異世界介入ログ:最上イズモ   作:最上 イズモ

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IF第三話 花畑の向こう側

村の花畑は、昼下がりの光を受けて静かに揺れていた。

 

淡い黄色。

 

深い青。

 

赤に近い紫。

 

風が吹くたび、花々が一斉に身を揺らし、甘い香りが空気へ溶けていく。

 

シオン「……きれいだな」

 

隣を歩くエミリアが、小さくうなずいた。

 

エミリア「ええ。本当に」

 

それきり。

 

しばらく、言葉はなかった。

 

だが。

 

沈黙は重くない。

 

ここには。

 

怒号も。

 

血の匂いも。

 

刃を抜く理由もない。

 

陽光。

 

風。

 

花の香り。

 

それだけ。

 

シオン「……こんな場所」

 

足元。

 

花を避ける。

 

シオン「久しぶりだ」

 

エミリア「久しぶり?」

 

シオン「ああ」

 

少し考える。

 

どこまで話すか。

 

ピースギア。

 

異世界介入。

 

自分が何者なのか。

 

まだ。

 

伝える段階ではない。

 

シオン「向こうにいた頃も」

 

一歩。

 

シオン「こっちに来てからも」

 

もう一歩。

 

シオン「落ち着く暇がなかった」

 

エミリア「……そう」

 

魔獣。

 

王都。

 

エルザ。

 

ベアトリス。

 

こちらへ来て。

 

まだ。

 

ほとんど時間は経っていない。

 

それでも。

 

ずっと。

 

判断を続けている。

 

シオン「屋敷の仕事をしてる時と」

 

エミリア「うん?」

 

シオン「君と一緒にいる時」

 

一拍。

 

シオン「それくらいかな」

 

エミリア「何が?」

 

シオン「平和だって」

 

花を見る。

 

シオン「思えるのは」

 

エミリア「……」

 

返事がない。

 

横を見る。

 

エミリアは。

 

花畑の奥へ視線を逸らしていた。

 

午後の光。

 

銀髪。

 

横顔。

 

頬。

 

少し。

 

赤い。

 

シオン「……」

 

気づいた。

 

だが。

 

何も言わない。

 

それが。

 

今は。

 

一番自然だった。

 

 

屋敷。

 

戻った瞬間。

 

空気が違った。

 

シオン「……」

 

中庭。

 

竜車。

 

豪華。

 

整いすぎている。

 

紋章。

 

王都。

 

シオン「来客か」

 

近く。

 

執事。

 

一礼。

 

執事「お帰りなさいませ」

 

シオン「どうも」

 

執事「王都より」

 

一拍。

 

執事「使者の方がお見えです」

 

エミリア「王都?」

 

シオン「……」

 

王選。

 

恐らく。

 

その関連。

 

屋敷内部。

 

いつもより。

 

人の動きが多い。

 

声。

 

少ない。

 

視線。

 

多い。

 

ラム「エミリア様」

 

エミリア「ラム」

 

ラム「王都からの使者です」

 

エミリア「用件は?」

 

ラム「王選についてかと」

 

エミリア「……分かったわ」

 

シオンは。

 

一歩。

 

後ろへ。

 

シオン「俺は外す」

 

エミリア「シオン?」

 

シオン「政治の話なら」

 

視線。

 

使者がいる方向。

 

シオン「俺が入る必要はない」

 

ラム「賢明ね」

 

シオン「褒め言葉として受け取っておく」

 

 

中庭。

 

シオンは。

 

何も作らない。

 

衛星。

 

なし。

 

警備兵器。

 

なし。

 

現地社会の。

 

重要人物。

 

王都からの使者。

 

こちらを見る目も。

 

当然。

 

増える。

 

シオン「……」

 

目。

 

耳。

 

人の配置。

 

屋敷。

 

入口。

 

退路。

 

それだけ。

 

確認。

 

カエデ『増設しますか?』

 

内部通信。

 

シオン『しない』

 

カエデ『理由』

 

シオン『今は』

 

一拍。

 

シオン『監視される側』

 

カエデ『了解』

 

シオン『こちらの能力を測らせない』

 

カエデ『合理的です』

 

シオン『王都の人間は』

 

使者。

 

従者。

 

装備。

 

シオン『見る目が多い』

 

村とは。

 

違う。

 

ここで。

 

異物になってはいけない。

 

 

応接室。

 

