【完結】ONE PIECE Film OOO ―UNLIMITED DESIREー 作:春風駘蕩
瞼を開き、あらわにした少女の瞳は、澄んだ黒曜石のような黒色だった。
少女はぼんやりとした目を向け、かすれた声を漏らす。
「……あ、う……ここ、どこ………?」
首だけをけだるげに動かし、あたりを見渡そうとする。
チョッパーが顔色や瞳孔の状態を確認しながら顔を覗き込む。
「お前、大丈夫か? 俺たちのこと、見えてるか?」
「……あ、う、だれ……?」
どうやら、そこに誰かいる、という事なら見えているらしい。チョッパーはほっと胸をなでおろす。
「大丈夫? 意識はっきりしてる? 自分の事、わかる?」
ナミが尋ねると、少女はゆっくり顔をみけ、首をかしげて見せた。意識に多少の混濁はあるものの、聴覚にも問題はないらしい。
しかし、少女はそれに答えることもできず、すぐにまた目を閉じてしまった。
「あっ…、大丈夫!?」
「……大丈夫。眠ってるだけ……」
と、脈を測っていたチョッパーが答えた時、眠ったと思っていた少女が急に起き上った。
「わ!!?」
思わずチョッパーが飛び退くと、少女は「ふにゅぅぅぅ~…」という奇声を上げながら両手を高く伸ばし、だらりと脱力した。
「…あ゛~。寝すぎた……」
「いや二度寝かよ!!」
思わずウソップが突っ込む。
少女は、先ほどよりもはっきりした目で、周りを見渡す。
「……ん? ここどこ?」
「ああ……。またふりだしに戻るのね……」
ナミが思わず呟く。
「ここは、『麦わら海賊団』の船の上ですよ」
「カイゾク……?」
少女がその声の方を見ると。
「お加減はいかがですか?」
目がぽっかりと空いた白骨死体こと、ブルックが顔を覗き込んでいた。
「…………ぎゃぁああああああ!! 骨がしゃべったぁあああ!!!」
目の前に現れた骸骨男に、少女は目を剥いて後ずさった。ズサササッと離れ、船の欄干に背中ががんっとぶち当たる。ナミも「そりゃそうなるわ」とつぶやく。
「ヨホホホホ!! この反応懐かしーっ!! そうでーす! 私、死んで骨だけ、ブルックです!!」
「しかもノリが軽い!! 骨だけに!!」
完全におびえている少女の前に、ルフィがしゃがみこんだ。
「おれ、ルフィ。お前、名前なんてんだ?」
屈託のないまっすぐな目で見つめられ、多少落ち着いた少女は居住いをただした。
「………………エール。ヒノ・エール」
少女が名乗ると、ナミが真面目な表情でエールの前にしゃがみ込んだ。
「あたしは、この船の航海士のナミ。…ねェ、あんたなんであんなデカい鳥に食われてたの?」
「……と、り?」
エールは困惑した表情でナミの顔を見つめた。
「覚えてないのか? もう少しで消化されるとこだったんだぜ?」
ウソップがそういうと、エールは眉間にしわを寄せて頭を抱えた。
「……覚えてないの?」
「…………」
黙ってこくんと頷くエール。
ナミはしばらく考え込むように頭を抱えていたが、ややあってにっと微笑んだ。
「ま、あんたが無事でよかったってことで」
エールはその言葉にぽかんとしてナミを見上げていたが、ほっとしたように肩を下した。
「あ。お礼は倍返しでね」
「!」
「おいおい」
さらっと金銭を要求する目がお金になったナミに、エールは顔をこわばらせ、ウソップが突っ込んだ。
「いやぁ、本当に目が覚めてよかった。…あのぉ、お起きになったばかりで大変申し訳ないのですが……」
紳士的な口調で、エールの前に歩み寄ったブルックはそう最後を濁すと、エールの前に跪いた。
「……パンツ、見せてもらってもよろしいでしょうか」
「見せるかぁ!!」
どがんっ、とナミの回し蹴りがブルックの後頭部に炸裂する。後頭部からけむりをわき上げたブルックは、そのままうつぶせに倒れた。
「ヨホホホホ!! 手厳しーっ!!」
「お前も大概怖いもの知らずだよな」
あきれた目でブルックを見下ろす面々の中で、ふとエールから小さな声が上がった。
「…あの、パンツって何?」
ピキン、と凍りつく船上。
ぶっと鼻血を吹き出したサンジとブルックをすぐさましばき、ナミはエールの両肩を強くつかんだ。
「……今度から、それは絶対に言っちゃダメ。わかった?」
「う、うん…」
エールは素直に頷くと、妙な迫力のあるナミにビビりながら距離を取った。
すると、今まで黙っていたルフィがエールの前にしゃがみ込んだ。
「なぁ、俺はこの船の船長として、お前に聞いておかなきゃなんねぇことがある」
「…………」
気迫を伴ったルフィの雰囲気に、エールを含め、全員がごくりとつばを飲み込んだ。
果たして、その口から放たれる言葉とは―――――。
「………お前、おれたちの仲間になんねぇか?」
「さっそく勧誘かい!!」
「喜んで――――❤」
「私も――――!!」
サンジとブルックを除いた全員がずっこけながら突っ込んだ。
「仲間……」
思わずそうつぶやいたエールの表情は、みるみるうちに赤く染まり、瞳がうれしそうに輝きだす。まるで、長年そういわれることを望んでいたかのように。
