異世界介入ログ:最上イズモ   作:最上 イズモ

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IF第五話 中で壊れていく音、外で止まる足

城の外壁は、朝の光を受けて白く眩しかった。

磨き上げられた石は傷一つなく、近づく者を拒むような冷たさを放っている。

 

彼は、その影に身を寄せて立っていた。

 

(……中は、もう始まってるな)

 

壁の向こうから、わずかに空気が震える。

怒号でも、剣戟でもない。

感情がぶつかる前の、嫌な静けさ。

 

王都という場所は、

声が大きい者よりも、

“立場を間違えた者”を先に壊す。

 

「……」

 

彼は視線を落とし、石畳を行き交う人の流れを読む。

誰が興味本位で、

誰が仕事で、

誰が“何かを期待して”ここに来ているのか。

 

(あれは……)

 

少し離れた場所で、騒がしい動きがあった。

身なりの悪い青年。

周囲を気にせず、大きな声で何かを叫んでいる。

 

(……ああ)

 

理解した瞬間、彼は小さく息を吐いた。

 

(今、中にいるのは――

 ああいうタイプが一番やらかす)

 

止めに行く理由は、ない。

ここで口を出せば、

それは“介入”になる。

 

王都では、

正しさよりも、

順番がすべてだ。

 

城内から、わずかな気配の乱れ。

騎士の動きが一段階、硬くなる。

 

(踏んだな)

 

彼は目を閉じる。

 

剣を抜く音は、まだしない。

だが、空気が変わった。

 

(……遅い)

 

感情で前に出た者は、

いつも一歩遅い。

 

「……」

 

彼は、ゆっくりと壁から離れた。

だが、城門へは向かわない。

 

(助けるなら、

 “外”でだ)

 

やがて、城内から人が吐き出されるように出てくる。

ざわめき。

困惑。

そして――冷たい視線。

 

「……やられたな」

 

彼の目に映ったのは、

完全に場を失った青年の姿だった。

 

肩を落とし、

歯を食いしばり、

それでも何かを叫ぼうとしている。

 

(まだ折れてはいない)

 

それが、より厄介だった。

 

彼は、数歩だけ近づく。

声はかけない。

視線も合わせない。

 

ただ、同じ地面に立つ。

 

それだけでいい。

 

王都では、

誰かが隣に立っているかどうかで、

踏みとどまれるかが決まる。

 

少し遅れて、城門の向こうから彼女が出てくる。

 

エミリア。

 

顔色は悪くない。

だが、目の奥に疲労が見えた。

 

彼女は彼を見つけ、

小さく息を吐く。

 

「……待たせた?」

 

「いや」

 

「中、ちょっと……」

 

「見てた」

 

正確には、“見える範囲だけ”だが、

それで十分だった。

 

「……ごめんね」

 

「謝ることじゃない」

 

彼はそう言って、城を一度だけ振り返る。

 

「ここは、そういう場所だ」

 

城から離れ、

人の流れが少し落ち着いた通りへ。

 

彼は歩きながら、短く言う。

 

「今日は、これ以上前に出ない方がいい」

 

「……うん」

 

エミリアは、素直にうなずいた。

 

(理解が早い)

 

それだけで、十分だった。

 

夕方。

 

王都の喧騒は、何事もなかったかのように戻っている。

だが、彼の中では、

一つの線が引かれた。

 

(次は、もっと大きく動く)

 

今日の出来事は、

ただの前触れだ。

 

剣は、まだ抜かない。

力も、見せない。

 

だが――

次に壊れる場所は、もう見えている。

 

彼は、空を見上げずに歩き出した。

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