【完結】ONE PIECE Film OOO ―UNLIMITED DESIREー 作:春風駘蕩
むかーしむかし。
この島にはとっても欲張りな王様がいました。自分の欲しいものは何が何でも手に入れようと思うくらい、欲張りでした。
富、名声、力、この世にあるいろんなのものを欲しがりました。
王様の欲張りのおかげで、島はとっても豊かになりました。海が見せる幻に守られて、悪い人たちが島にやってくることもありません。
長い間、島には平和が続きました。
ところがある日、一人の旅人が現れました。
旅人は遠い遠い島からやってきた、錬金術師だと名乗りました。
旅人は言いました。――――世界を手に入れる力が欲しくはないか、と。
島の人たちは最初は驚きました。けれど、すぐにその提案に惹かれました。
王様は最初は悩みました。すでに満たされている自分にとって、世界など興味はなかったのです。
それでも、島の住民たちの強い願いや、島をもっと豊かにしたいという欲望には逆らえず、王様はその提案を受けました。
旅人は、島中の動物たちを集めさせました。そしてそれと島中の住民たちの欲望を材料に、あらゆる動物の力を秘めた18枚のメダルを作り出し、王様にあたえました。欲望の力を使うためには、強い欲望を持つ人間が必要だったのです。
その時、事件が起こりました。
王様の手にわたったメダルに命が宿り、勝手に暴れはじめたのです。
メダルの怪人たちは人の欲望に種を植え付け、自分たちの使い魔となる怪人たちを次々と生み出し、島をあっという間に征服してしまいました。
王様は悲しみました。自分の過ちと過ぎた欲望のせいで、島がめちゃくちゃになってしまった。
大切なものを守れなかった王様は、あることを決めました。
自分を器にして、怪人たちを封印することを。
旅人の助けもあり、王様はなんとか、怪人たちを封じることができました。
王様は誰にも言わず、海の中にその身を沈めました。
今でも王様は、自らが封じた怪人たちと一緒に、海の底で静かに眠っているのです――――――。
*
「スーパー泣けるその話…………」
目元をハンカチで抑えながら、フランキーは滝のように流れる涙をぬぐった。
号泣するフランキーのそばで、ナミは心底がっかりした顔をしていた。
「…じゃあ、ほんとにあたしが思ってたようなお宝はないってことなのね…………」
「でも、興味深いわ」
考古学者としての何かが刺激されたのか、ロビンはどこか楽しげだ。「詳しく聞きたいわね」という言葉にも、隠しきれない興奮が見て取れる。
ウソップはウソップで、複雑な顔だ。
「けどよぉ、結局は自業自得っていう話だろ? 自分の欲望に手が付けられなくなったってことは……」
「うむ。そのためこの伝説は、欲張りすぎてはいけないという教訓のようになってしまっていての」
「まんま、昔話だな……」
「だが、まぎれもない事実じゃ」
イズミ爺はそう言うと、一枚の地図を取り出した。
地図には、ルフィたちをここまで導いたこの島の地形が記されていた。だが、何故か島の西側がぽっかりと円形に抜け落ちていた。
「これって……」
「そう。現在のこの島じゃ。お前さん方が持っているのは、800年前の島の地図を複写したものじゃろう」
そういってイズミ爺は島の西側の空白を指さした。
「……ここは、王が怪人たちを封印したとされておる場所じゃ」
「!!」
イズミ爺の言葉に、全員が目を見開いて地図を覗き込んだ。
「王の自己を犠牲にした封印は、島の一部を消滅させたという。……学者さんや。行ってみれば事実の裏付けにはなろうて」
「……ええ。そうね。行って………この目で見てみたいわ」
ロビンは内心わくわくしながら、イズミ爺の言葉に頷く。
ナミはじっと地図を見つめていたが、ややあってイズミの方へ詰め寄った。
「……ねぇ、この島についてもう少し聞きたいんだけど、いいかしら?」
「構わんよ。ただし、この島にゃあんまり資料なんぞはないから、わしの記憶にある限りでの」
ナミはイズミに許可を得てから、ルフィたちに向き直った。
「そういうわけで、これからあたしは用事があるから、あんたたちだけで過ごすこと。いいわね?」
ナミの決定に、一同は嬉々として従った。ルフィなどは暇すぎてすでに眠りかけている。
「じゃ、ここからは各自自由ということで。集合は日没までに」
「ほいじゃ、かいさ~ん」
ウソップの号令で、麦わらの一味はおのおの好きなところへ向かっていった。
「あれ? そういやぁ、ゾロのやつどこ行った?」
「また迷子かよ……」
*
「………………………………ここは、どこだ?」
町から遠く離れた森の中。島の東側で、ゾロは途方に暮れていた。
「酒場は、どこだ……?」
きょろきょろとあたりをみわたしながら、歩き続けるたびに足は町から離れ、森の奥へと向かっていく。
ふと、森の奥からカン、コーンという甲高い音が聞こえだした。
何があるのかと進んでみると、そこでは齢十ほどの少女が、丸太を前に蹴りを放っていた。
見渡せば、同じような丸太が無造作に転がっていて、そのどれもこれもにいくつもの傷が入っている。
少女は近づいてくるゾロに気付くことなく、黙々と動かない丸太相手に組み手らしきものをしていた。
「…………何やってんだお前」
「きゃぁああ!!」
いきなり声をかけられて、驚いた少女は丸太に足を引っ掛けて盛大に転んだ。
「あたた……」とうめき声を漏らす少女に、ゾロはため息をつくと少女の襟首を持ち上げて起こしてやった。
「……ありがとうございます」
「何やってんだ、お前は」
ゾロがぶっきらぼうに尋ねると、少女は頬を膨らませながら再び丸太に向き直った。質問に答える気はないらしい。
見ると、少女の手足には、古いものから新しいものまで、大小さまざまな傷がついている。中には、ついたばかりなのか、傷が開いたのか、血が流れ出ているものもある。
「……名前は?」
「……コト」
「そうか。おれはゾロだ」
互いに短く自己紹介して、再び沈黙が流れる。
ゾロが口を開いたのは、コトがまた黙々と組み手を続けてから数十分たってからだった。
「なんでまた一人で強くなろうとしてんだ?」
「…………」
コトは不機嫌そうに蹴りの練習を続けながら、背を向けて口を開いた。
「……勝ちたい人がいます」
「!!」
「その人に勝って自分の存在を証明したいんです」
その言葉に、ゾロは強い既視感を抱き、目を見開いた。
――――勝ち逃げなんてゆるさねェ!!