だが、ふとした瞬間、その表情は消え去り、エールは苦しげな表情で顔を伏せた。
「…………い、いやだ」
「!?」
エールの口から放たれたのは、拒否の言葉だった。
「……仲間には、なりたくない」
ルフィは、まさか拒否されるとは思っていなかったと、目を丸くした。
だが、すぐに満面の笑みになると、明るい声で言った。
「そっか。じゃ、しょうがねェ」
その言葉に、今度は仲間たちが目を丸くした。
「おいルフィ。お前いつもの強引さはどこ行ったんだ?」
ゾロが本気で驚いた顔で聞くと、ルフィはいつもの陽気な顔で振り返った。
「おれは、夢があんのに『仲間になるわけにはいかねェ』とか、『仲間にはなれねぇ』とか言ってあきらめようとするやつを仲間にすんのをあきらめたくねぇんだ。でも、こいつにははっきり『なりたくない』って言われちまったからさ。…こいつには、なりたくねぇ理由があんだろうしな」
エールは、少しだけ言い過ぎた、というような表情で目をそらした。
「でもさ」
ルフィはしししと笑いながらエールに向き直った。
「気が変わったら、言ってくれ。おれはまだ、お前に仲間になってほしいと思ってるからさ」
ルフィのまっすぐな言葉に、エールは顔を真っ赤に染めながら、ぷいとそらした口で呟いた。
「……か、考えとく」
そのすぐ後、ルフィがバタンと倒れこみ、次いでその腹からぐぎゅるるる~という雷のような重低音が響き渡った。
「腹減った~…」
そのあとすぐ、全員が思い出したとばかりにバタバタと膝をつき始めた。
「ど、どうしたの」
慌ててナミのもとに駆け寄るエール。
それに答えるのはフランキーだ。
「み、三日三晩飲まず食わずだ。死ぬぅ…」
「み、三日三晩…」
エールはよくも無事だったなと感心しながらナミたちをいたわる。
「そもそもこの島が見つかれば、こんな苦労はしないのに……」
そうナミがぼやきながら睨むのは、例の宝の地図だ。
いらだちをぶつけるために握りしめた地図は、ぐしゃぐしゃになってもうボロボロだ。
その地図を覗き込んだエールは、ふとつぶやく。
「この島に行きたいの?」
「そうなのよ。けど方位はあってるはずなのに全然見つからなくって…。もうこの際誰か知ってる人がいないかしらね……」
「知ってるよ?」
「そうよね……。そんな都合よく知ってるわけないわよね…………………………………………え?」
思わず、背後の少女を凝視するナミ。あっけらかんとしているエールは、そんなナミを置いて、サニー号の縁の方へと近づいた。
「仲間にはならないって言ったけど、せめて助けてもらった礼はしたい」
エールはそう言うと、腰の剣を初めて抜き放ち、刀身に空いた穴に、落ちていたメダルを3枚拾って入れた。
剣についたレバーのようなものを押すと、剣の中にメダルが取り込まれる。
そして、腰のベルトの右側に着いた金色の器具を取りはずし、刀身の腹の部分に入ったメダルに順にかざしていく。
――――キン!キン!キン! トリプルスキャニングチャージ!!
エールは剣を肩の上に担ぐと、相当な重量を思わせるそれを渾身の力で振り下ろす!
「〝オーズバッシュ〟!!」
斬!!
剣の一閃は、空に青い一筋の直線を描き、
「「「空が、われたぁ〰〰〰〰〰〰〰〰!!!!!」」」
絶叫する麦わらの一味。
その目の前で、縦にずれた景色はゆっくりと元に戻る。
そして、海を大きく揺るがす衝撃波が生み出された。
「ギャ〰〰〰〰〰!!」
「うっは~、すっげぇ!! お前やっぱ仲間になれよ!!」
「いや。それより…………見えたよ」
「え?」
興奮で目をキラキラさせるルフィと、揺れに耐えるみんな。それを見やりながら、エールはそっけなく言った。
まさか、と身を乗り出した彼らは、信じられないものを目にする。
「島だァ〰〰〰〰〰〰〰〰〰!!!」
ググッと、拳を握りしめたルフィは、空高く吠えた。
何もなかったはずの海上。しかしそこには、間違いなく緑に覆われた島が存在していた。
「な……なんで、急に……?」
「あの島は、周囲をぐるりと冷たい海流が取り囲む、不思議な島。それに、ほかの島と違って、磁場が時計回りに張られてあるから、磁石もさしてくれない……」
「寒流……、それにこの温暖な気候……。そっか!! 蜃気楼!!」
天気についての知識が豊富なナミは、すぐにその答えに辿りつく。
「蜃気楼…。ないはずのものを出現させるのではなく、あるはずのものを隠していたなんてね……」
「なかなかスーパーな島じゃねェか」
「とにもかくにも、これで命は繋がったな」
「助かった…」
「お宝が近づいてきたわ……!!」
「惚れちまうぜエールちゃん❤」
「ヨホホホホ。胸が躍りますねェ! 胸、ないんですけど」
「おれ、わくわくしてきたぞ!!」
「よ~し、野郎どもぉ!! 上陸だぁ!!」
興奮するルフィたちのそばで、エールは語る。
「……あの島の事を、島の人たちはこう呼ぶ。陽炎に守られた島。――――
やっとヒロインの名前が出せました。