結果的に。

 

シオンも同席することになった。

 

理由。

 

簡単。

 

エミリアが。

 

呼んだ。

 

シオン「……」

 

紅茶。

 

香り。

 

温度。

 

正常。

 

使者。

 

年配。

 

落ち着いている。

 

だが。

 

見る。

 

非常に。

 

よく見る。

 

使者「どうぞ」

 

シオン「いただきます」

 

一口。

 

毒。

 

なし。

 

シオン「……結構な味です」

 

使者「お気に召しましたかな」

 

シオン「ええ」

 

カップ。

 

置く。

 

使者「では」

 

目。

 

こちら。

 

使者「この茶をもって」

 

一拍。

 

使者「何をお求めで?」

 

シオン「……?」

 

意味。

 

理解。

 

シオン「特には」

 

使者「特には?」

 

シオン「穏便に済めば」

 

一拍。

 

シオン「それでいい」

 

使者「……」

 

少し。

 

意外そうな顔。

 

シオン「何か?」

 

使者「いえ」

 

小さく。

 

笑う。

 

使者「面白い御方だ」

 

シオン「よく言われる」

 

その時。

 

足音。

 

軽い。

 

猫耳の少女「ただいまー、ビル爺」

 

シオン「……」

 

猫耳。

 

明るい。

 

動き。

 

軽い。

 

だが。

 

身体運用。

 

普通ではない。

 

治癒系?

 

魔法使い。

 

高位。

 

恐らく。

 

猫耳の少女「にゃ?」

 

こちらを見る。

 

一度。

 

二度。

 

シオン「……」

 

少女「君が」

 

エミリアを見る。

 

少女「例の?」

 

エミリア「え?」

 

少女「んー」

 

すぐ。

 

興味を失ったように。

 

肩をすくめる。

 

少女「まあいいや」

 

使者を見る。

 

少女「行こ、ビル爺」

 

使者「承知しました」

 

出口。

 

猫耳の少女が。

 

振り返る。

 

少女「王都で会おうね」

 

シオン「……」

 

誰に。

 

とは。

 

言わなかった。

 

だが。

 

恐らく。

 

自分たち。

 

シオン「なるほど」

 

王都行き。

 

確定。

 

 

その日の夕方。

 

エミリア「シオン」

 

シオン「うん」

 

エミリア「王都へ行くことになったの」

 

シオン「使者の件?」

 

エミリア「ええ」

 

少し。

 

表情が硬い。

 

エミリア「遊びじゃないの」

 

シオン「分かってる」

 

エミリア「王選」

 

一拍。

 

エミリア「大事な話になる」

 

シオン「なら」

 

即答。

 

シオン「同行する」

 

エミリア「……護衛?」

 

シオン「ああ」

 

エミリア「でも」

 

シオン「王都は」

 

思い出す。

 

人。

 

情報。

 

利害。

 

騎士。

 

貴族。

 

シオン「怖い場所だ」

 

エミリア「……」

 

シオン「でも」

 

一拍。

 

シオン「だからこそ」

 

腰。

 

剣。

 

触れない。

 

シオン「剣を抜く場所じゃない」

 

エミリア「?」

 

シオン「抜いた瞬間に」

 

視線。

 

エミリア。

 

シオン「負けになる」

 

エミリア「……どういう意味?」

 

シオン「力で解決した瞬間」

 

少し。

 

考える。

 

シオン「相手のルールから外れる」

 

エミリア「……」

 

シオン「政治の場なら」

 

一拍。

 

シオン「なおさら」

 

エミリア「シオンって」

 

少し。

 

驚いたような顔。

 

エミリア「もっと戦う人だと思ってた」

 

シオン「必要なら戦う」

 

エミリア「でも?」

 

シオン「必要ないなら」

 

シオン「抜かない」

 

エミリアは。

 

少しだけ。

 

笑った。

 

エミリア「じゃあ」

 

一拍。

 

エミリア「お願い」

 

シオン「了解」

 

 

王都。

 

人。

 

声。

 

匂い。

 

情報。

 

すべて。

 

村より。

 

数段濃い。

 

シオン「……」

 

エミリア「人、多いね」

 

シオン「多い」

 

進む。

 

人波。

 

一瞬。

 

離れかける。

 

シオンは。

 

自然に。

 

エミリアの手を取った。

 

エミリア「……?」

 

