのそばを通り過ぎ、エールもまた更なる上空を目指した。
そして空中で反転すると、ルフィの右腕とともに急降下を始める。
右手の盾を開き、中に入っていたセルメダルを捨てる。
すると、突然島から飛来してきたいくつもの輝きが、盾の中に収まった。
エールは盾を閉じると、スキャナーを盾の前方に押し当てる。
すると、盾の内部が回転して甲高い音を立て始めた。
キン!キン!キン!キン!キン!キン! と音が奏でられ、盾から高らかな声が響く。
[タカ! プテラ! ライオン! カマキリ! シャチ! ゴリラ! カメ! ゾウ! クワガタ! ウナギ! バッタ! ティラノ! クジャク! トラ! チーター! トリケラ! タコ! コブラ! サイ! コンドル! ワニ! ギ・ギ・ギ・ギガスキャン!!]
「〝
七色に輝く盾を左に大きく構え、エールはガラを見据える。
すると、光を放っていた盾が突如、神々しい炎を吹き出し始めた。
同時に、ルフィの黒く染まった右拳も灼熱の炎を吐き出し始める。
空で並んだ二人は、最後の力を込めた拳を並べ、邪竜に向かって急降下していく。
その炎が混ざり合い、一羽の巨大な鳥へと変貌した。
深紅の炎に身を包み、七色の羽をたなびかせる不死鳥は、二人の闘志に呼応し、甲高い咆哮を上げた。
辺りが光に包まれる。
ガラは、その光景に目を見開いた。
「「〝
炎の銃弾は、ガラの強固な鎧を貫き、その身を焼き尽くした。
肉が抉られ、炎がガラの胸を貫いた。
「「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」
『ぐ……お……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
ガラは炎に包まれながら、最期の咆哮を発した。
体が燃やされ、消えていく。
闇を焼き尽くす炎が、欲望の王を苦しめた。
永遠に続くかと思われた激痛は、次の瞬間唐突に止んだ。
「!?」
急にあたりが真っ白な空間に変わり、ガラは目を見開いた。
なんだここは……?
不審そうに見渡していた彼の動きが、ピタリと止まる。
彼が見た方向にいたのは、もういるはずのない二人の姿。
一人はメガネをかけたローブの少年。
もう一人は豪華な衣装に身を包んだ中年の男性。しかしその姿はすぐにぼやけ、質のよさそうな格好をした少年に変わった。
ガラは目を見開き、次いで顔をほころばせた。
目に涙が滲み、視界がぼやける。
……迎えに…来て…くれたのか……。
二人は彼に、微笑みで応える。
見れば、彼らのさらに向こうには、見覚えのある者たちが並び、ガラを待っているようだった。
ガラは迷わず駆け出した。
勢い余って転びかけた彼を、二人の少年は優しく受け止めた。
……もう。つらい思いをしなくてもよさそうだ。
少年の姿へと変わったガラは、手を握る二人に導かれ、白い光の中へと歩んでいった……。
空で、光が弾けた。
そう思った瞬間、地上に向けてたくさんのセルメダルが降り注ぎ始めた。
夕日に照らされ、光を反射したその光景は、まるで虹が降ってきたかのようだった。
「……きれい」
「素敵ね……」
空を眺めていたナミとロビンが、思わずそうつぶやいた。
サンジは煙草をくゆらせながら、幻想的な光景にしばし鑑賞に浸る。
フランキーやゾロは眩しそうに見上げながらにっと笑い、チョッパーやウソップ、ブルックははしゃぎながら銀の雨に打たれた。
ヒナやシンゴ。クスクシエの店長やチエ。村長や住民たちも、その奇跡の光景に目を奪われた。
「うぉおお〰〰!! コトちゃん!! 拾って拾って!! 大量大量〰〰〰〰♪」
「師匠……。台無しなんですけど」
若干1名。それどころじゃない者もいたが。
遥か下に見える仲間たちのはしゃぐ姿を見ながら、ルフィはにししと笑う。
さてどうやって着地しよう。
そんなことを思いながら、エールの方を向いたルフィ。
その時。
赤い光が弾けて、エールの鎧が消えた。
キラキラと輝く光の粒子を残して、彼女の翼が消え去った。
ローブの姿に戻ったエールの手がルフィから離れ、彼女はまっすぐに落ちていった。
「……!! エール!!?」
エールは、答えなかった。
ただ目を閉じたまま、急速なスピードで落下していった。
「エール!!」
*
「―――おい、しっかりしろ!! 死ぬぞ!?」
頬をたたかれる感触を受けて、エールの意識が覚醒した。
うっすらと瞼を開くと、頬を掴む紅い塊がぼんやりと見える。
鱗に覆われ、鉤爪の這えた赤い腕の異形に、エールは思わず目を瞬かせた。
「……アンク?」
エールがその名を呼ぶと、異形は頬から離れ、腕だけで大げさに呆れてみせた。
「はっ。ようやく起きたか。よくもまぁそんだけ寝れるもんだ」
