異世界介入ログ:最上イズモ   作:最上 イズモ

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IF第五話 それでも、隣に立つ

王城の外壁は、朝の光を反射して白く眩しかった。

 

磨き上げられた石。

 

傷一つ見当たらない壁。

 

巨大な城門。

 

見上げれば威圧されるように設計されているのだろう。

 

だが。

 

シオンは見上げなかった。

 

城壁の影。

 

人の流れを邪魔しない場所。

 

そこで、ただ立っていた。

 

シオン「……もう始まってるな」

 

城内から音は聞こえない。

 

怒号。

 

剣戟。

 

そんな分かりやすい異常ではない。

 

それでも。

 

空気が硬い。

 

出入りする騎士の歩幅。

 

伝令の速度。

 

城門周辺の視線。

 

昨日までとは違う。

 

カエデ『内部情報、取得しますか?』

 

シオン『しない』

 

カエデ『エミリア周辺の状況確認も?』

 

シオン『本人に任せる』

 

短く答える。

 

中は。

 

エミリア自身が立つ場所だ。

 

ここで監視を強めれば。

 

助けることはできる。

 

失言も。

 

対立も。

 

事前に察知できるかもしれない。

 

だが。

 

それを始めれば。

 

もう。

 

彼女自身の選択ではなくなる。

 

シオン『異常な生命危機が出た時だけ教えて』

 

カエデ『了解』

 

シオン「……それでいい」

 

王都という場所は。

 

声の大きな人間が勝つ場所ではない。

 

立場。

 

順序。

 

形式。

 

それらを間違えた者から。

 

静かに。

 

居場所を失っていく。

 

シオン「こっちの方が戦場より面倒だな」

 

 

石畳。

 

人。

 

今日も多い。

 

商人。

 

見物人。

 

役人。

 

騎士の家族らしき者。

 

王選。

 

その言葉だけで。

 

普段なら城へ近づかない人間まで集まっている。

 

シオン「……」

 

誰が。

 

何を期待しているのか。

 

見る。

 

単なる興味。

 

商売。

 

政治。

 

候補者への支持。

 

あるいは。

 

失敗を期待している者。

 

シオン「情報量、多いな」

 

その中。

 

一つ。

 

明らかに。

 

周囲と噛み合わない動きがあった。

 

シオン「……?」

 

青年。

 

身なり。

 

この場には。

 

かなり浮いている。

 

そして。

 

声。

 

大きい。

 

周囲の人間を気にせず。

 

何かを訴えている。

 

シオン「……ああ」

 

理解。

 

した。

 

シオン「一番やらかすタイプ」

 

カエデ『制止しますか?』

 

シオン「……」

 

青年を見る。

 

止めること自体は。

 

容易。

 

声を掛ける。

 

肩を掴む。

 

理由を説明する。

 

それだけでも。

 

結果は変わるかもしれない。

 

だが。

 

シオン『しない』

 

カエデ『理由』

 

シオン『俺には』

 

一拍。

 

シオン『あいつを止める権利がない』

 

カエデ『危険行動の可能性』

 

シオン『生命危機なら別』

 

今は。

 

違う。

 

青年自身が。

 

自分で。

 

中へ行こうとしている。

 

そして。

 

その結果を。

 

自分で受ける。

 

それを。

 

外から来た自分が。

 

正しい未来を知っているような顔で止める。

 

シオン「……それは介入しすぎだ」

 

本人が。

 

失敗する自由まで。

 

奪うべきではない。

 

 

しばらくして。

 

城門。

 

動き。

 

騎士。

 

一人。

 

二人。

 

配置変更。

 

シオン「……」

 

カエデ『内部の感情反応、急上昇』

 

シオン『生命反応は』

 

カエデ『正常範囲』

 

シオン「ならいい」

 

だが。

 

空気。

 

明らかに変わった。

 

先ほどまで。

 

張っていただけ。

 

今。

 

何かが。

 

切れた。

 

シオン「踏んだな」

 

誰が。

 

とは。

 

言わない。

 

必要もない。

 

あの青年。

 

恐らく。

 

中へ入った。

 

そして。

 

何かを言った。

 

あるいは。

 

やった。

 

シオン「……」

 

目を閉じる。

 

怒鳴る。

 

庇う。

 

挑発する。

 

そういう。

 

感情で前へ出る人間は。

 

大抵。

 

一歩遅い。

 

先に。

 

場が壊れていることへ。

 

気づけない。

 

シオン「遅いんだよ」

 

小さく。

 

それだけ。

 

 

剣の音。

 

なし。

 

悲鳴。

 

なし。

 

なら。

 

まだ。

 

自分の出番ではない。

 

シオンは。

 

壁から離れた。

 

だが。

 

城門へは。

 

向かわない。

 

逆。

 

少し。

 

人の少ない場所。

 

日陰。

 

シオン「助けるなら」

 

城を見る。

 

シオン「外だ」

 

中で。

 

誰かを助ければ。

 

その人物の立場まで。

 

こちらが引き受けることになる。

 

騎士。

 

貴族。

 

王候補。

 

それぞれの。

 

政治的な関係。

 

そこへ。

 

正体不明の異世界人が。

 

割り込む。

 

最悪。

 

エミリアまで。

 

巻き込む。

 

シオン「剣を抜く場所じゃない」

 

昨日。

 

自分で言った言葉。

 

今も。

 

変わらない。

 

 

やがて。

 

扉が開いた。

 

人。

 

出てくる。

 

一人。

 

また一人。

 

ざわめき。

 

声。

 

冷たい。

 

そして。

 

視線。

 

シオン「……」

 

いた。

 

あの青年。

 

肩。

 

落ちている。

 

顔。

 

強張っている。

 

歯。

 

