その鎮守府の卯月はイタズラが好きだった。
ある時は同じ艦娘を泣くまでくすぐり、ある時は一発芸といって他人のスカートを捲ってしまったり。
また、よく嘘や冗談を口にしていた。
ちょっと困り者だけどムードメーカー、卯月の行動にみんなは困ったように笑っていた。そして最近新しいイタズラが始まっていた。
「嘘じゃないぴょん! ホントだぴょん! うーちゃんはうーちゃんじゃなくて目を覚ましたらうーちゃんになってたんだぴょん!」
「何度目だよ卯月……おとなしく向かうよ、鎮守府付近の哨戒だ、ボクと弥生と卯月だけだけどさ」
「深海棲艦がいる海は怖いぴょん! 普通の人間のうーちゃんは戦えないぴょん!」
「はいはい、それじゃ司令官! 行ってきま~す」
その男は目を覚ましたら『艦隊これくしょん』の世界に入って卯月になっていた。
卯月になった初日はとても荒れていた。起きたところで自分の姿に動揺し、同じ部屋の艦娘を起こしてしまい怒られる。
話す言葉は全て卯月の口調になってしまうからいくら「自分は卯月じゃない」と言っても誰も取り合ってくれない。
それどころか新しいイタズラ、遊びだと思われ罰として鎮守府の廊下の掃除をさせられて、それでもまだ言うものだから追加で掃除をすることになりヘトヘトに。
見かけた人物全てに訴えかけたが日が暮れる頃には半ば諦め残りを過ごし眠りについた。
翌日、卯月は冒頭のように出撃させられた。 体が覚えているのか海面に浮く事も砲撃することもできたのだが……。
「卯月ちゃん!?」
――実際に深海棲艦に相対してみると怖くて仕方がなかった。卯月になる前は日本人、命の危険を感じたこともない正真正銘の一般人だったから。
『駆逐イ級』、ゲーム内では一番最初に戦う事になる、とても弱い敵であるのだがそれの奇襲に恐怖し行動不能。
かろうじて本能で回避行動を取るが砲撃を完璧には避けられずに小破することになってしまった。
「次は気のせいマスでお願いしますぴょん、気のせいマスでお願いしますぴょん……」
「卯月……」
「流石にコレどうしちゃったんだろうね」
現在は皐月と弥生で小破した出撃前より顔色が悪い卯月を挟む単縦陣で海上を移動中、哨戒任務交代の時間まではまだ時間があり、卯月は早くこの任務が終わる事を祈っていた。
「いくらなんでもここまで長い時間演技はしないだろうし任務は任務でちゃんと区別はできてたハズだし、本当にどうしたの卯月?」
「うーちゃんはうーちゃんじゃないぴょん……」
くるりと首から上だけ振り返りながら眉を下げ困ったようで心配しているような顔の皐月に卯月は頭からぷすぷすと煙を出しながらも答えた。
「卯月……それしか言ってないよ」
後ろから弥生がため息混じりにツッコミを入れる。
卯月はそんな事言われてもそれしか言えず、しっかり話そうとみんなに誠実に相談しているつもりでも、強制的に変えられる卯月の口調で真面目感が薄れているうえ、今までの行いでオオカミ少年状態で気が滅入っていた。
「これじゃウサギ少女だぴょん」
「ウサギ少女って、オオカミ少年の卯月バージョン?」
「いつもイタズラする卯月が悪い……日頃の行いだよ……」
項垂れた卯月の口から思わず漏れた言葉に反応する二人。
そこまで危険度のない鎮守府近海だからか、小破している状態でも元の卯月自身の性質もあるのだろう。緊張感はないまま、ぐるぐると回る建設的でない思考と、先程のような軽く心配をするやり取りを繰り返すうちに哨戒任務は終わり鎮守府に帰還することになった。
「はぁ……」
少々暗く埃っぽい倉庫で12cm単装砲を棚に並べながら卯月になって何度目になるかわからないため息をついていた。
あの哨戒任務の後、流石の二人もこれはおかしいと司令官に報告した結果、しばらく出撃任務はおやすみという事で、入渠することになった卯月は報告にいった皐月と弥生から新しい任務を与えられていた。少々滞っていた倉庫の掃除、整理がそれである。
うまく交戦出来ず、あのままでは大破もしかねない卯月としてはありがたい通達ではあったが、戦闘が出来ない艦娘など役立たずである。中身は卯月という艦娘ではないにしろ、いつ戻るかわからない状態では、ゲームであったシステム、あの『解体』をされかねない。
今までの出撃で痛い目にあいたくないという悩みに代わって新たな悩みが出来てしまったゆえのため息だった。
「このままじゃ危ないぴょん……あれ?」
ガチャガチャ、と考え事のせいで雑に艦装を並べていく卯月だったが、ふと視界の端、腰くらいの高さにある中段の棚に置かれていた46cm三連装砲の影でちょこちょこ動く何かを捉えた。
