異世界介入ログ:最上イズモ   作:最上 イズモ

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王都で問われるもの

村の花畑は、昼下がりの光を受けて静かに揺れていた。

 

赤。

青。

白。

黄色。

 

名前も知らない花々が風に撫でられ、甘い香りを運んでくる。

 

イズモ「……きれいだね」

 

隣を歩くエミリアが、ゆっくりとうなずいた。

 

エミリア「ええ。本当に」

 

それきり、しばらく会話が途切れた。

 

だが、不思議と気まずくない。

 

遠くから聞こえるのは、村の子供たちの声と、風に揺れる草木の音だけ。

 

銃声もない。

 

警報もない。

 

何かを警戒する必要もない。

 

イズモ「……久しぶりに平和だな」

 

エミリア「久しぶり?」

 

イズモ「ああ」

 

花を踏まないよう避けながら歩く。

 

イズモ「元の世界でも戦闘ばっかだったし、この世界に来てからもエルザに腹刺されて、魔獣に吹っ飛ばされて……」

 

指折り数える。

 

イズモ「異世界に飛ばされるようになってから、ずっとこんな感じかも」

 

エミリアの表情が少し曇った。

 

エミリア「それは……大変ね」

 

イズモ「まあ、自分から首突っ込んでる部分もあるけど」

 

否定はできない。

 

困っている人間を見れば介入する。

 

危険を見つければ調べる。

 

結果として、戦闘へ巻き込まれる。

 

ある意味では自業自得だった。

 

イズモ「でも」

 

足を止める。

 

イズモ「屋敷の仕事してる時と」

 

エミリアを見る。

 

イズモ「エミリアと一緒にいる時は、平和だなって感じる」

 

一瞬。

 

エミリアの足が止まった。

 

エミリア「……そう」

 

視線が花畑の奥へ逃げる。

 

風が銀色の髪を揺らす。

 

耳の先と頬が、わずかに赤い。

 

イズモは気づいた。

 

だが。

 

イズモ「……」

 

何も言わなかった。

 

今そこで指摘するほど、空気が読めないつもりもない。

 

二人はそのまま、並んで歩いた。

 

 

ロズワール邸へ戻ると、中庭の景色が普段と違っていた。

 

豪奢な竜車が一台。

 

車体には見覚えのない紋章。

 

イズモ「誰の竜車?」

 

玄関前で待っていた執事が一礼する。

 

執事「お帰りなさいませ」

 

イズモ「ただいま」

 

執事「ただいま王都より、使者の方がお越しになっております」

 

イズモ「王都?」

 

エミリアの表情が変わる。

 

屋敷へ入る。

 

中の空気も、いつもより硬い。

 

ラム「エミリア様」

 

ラムが待っていた。

 

ラム「王都から使者の方がお見えになっています」

 

エミリア「使者って……」

 

ラム「王選に関する件かと」

 

エミリア「……わかったわ」

 

イズモ「じゃあ俺は」

 

一歩下がる。

 

イズモ「警備の続きやってくる」

 

エミリア「今?」

 

イズモ「王都から人が来るってことは、これから人の出入り増えるだろ」

 

今まで先送りにしていた。

 

なら、ちょうどいい。

 

 

中庭。

 

イズモは空を見上げる。

 

イズモ「カエデ」

 

カエデ「はい」

 

イズモ「監視網作る」

 

カエデ「規模は?」

 

イズモ「まず屋敷周辺と街道。ついでに王都方面」

 

手を上げる。

 

光が収束。

 

小型衛星が一基形成される。

 

続いて二基。

 

三基。

 

次々と空へ射出されていく。

 

カエデ「軌道投入確認」

 

イズモ「数は?」

 

カエデ「十五基」

 

イズモ「それくらいでいい」

 

この惑星全体を監視するつもりはない。

 

必要なのは、ロズワール領と主要街道周辺。

 

イズモ「地上側も欲しいな」

 

今度は中庭に、人型の機械が形成される。

 

一体。

 

二体。

 

十体。

 

最終的に数十体。

 

完全武装ではない。

 

基本装備はセンサーと拘束装置。

 

イズモ「屋敷周辺は非殺傷設定」

 

カエデ「了解」

 

イズモ「敵味方識別できない相手には警告。侵入継続なら拘束」

 

カエデ「大型魔獣の場合は?」

 

