【完結】ONE PIECE Film OOO ―UNLIMITED DESIREー   作:春風駘蕩

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ようやく変身です。


4.襲撃

 少し時間は遡り、町の中央にて。 

 多くの人が集まる中、陽気な明るい音楽が人々の耳をとらえる。

 気づけば人々はいつの間にか自分でリズムを取り、ノリノリで体を揺らしている。

 その中心にいるのは、背の高いガイコツ男だ。

「ヨホホホホ!!」

 ガイコツの頭は怖いのだが、高らかに笑うその顔は表情が分かりにくくとも、喜びはしっかりと感じられる。

 明るいアップテンポでかき鳴らされていた音楽がやむと、その場を割れんばかりの拍手と歓声が包み込んだ。それに応え、礼儀正しく一礼するブルック。

 ふと、そのくぼんだ穴が、観衆の中の一人の女性に止まった。

「そこのおねぇさん!!」

「はい!」

 びしっと指を突き出したブルックは真面目らしい顔で詰め寄った。

「……パンツ、見せてもらってもよろしいですか?」

「見せるかぁ!!」

 すぐさまけりを食らい、吹っ飛ぶブルックに、観衆から笑い声が届く。

「ヨホホホホホ!! あ~、楽しいですねぇ~!!」

 かつては闇の海を、50年間ずっと一人で漂っていた彼は、周りに満ちる人に、心が躍る。

「は~い!! では、リクエストとっちゃいま~す!!」

 ブルックがそういって再びバイオリンを構えた時。

 

「―――その欲望、解放しなさい」

 

「え?」

 思わず聞き返したブルックは、後頭部に何かかすかな衝撃を感じた。

 ついで、体の中から何かをずるずると引き出されるような感覚を覚え、背後を見下ろし、凍りつく。

 そこにいたのは、黒い包帯に巻かれたミイラのような怪物だった。怪物は一瞬ぶるりと体を震わせると、まるで脱皮するように包帯を脱ぎ捨てた。

 包帯の下から現れたのは、全身を堅そうなうろこで覆った、たくましい体の怪人。額と鎖骨の当たりから巨大な顎が生え、その中には人の顔らしきものが見える、ワニのような怪物。

 その瞬間、周囲の人々は悲鳴を上げてわっと離れていった。

 怪人は言葉を失って固まるブルックを見ながら、低く轟く声を放った。

「ぱんつぅ……みせてもらってもいいですかぁぁぁぁ」

 そういって、ぐばぁぁぁと開かれる大きなアゴ。目の前に並ぶ鋭い牙に、ブルックはたまらず悲鳴を上げた。

 

「イ〰〰〰〰〰ヤァ〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰!!!!」

 

 平和な町を、その絶叫が貫いた。

 

 *

 

[ウホ! ウホ! ウホ! ウホ! ウホ!]

「!!」

 町の裏道にあるおでんの屋台。二人仲良く食事中だったチョッパーと伊達丸は、いきなり聞こえたその声に驚いた。

 赤い目を光らせ、腕を振り回し始めたゴリラカンドロイドに、伊達丸は目を輝かせる。

「お。おいでなさった!!」

「え!? 何が!?」

 呆気にとられるチョッパーを置いて、伊達丸はカウンターのお金を置いて立ち上がった。

「ワリィ、あたしちょっと用事で来たから行くわ!!」

「え!? お、おい待てよ!!」

 チョッパーも慌てて手元のおでんのくしを口の中に突っ込み、伊達丸を追いかけた。もちろん律儀にお金を置いて。

 

 *

 

 ズバン!! ドガァァン!!

 三本の剣と無骨な銃が火を噴き、異形が吹っ飛ぶ。

「〝鬼斬り〟!!」

「〝セルショット〟!!」

 それでも大したことの無いように起き上ってくる怪物たちに、ゾロは忌々しげに眉を寄せた。

「斬っても斬っても起き上ってきやがる……。いったいなんなんだこいつら……」

 目の前で群がっているのは、背中に巨大な甲羅を背負った亀のような巨漢。頭にコブラの顔を乗せ、後頭部から長い尾が垂れる細身の怪物。もみあげが大きなひれのように開いたり閉じたりを繰り返すエリマキトカゲのような化け物。

