異世界介入ログ:最上イズモ   作:最上 イズモ

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さよなら、かつての自分


青い光に満ちた宮殿。

 

試練の間から戻ったイズモは、広い一室で一人、壁にもたれながら思考を整理していた。

 

イズモ「さて」

 

指を一本立てる。

 

イズモ「レムの治療」

 

二本目。

 

イズモ「悪食の処理」

 

視線を落とす。

 

イズモ「この二つは、融合後にクデュックへ回せる」

 

今のルグニカで無理に解決しようとするより。

 

数週間後。

 

いや。

 

もうそこまで時間は残っていない。

 

クデュックの医療。

 

精神解析。

 

異常存在対策。

 

使えるものは全て使った方がいい。

 

イズモ「残りは――」

 

指を一本だけ残す。

 

イズモ「あと一つの試練」

 

神殿の方を見る。

 

だが。

 

今すぐ挑むことはできない。

 

イズモ「二十四時間待ちか……」

 

エキドナの試練には、一定の間隔が必要らしい。

 

焦っても意味はない。

 

なら。

 

その間にやるべきことをやる。

 

イズモ「今日中に」

 

端末を開く。

 

イズモ「カエデ」

 

次。

 

イズモ「ラム」

 

次。

 

イズモ「ロズワール」

 

三人。

 

イズモ「この辺には話通しとかないとな」

 

世界融合。

 

数週間後。

 

ルグニカとクデュックが同じ世界になる。

 

避けられない。

 

なら。

 

問題はその後だ。

 

イズモ「配属先……」

 

空中へ簡易配置図を表示する。

 

まず。

 

イズモ「レム」

 

思い浮かべる。

 

戦闘能力。

 

鬼化。

 

家事。

 

料理。

 

護衛。

 

イズモ「基礎スペック高い」

 

少し考える。

 

イズモ「アリアパイロット」

 

別枠。

 

イズモ「エヴァパイロット」

 

さらに。

 

イズモ「VVVパイロット」

 

その周辺。

 

イズモ「給仕兼護衛」

 

表示を確定。

 

イズモ「前線パイロットって、生活能力終わってるやつ普通にいるしな」

 

食事。

 

健康管理。

 

緊急時の護衛。

 

イズモ「レムなら全部できる」

 

次。

 

イズモ「ラム」

 

戦闘。

 

観察力。

 

言語能力。

 

そして。

 

人を見抜く感覚。

 

イズモ「戦闘・交渉班」

 

ラムなら。

 

多少癖の強い相手でも正面から対応できる。

 

イズモ「フレデリカ」

 

レムと近い。

 

だが。

 

少し役割をずらす。

 

イズモ「レムのアシスト」

 

屋敷管理。

 

生活支援。

 

必要なら戦闘。

 

イズモ「この二人はセット運用が楽そう」

 

次。

 

イズモ「エミリア」

 

一瞬だけ止まる。

 

少し笑う。

 

イズモ「国家元首」

 

当然。

 

王選はまだ終わっていない。

 

だが。

 

イズモはもう、その未来を前提として考えている。

 

イズモ「ルグニカ王国の国家元首」

 

そして。

 

クデュック側。

 

イズモ「ショーコのアシスト」

 

政治。

 

外交。

 

国家間調整。

 

異世界住民の代表。

 

イズモ「この辺が一番自然だな」

 

次。

 

イズモ「ロズワール」

 

迷わない。

 

イズモ「魔法部門戦術課トップ」

 

大量の魔法知識。

 

戦闘経験。

 

政治力。

 

研究能力。

 

使わない理由がない。

 

イズモ「ベアトリス」

 

イズモ「ロズワール補佐」

 

ロズワール一人へ権限を集中させるのも危険だ。

 

ベアトリスなら。

 

知識でも。

 

監視でも。

 

十分に釣り合う。

 

次。

 

イズモ「フェルト」

 

止まる。

 

イズモ「……諜報班」

 

路地裏。

 

盗み。

 

逃走。

 

観察。

 

あの身軽さ。

 

イズモ「本人が嫌がる気もするけど」

 

正式な軍属というより。

 

独立系。

 

情報収集。

 

潜入。

 

イズモ「かなり向いてる」

 

次。

 

イズモ「騎士団」

 

現在のルグニカの騎士団。

 

そのまま解散する必要はない。

 

イズモ「エミリア直属軍として再編」

 

既存の指揮系統を残しつつ。

 

国家元首直属。

 