イズモ「その時だけ俺に回して」

 

カエデ「了解しました」

 

イズモ「念には念を、だな」

 

百体単位で戦闘兵器を置くより、こちらの方が扱いやすい。

 

この屋敷を要塞にしたいわけではない。

 

死角をなくしたいだけだった。

 

 

応接室。

 

王都から来た使者と向かい合う。

 

年配の執事風の男。

 

落ち着いている。

 

だが、視線はこちらを細かく観察していた。

 

イズモ「こんにちは」

 

執事「これはどうも」

 

イズモ「紅茶、飲みます?」

 

自分で淹れたものを差し出す。

 

同時に、先に一口飲んだ。

 

イズモ「一応、毒味がてら先に失礼しました」

 

男の眉がわずかに動く。

 

執事「ありがとうございます」

 

一口。

 

執事「……良い味ですね」

 

イズモ「ありがとうございます」

 

数秒の沈黙。

 

執事「しかし」

 

カップを置く。

 

執事「この茶を撒き餌として、何をお求めで?」

 

イズモ「?」

 

執事「無償の好意というものほど、貴族社会では警戒されるものです」

 

イズモ「あー」

 

意味を理解する。

 

イズモ「特にないです」

 

執事「……特に?」

 

イズモ「強いて言えば」

 

少し考える。

 

イズモ「これからよろしくお願いします、くらい」

 

男が目を細めた。

 

その時。

 

廊下から軽い足音。

 

???「ただいまー、ビル爺」

 

イズモ「?」

 

猫耳。

 

細身。

 

声も外見も少女にしか見えない人物が、扉から顔を出した。

 

イズモ「……猫耳少女?」

 

猫耳の人物「にゃ?」

 

後ろにいた執事――ビル爺と呼ばれた男が、静かにため息をついた。

 

猫耳の人物「君がエミリア様の言ってた男の子にゃのね」

 

イズモ「エミリアが?」

 

猫耳の人物「ほんとになーんにも聞いてないみたいだね」

 

イズモ「こっちはセキュリティー作ってたから」

 

中庭の方を見る。

 

猫耳の人物の視線もそちらへ向いた。

 

巡回する機械。

 

猫耳の人物「……にゃんか物騒なのいるけど」

 

イズモ「警備ロボット」

 

猫耳の人物「警備?」

 

イズモ「勝手に入ってきた人を捕まえるやつ」

 

猫耳の人物「……」

 

数秒。

 

猫耳の人物「にゃんとなく分かった」

 

分かっていない顔だった。

 

猫耳の人物「じゃ、行こ。ビル爺」

 

ビル爺「はい」

 

出口へ向かう途中、一度だけ振り返る。

 

猫耳の人物「王都で会おうねー」

 

イズモ「?」

 

その言葉の意味を理解するのは、少し後だった。

 

 

夕方。

 

自室へ戻ると、エミリアが待っていた。

 

いつもの柔らかな雰囲気ではない。

 

エミリア「あのね、イズモ」

 

イズモ「うん」

 

エミリア「明日、王都へ行くことになったの」

 

イズモ「王選?」

 

エミリア「ええ」

 

少し間を置く。

 

エミリア「遊びに行くわけじゃないの」

 

イズモ「分かってる」

 

エミリア「大事な呼び出しだから」

 

イズモ「なら護衛で同行する」

 

即答だった。

 

エミリア「でも――」

 

イズモ「王都ならラインハルトもいるし、フェルトのことも気になる」

 

エミリア「……」

 

ロズワール「いいんじゃーないかい?」

 

いつの間にか廊下にいた。

 

イズモ「いつからいた?」

 

ロズワール「今来たところさー」

 

怪しい。

 

ロズワール「それにイズモ君が王都へ行く理由は、護衛だけじゃない」

 

イズモ「?」

 

ロズワール「治療だーよ」

 

イズモ「治療?」

 

ロズワール「魔獣戦以降、君のゲートがかなり疲弊している」

 

イズモ「ゲートって何?」

 

ロズワール「……そこからかい?」

 

エミリア「魔法を使う時に、マナを通す場所みたいなものよ」

 

イズモ「俺、魔法使ってないけど」

 

ロズワール「君の場合、創造能力を使うたびに動いているようでねぇ」

 

イズモ「マジか」

 