 爬虫類を無理やり二足歩行にしたような異形が、あふれかえっているのだ。

 誰にともなく呟いたゾロに、コトが答える。

「ヤミーです」

「!」

 銃に弾らしきメダルを装填するコトの聞きなれない名に、ゾロは振り返った。

「あなたもこの島で聞きませんでしたか? 怪人が生み出した使い魔の事を」

「……そいつが、ヤミーってわけか」

 襲い掛かる別の異形を斬り捨てながら、ゾロは納得したように足元を見下ろした。いつの間にか、足元には大量の銀色のメダルが散乱し、覆い尽くしているのだ。

 その光景は、今朝サニー号の上で経験したものだった。

「………あいつも、ヤミーだったってことか……」

「! 前に遭遇したことがあったんですか? ゾロさん」

「……ああ。食えるかと思って仕留めたが、このざまだからな」

「……なるほど」

 若干呆れた視線になったコトは、再びトリガーを絞る。同時に胸から火花を散らして吹き飛ぶ甲羅に覆われた異形。

 その時、ドゴォォン!! と異形たちを吹き飛ばし、乱入してくる金髪の黒い影があった。

「オラァァァ!! 邪魔だクソトカゲ共ォォ!!」

 黒足のサンジは、目の前の怪物たちを容赦なく自慢の蹴りで鎮圧すると、ゾロとことの間にシュタッと降りたった。

「お怪我はありませんか、レディ? ……つーかなんでてめぇがいるんだよ、クソマリモ!!」

 あからさまに態度の違うぐるぐる眉毛の男の登場に、コトは目を丸くするばかりだ。

 対してゾロは、コトの前に出てずいっとサンジに詰め寄る。

「出しゃばんじゃねェよエロコック」

「あんだとコルァ!! てめーこそしらねー間にレディとお近づきになりやがって!!」

「意味がわかんねーよ……」

 いつものケンカ腰になる二人だが、聞こえてくる唸り声にそんな場合じゃないと思い出し、コトと一緒に背中合わせになる。

「……それで、こいつらいったいなんなんだ?」

「メダルの怪人、だとよ」

「メダル……、あの例のか?」

 サンジは信じられないとばかりに目を見開くが、コトがそれに補足を加える。

「正確には、メダルの怪人と呼ばれるグリードが、己の力の源たるセルメダルを集めるために生み出した下っ端です。人間にグリードがセルメダルを挿入することで、その人間が持つ欲望に憑りつき、暴走させ、成長させた存在です」

「……?」

 よくわかっていない様子のゾロとサンジに、コトは銃を撃ってから少し考えた。

「……要するに、人間の欲に憑りついて悪さする化け物ってことです」

「「なるほど、そうか」」

 声を合わせる二人に、コトはホントは仲いいんじゃないの? と思いながら説明を続ける。

「私と師匠は、コウガミ社長の依頼を受け、彼らを狩るためにこの島へやってきました。この銃も社長から贈られたものです」

「コウガミ? だれだ、そりゃ……」

 言いかけたゾロは、コブラ男が毒の牙をふるってきたのをいなし、その問いを中断する。

 コトは銃を連射し、弾が尽きたところで新たに充填する。

 すると、茶色いうろこを持ったワニの異形がコトに掴みかかってきた。

「!!」

 驚いたコトは銃を取り落し、のしかかってくる異形に必死で抵抗する。

「ぐっ……!」

「うらぁぁぁ!!」

 すかさずゾロが斬り捨て、起き上がったコトは銃を拾ってトリガーを引き絞る。途端に火花が散って後ずさるワニの異形。

 ワニの異形は、銃口を向けるコトを見据えながら、牙の間の口から声を漏らした。

「…………パンツ、見せてもらってもよろしいですか」

「……は?」

 なんかいい感じの低い声で呟かれたその言葉に、三人はしばし言葉を失った。

 すると、セクハラ発言をやらかしたワニの異形の顔面が突如爆発し、異形は吹っ飛びながら仰向けに倒れた。

「うお!!」

 慌てて飛びのいた三人は、背後の気配を感じて得物を構えながら振り向いた。

 そこにいたのは、コトと同型の銃を構えるワイルドな雰囲気の妙齢の女と、興奮しながら女の持つ銃にくぎ付けになっているチョッパーだった。

 女の登場に、コトは目を見開いた。

「ッ!! 師匠!!」

「コトちゃん!! 悪いね、待たしちゃって!!」

 銃を肩に担ぐ伊達丸の飄々とした言葉に、コトは「また子ども扱いして…」とつぶやいた。

「そこのあんたら、どいてな!! そいつはあたしの獲物さ!!」

「なっ……」

 伊達丸はそう言うと、反論しかけるサンジとゾロを無視して腰に一本のベルトを巻きつけた。中央に上半分が白、下半分が緑の球体と右側にダイヤルのついたそのベルトは、金属質な輝きを放っている。