クデュック側とも連携。

 

イズモ「一番摩擦少ない」

 

次。

 

イズモ「クルシュを含む貴族」

 

ここは。

 

下手に崩さない。

 

イズモ「基本、現状維持」

 

領地。

 

役割。

 

行政。

 

イズモ「いきなり全部民主化とかやったら社会死ぬ」

 

融合したからといって。

 

文化まで一日で変える必要はない。

 

次。

 

イズモ「ガーフィール」

 

考えるまでもない。

 

イズモ「戦闘か警備」

 

近接。

 

拠点防衛。

 

護衛。

 

イズモ「本人に選ばせる」

 

最後。

 

空中に。

 

一人。

 

白髪。

 

黒い服。

 

イズモ「エキドナ」

 

数秒。

 

イズモ「……俺のアシスト」

 

情報整理。

 

研究。

 

未知現象。

 

異世界。

 

イズモ「一番面倒くさいところを一緒にやってもらう」

 

本人が聞けば。

 

喜ぶのか嫌がるのか。

 

分からない。

 

イズモ「まあ」

 

配置図を閉じる。

 

イズモ「これでよし」

 

 

最初に話したのは、カエデだった。

 

カエデ「世界融合後の暫定人員配置?」

 

イズモ「うん」

 

カエデ「強制ですか?」

 

イズモ「いや」

 

即答。

 

イズモ「本人が嫌なら変える」

 

カエデ「了解です」

 

イズモ「ただ」

 

画面を見る。

 

イズモ「初期配置くらい決めとかないと、全員どこ行けばいいか分からなくなる」

 

カエデ「妥当です」

 

イズモ「カエデは?」

 

カエデ「今まで通り」

 

イズモ「俺の補佐?」

 

カエデ「はい」

 

イズモ「了解」

 

一人。

 

確定。

 

 

次。

 

ラム。

 

ラム「……」

 

説明を最後まで聞いた。

 

沈黙。

 

イズモ「どう?」

 

ラム「まず」

 

腕を組む。

 

ラム「勝手に人の仕事を決めるのね」

 

イズモ「仮案」

 

ラム「なら最初にそう言いなさい」

 

イズモ「ごめん」

 

ラム「でも」

 

表示された配置を見る。

 

ラム「戦闘と交渉」

 

イズモ「嫌?」

 

ラム「別に」

 

イズモ「なら」

 

ラム「ただし」

 

視線が刺さる。

 

ラム「レムが目覚めたら、本人に聞きなさい」

 

イズモ「もちろん」

 

ラム「フレデリカも」

 

イズモ「うん」

 

ラム「あと」

 

エミリアの欄。

 

ラム「国家元首って」

 

イズモ「王になった前提」

 

ラム「気が早い」

 

イズモ「なると思ってる」

 

ラム「本人に言った?」

 

イズモ「告白した時に国作りたいとは」

 

ラム「……」

 

少しだけ。

 

呆れた。

 

ラム「そう」

 

イズモ「何その顔」

 

ラム「別に」

 

 

最後。

 

ロズワール。

 

イズモ「世界融合後」

 

ロズワール「うーん」

 

配置図を眺める。

 

イズモ「魔法部門戦術課」

 

ロズワール「わーたしがトップ?」

 

イズモ「適任」

 

ロズワール「随分信用してくれるんだーね」

 

イズモ「信用と監視は別」

 

ロズワール「はは」

 

イズモ「ベアトリス付ける」

 

ロズワール「なるほど」

 

イズモ「あとカエデもログ取る」

 

ロズワール「随分厳重だ」

 

イズモ「そりゃそう」

 

ロズワール「でも」

 

少しだけ。

 

真面目な顔。

 

ロズワール「悪くない」

 

イズモ「やる?」

 

ロズワール「魔法という体系を」

 

指を立てる。

 

ロズワール「別世界の科学と並べて研究できるなら」

 

笑う。

 

ロズワール「断る理由はないねぇ」

 

イズモ「決まり」

 

ロズワール「ただ」

 

イズモ「?」

 

ロズワール「エミリア様を国家元首にするのは」

 

イズモ「王選勝ってから」

 

ロズワール「そこは現実的なんだーね」

 

イズモ「王選飛ばして即位させるつもりはないよ」

 

ロズワール「安心した」

 

 

二十四時間。

 

経過。

 

神殿。

 

最終試練。

 

青い光の中央。

 

イズモは一人。

 

静かに立っていた。

 

イズモ「さて」

 