食いしばっている。

 

周囲。

 

距離を取っている。

 

シオン「やられたな」

 

社会的に。

 

完全に。

 

場を失っている。

 

だが。

 

青年の目。

 

まだ。

 

死んでいない。

 

シオン「……」

 

むしろ。

 

それが。

 

厄介。

 

まだ。

 

何か言おうとしている。

 

何か。

 

取り返そうとしている。

 

自分が。

 

間違っていないと。

 

証明しようとしている。

 

シオン「折れてない」

 

カエデ『接触しますか?』

 

シオン「……」

 

数歩。

 

近づく。

 

だが。

 

声は。

 

かけない。

 

青年の隣。

 

少し離れた位置。

 

同じ石畳。

 

そこへ。

 

立つ。

 

それだけ。

 

青年「……」

 

こちらを見る。

 

シオンは。

 

見返さない。

 

説教。

 

なし。

 

慰め。

 

なし。

 

正論。

 

なし。

 

今。

 

そんなものを渡しても。

 

届かない。

 

王都では。

 

一人で立っているか。

 

誰かが。

 

近くにいるか。

 

それだけでも。

 

意味が違う。

 

シオン「……」

 

青年も。

 

何も言わなかった。

 

それでいい。

 

 

少し遅れて。

 

城門。

 

エミリア。

 

シオン「……」

 

歩いてくる。

 

顔色。

 

悪くない。

 

負傷。

 

なし。

 

だが。

 

目。

 

疲れている。

 

こちらを見つける。

 

少しだけ。

 

息を吐く。

 

エミリア「……待たせた?」

 

シオン「いや」

 

エミリア「中」

 

言葉を探す。

 

エミリア「ちょっと……」

 

シオン「見てた」

 

エミリア「え?」

 

シオン「見える範囲だけ」

 

一拍。

 

シオン「それで十分だった」

 

エミリア「……」

 

視線。

 

先ほどの青年。

 

少しだけ。

 

揺れる。

 

エミリア「ごめんね」

 

シオン「何が?」

 

エミリア「色々」

 

シオン「謝ることじゃない」

 

即答。

 

エミリア「でも」

 

シオン「ここは」

 

城を見る。

 

一度だけ。

 

シオン「そういう場所だ」

 

エミリア「……そういう?」

 

シオン「正しいだけじゃ」

 

一拍。

 

シオン「通らない」

 

エミリア「……」

 

シオン「順番」

 

シオン「立場」

 

シオン「言い方」

 

歩き出す。

 

シオン「全部込みで」

 

シオン「政治なんだろ」

 

エミリア「シオン」

 

シオン「俺は苦手だけど」

 

エミリア「そうは見えない」

 

シオン「戦闘より嫌い」

 

エミリア「そこまで?」

 

シオン「敵が分かりやすいからな」

 

ほんの少し。

 

エミリアが笑った。

 

 

城から離れる。

 

人の流れ。

 

少し。

 

穏やかになる。

 

シオン「今日は」

 

エミリア「?」

 

シオン「これ以上前に出ない方がいい」

 

エミリア「……私が?」

 

シオン「ああ」

 

エミリア「どうして?」

 

シオン「今」

 

一拍。

 

シオン「何か言われたら」

 

エミリアを見る。

 

シオン「冷静に返せる?」

 

エミリア「……」

 

答え。

 

ない。

 

それが。

 

答え。

 

シオン「一回休もう」

 

エミリア「……うん」

 

素直。

 

シオン「理解早いな」

 

エミリア「だって」

 

前を見る。

 

エミリア「今の私が何か言っても」

 

一拍。

 

エミリア「たぶん、ちゃんと伝えられない」

 

シオン「なら正解」

 

エミリア「シオンは?」

 

シオン「何が?」

 

エミリア「怒ってないの?」

 

シオン「何に?」

 

エミリア「……色々」

 

シオン「状況知らないから」

 

シオン「怒る材料がない」

 

エミリア「そういう考え方なのね」

 

シオン「敵味方決めるのも」

 

歩く。

 

シオン「後でいい」

 

 

夕方。

 

王都。

 

朝。

 

あれだけ張り詰めていた街も。

 

今は。

 

平常へ戻っていた。

 

店。

 

開いている。

 

子供。

 

走る。

 

馬車。

 

行き交う。

 

まるで。

 

城の中で起きたことなど。

 

街全体から見れば。

 

大したことではなかったように。

 

シオン「……」

 

だが。

 

違う。

 

今日。

 

一つ。

 

線が引かれた。

 

王選。

 

候補者。

 

騎士。

 

あの青年。

 

エミリア。

 

それぞれ。

 

立ち位置が。

 

少し。

 

変わった。

 

カエデ『今後の予測』

 

シオン『出せる?』

 

カエデ『情報不足』

 

シオン「だよな」

 

それでも。

 

感覚。

 

ある。

 

今日。

 

起きたことは。

 

本番ではない。

 

シオン「前触れ」

 

もっと。

 

大きく。

 

動く。

 

政治だけでは。

 

終わらない。

 

そんな。

 

嫌な感覚。

 

シオン「次に壊れる場所」

 

一拍。

 

シオン「もう」

 

何となく。

 

見えている。

 

腰。

 

剣。

 

まだ。

 

抜かない。

 

特殊装備も。

 

出さない。

 

敵。

 

決めない。

 

それでも。

 

備える。

 

それが。

 

介入班。

 

シオン「……」

 

空は。

 

見上げない。

 

視線は。

 

人の高さ。

 

世界が変わる時。

 

最初に壊れるのは。

 

いつも。

 

空ではなく。

 

人の足元だ。

 

シオンは。

 

王都の流れへ。

 

静かに。

 

歩き出した。

 

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