【完結】ONE PIECE Film OOO ―UNLIMITED DESIREー 作:春風駘蕩
ひとつ! 幻の島を求めて、麦わらの一味が船を駆った!!
ひとつ! 空から、記憶喪失の少女が落ちてきた!!
ひとつ! 謎の少女に導かれ、ルフィたちは幻の島へと進路をとった!!
1.欲望の島『グリーディア』
蜃気楼の壁を抜け、島へと向かう一隻の船。
それに気づいた島の住民たちが、何事かと顔を上げ、次いで表情をこわばらせた。
船の先頭で睨み(?)を聞かせるライオンのヘッド。そして、相手への死を宣告する
海賊だ、と気づいた住民たちは、すぐさま迎えるための〝準備〟を始めた。
そんな中、一人の少年が、はるか先に見える船を見つめながら、目を輝かせていた。
「……あれが、本物の海賊……」
少年の胸で鳴り響いていたのは、恐怖などではなく、今日この日、何かが変わるという高揚感だった。
*
一方、幻の島に期待をはせるルフィたち。
目を爛々と輝かせるルフィは
おのおのが幻の島に期待をはせ、目前の島をじっと見つめている。
「……あれ?」
その中で一人、エールは首をかしげていた。
記憶の中にある故郷の港と、目の前の港の形がうまく重ならない。
「こんなに発展してたっけ?」
またナミは、違う理由で首をかしげていた。
「……? あの島、地図とだいぶ違う気がするんだけどなぁ……」
「べつの島だってのか?」
「ううん。多分同じ島。でも……」
しばらく、地図とにらめっこを続けるナミ。
すると突如、ガクンと足元が大きく揺れて、ナミは思わずつんのめった。
「わ!」
「おわわわ!!」
クルーたちはなんとかその衝撃に耐え、ルフィも不安定な足場ながら持ち前のバランス感覚で海に落ちずにすんだ。
よろめきながらも、ナミたちは何事か、と船の端に駆け寄った。
しかし、見下ろしても島の下には何も見えない。深い青色が広がっているだけだ。
「座礁……? そんなわけないわよね。岸なんてまだ遠いし」
「何かに乗り上げたのかしら」
ナミとロビンがそうつぶやくと、若者二人が不満げな顔になった。
「おいおい、こんなところで足止めかよ」
「え~、メシ~……」
「我慢しなさい!」
不満を漏らすウソップとルフィを叱りつけたナミは、ふと、島の方からいくつかの人影が近づいてくるのを目にした。
長く白いひげを蓄えた老人と、小さな少女を先頭に、何人もの人々がサニー号に向かって歩いてくる。
「おい、誰か来たぞ」
「島の人かしら?」
そこで、ナミは不可思議な点に気が付いた。
老人たちが歩いている場所。そこは、すでに陸地など見当たらない、海のど真ん中なのだ。
「……ねぇ、ちょっと? あの人たち、浮いてんじゃない!?」
「ウソだろおい!! まさか……、ユウ……」
ぞっとして、思わず身を引いたナミとウソップのそばで。
「すっげぇぇ!! 忍者だ、忍者!!」
「いや、違うだろ!!」
明らかにルフィが勘違いしていた。
ルフィたちがうろたえている間に、老人たちはサニー号のすぐ下にたどり着いた。
「………海賊さん方や。この島に何か用かの? そういうても、この島にはなーんもありゃせんがの」
老人がそういうと、まずナミが欄干から身を乗り出した。
「あのー、あたしたちこの島にあるっていうおた……」
「なぁ、おっさん!! それどうやって浮いてんだ!?」
老人に説明しようとしたナミの言葉を遮り、ルフィが興奮した様子で手すりの上から詰め寄った。
「なに話の腰をぽっきりおっとんじゃぁ!!」
「!!」
バコン! とナミがルフィの頭を殴りつけ、ルフィは船の下に落ちた。
あ、とナミが失態に気付いた時には、ルフィの体はすでに水しぶきを上げて水の中に浸かっていた。
ルフィはパニックに陥って水の中で暴れる。
「ギャ〰〰〰〰!! お、おぼれっ、溺れりゅっ………………………………あり?」
バシャバシャと水をかいているうち、ルフィは水の深さが足首ほどしかないことに気が付いた。
「浅ェ」
「あはは!」
呆然と足元の海水を見つめていると、老人の隣にいた少女が声を上げて笑った。
「大丈夫だよ! ここではよっぽどじゃないと溺れないから」
「これ、ヒナよ」
かわいらしく笑うヒナと呼ばれた少女を、老人がいさめる。
「心配せずとも、ここはもう岸の一部じゃよ」
「ん? そうなのか?」
安心したルフィが立ち上がると、それに続いてエールや仲間たちが次々と降りてくる。特に、ブルックとチョッパー、ロビンは注意して降りた。
「…不思議な気分だな。海の上に立ってると思うと」
「いや、お前さっき走ってたぞ」
思わず呟いたサンジの言葉に、ゾロが呟く。
「この辺りは、浅瀬での。昔、海賊どもが攻めてきたときには、こうやって足止めしてくれてたもんじゃよ」
老人の説明に、ナミは首をかしげた。
「ちょっと待って。ここが岸ならなんで海がこんなふうに見えてるの?」
ナミが尋ねると、老人は海水の中に手を差し入れ、一掴みの砂を持ち上げた。
「それは、この砂のせいじゃよ」