周囲を見る。

 

イズモ「最終試練は何だ?」

 

声。

 

エキドナ「それじゃあ」

 

響く。

 

エキドナ「始めよう」

 

イズモ「うん」

 

一拍。

 

エキドナ「過去との別れの試練を」

 

イズモ「……過去」

 

世界が反転した。

 

 

最初に聞こえたのは。

 

キーボード。

 

イズモ「……」

 

白い壁。

 

大量のデスク。

 

モニター。

 

蛍光灯。

 

IT企業。

 

イズモ「ここ」

 

知っている。

 

自分の過去。

 

少し離れた席。

 

自分。

 

まだ。

 

異世界も。

 

クデュックも。

 

使徒も。

 

何も知らない頃。

 

イズモ?「さてと」

 

キーボードを叩く。

 

イズモ?「このプログラムをコンパイルして……っと」

 

イズモ「……」

 

次の瞬間。

 

音。

 

最初は。

 

小さな破裂。

 

その直後。

 

轟音。

 

イズモ「――!」

 

爆発。

 

壁。

 

床。

 

天井。

 

全部が吹き飛ぶ。

 

ガラス。

 

金属。

 

机。

 

炎。

 

視界が赤く染まる。

 

イズモ「……これか」

 

炎の中。

 

自分が倒れている。

 

動かない。

 

場面が外へ移る。

 

消防車。

 

救急車。

 

警察。

 

ガス会社。

 

道路封鎖。

 

黒煙。

 

大量の破片。

 

レスキュー隊員1「生存者!」

 

レスキュー隊員2「奥に一名!」

 

瓦礫。

 

血。

 

人影。

 

レスキュー隊員2「呼吸あります!」

 

レスキュー隊員1「意識は?」

 

レスキュー隊員2「ありません!」

 

レスキュー隊員1「他は!」

 

沈黙。

 

イズモ「……」

 

レスキュー隊員2「……他に生存者、なし」

 

イズモ「そうか」

 

あの事故。

 

自分だけ。

 

生き残った。

 

正確には。

 

イズモ「生き残った、というより」

 

担架。

 

救急車。

 

イズモ「昏睡か」

 

 

病院。

 

手術。

 

人工呼吸器。

 

モニター。

 

ベッド。

 

自分の身体。

 

動かない。

 

家族。

 

面会。

 

声。

 

願い。

 

延命。

 

医師。

 

看護師。

 

時間だけが進む。

 

イズモ「……」

 

一日。

 

一週間。

 

一か月。

 

半年。

 

一年。

 

自分は。

 

戻らない。

 

そして。

 

医師が家族へ告げる。

 

脳死。

 

イズモ「……一年か」

 

その言葉が。

 

不思議と重かった。

 

自分にとって。

 

異世界を移動していた期間。

 

あまりにも多くの世界を見た。

 

だが。

 

元の身体は。

 

ここで。

 

ずっと。

 

待っていた。

 

次。

 

葬儀。

 

写真。

 

花。

 

静かな声。

 

イズモ「これが」

 

自分の死後。

 

正確には。

 

身体が死んだ後。

 

イズモ「……」

 

ふと思い出す。

 

エヴァの世界。

 

シンジ。

 

身体。

 

転移。

 

時間。

 

イズモ「待って」

 

計算。

 

イズモ「エヴァの世界から別世界へ移った時期と」

 

現実側。

 

イズモ「ほぼ同じ」

 

背筋が冷える。

 

イズモ「危な……」

 

少しでも。

 

ずれていたら。

 

イズモ「シンジが」

 

自分の身体。

 

イズモ「俺の元の肉体に取り残されてた可能性あったのか」

 

数秒。

 

イズモ「……本当にギリギリじゃん」

 

今になって。

 

別の意味で怖くなった。

 

だが。

 

目の前。

 

葬儀。

 

自分の写真。

 

イズモ「……」

 

不思議と。

 

悲しくはない。

 

家族に対して。

 

申し訳なさはある。

 

心残りもある。

 

だが。

 

戻りたいとは。

 

思わなかった。

 

イズモ「俺」

 

静かに。

 

イズモ「もう」

 

写真を見る。

 

イズモ「ここには戻らないんだな」

 

自分の過去。

 

人生。

 

死。

 

全部。

 

否定する必要はない。

 

だが。

 

そこへ縛られる理由もない。

 

イズモ「ありがとう」

 

誰に向けた言葉なのか。

 

自分でも。

 