懐かしい毒舌に微笑みながら、エールはふと気づいた事を訪ねていた。
「……そういえば、ルフィたちが言ってた、私を食ってたっていう鳥。あれ、あんたでしょ?」
「……ふん」
アンクは嘲るように笑って、びしっとエールを指さした。
「お前は俺のもんだ。野郎にだけは死んでもわたさねェと思ってたからな」
「あはは……」
エールは嬉しいような呆れたような気分で笑った。
「……その様子じゃ、俺が手を取る必要もなさそうだな」
「……え?」
アンクの言葉に、エールは目を見開く。
そして、右腕だけの姿に納得し、目を伏せた。
「……そっか、死んじゃったんだもんね」
「……だが、それでも俺は満足だ」
アンクは今までになかった満ち足りた声でそう答えた。
エールはその意味が分からず、眉を寄せた。
「あんたが欲しがってたのって、命でしょ? 死んだら……」
「そうだ。ただの物に成り下がってた俺が死ぬところまで来た! こんなうれしい……、満足なことがあるか!!」
エールはその気持ちに打たれ、次いで悲しげに眼を閉じた。
「……今度こそ、お別れだね」
「……お前は生きろ。あいつらとともにな――――――」
その言葉を最後に、彼の姿はスウッと蜃気楼のように薄れ、やがて消えた。
エールは虚空を見つめ、ふっと自嘲気味に笑った。
―――……ごめんね、アンク。
あんたは生きろって言ったけど、私はもう……。
「エール!!」
「!」
ふと聞こえた声に、はっと振り返る。
エールの頭上で、風の中で抗いながら、ルフィは必死にエールに手を伸ばしていた。
エールはふっと微笑み、地上に背を向けてルフィに向き合った。
「……ありがとう、ルフィ。でもこれでお別れ」
エールの言葉に、目を見開くルフィ。
エールはそんな彼に笑いかけ、自分でもわからないうちに涙を流した。
「さっきからね、すごく眠いんだ。800年も起きてたから、結構、体にガタがきてるみたいだ……」
「…………何言ってんだよ……!!」
ルフィは不安の色を顔に浮かべながらも手を伸ばす。
その姿が、だんだんとぼやけ始めた。
瞼が重くなり、とてもあけていられない。眠い……。
「もっと一緒に居たいけど、……もっとみんなと、冒険したいけど………!! ……でも、もうダメみたいだ」
「いていいじゃねェか!! もっと頑張れよ!! エール!!」
エールの目じりからこぼれた雫が、ルフィの頬にあたって弾ける。
いつの間にか、夕日の光が弱くなり始めていた。
オレンジ色の光が薄れ、淡いブルーに変わっていく。
「……最後まで、勝手でごめん……!! 仲間にしてって言っておいて、こんなところでお別れなんてひどいよね……、でも」
最後にエールは、満面の笑顔をルフィに見せた。
オレンジの光が、水平線に消えていく。
「私………、最後に諦めないでよかった!!」
言葉を失うルフィ。
エールの表情には、後悔も未練もない、満足げな色があった。
光が、沈んでいく。
「……ルフィに会えて、ほんとによかった。みんなに会えてほんとによかった。……私はもう、満足だよ」
「エール…………!!」
必死の形相で、ルフィが腕を掴む。
失うまい、奪われまいと。
しかしその時には、エールは瞼を閉じていた。
―――800年もの呪縛から解き放たれた、安らかな笑顔で。
「エ―――――――――――――――――――――――――ル!!!!」
ルフィの声だけが、
*
……この世界は、どうしようもないほど私に冷たくて、悲しいことばかりだったけれど。
少なくとも私は、アンクやルフィにあえて、幸せだったと思う。
この世界がくれた悲しみや苦しみがあったから、私は今、人の痛みを知ることができた。
だからこそ、あいつらのために戦えたんだと思う。
この世界で生まれたから、あいつらに出会えた。
それだけで、私は満足だ。
最期に、胸を張ってお前に言える。
そうそう。
あいつ、お前にそっくりなんだよ。
会っていきなり、仲間になれ! なんていうやつ、お前以外にもいたんだな。
とんでもないほど馬鹿だけど、すごく優しいやつだ。
お前が海の外からやってきて、私に希望をくれたから……。私は今、ここにいる。
お前が私に〝生きる〟ことを教えてくれたから、私は今、ここにいる。
お前は今頃、どこにいるんだろうな。
どっかでのたれ死んでるかもしれないな。
……もしそうなら、お前はそれでもきっと、満足して逝ったんだろう。
只では起きないってところは、あいつと一緒だから。
私にはそんなこと無理だと思ってたけど、案外、叶うものだったかもしれないな。
……私の〝生〟はここで終わるけれど、もしどこかでまた会えたなら。
あいつは、また私を仲間と呼んでくれるだろうか。
お前のように。
―――なぁ、ロジャー……。
次回、最終回。