 伊達丸は一枚のメダルを右手ではじくと、左手に持ち替える。

「変身」

 メダルをベルトの穴の中に入れ、ダイヤルを回すと、ベルトの球体がキュポンッ!と音を立てて上下に開く。

 すると、球体から5つの同じ球体が分かれ、肘、膝、左胸にそれぞれくっつき、銀色の鎧と黒いぴったりとしたボディスーツをなしていく。

 最後に頭に、黒いU字の形の装飾のついた帽子が載り、下半分が赤く発光する。

「…さ~て、お仕事しますか!」

 バシン! と拳を打ち合わせ、伊達丸はメダルの怪人たちを睨みつけた。

「すっげェぇぇ!!! ほんとに変身したぁぁぁ!!!」

 背後で目をキラキラさせるチョッパーにサービスでピースサインを見せる。そしてにっと笑うと、伊達丸は一枚のメダルを取り出し、最初と同じくベルトの中に入れ、ダイヤルをキリキリと回した。

[ドリル・アーム!]

 ベルトが無機質な声を響かせると、鎧のひじ部分の半球が開き、いくつものパーツが飛び出す。さらにそれは伊達丸の腕に張り付くと、大型のドリルへと変貌した。

 ギュインギュインと回転するそれを持ち上げ、伊達丸は目の前のエリマキトカゲに叩き付けた。途端に火花が弾け、メダルが飛び散る。

「すっっっげぇ!!!ドリルだ、ドリル!!」

「ウォラァ!!」

[ショベル・アーム!]

[キャタピラー・レッグ!]

 すかさず新たなメダルを投入し、左腕に装着したバケットと、回転する鉄の帯のついた装甲を振り回し、怪人たちを次々にメダルのかけらに還していく。

 だが、それでも倒せる数は微々たるものだ。

「ちっ…、きりがないね……」

「あのぉ……、パンツぅ」

「うっさいわ!!」

 なぜか寄ってきたワニの異形を肘で押しのけ、左手でぶん殴る。

 伊達丸はチョッパーを抱え、異形の間を縫いながらゾロたちのもとへ駆け寄る。

「コトちゃん! こいつらの〝親〟は!?」

「わかりません!!」

 短く会話を済ませ、背中合わせになる五人。

「親ってなんだ?」

 会話の意味が分からないチョッパーが人型になって尋ねる。

「親ってのは、〝グリード〟がセルメダルを育てるために必要な欲望を持つ人間の事さ。普通は人間一人に一体ってのが普通らしいんだが、特殊なやつは大量に生まれてきちまうらしい。親を抑えなきゃ永遠に増え続けるぞ」