シオン「護衛しやすい」

 

エミリア「それだけ?」

 

シオン「合理的だろ」

 

エミリア「……まあ」

 

手。

 

離れない。

 

シオン「?」

 

文句は。

 

言われなかった。

 

 

王城前。

 

騎士。

 

多い。

 

視線。

 

集中。

 

エミリア「こんにちは」

 

騎士「これはエミリア様」

 

形式。

 

礼。

 

言葉。

 

そして。

 

こちら。

 

シオン「……」

 

見る。

 

だが。

 

問わない。

 

名前も。

 

聞かれない。

 

それでいい。

 

聞かれても。

 

今は。

 

答えない。

 

騎士「こちらへ」

 

エミリア「シオン」

 

シオン「?」

 

エミリア「待っててもらえる?」

 

シオン「分かった」

 

エミリア「勝手にどこか行かないでね」

 

シオン「善処する」

 

エミリア「それ、行く人の言い方」

 

シオン「……」

 

少し。

 

笑う。

 

エミリア「もう」

 

城内。

 

消える。

 

シオン「……」

 

待つ。

 

人。

 

観察。

 

騎士。

 

商人。

 

貴族。

 

役人。

 

ここでは。

 

人そのものが。

 

ノイズ。

 

だから。

 

逆に。

 

不自然な動きは。

 

目立つ。

 

シオン「……長くなりそうだな」

 

その時。

 

視界の端。

 

腕。

 

掴まれる。

 

小柄な人物。

 

抵抗。

 

男。

 

二人。

 

シオン「……またか」

 

ため息。

 

介入。

 

最小限。

 

 

数十秒。

 

それだけ。

 

声。

 

荒げない。

 

剣。

 

抜かない。

 

男の重心を崩す。

 

もう一人。

 

壁。

 

逃走。

 

終了。

 

少女「……助かりました」

 

シオン「気にするな」

 

少女「お名前を――」

 

シオン「必要ない」

 

一礼。

 

それだけ。

 

去る。

 

相手が誰なのか。

 

興味はある。

 

服装。

 

立場。

 

恐らく。

 

高い。

 

だが。

 

それ以上。

 

関わらない。

 

シオン「……」

 

介入。

 

完了。

 

 

夕暮れ。

 

王城。

 

扉。

 

エミリア。

 

出てくる。

 

シオン「終わった?」

 

エミリア「ええ」

 

歩き方。

 

少し。

 

重い。

 

シオン「色々あった?」

 

エミリア「……あったわ」

 

シオン「顔を見れば分かる」

 

エミリア「そんなに?」

 

シオン「少し」

 

歩く。

 

城。

 

背後。

 

シオン「ここは」

 

一度。

 

振り返る。

 

シオン「花畑じゃない」

 

エミリア「……うん」

 

シオン「安心できる場所でもない」

 

エミリア「そうね」

 

シオン「でも」

 

前。

 

見る。

 

シオン「逃げる場所でもない」

 

エミリア「……」

 

少し。

 

長い沈黙。

 

エミリア「シオン」

 

シオン「うん」

 

エミリア「ありがとう」

 

シオン「まだ何もしてない」

 

エミリア「そばにいた」

 

シオン「……」

 

それを。

 

行動と呼ぶのなら。

 

確かに。

 

そうなのかもしれない。

 

シオン「そうか」

 

 

夜。

 

宿。

 

王都の灯り。

 

窓。

 

人の声。

 

昼より。

 

少ない。

 

シオン「……」

 

カエデ『警戒レベルを上げますか?』

 

シオン『いや』

 

カエデ『理由』

 

シオン『まだ』

 

王城。

 

騎士。

 

王選。

 

使者。

 

そして。

 

今日。

 

会った。

 

複数の人物。

 

シオン『敵がいない』

 

カエデ『敵性が不明』

 

シオン『それでいい』

 

カエデ『……』

 

シオン『今は』

 

剣。

 

壁に立てかける。

 

シオン『誰かを敵に決める段階じゃない』

 

通信。

 

終了。

 

窓。

 

街。

 

シオン「……嵐の前」

 

そんな感覚だけが。

 

残っている。

 

それでも。

 

剣は。

 

抜かない。

 

力も。

 

見せない。

 

ただ。

 

そばに立つ。

 

必要な時まで。

 

動かない。

 

それが。

 

今。

 

最も正しい介入だった。

 

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