異世界介入ログ:最上イズモ   作:最上 イズモ

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IF編
IF第一話 異物は王都に溶け込む


「……来たな」

 

足裏に伝わるのは、ざらついた石の感触。

視界を上げると、石畳、馬車、人、人、人。

 

「事故転移……」

 

短く状況を確認する。

 

「環境安定。身体異常なし」

 

一拍置き、内側の操作に入る。

 

偽装ユニット、起動。

 

装備の輪郭が揺らぎ、外見が書き換えられる。

次の瞬間、そこに立っていたのは――

 

旅装の男。

腰には、王都でよく見かけるありふれた片手剣。

 

「……これでいい」

 

目立たない。

それが今の最優先事項だった。

 

「まずは情報収集だな」

 

人混みを歩いていると、視界の端で異変を捉える。

小柄な少年が、屈強な男に腕を掴まれていた。

 

「……」

 

シオンは一瞬だけ足を止める。

 

「介入、最小限」

 

踏み込み、男の死角へ。

 

一瞬の体重移動。

足を払う。

 

「うおっ!?」

 

男は石畳に倒れ込み、少年はその隙に逃げた。

 

「……これ以上は不要だな」

 

周囲の視線が集まり始める前に、シオンは人混みに溶け込んだ。

 

市場の喧騒。

果物屋の店主が声をかけてくる。

 

「兄ちゃん、旅人か?」

 

「ええ、少し道に迷って」

 

「ここは王国ルグニカだ」

 

「……そうですか」

 

知らない国名だが、顔には出さない。

 

「ありがとう」

 

路地裏。

 

「おい、何ぶつぶつ言ってやがる」

 

不良風の男が三人、道を塞ぐ。

 

「金目のもん、持ってるだろ?」

 

「……」

 

その瞬間。

 

「どけどけー! じゃまー!」

 

金髪の少女が突っ込んできた。

 

「よくわからんが、強く生きろよ!」

 

男たちがよろめく。

 

「……やれやれだ」

 

シオンは剣を抜かない。

抜く必要がない。

 

一人目の懐に入り、肘を入れる。

二人目の足を引っかけ、地面に転がす。

 

残った一人がナイフを振り回すが――

 

剣の柄で手首を打つ。

 

「ぐっ!?」

 

刃が落ち、男は後ずさった。

 

そこへ、冷たい声。

 

「そこまでよ」

 

振り向くと、銀髪の少女が立っていた。

紫水晶のような瞳。

 

「今なら返すだけで済ませてあげる」

 

氷が地面を覆い、不良たちは完全に動きを止めた。

 

「助かった」

 

短く礼を言う。

 

「動かないで」

 

警戒の声。

 

少女の肩に、白い猫が現れる。

 

「ありがとう。悪い人じゃなさそうだね」

 

「……かわいいな」

 

「僕はパックだよ」

 

「私は……サテラ」

 

一瞬の沈黙。

 

「いい名前だ」

 

「……え?」

 

貴章を巡る騒動の末、貧民街へ。

 

「ここだな」

 

扉の奥から現れる巨漢。

交渉は成立しかけたが――

 

「血の匂いがするわ」

 

空気が一変する。

 

「フェルト、衛兵を呼べ!」

 

刃が交錯する中、赤髪の青年が割って入った。

 

「そこまでだ」

 

「僕はラインハルト」

 

シオンは一歩下がり、剣を収める。

 

――この男は、別格だ。

 

戦いが終わり、銀髪の少女が息をつく。

 

「私、嘘をついてた。本当の名前は……エミリア」

 

「そうか。よろしく」

 

その瞬間。

 

背後から、衝撃。

 

刃が背中に触れた感触はあったが――

貫通はしない。

 

RIGが衝撃を吸収し、力を分散する。

 

「……っ」

 

痛みではない。

内部に走ったのは、強制的な遮断信号。

 

体の感覚が、一気に遠のく。

 

「――なるほど。これは……」

 

腸狩りの声が、どこか遠くで響いた。

 

「殺した“つもり”でいなさい」

 

視界が暗転する。

 

だが、生命反応は――消えていなかった。

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