思い当たる。

 

最近、能力を使った後だけ妙に身体が重い。

 

ロズワール「さっき来ていた使者の一人に、王都でも最高峰の治癒術師がいる」

 

イズモ「猫耳少女?」

 

ロズワール「フェリスだーよ」

 

イズモ「なるほど」

 

ロズワール「癖は強いけど腕は確かだ」

 

エミリア「お願いして、診てもらえることになったの」

 

イズモ「……ありがとう」

 

エミリア「私にも責任あるもの」

 

イズモ「それは違う」

 

エミリア「でも」

 

イズモ「俺が勝手に能力使って勝手に戦ってる」

 

少しだけ笑う。

 

イズモ「だから治療はありがたく受ける。それでいい」

 

エミリア「……うん」

 

イズモ「それに王都なら」

 

端末を見る。

 

イズモ「衛星も通ってる。何かあれば五分以内に支援できる」

 

エミリア「五分?」

 

イズモ「状況次第ではもっと早い」

 

エミリア「……」

 

若干引いている。

 

イズモ「やりすぎ?」

 

エミリア「ちょっとだけ」

 

 

翌日。

 

竜車。

 

イズモは窓から流れる景色を眺めていた。

 

木製の車輪。

 

揺れる車体。

 

地竜。

 

イズモ「チョーレトロを感じる」

 

エミリア「れとろ?」

 

イズモ「古いけど味がある、みたいな」

 

その瞬間。

 

車輪が石を踏んだ。

 

ドン。

 

イズモ「うおっ」

 

身体が座席から浮く。

 

イズモ「サスペンション欲しいなこれ――」

 

次の揺れ。

 

イズモ「うわっ!」

 

窓から半身が飛び出した。

 

エミリア「イズモ!?」

 

なんとか掴まる。

 

イズモ「大丈夫!」

 

数秒後。

 

イズモ「……帰ったら足回り改造していい?」

 

エミリア「だめ」

 

即答だった。

 

 

王都。

 

人。

 

人。

 

人。

 

市場の声。

 

馬車。

 

露店。

 

王都へ来たのは二度目だが、前回よりずっと街が大きく感じる。

 

イズモ「人多いなぁ」

 

エミリア「離れないでね」

 

イズモ「じゃ」

 

手を取る。

 

エミリア「えっ?」

 

イズモ「これなら迷子にならない」

 

エミリア「あ、うん……」

 

イズモ「護衛もしやすい」

 

エミリア「そっちなんだ……」

 

イズモ「?」

 

市場。

 

見覚えのある果物屋。

 

赤い果実。

 

イズモ「リンガ」

 

一つ手に取る。

 

店主「また来たのか兄ちゃん」

 

イズモ「どうも」

 

エミリア「そういえば」

 

イズモ「ん?」

 

エミリア「イズモが気絶してた間に、フェルトはラインハルトに連れて行かれたの」

 

イズモ「……あー」

 

徽章盗難。

 

王選候補の資格証。

 

イズモ「さすがにアウトか」

 

エミリア「ただの盗みじゃないからね」

 

イズモ「ロム爺も心配してそうだな」

 

リンガを戻す。

 

イズモ「あとで探してみるか」

 

 

王城前。

 

白い制服を纏った騎士が近づいてくる。

 

騎士「これはエミリア様」

 

エミリア「ユリウス」

 

イズモ「知り合い?」

 

騎士が丁寧に頭を下げる。

 

ユリウス「ユリウス・ユークリウスと申します」

 

イズモ「最上イズモ」

 

ユリウス「エミリア様、その後お変わりありませんか?」

 

エミリア「ええ。ユリウスも元気そうね」

 

ユリウスは自然な動作でエミリアの手を取り、その甲へ口づける。

 

イズモ「……」

 

エミリアがちらりとこちらを見る。

 

イズモ「ヨーロッパ式の挨拶だろ」

 

エミリア「ヨーロッパが何かは知らないけど……まあ、そういうものよ」

 

イズモ「なら問題なし」

 

ユリウスが少しだけ笑った。

 

エミリア「ユリウス、お願いがあるの」

 

ユリウス「何なりと」

 

エミリア「城の方へ取り次いでもらいたいの」

 

ユリウス「承知しました」

 

エミリアがこちらを見る。

 

エミリア「イズモはここで待ってて」

 