老人は、海水の中に手を突っ込み、一握りの砂を持ち上げた。
濡れてキラキラと輝くそれは、まるで水晶のような透明感を持っていて、手のひらの肌色が透けて見えた。
「この砂は、光がほとんど通り抜けちまうのでな、海の色と同化してしまうのじゃ。島ではこの砂を『クリスタルサンド』と呼んでおる」
「なるほどね~…」
老人は砂を落とすと、ナミたちの方に向き直った。
「さて、何十年ぶりかの客人だ、歓迎しよう。わしの名はイズミ。この島で長いこと長を名乗っておる。……あ~」
イズミ爺はふと顎に手をやると、申し訳なさそうに頭をかいた。
「ここで話すのもなんじゃな。ほれ、ヒナよ」
「ん、ハ~イ」
ヒナはかわいらしく返事をすると、パシャパシャと飛沫を上げて駆け出し、サニー号の錨の方へと向かった。
何をするのか、と一同が見詰めていると、ヒナは錨をがっしりと掴み、渾身の力を込めてそれを引っ張り始めた。
「ふにゅぅうううううぅ!!!」
ヒナが盛大な奇声とともに錨を引っ張ると、サニー号はゆっくりとだが、港の岸に向かって乗り上げ始めた。
「うそぉぉぉ!!」
全員が目を丸くしているうちに、ヒナはサニー号をどんどん引き上げていってしまった。
「ヒナは島一番の怪力の持ち主での。力仕事はまかせっきりじゃ」
「バカ力にもほどがあんだろ!!」
フランキーは師匠であるトムも、船を放り投げて空中で組み立てていたなと思いだしながら、目の前の幼い少女の豪傑っぷりに度肝を抜かれていた。
イズミ爺は着々と岸に向かっていくヒナを見やりながら、ルフィたちに向き直った。
「腹が減っているじゃろう。メシでも食べながら話そう。ついてきなされ」
*
「うんめぇ〰〰〰〰!!」
色鮮やかな、いかにもうまそうな料理を口いっぱいに頬張り、ルフィが歓声を上げた。
島に案内されたルフィたちは、様々な国の民芸品が置かれた食事処にいた。
魚介類や肉や野菜をふんだんに使った料理を、ルフィは片っ端から平らげていく。ウソップやチョッパーも、くいっぱぐれないように腹に次々とおさめていく。
「…こりゃたしかににうめぇ。それになんだかパワーがわいてくる」
「そういってもらえると、うれしいわぁ」
サンジの呟きに答えたのは、えらくガタイのいい、乙女っぽい店主だ。
サンジは、いきなりどアップで現れた店主に、目を見開いて硬直する。
「―――――!!! ――――――!!?」
「あ。ちなみにそっちの料理を作ったのは、あたしの弟子よん♪」
店主が親指で示した先にいたのは、明るい表情のかなりの美人で、サンジはあからさまにほっとした。
「お口にあってよかったわ」
「いえ、もう最高ですぅ❤」
チヨという女コックに、サンジはデレデレと鼻の下を伸ばす。
見れば、そこで働いているのは皆かわいらしい女の子たちばかりで、ヒナも小さな体をせっせと動かし、接客をしていた。
「……俺、もうここに住んじゃおっかな〰〰〰❤」
「オールブルーの夢どこやった」
店主は色っぽく流し目をくれながら、ルフィたちの近くに立った。
「あたしの料理は門外不出の特別な料理でね。味だけじゃなく、料理で人を育てることに特化しているのよ」
「料理で人を、か……。おもしれぇな。どこの出身なんだ?」
「モモイロ諸島のカマバッカ王国よ」
店主がそういうと、サンジの背中にいやな汗が噴き出してきた。
「……なぜだ? その島にいやな予感しかしねェのは」
「あなたはいずれ、その島に望まずとも行く運命にある、ような気がするわ」
意味深な店主の言葉に、サンジはぶるりと体を震わせた。
この、予言ともとれる店主のセリフが、近い将来当たることになることは、この時のサンジは、まだ知らない。
イズミ爺はその様子を楽しげに見やりながら、ふっと真顔に戻ってナミに向き直った。
「…しかし、おぬしらは何故、こんな辺鄙な島へやってきたのかの?」
イズミ爺は、心底不思議そうな顔でナミに尋ねる。
その質問に、ナミはやっとか、というように肩をすくめた。
「あたしたち、この島にあるっていう『
「……ほう」
突如、イズミ爺は深刻な顔になり、ナミの顔をじっと見つめた。
「……どんな話を聞いてきたかは知らぬが、おそらくこの島にあるのは、お前さんたちが思っているようなものではないと思うがの」
「!! おっさん、お宝の事知ってんのか!?」
ルフィが思わず興奮して詰め寄ると、イズミ爺は何か遠くを見るような顔でルフィを見つめた。
「……確かに、そう呼ばれておったものの話がこの島にある。……いや、正確にはあった」
「……では、今は……?」
ロビンが尋ねると、イズミ爺は軽く首を振った。
「……『其の力、
「!! そうそう、その出だし!!」
「……この島の人間なら、伝説、いやもはや昔話として皆知っている話だ」
イズミ爺は、そう言ってしばらく黙ると、ふいに「ヒナよ」と短く呼んだ。
ヒナはイズミ爺の呼び出しに驚きながら、持っていた食器を厨房において駆け寄ってきた。
「……島の伝説の話を、お前さんが話してやりなさい」
「あ、うん。……えっと、それでは。……むかーしむかし」