異世界介入ログ:最上イズモ   作:最上 イズモ

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IF第四話 選ばれる場所

王都の朝は早い。

 

まだ太陽が高く昇る前から、通りには人の気配が満ちていた。

 

馬車の車輪が石畳を叩く音。

 

露店を開く商人の声。

 

遠くで鳴る鐘。

 

宿の窓際に立ち、シオンはしばらく街を眺めていた。

 

シオン「……情報が多すぎる」

 

村とは違う。

 

ここでは、建物よりも。

 

道よりも。

 

人そのものが情報だった。

 

騎士。

 

商人。

 

貴族の従者。

 

荷運び。

 

旅人。

 

足早に歩く者。

 

周囲を気にしすぎている者。

 

逆に。

 

こちらを隠そうともせず、値踏みする者。

 

シオン「……」

 

その全てを拾えば。

 

必要な情報より。

 

不要な情報の方が圧倒的に多い。

 

シオン「人そのものがノイズか」

 

カエデ『情報量を制限しますか?』

 

内部通信。

 

シオン『いや』

 

カエデ『理由』

 

シオン『必要なノイズもある』

 

カエデ『了解』

 

その中でも。

 

一つだけ。

 

特に強いものがあった。

 

期待。

 

王選。

 

誰が王になるのか。

 

誰が勝つのか。

 

誰につけば得をするのか。

 

街全体が。

 

まだ始まってもいない勝敗を。

 

既に考えている。

 

シオン「選ばれる場所、か」

 

昨夜。

 

エミリアの表情。

 

思い出す。

 

不安。

 

決意。

 

そして。

 

その両方を。

 

隠そうとしていた顔。

 

シオン「……寝不足だな」

 

自分も。

 

恐らく。

 

彼女も。

 

外套を羽織る。

 

剣。

 

腰。

 

いつも通り。

 

ただの片手剣。

 

シオン「行くか」

 

 

王都。

 

朝。

 

人の流れ。

 

エミリア。

 

その半歩後ろ。

 

シオン「……」

 

前へ出すぎない。

 

だが。

 

離れない。

 

人の流れが。

 

右へ。

 

位置変更。

 

左。

 

変更。

 

後方。

 

一人。

 

接近。

 

ただの商人。

 

問題なし。

 

エミリア「……見られてるわね」

 

声。

 

小さい。

 

シオン「当然」

 

エミリア「やっぱり?」

 

シオン「ああ」

 

彼女は。

 

もう。

 

単なる銀髪の少女ではない。

 

王候補。

 

そう認識されている。

 

だから。

 

好意。

 

敵意。

 

恐怖。

 

好奇心。

 

打算。

 

全て。

 

同じ形。

 

視線。

 

として。

 

向けられる。

 

シオン「気にしすぎるな」

 

エミリア「簡単に言うわね」

 

シオン「全部を気にしたら」

 

一拍。

 

シオン「歩けなくなる」

 

エミリア「……それもそうね」

 

少し。

 

笑う。

 

シオン「大丈夫?」

 

エミリア「それ、私が聞こうと思った」

 

シオン「俺?」

 

エミリア「ずっと周り見てるから」

 

シオン「仕事」

 

エミリア「休んでる時ある?」

 

シオン「寝てる時」

 

エミリア「それ休んでない気がする」

 

シオン「……」

 

否定。

 

できない。

 

 

城。

 

外周。

 

騎士。

 

整列。

 

門。

 

通行。

 

確認。

 

手順。

 

統制。

 

シオン「……」

 

形式。

 

秩序。

 

非常によくできている。

 

だからこそ。

 

気になる。

 

シオン『カエデ』

 

カエデ『はい』

 

シオン『騎士の動き』

 

カエデ『平常値より硬直傾向』

 

シオン『やっぱり』

 

声。

 

必要以上に。

 

短い。

 

動き。

 

速い。

 

視線。

 

多い。

 

何かを。

 

警戒している。

 

シオン「……」

 

秩序というものは。

 

外から。

 

壊れるとは限らない。

 

中。

 

人。

 

立場。

 

感情。

 

そこから。

 

崩れる方が。

 

むしろ。

 

厄介。

 

シオン「近いうちに荒れる」

 

エミリア「え?」

 

シオン「いや」

 

エミリア「何かあるの?」

 

シオン「分からない」

 

正直に。

 

シオン「でも」

 

城。

 

見る。

 

シオン「空気が硬い」

 

エミリア「空気?」

 

シオン「人の」

 

エミリア「……」

 

少しだけ。

 

表情が曇る。

 

 

門の手前。

 

エミリアが。

 

立ち止まった。

 

シオン「?」

 

エミリア「ねえ」

 

シオン「うん」

 

エミリア「もし」

 

そこで。

 

言葉。

 

止まる。

 

シオン「……」

 

待つ。

 

急かさない。

 

エミリア「もし私が」

 

指。

 

僅かに。

 

握る。

 

エミリア「ここで立てなくなったら」

 

シオン「……」

 

意味。

 

物理ではない。

 

シオン「その時は」

 

少し考える。

 

シオン「立てる場所まで戻ればいい」

 

エミリア「戻る?」

 

シオン「一回」

 

シオン「離れてもいい」

 

エミリア「王都から?」

 

シオン「ああ」

 

エミリア「王都じゃなくても?」

 

シオン「王都じゃなくても」

 

一拍。

 

シオン「立てる場所なら」

 

エミリア「……」

 

少し。

 

驚いた顔。

 

そして。

 

笑う。

 

小さい。

 

エミリア「ありがとう」

 

シオン「まだ何もしてない」

 

エミリア「そういうところ」

 

シオン「?」

 

エミリア「なんでもない」

 

 

城内入口。

 