イズモ「了解」

 

少し近づく。

 

イズモ「カエデ」

 

小声。

 

イズモ「ステルスで護衛。衛星監視も続けて」

 

カエデ「了解しました」

 

エミリア「……それ、待ってるって言う?」

 

イズモ「俺は入らない」

 

エミリア「そういう問題かなぁ……」

 

それでも拒否はされなかった。

 

エミリアは城内へ消えていく。

 

イズモ「さて」

 

十分。

 

二十分。

 

イズモ「……暇だ」

 

 

視界の端。

 

少女。

 

男二人に腕を掴まれていた。

 

イズモ「……」

 

暇ではなくなった。

 

イズモ「行くか」

 

路地へ入る。

 

不良1「なんだてめぇ」

 

不良2「その顔、吹っ飛ばすぞ?」

 

イズモ「……」

 

見覚えがある。

 

イズモ「またお前らか」

 

不良1「げっ」

 

イズモ「釈放されて速攻で誘拐って、学習能力どうなってんだ」

 

少女は派手な服装をしている。

 

どう見ても一般市民ではない。

 

イズモ「姫様っぽい人」

 

少女「姫様っぽいとは何じゃ」

 

イズモ「ちょっと目閉じてて」

 

布を渡す。

 

少女「何をするつもりじゃ?」

 

イズモ「教育上よろしくない」

 

少女「気遣い、受け取ろう」

 

素直に目隠しする。

 

イズモ「よし」

 

不良「舐めやがって!」

 

イズモ「消してもいいけど」

 

懐から円筒状の物体。

 

イズモ「面倒だからこれで」

 

転がす。

 

カラン。

 

不良「?」

 

閃光。

 

轟音。

 

数秒後。

 

二人とも床に転がっていた。

 

イズモ「終了」

 

少女が目隠しを外す。

 

少女「早いのう」

 

イズモ「リンガ食べる?」

 

少女「……なんじゃ、この急な話題転換は」

 

イズモ「さっき買えばよかったと思って」

 

近くの店から購入。

 

一つ渡す。

 

少女「これがリンガか」

 

表面を見る。

 

少女「白い実の果実ではないのか?」

 

イズモ「皮が赤いだけじゃない?」

 

少女「ほう」

 

そこへ。

 

ロム爺「おお」

 

聞き覚えのある声。

 

イズモ「ロム爺」

 

ロム爺「久しぶりじゃな」

 

イズモ「フェルト探してる?」

 

ロム爺「知っとるのか?」

 

イズモ「ラインハルトに連れていかれた」

 

ロム爺の表情が固まる。

 

ロム爺「よりによってアストレア家か……」

 

イズモ「俺も詳しいことは分からない」

 

ロム爺「そうか」

 

その時。

 

エミリア「イズモ!」

 

走ってくる。

 

イズモ「お、終わった?」

 

エミリア「やっと見つけた」

 

イズモ「すまん。誘拐現場見つけた」

 

エミリア「また?」

 

イズモ「また」

 

エミリアの視線が少女へ。

 

その隣。

 

謎の騎士もいる。

 

イズモ「その人は?」

 

騎士「迷子探しに付き合ってくれるというのでな」

 

少女「迷子とは誰のことじゃ」

 

騎士「さて」

 

イズモ「で、この姫様っぽい人は――」

 

少女「わらわの行く先で待つとは殊勝じゃな、ハル」

 

イズモ「知り合い?」

 

騎士「まあな」

 

どうやら、こちらも単なる迷子ではなかったらしい。

 

 

夕方。

 

宿へ戻る途中。

 

エミリア「さっきの女の子とは、どういう知り合い?」

 

イズモ「知らない人」

 

エミリア「……」

 

イズモ「本当に」

 

エミリア「じゃあ何で一緒にいたの?」

 

イズモ「誘拐されそうだったから助けただけ」

 

エミリア「それだけ?」

 

イズモ「それ以上何があるんだ」

 

エミリア「……そう」

 

イズモ「王選で有利になる相手だった?」

 

エミリア「さあ」

 

イズモ「なら偶然だな」

 

エミリア「イズモって、変なところで誰にでも同じよね」

 

イズモ「?」

 

その意味は、よく分からなかった。

 

 

夜。

 

エミリア「明日は、お留守番しててね」

 

イズモ「了解」

 