「どこのどいつがこんな……………あ」

 そういえばさっきのワニ男。聞いたことのあるセリフを言っていなかったか、と三人はこっそり冷や汗を流す。

 思わず声を漏らしたゾロに気付かずに、伊達丸は続ける。

「ヤミーの欲望は親と一緒さ。その欲望に従順に従って暴れ続ける。その欲望が尽きない限りな」

「…………………………………」

 思わず無言になるサンジとゾロ。サンジが意を決して振り返る。

「……わりぃ。俺ら心当たりあるわ」

「………え?」

 その時、ゴムのようにビヨ~~ンと伸びる何かの影が走り、ワニの異形を弾き飛ばした。

「〝ゴムゴムの(ピストル)〟!!」

 それが誰の「手」によるものなのか理解したゾロとサンジ、チョッパーは、やっとか、という表情でその方向を見やった。

「ちょ……、ちょっと!! どうなってんのよこれ!!」

「なんだこりゃ!?」

 そこへ、惨状に目を丸くしながら、遅れてきたルフィたちが合流した。

 ナミは天気棒(クリマ・タクト)をふるって怪人の頭を殴りながら、ゾロとサンジに詰め寄る。

「食えっかな?」

「なわきゃねぇだろ!!」

「ってか、なんなのよこいつら!!」

「説明は後だ!! とりあえずこいつら抑えとけ」

 ゾロの無茶な言葉に、ナミは「はぁ!?」と反論しかける。

「確かに、一方がここを抑えてもう一方が親を探すのがベストか……。いつまでもつか……」

「いや、親はすでに分かっている」

「え?」

 ナミが訝しげな声を漏らした時。

「あ~!! みなさ~ん!! ご無事ですかぁ!!」

 そういって、息も絶え絶えに駆け寄ってくる、一人にガイコツ紳士の姿に、全員の視線が殺到した。

 そして。

「お前のせいかぁぁぁぁぁ!!!」

「ギャァァァ!!?」

 容赦なく殴られるブルック。なにがなんだかわからないまま、真っ白な骨が一部砕けた。

 後から来たナミたちには何が何だかわからない。

 その時、あたりが一瞬で暗くなり、はっと我に返ったルフィたちはとっさに飛びのいた。

「!!」

 ズシィィン!! とさっきまで立っていた場所に、亀の巨漢がボディプレスを放ち、ルフィたちは間一髪それをかわした。だが、そのために皆バラバラに分断されてしまう。

「マズイ!! 離れるな!!」

「エールちゃん!! ナミさん!! ロビンちゃん!! ヒナちゃん!! こっちへ!!」

 周りがすべて敵の中、ばらばらのなるのは良策ではない。だが、あたりを覆い尽くすその敵の多さに、仲間たちは連携をとれないでいた。

「クソぉ!! どけぇ!!」

「〝ストロング・ライト〟ォ!!」

 ルフィとフランキーは、目の前の怪物たちを殴り飛ばすが、異様にしぶというえに数が多いので、隙間がすぐに埋まってしまう。

「きゃあ!!」

 と、引き離されたヒナが転んでしまう。

 そこに目を付けたのは、ブルックの欲望を従順に受け継いでいるらしき、ワニの怪人だ。

 ヒナに襲い掛かる、大アゴ。

「危ない!!」

 咄嗟にエールがヒナの前に立ちふさがり、素早い見事な動きで怪人の爪をいなし、その顔に掌底を打ち込む。

 しかし。

「え……?」

 もろに決まったはずの一撃は、怪人に微塵もダメージを与えた様子はなく、そのまま殴り飛ばされた。

「!!」

 エールの額が引き裂かれ、赤い筋が走る。数メートル吹っ飛んだエールは、痛みに悶えてうずくまってしまう。

「エール!!」

 ルフィはエールの危機に飛び出そうとするも、亀の怪人二体に阻まれて動けない。

 ようやく起き上ったエールの目の前に、大アゴのワニ怪人が迫った。牙と牙の間に赤い炎が生まれ、火花を散らして漏れ出す。

「エールお姉ちゃん!!」

 ヒナの叫びもむなしく、エールに向かって灼熱の火炎弾が放たれた。

 

 火炎が迫る中、エールは妙な既視感を抱いていた。

 ―――アイツ(・・・)の炎も、こんな色だったっけ…………

 

 ―――ドクン!!

 

 その瞬間、エールの心臓が大きく鼓動し、何か得体のしれない力が、体の中を駆け巡った。そして、大きく体をのけぞらせたエールの胸から、紫の光が飛び出した。

 少女に迫る赤い火球。それが、一瞬にして霧散する。

「!!?」

 驚く怪人の目の前を紫の光が横ぎり、怪人を一撃で弾き飛ばした。

「!!」

 光はエールの周りを旋回すると、腰の前のベルトのくぼみに収まっていく。

 無表情のまま、ゆっくりと顔を上げたエールの瞳が、紫色の光を放った。

 そして、腰のスキャナーがひとりでに動き出し、紫のメダルを順にスキャンしていく。

 

[プテラ・トリケラ・ティラノ! プットッティラーノザウル―――ス!!]

 

 軽快な歌が鳴り響くとともに、エールの体が真っ白な霧に包まれていく。幾何学的な模様の入ったポンチョは内側にファーのついたジャケットへと変わり、その上から紫色の鎧が張り付いていく。胸には車輪のようなプレートアーマーが張り付き、両手と両足、肩と腰にはゴツいトカゲの装甲がはめられる。肩からは黄色い角のような突起が生え、首の後ろからは紫色の長いマフラーのようなものが垂れさがる。

 最後にエールの茶髪が薄い紫色に染まり、翼竜のような髪留めで両サイドにまとめられる。

 エールの目が緑色に輝き、鎧の異形は全身をぶるぶるとふるわせる。そして。

 

「――――ガァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 大気が震えるほどの、咆哮を上げる。

 肌がビリビリと震え、その場にいた全員が、恐怖の表情をはりつかせながら、凍りついた。




ゴリラカンドロイドがエ〇ゴリくんとかぶってしまう俺のバカ!!

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