いつか、世界で一番強い剣士をかけて勝負だ!!
少女は、いつかの自分に似ていた。
なんとなく、ほほえましくなったゾロは、自分でも無意識に声を出していた。
「……重心はもっと前だ」
「!」
コトは驚いたように目を見開くも、にっと笑って「ありがとうございます」と答えた。
*
「……すげぇ。掘り出しもんだこの本!! これも!! これも!!」
見つけた古本屋で、高度な内容の詰まった医学の本を目の前にかかげ、チョッパーは歓声を上げた。
古本ゆえに多少傷んではいるが、よむ分には事欠かない。チョッパーにとっては、伝説のメダルよりお宝だった。
「この島来てよかった~。こんな本を拝めるなんて」」
「少年。なかなかお目が高いね」
突然かけられた声に、チョッパーは驚いて振り返る。
そこにいたのは、作業用のズボンとタンクトップの上に、ファーのついたジャケットを着たワイルドな印象の女だった。何故か、肩には大きな牛乳缶を背負っている。
「その本はあたしも目をつけてたんだ。いい腕の証拠だよ」
女がそういうと、チョッパーはしばらく固まったのち。
「ほ…………褒められてもうれしくねぇぞコノヤロー♪」
「……ああ、うん。分かった」
これでもか、というほど顔をとろけさせたチョッパーに女は脱力した。
「あたしは伊達丸。医者だ」
「俺、トニー・トニー・チョッパー!」
「しかしまいったな。目をつけられてた本が先に買われちまったとなりゃ……。そうだ、ほかにいい本見繕ってくれよ」
「おう! いいぞ!!」
チョッパーは嬉々として本の山を見渡した。
「じゃぁ、これなんかどうだ?」
「お。おまえほんとに良い目してんな……」
*
切り立った崖の上で、ロビンは一人、岩に刻まれていた文字を眺めていた。
ゆっくりとそれに目を走らせていくたびに、ロビンの眉間に深いしわが刻まれていく。
それと同時に、彼女の手が小刻みに震え始め、冷や汗が吹き出し始める。
「……まさか、こんなところでお目にかかるなんてね」
ひきつった笑みを浮かべたロビンは、その文字をふるえる手で撫でていく。
正方形に収まるように作られ、岩の一面にびっしりと彫られたその文字。それは、かつて世界のどこかに栄え、そして滅んだとされる伝説の民の遺した、破壊することのできない石に刻まれた文字。
語られぬ歴史を語る石、
*
招待されたイズミ爺の家。そこでお茶を濁しながら、ナミはふと疑問を口にした。
「そういえば、この島の人たちってすごく簡単に私たちを受け入れてくれたわよね?」
海賊と言えば、略奪者のイメージが強いだろう、と訝しむナミに、イズミは笑って答える。
「すべての海賊が悪というわけではないことをワシらは知っておるからのう」
そういってイズミ爺は、古びた本を持ち出してとあるページを開いた。
「正確な年は分からんが、この島に迷い込んできた海賊がいての。察するとおり、この島は一度蹂躙された。………じゃが、同じ時にやってきた者たちは違った」
イズミは語りながら、遠い目で思い出していた。
人々に襲い掛かる海賊たちに刃を向け、銃を放ち、瞬く間に追い出してしまった海の猛者たちを。
「島を救ってくれた恩人を、わしらは手厚くもてなした。彼らも、わしらに様々な話を聞かせてくれた。わしはもうその時には夢を持つほどの歳ではなかったが、あの人たちの話には心を踊らされた………」
「……そんな人たちばっかならねぇ……」
「島を出ることになっちまったときは、みな悲しんでおったが、一番残念がっていたのはその船の船長だったの。名前は……もうボケのせいか忘れてしまったが」
ん? と眉間にしわを寄せたナミ。イズミは遠い目のまま楽しそうに笑った。
「何でも、気に入った女を口説けなかったとか、惜しいことをした、などいっていたかの」
その顔を思い出していたのか、イズミ爺はこらえきれないように体を震わせて笑う。
「……その人、どんな人だったの?」
「どんな男だったかと聞かれれば……、そうじゃのう」
あごに手を当て、イズミ爺は遠い目になる。
「麦わら帽の似合う男だったの」