エミリア「本当に?」

 

イズモ「緊急時は救援するけど」

 

エミリア「イズモ」

 

イズモ「衛星では見る」

 

エミリア「イズモ」

 

イズモ「カエデは――」

 

エミリア「だめ」

 

イズモ「……はい」

 

エミリア「治療するんでしょ?」

 

イズモ「そうだけど」

 

エミリア「無理しないって、約束して」

 

イズモ「でも何かあったら」

 

エミリア「何かあった時は呼ぶ」

 

真っ直ぐ見てくる。

 

エミリア「私を信じて」

 

数秒。

 

イズモ「……分かった」

 

エミリア「本当に?」

 

イズモ「本当に」

 

 

翌朝。

 

イズモ「暇だ」

 

レム「まだ一時間も経っていません」

 

イズモ「暇だ」

 

窓を見る。

 

イズモ「ドローン飛ばして王都の地図作るか」

 

レム「休むという選択肢は?」

 

イズモ「ない」

 

レム「あります」

 

イズモ「じゃあ座って作る」

 

レム「何をです?」

 

小型ドローンを一機形成。

 

イズモ「これ」

 

また一機。

 

イズモ「大量に」

 

レム「……」

 

その直後。

 

外が騒がしくなった。

 

イズモ「?」

 

兵士の声。

 

人の移動。

 

イズモ「何かあった?」

 

通信。

 

カエデ『イズモ様』

 

イズモ「どうした」

 

カエデ『王宮周辺で騒動を確認』

 

イズモ「エミリアは?」

 

カエデ『無事です』

 

イズモ「なら――」

 

別の映像が入る。

 

大柄な老人。

 

イズモ「……って」

 

拡大。

 

イズモ「ロム爺?」

 

さらに。

 

金髪の少女。

 

イズモ「フェルトまでいるのか?」

 

レム「どうしました?」

 

イズモ「嫌な予感する」

 

 

王宮。

 

到着した時には、すでに騒ぎになっていた。

 

ロム爺が騎士たちに囲まれている。

 

イズモ「何したの!?」

 

ロム爺「フェルトを探しに来ただけじゃ!」

 

イズモ「王宮に!?」

 

ロム爺「仕方なかろう!」

 

イズモ「いやいやいや」

 

騎士「王宮への無断侵入は重罪だ」

 

イズモ「ですよね」

 

騎士「場合によっては死罪となる」

 

イズモ「ですよねじゃなかった」

 

一歩出る。

 

イズモ「待ってください。悪意のある侵入じゃない」

 

騎士「下がれ」

 

イズモ「事情くらい――」

 

騎士「貴殿には関係ない」

 

イズモ「ある」

 

周囲の視線が集まる。

 

イズモ「俺はエミリアの護衛だ」

 

騎士「護衛であろうと、法は変わらない」

 

イズモ「……」

 

正論。

 

ここでATフィールドを使えば救える。

 

騎士全員を無力化することもできる。

 

だが、それをすれば完全な敵対行為だ。

 

イズモ「くそ……」

 

フェルト「ロム爺!」

 

人混みを割ってフェルトが飛び出してくる。

 

フェルト「ロム爺を離せ!」

 

ロム爺「フェルト!」

 

騎士「下がれ」

 

フェルト「こいつは私を探しに来ただけだ!」

 

騎士「それでも王宮への侵入は侵入だ」

 

フェルト「なら私が連れて帰る!」

 

騎士「できない」

 

フェルト「なんでだよ!」

 

別の騎士が告げる。

 

騎士「王選への参加資格を拒絶するのであれば、貴女に特権はない」

 

フェルト「……」

 

空気が止まった。

 

イズモも状況を理解する。

 

フェルトが王候補。

 

だからラインハルトは連れていった。

 

そしてフェルト本人は、それを拒絶している。

 

だが。

 

今ここでロム爺を守るためには。

 

その立場が必要になる。

 

ロム爺「フェルト、わしのことなど――」

 

フェルト「うるせえ!」

 

拳を握る。

 

数秒。

 

長い沈黙。

 

フェルト「……なら」

 

顔を上げる。

 

フェルト「やってやるよ」

 

騎士「?」

 

フェルト「王選」

 

ロム爺「フェルト……」

 

フェルト「こんな国、私がぶっ壊してやる」

 