分からなかった。

 

世界が。

 

ゆっくり崩れていく。

 

 

白。

 

茶会。

 

エキドナ「お疲れ様」

 

イズモ「終わり?」

 

エキドナ「ああ」

 

茶を一口。

 

エキドナ「これで三つの試練」

 

微笑む。

 

エキドナ「全て終了」

 

イズモ「シールドは?」

 

エキドナ「壊れたよ」

 

イズモ「そっか」

 

椅子へ座る。

 

イズモ「最後にしては」

 

少し考える。

 

イズモ「あっけなかったな」

 

エキドナ「そう?」

 

イズモ「最初が感情」

 

イズモ「二つ目が最悪の可能性」

 

指を一本。

 

イズモ「最後は事故の後」

 

エキドナ「でも」

 

静かに。

 

エキドナ「君にとって」

 

イズモ「?」

 

エキドナ「ずっと心残りだったんじゃないかな」

 

イズモ「……」

 

否定はしなかった。

 

イズモ「まあな」

 

自分の身体。

 

家族。

 

かつての世界。

 

何も言えないまま。

 

置いてきた。

 

イズモ「でも」

 

天井。

 

いや。

 

空。

 

この空間には。

 

どちらもない。

 

イズモ「新しい仲間は」

 

エミリア。

 

レム。

 

ラム。

 

カエデ。

 

ハルヒ。

 

ミクル。

 

カヲル。

 

他にも。

 

イズモ「転移先でも見つかる」

 

エキドナ「君は随分たくさん作ったね」

 

イズモ「勝手に増えた感あるけど」

 

エキドナ「それも才能じゃない?」

 

イズモ「知らん」

 

少し笑う。

 

イズモ「この世界も」

 

一拍。

 

イズモ「魔女教さえ除けば嫌いじゃない」

 

エキドナ「随分条件が大きい」

 

イズモ「本当にあいつらだけは嫌」

 

エキドナ「ふふ」

 

イズモ「で」

 

エキドナを見る。

 

イズモ「これから?」

 

エキドナ「試練は終わった」

 

エキドナ「結界も消える」

 

エキドナ「聖域の住民も自由になる」

 

イズモ「うん」

 

エキドナ「そして」

 

少し。

 

寂しそうにも。

 

楽しそうにも見える顔。

 

エキドナ「この世界をどうするか」

 

イズモ「……」

 

エキドナ「それは全部」

 

イズモを見る。

 

エキドナ「君たち次第だ」

 

イズモ「俺だけじゃない?」

 

エキドナ「君は、そうしたいんだろう?」

 

イズモ「うん」

 

少し。

 

沈黙。

 

イズモ「エキドナ」

 

エキドナ「何だい?」

 

イズモ「ありがとう」

 

エキドナ「……」

 

珍しく。

 

反応が遅れた。

 

イズモ「贖罪と」

 

過去。

 

死。

 

救えなかった世界。

 

イズモ「未練」

 

元の身体。

 

過去の人生。

 

イズモ「手放す機会くれて」

 

エキドナ「……」

 

イズモ「助かった」

 

エキドナ「試練を受けて」

 

少しだけ笑う。

 

エキドナ「そんな感想を言った人は、君が初めてだよ」

 

イズモ「失敗だった?」

 

エキドナ「逆」

 

エキドナ「非常に興味深い」

 

イズモ「やっぱそっちか」

 

エキドナ「僕だからね」

 

イズモ「まあ」

 

立ち上がる。

 

イズモ「これが俺流」

 

エキドナ「そうみたいだ」

 

世界が白くなる。

 

イズモ「じゃ」

 

イズモ「また」

 

エキドナ「またね、イズモ」

 

 

青い神殿。

 

イズモ「……」

 

戻った。

 

身体。

 

正常。

 

試練。

 

終了。

 

結界。

 

解除。

 

空気が。

 

少し変わった気がする。

 

通信。

 

カエデ『イズモ』

 

イズモ「うん」

 

カエデ『融合予測更新』

 

イズモ「あとどれくらい?」

 

数秒。

 

カエデ『推定』

 

表示。

 

七日。

 

イズモ「……一週間」

 

外を見る。

 

ルグニカ。

 

今まで。

 

異世界だった場所。

 

あと七日で。

 

自分たちの世界と繋がる。

 

イズモ「さて」

 

立ち上がる。

 

イズモ「最後の一週間」

 

少し笑った。

 

イズモ「忙しくなるな」

 

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