異世界介入ログ:最上イズモ   作:最上 イズモ

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IF第四話 王都は声が多すぎる

王都の朝は、早い。

 

まだ日が高くならないうちから、通りには人の気配が満ちていた。

馬車の軋む音、露店の準備をする声、遠くで鳴る鐘。

 

宿の窓からそれを眺めながら、彼は静かに息を吐いた。

 

(……情報が多すぎる)

 

村とは違う。

ここでは、人そのものが“ノイズ”だ。

 

剣を帯びた騎士。

商人。

貴族の使い。

視線を泳がせる者と、あからさまに値踏みしてくる者。

 

――そして、期待。

 

(選ばれる場所、か)

 

昨夜のエミリアの表情を思い出す。

決意と、不安が入り混じった目。

 

「……寝不足だな」

 

小さく呟き、外套を羽織る。

 

通りを歩くエミリアの横で、彼は半歩後ろに立つ。

前に出すぎない。

だが、離れすぎない。

 

人の流れが変わるたび、無意識に位置を調整していた。

 

「……見られてるわね」

 

エミリアが、声を落として言う。

 

「当然だ」

 

王都に来た瞬間から、

彼女は“王候補”として見られている。

 

好意も、敵意も、打算も。

すべてが同じ視線に混ざって飛んでくる。

 

(ここで感情を動かしたら、終わりだ)

 

「大丈夫?」

 

「……ああ」

 

それ以上の言葉はいらなかった。

 

城の外周。

 

騎士たちが整然と立ち、通行人を選別している。

形式。

手順。

秩序。

 

だが、秩序というものは――

内側から壊れる。

 

彼は視線を上げずに、空気の流れだけを読む。

 

(ここは……近いうちに荒れる)

 

理由はわからない。

だが、兆しはある。

 

人の声が、わずかに上ずっている。

騎士の動きが、必要以上に硬い。

 

「……ねえ」

 

エミリアが、立ち止まった。

 

「もし、私が――」

 

言葉が途切れる。

 

彼は、少しだけ視線を向けた。

 

「もしも、だ」

 

「ここで立てなくなったら……」

 

少し考え、短く答える。

 

「その時は、立てる場所まで戻ればいい」

 

「王都じゃなくても?」

 

「王都じゃなくても、だ」

 

エミリアは、少しだけ笑った。

 

「……ありがとう」

 

城の中へ入る前、彼は立ち止まった。

 

「俺は、ここまでだ」

 

「……待っててくれる?」

 

「動かない」

 

嘘ではない。

だが、真実のすべてでもない。

 

彼は“動かない”が、

“見ていない”わけではなかった。

 

エミリアが城内へ消えるのを見届け、

彼は壁際に寄り、視線を落とす。

 

(さて)

 

王都は戦場じゃない。

だが、戦争が始まらないとも限らない。

 

剣を抜く理由は、まだない。

力を見せる必要も、ない。

 

――今は。

 

「……来るなら、来い」

 

誰に向けた言葉でもなく、

誰かを挑発するでもなく。

 

ただ、世界に向けた確認だった。

 

王都の喧騒は、何事もなかったかのように続いていく。

その裏で、確実に歯車が噛み合い始めていることを、

彼だけが感じ取っていた。

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