「あれは――妖精さん?」
隠れやすく大きい戦艦の主砲から光が当たる位置までトテトテと歩いてきたのは、右眉から右頬まで一線の傷が付いた妖精にしては精悍な、といっても可愛さが十分ある顔つきの黒く長い髪を後ろで束ねた妖精だった。
「妖精さん、どうしたんだぴょん?」
(ピョコ、ピョコ)
こんな妖精いたっけな、と記憶を探りつつ、倉庫の管理をしている妖精かもと接触を図るべく、卯月は妖精と視線の高さを合わせるため膝に手を当て前かがみになって話しかけると、妖精からかえってきた反応は真面目な顔つきのまま腕を体の横で上下に動かしつつジャンプする動きであった。見ようによっては抱っこを強請る子供のようである。
「え、持ち上げて欲しいぴょん?」
(ピョコッ、ピョコッ)
卯月は目的がわからない動きに困りつつも、首を傾げて当てずっぽうに探りを入れると正解とばかりに妖精は先程の動きを激しくした。
「合ってるぴょん? じゃ、じゃあこの手に乗ってぴょん……って、えっ!?」
謎の要求の妖精に困惑する卯月が両手を皿のように受け止める形にして前に突き出すと、突然。
妖精はその手を踏み台にしながら卯月の胸に飛び込んでいった。
卯月が驚きの声をあげると、その瞬間。薄暗い倉庫が卯月を中心にして光に満ち溢れた、そしてそれが卯月がその日見る最後の光景であった。
「う、ううん……?」
卯月が目が覚めるとオレンジ色に染まった海上だった。キョロキョロと見回すと少し黒い煙を上げた鎮守府と水に浮く深海棲艦の破片と見られる黒い物体、そして少数の艦娘達だった。
そう、まるで大きな戦闘があったような光景で……。
そして卯月自身、身体に違和感を覚えた。
「お、重いぴょん」
「卯月!」
卯月は自身に付いている駆逐艦が装備出来るような代物ではない明らかに重量過多な主砲の他、複数の艦装を確認しようと思ったが、喜びを含んだような誰かの呼びかけと共に卯月が装備していた艦装はあの倉庫で見た光に似た色を発しながら霧散していった。
「凄いわね卯月! 見直しちゃったわ! 確かに今までの『卯月じゃない』わね! そう思うわよね妙高姉さん?」
「卯月ちゃん戦艦みたい! 清霜、憧れちゃうな~」
「よっしゃあ! 今回は卯月がMVPだな!」
「え? え?」
駆け寄ってくる艦娘達に囲まれていく卯月はこの状況を理解出来なかった、今までいた倉庫は? あの鎮守府の煙は? なんで海上に、なんでみんなが? あの艦装は?
倉庫から変わりに変わった状況に目を回し、その混乱の中、ふと疲れを覚えた卯月は再び気を失ったのであった。
「嘘じゃないぴょん! ホントだぴょん! うーちゃんは何も覚えてないんだぴょん!」
「何度目だよ卯月……大人しく向かうよ、いわゆるイベント海域攻略、ボクは行かないけど皆のところまで連れてけって司令官に言われたからね」
「だから深海棲艦がいる海は怖いぴょん! 普通の人間のうーちゃんは戦えないぴょん!」
「はいはい、それじゃ司令官! 行ってきま~す」
海上で気を失った後ベッドで目を覚ました卯月は色々状況を説明するよう求めていた。
卯月自身が得られた情報をまとめると、『戦力の大半が出払った夜の鎮守府に奇襲してきた深海棲艦、それを戦艦のような凄まじい力を発揮して撃退した卯月』だった。
勿論卯月は説明を求められる側の立場でもあるのだが、正真正銘なにも覚えてない卯月は
「知らないぴょん! 気が付いたら勝ってたんだぴょん!」
と事実を伝えたのだがそこは過去の卯月の嘘が活きたようで、『卯月じゃないってこういう事だったのか』と誤解が誤解を産み、知らぬ間に鎮守府防衛MVPという成果を与えられていた卯月は、あれよあれよという間に次の重要な出撃編成に組み込まれてしまった。
「ぴょおおおおおおおおおおおおぉぉんッ!? 死んじゃうぴょん!?」
卯月は首根っこを捕まれ、バタバタと無駄な抵抗をしながら運ばれていったのであった。
初投稿です。よろしければ感想、こうすると小説がよくなるよ、等頂けると嬉しいです(嬉しいだけ)
・以下読む必要なし
5年前のメモ帳から拾い出して加筆修正した処女作です。
どうも連載を意識したような部分はありますが、細かく覚えていないのでバッサリと色々切ってしまいました。
ある程度書いたは良いものの、実際に己の駄文を目の当たりにし、その才能の無さを自覚したようであの時期からネタ帳等もほとんど書かなくなっていたみたいです。
小説を書きたい、とは違う理由で執筆し、不細工ながら短編として投稿出来るように努力はしましたが……。
やはり小説を書くのは難しいですね、これで読み専に戻れます。