「父さん、母さん、いってきまーす」
「気をつけろよー」
「いってらっしゃい」
俺の性は月、名は項、真名は浩照(ひろてる)。六年前に神様転生で三国志時代の兗州済陰郡のはずれの村に転生した。
生まれてからすぐに俺は『真名』というものをつけられた。その瞬間俺は何か違和感を感じた。だがそれもすぐに杞憂だと思った。たとえ神様でも死んだ人間を『ゲームの中の世界』へ送り込むことなど普通は不可能だからだ。
しかし世の中というものは不思議なもので、俺の産まれた一年後にとある少女が産まれた。その時に俺はーーあぁ、この世界は三国志は三国志でも『真・恋姫無双』の三国志世界なのだなーーと悟った。
歓喜した。理由といっても言葉にしたらただ元の世界がつまらなかったとか二次元の世界に憧れていたとかそんなものなのだろうが自分の身体が、魂が、心がこの世界を喜んでいる、祝福している、渇望しているようにも思える。
せっかくの二度目の人生だ。
原作通りに進ませるのもいいが、機会があればグチャグチャに引っ掻き回すのもーー
「恋、迎えに来たぞ。早く行こうぜ」
「待ってた、行こう。照兄」
性は呂、名は布、真名は恋。三国志好きなら誰でも知り、崇め、恐怖する、天下無双の呂布奉先である。
俺の家の向かいに住んでいる、一歳年下のかわいいかわいい妹のような存在である。こんな少女が方天画戟を振り回して人を殺さなければならなくなるなんて、ほんとこの時代は終わってやがる。
でも一つ不思議なのが原作ではここまで言葉を発することってあんま無かった気がするが……まぁ、育った環境によって違うか。
「照兄、今日はどこいく?」
「そうだな…といっても広場か森かのもんだが、確かこの前東郡の方の村が襲われたって行商人が話してたな。安全を考えて、しばらくは広場の方で遊ぼうか」
「わかった。照兄、そこ右」
「おっとそうか、んー…やっぱここらへんは何回来ても迷ってくるな…」
「照兄は道を覚えることをしない」
「うるさいな、これでも努力してるんだって」
現代ではわからなくなったらいつも携帯で調べてたからな、というかここだけは本当に意味わからんって。
毎回通るたびになんか違う感じがあるし。まぁそれもここら辺はあの子の爺さんである村長が住んでるしな。あの孫娘にだだ甘な爺さんにはほんとめんどくさいよ。
まぁあの子はほんと天才だしな、でも毎回違うのにそれでも迷わずすんなりと目的地にたどり着くことができる恋ってーー
「雛里ー、来たぞー」
「雛里、また来た」
とてとてと、こきざみに床を歩く音が聞こえてくる。だんだんその音は大きくなっていくのだが、いかんせんこの家は広いので時間がかかってしまう。
「浩兄様、恋さん、おはようございますっ」
「ああ、おはよう雛里」
「雛里…おはよう」
性は鳳、名は統、真名は雛里。三国志の時代で『鳳雛』と呼ばれることになる天才軍師の片割れである。
ここの村の村長の孫娘で、俺の二つ年下の女の子である。
恋と同じく俺の溺愛している妹のような存在である。
いま現在四歳でこんだけ頭が偉いんだから、原作始まるくらいには一体どんだけすごくなるんだよ。
「あわわ、二人ともそんな出会い頭に頭を撫でないでください〜」
「まあまあ、そう言うなよ。そんで今日は広場に行こうと思うんだ」
「広場ですか、やはり浩兄様も陽平のうわさを知っていたんですね」
「まぁ少しだけね」
陽平の村だったのか、行商人は東郡としか言っていなかったがどこから情報が来てるんだろう。謎だ…
「おお浩照に恋、今日も雛里をよろしくたのむぞよ」
「村長、おはようございます」
「おはよう」
「ああおはよう、二人ともいつもありがとうねぇ」
「いえ、好きでやってるんで」
「雛里といると、恋も楽しい」
「それはなりよりじゃ、ではもう行ってきなさい。時は金なり、じゃよ」
「あわわ、わかりましたお爺様。いってまいります」
「うむ、夕飯までには帰ってくるんじゃよー」
村長との会話を終えた俺たちは、とりあえず広場へとやって来た。広場には大抵他の家の子供たちが既に遊んでいる。
ときどき一緒に遊ぶのだがいかんせんこいつら二人は押しが弱いうえになんかキャラが濃いからなぁ…
合う人とはものすごく合うのだが子供達に合うかといえば微妙なところもある。
もっとも俺はもう精神年齢でいえばもう二十二だしな…子供の遊びとか考えることとかそこまでわかんねぇよ。
「浩兄様、今日はなにして遊びます?」
「そうだなー、三人じゃあできることも限られてくるしなー」
「照兄が決めたのならなんでもいい」
「わ、わたしもでしゅ」
「なんでもいいねぇ…言われてみて一番困る答えだなぁ…」
「あわわ、しゅみませんっ」
いや別に謝らんでもいいって。でもそうだな……昔やった外での遊びというと鬼ごっこにかくれんぼにかんけりetc全部やり尽くしたしなぁ…
「んー、そーだなー…」
俺が薄れかけていっている記憶を必死に呼び起こそうとしていると、村の端の方からがやがやと声が聞こえてきた。
「……なにかあったようだな」
「そ、そうですね。嫌なことじゃなければいいんですが…」
「行ってみる」
「ああ、もしかしたら楽しいことかもしれねぇぞ」
俺たちは走った。
村の外れまでは結構距離があったので、俺と恋の全力は雛里には辛かったので途中から恋の背中に乗せた。
そして、村の境界に着いてみると30人くらいの難民が座って炊き出しを食べていた。
周りの人に聞いてみると、この難民たちはここより北にいったところの村の者たちで、村が賊に襲われて延々とさまよううちにここにたどり着いたらしい。
いま村長や幹部たちが難民たちの処遇について議論しているらしい。
俺としてはこの前村の南側で事故があったからな……できれば迎え入れてほしいんもんだ。
……とはいえ賊に襲われたにしては男も半分くらい残ってるな、でもほとんどは足かどっかをケガしてるな…難儀なこった
そんで子供がいるのは……あそこの夫婦だけか、賊に襲われたらしいし心の傷が少なかったらいいんだがーーー
その子が、こちらを向いた…
感情の無いような瞳が…痛々しかった
どこかで、見たことがあった気がした…
ここではなく…いまは昔、元の世界の方で…
「………ふ…う…?」
表章一話です
遅くなって誠に申し訳ございません
これで初期メンバーが揃いました
次も表章なので、よろしくお願いします