シオンは。

 

止まる。

 

エミリア「来ないの?」

 

シオン「俺はここまで」

 

エミリア「どうして?」

 

シオン「中は」

 

一拍。

 

シオン「君の場所」

 

エミリア「……」

 

シオン「護衛が前に出る場面じゃない」

 

エミリア「でも」

 

シオン「必要なら呼んで」

 

エミリア「……待っててくれる?」

 

シオン「動かない」

 

エミリア「本当に?」

 

シオン「ここからは」

 

嘘ではない。

 

シオン「動かない」

 

エミリア「……分かった」

 

少し。

 

不安そうに。

 

それでも。

 

前を向く。

 

エミリア「行ってくる」

 

シオン「いってらっしゃい」

 

扉。

 

閉じる。

 

シオン「……」

 

壁。

 

寄る。

 

視線。

 

下。

 

動かない。

 

だが。

 

見ていない。

 

わけではない。

 

カエデ『内部情報を取得しますか?』

 

シオン『しない』

 

カエデ『理由』

 

シオン『エミリアが』

 

一拍。

 

シオン『自分で行った』

 

カエデ『了解』

 

信じる。

 

という行為。

 

介入しないこと。

 

それも。

 

護衛の一部。

 

 

時間。

 

経過。

 

一時間。

 

二時間。

 

王都。

 

喧騒。

 

変わらない。

 

騎士。

 

行き来。

 

増える。

 

声。

 

少し。

 

荒い。

 

シオン「……」

 

何か。

 

始まっている。

 

だが。

 

ここから。

 

踏み込む理由はない。

 

今のところ。

 

シオン「王都は戦場じゃない」

 

小声。

 

ただし。

 

戦争が。

 

起きないとも限らない。

 

シオン「剣を抜く理由」

 

腰。

 

触れない。

 

シオン「まだなし」

 

カエデ『内部で感情変動』

 

シオン「……」

 

カエデ『エミリア周辺』

 

シオン『詳細は』

 

カエデ『取得していません』

 

シオン『それでいい』

 

拳。

 

僅かに。

 

握る。

 

シオン「……」

 

待つ。

 

 

扉。

 

開く。

 

複数人。

 

出る。

 

騎士。

 

貴族。

 

候補者。

 

それぞれ。

 

表情。

 

違う。

 

シオン「……」

 

そして。

 

エミリア。

 

シオン「!」

 

歩く。

 

普通。

 

だが。

 

顔。

 

硬い。

 

少し。

 

疲れている。

 

シオンは。

 

前へ出ない。

 

エミリアが。

 

こちらへ来るまで。

 

待つ。

 

エミリア「……待った?」

 

シオン「いや」

 

エミリア「嘘」

 

シオン「時間は経った」

 

エミリア「それを待ったって言うのよ」

 

シオン「そうか」

 

エミリア「……」

 

シオン「大丈夫?」

 

エミリア「……分からない」

 

シオン「そう」

 

それ以上。

 

聞かない。

 

エミリア「聞かないの?」

 

シオン「今」

 

少し考える。

 

シオン「話したい?」

 

エミリア「……」

 

首。

 

横。

 

シオン「なら」

 

一歩。

 

隣。

 

シオン「後でいい」

 

エミリア「……うん」

 

 

帰路。

 

城。

 

遠ざかる。

 

エミリア「シオン」

 

シオン「うん」

 

エミリア「私」

 

止まる。

 

シオンも。

 

止まる。

 

エミリア「ちゃんとできてたかな」

 

シオン「知らない」

 

エミリア「即答?」

 

シオン「中にいなかった」

 

エミリア「……そうだった」

 

シオン「でも」

 

エミリアを見る。

 

シオン「戻ってきた」

 

エミリア「?」

 

シオン「立って」

 

一拍。

 

シオン「戻ってきた」

 

エミリア「……」

 

シオン「なら」

 

シオン「今日はそれで十分じゃないか」

 

エミリア「……」

 

少し。

 

目を伏せる。

 

エミリア「甘いわね」

 

シオン「そう?」

 

エミリア「たぶん」

 

シオン「なら」

 

再び。

 

歩く。

 

シオン「明日は少し厳しくする」

 

エミリア「何それ」

 

少し。

 

笑った。

 

その笑いが。

 

聞けたなら。

 

今は。

 

それでいい。

 

 

夜。

 

宿。

 

窓。

 

王都。

 

灯り。

 

シオン「……」

 

昼。

 

城。

 

騎士。

 

人。

 

感情。

 

情報。

 

全部。

 

頭の中で。

 

並べる。

 

シオン「声が多すぎる」

 

カエデ『物理的な音量ではありませんね』

 

シオン「そう」

 

期待。

 

不安。

 

敵意。

 

打算。

 

理想。

 

全部。

 

言葉にならなくても。

 

聞こえる。

 

シオン「この街」

 

窓。

 

見る。

 

シオン「静かな場所がない」

 

カエデ『警戒を上げますか?』

 

シオン「いや」

 

カエデ『では』

 

シオン「維持」

 

剣。

 

壁。

 

立てかける。

 

シオン「まだ」

 

敵。

 

決めない。

 

味方。

 

決めすぎない。

 

ただ。

 

状況を見る。

 

シオン「……来るなら」

 

一拍。

 

誰へでもなく。

 

シオン「来い」

 

挑発。

 

ではない。

 

確認。

 

自分自身への。

 

王都は。

 

何事もなかったように。

 

夜を続けている。

 

だが。

 

その下。

 

見えない場所で。

 

歯車が。

 

一つ。

 

また一つ。

 

噛み合い始めていた。

 

シオンは。

 

それを。

 

まだ。

 

止めなかった。

 

止めるべき時では。

 

なかった。

 

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