場が静まり返る。

 

イズモ「……」

 

小さく息を吐いた。

 

イズモ「ふー……」

 

とりあえず。

 

ロム爺は助かった。

 

 

だが、話はそこで終わらなかった。

 

ユリウス「失礼する」

 

イズモ「?」

 

背後。

 

ユリウスが立っている。

 

ユリウス「最上イズモ」

 

イズモ「何?」

 

ユリウス「君がエミリア様の騎士を名乗るのであれば、一つ問いたい」

 

イズモ「護衛って言っただけだけど」

 

ユリウス「同じことだ」

 

イズモ「違う気もするけど……まあいい」

 

ユリウスの表情から笑みが消える。

 

ユリウス「覚悟はあるか?」

 

イズモ「何の」

 

ユリウス「エミリア様の隣に立つ覚悟だ」

 

イズモ「ある」

 

即答。

 

イズモ「エミリアを王にする」

 

ユリウス「ならば」

 

一歩近づく。

 

ユリウス「君には足りないものがある」

 

イズモ「……何だと」

 

感情が動いた。

 

そのことを、自分でも理解した。

 

ユリウス「力ではない」

 

視線がイズモの向こうへ。

 

エミリア。

 

不安そうな顔。

 

ユリウス「隣にいたい人に、そんな顔をさせるな」

 

イズモ「……」

 

エミリア「イズモ」

 

イズモ「……」

 

エミリア「もういいでしょ」

 

しばらく黙る。

 

イズモ「……分かった」

 

だが。

 

ユリウス「それでも納得できないのであれば」

 

腰の剣へ触れる。

 

ユリウス「私が相手をしよう」

 

イズモ「宣戦布告?」

 

ユリウス「そう受け取って構わない」

 

エミリア「ユリウス!」

 

イズモ「……いいよ」

 

エミリア「イズモまで!」

 

 

闘技場。

 

イズモは木刀を一本持つ。

 

ユリウス「本当にそれで?」

 

イズモ「十分」

 

ATフィールド。

 

創造能力。

 

銃器。

 

すべて封印する。

 

イズモ「ATFも創造も使わない」

 

ユリウス「後悔するぞ」

 

イズモ「そっちこそ」

 

エミリア「なんでこうなるの……」

 

開始位置。

 

向かい合う。

 

アナウンス「――始め!」

 

踏み込む。

 

木刀同士が激突した。

 

イズモ「っ!」

 

速い。

 

二撃。

 

三撃。

 

受ける。

 

流す。

 

踏み込む。

 

イズモの一撃を、ユリウスが紙一重で避ける。

 

ユリウス「悪くない」

 

イズモ「そっちも!」

 

再び激突。

 

木刀とは思えない音が響く。

 

技術では、ユリウスが上。

 

実戦経験と反応では、イズモも食らいつく。

 

イズモ「まさか……ここまでとは」

 

距離を取る。

 

イズモ「骨のある男だ」

 

ユリウス「君もな」

 

再突入。

 

一撃。

 

二撃。

 

三撃。

 

身体へ衝撃。

 

イズモ「ぐっ」

 

反撃。

 

ユリウスの肩へ木刀が入る。

 

互いに下がる。

 

エミリア「もうやめて!」

 

聞こえている。

 

だが。

 

身体が止まらない。

 

ユリウス「まだ来るか?」

 

イズモ「当然!」

 

感情が熱を持つ。

 

エミリア「イズモ!」

 

その声。

 

何かが切れた。

 

身体の奥から、別の感覚が浮上する。

 

空気が震えた。

 

ユリウスの表情が変わる。

 

ユリウス「……君は」

 

イズモ「?」

 

自分の手を見る。

 

人間のものではない感覚。

 

懐かしく。

 

そして危険なもの。

 

ユリウス「君は……人なのか?」

 

イズモ「……」

 

一瞬だけ笑う。

 

イズモ「今は」

 

踏み込む。

 

イズモ「使徒」

 

エミリア「だめ――!」

 

二人が同時に振り抜いた。

 

衝撃。

 

視界が回る。

 

ユリウスも倒れる。

 

木刀が石床を転がった。

 

イズモ「……」

 

身体が動かない。

 

遠くから、エミリアが走ってくる。

 

イズモ「……やりすぎた」

 

そこで。

 

意識が途切れた。

 

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