村の花畑は、昼下がりの光を受けて静かに揺れていた。
色とりどりの花が風に撫でられ、甘い香りが漂っている。
イズモ「きれいだね」
エミリア「ええ」
二人並んで歩きながら、しばし言葉を失う。
ここには戦場も悲鳴もなく、ただ穏やかな時間だけが流れていた。
イズモ「ひさしぶりに平和だね」
イズモ「転生前も戦闘ばっかで、来てからも魔獣やら腸狩りだので」
イズモ「転生できるようになってから、ずっとこんな感じだ」
エミリアは彼の横顔を見つめ、静かに息を吐いた。
エミリア「それは……大変ね」
イズモ「一番、屋敷の仕事してる時と」
イズモ「エミリアと一緒にいる時が、平和を感じる」
エミリアは一瞬だけ視線を逸らし、花畑の奥を見た。
その頬が、ほんのり赤く染まったことに、イズモは気づかないふりをした。
ロズワール邸に戻ると、中庭に見慣れない竜車が停まっていた。
豪奢な装飾と王都仕様の紋章が、異質な存在感を放っている。
イズモ「誰の竜車?」
執事が一礼して答える。
執事「おかえりなさいませ」
執事「只今、王都からの使者の方が屋敷にお越しでございます」
屋敷の中に入ると、空気が張り詰めていた。
ラム「王都から使者の方がおみえになっています」
ラム「エミリア様もご同席ください」
エミリア「使者って……」
ラム「王選に関しての件かと」
イズモ「了解」
イズモ「警備用にシステム組んでくる」
中庭に出ると、彼は迷いなく空を見上げた。
イズモ「早速、衛星打ち上げ」
空間が歪み、次々と光点が空へ散る。
十五十機の小型衛星が軌道に乗り、即座に連携を開始した。
イズモ「監視用にはちょうどいい個数か」
さらに、過去の対戦で使った無人兵器を百体ほど生成する。
イズモ「念には念を、だな」
屋敷に戻り、使者と向き合う。
イズモ「こんにちは」
イズモ「これでも飲みません?」
紅茶を差し出し、自分も一口含む。
イズモ「毒味がてら、こちらから失礼してます」
執事「ありがとうございます」
執事「……いい味ですね」
イズモ「ありがとうございます」
執事は鋭い目でイズモを見る。
執事「これを撒き餌に、何をお求めで?」
イズモ「特に」
イズモ「強いて言うなら、これからよろしく、って感じです」
その時、軽い足音が響いた。
猫耳少女「ただいま、ビル爺」
イズモ「よろしくお願いいたします」
猫耳少女「君がエミリア様の言ってた男の子にゃのね」
イズモ「エミリアが?」
猫耳少女「にゃんにも聞かされてないみたいだね」
イズモ「今セキュリティー強化してたから」
イズモ「あと、これが警備ロボット」
猫耳少女「にゃんか物騒なものついてるにゃ」
猫耳少女は一瞬考え、肩をすくめた。
猫耳少女「にゃんとなくわかった」
猫耳少女「行こ、ビル爺」
猫耳少女「王都で会おうね」
ロズワール邸に戻ると、エミリアが真剣な表情で待っていた。
エミリア「あのね」
エミリア「遊びに行くわけじゃないの」
エミリア「大事な呼び出しなの」
イズモ「護衛として同行するよ」
イズモ「王都にも知り合いがいるし」
ロズワール「いいんじゃーないかい?」
ロズワール「イズモ君が王都に行くのは」
ロズワール「お礼参りと、もうひとつ治療目的ってことで」
イズモ「治療?」
ロズワール「魔獣戦でゲートを酷使したかーらね」
イズモ「じゃあ、カエデとレムがついてれば」
ロズワール「さっきの使者と会ったかな?」
イズモ「猫耳少女?」
ロズワール「あの娘が、王都でも飛びっきりの水と治癒魔法の使い手だーよ」
ロズワール「癖が強くてねー」
ロズワール「協力を取り付けるのに、エミリア様も苦労された」
イズモ「ありがとう」
エミリア「イズモの体が治らないの、私のせいでもあるもん」
イズモ「ゲートが何かは知らんが」
イズモ「やっておいて損はない」
イズモ「エミリアに何かあれば、五分で駆けつける」
エミリア「あ……ありがとう」
王都。
人の波の中で、イズモはエミリアと手を繋いで立っていた。
イズモ「護衛しやすいから、これはこれでいい」
少し前。
竜車の中。
イズモ「チョーレトロを感じる」
その直後、衝撃。
竜車が揺れ、イズモは外へ放り出された。
現在。
王都の果物屋で、リンガと呼ばれる果実を手に取る。
イズモ「次はフェルトと、あの爺さんか」
エミリア「イズモが気絶してる間にね」
エミリア「ラインハルトがフェルトを連行していったの」
イズモ「貴章盗難は、さすがにアウトか」
イズモ「まあ、しゃあない」
城の前。
ラインハルトと同じ制服の騎士が現れる。
騎士「これはエミリア様」
騎士「お久しぶりです」
イズモ「知り合い?」
エミリア「ええ」
ユリウス「ユリウスと申します」
ユリウス「その後、お変わりありませんか?」
エミリア「ええ、ユリウスも元気そうで」
ユリウスは彼女の手に口づける。
イズモ「ヨーロッパ式の信頼の挨拶だろ」
エミリア「ヨーロッパはわからないけど、そうよ」
エミリア「用事があって」
エミリア「お城の方に取り繕いてほしいの」
ユリウス「承知しました」
エミリア「イズモは待ってて」
イズモ「わかった」
イズモ小声「監視衛星と、ステルスのカエデ行くから」
カエデ「イズモ様に関する秘密も守ります」
イズモ「いいような、悪いような」
エミリアは城内へ消えた。
イズモ「……結構暇だ」
その時、少女が連れ去られそうになるのが見えた。
イズモ「暇だし、行くか」
不良たちが立ちはだかる。
不良1「ふざけんじゃねーぞ」
不良2「その顔、吹っ飛ばすか?」
イズモ「またお前らか」
イズモ「釈放されてすぐやるとか、アホか」
イズモ「消してもいいけど、面倒だな」
姫らしき少女に目隠しを渡す。
イズモ「姫様には見せられん」
姫「気遣い、受け取ろう」
スタングレネードが転がり、不良たちは即座に沈黙した。
イズモ「リンガ、いります?」
姫「これがリンガか?」
姫「リンガは白い実の果実じゃが」
イズモ「屋敷で丸かじりすればわかる」
ロム爺が現れる。
イズモ「久しぶり」
ロム爺「久しぶりじゃな」
ロム爺「フェルトを知らんか?」
イズモ「ラインハルトに連行された」
ロム爺「よりによってアストレア家か」
イズモ「騒ぎは最小限にする」
エミリア「やっと見つけた」
イズモ「すまん、ちょっとトラブルで」
イズモ「その騎士は?」
謎の騎士「迷子探しに付き合ってくれるって嬢ちゃんがな」
イズモ「で、この姫が……」
姫「わらわの行く先で待つとは殊勝じゃな、ハル」
夕方。
エミリア「さっきの女の子とは?」
イズモ「誘拐されそうだったから助けただけ」
イズモ「王選で有利かは知らん」
エミリア「……そう」
夜。
エミリア「明日はお留守番、よろしくね」
イズモ「了解」
イズモ「緊急時は救援するけど」
イズモ「衛星で見てる」
エミリア「だめ」
エミリア「無理しないで」
エミリア「信じさせて」
翌朝。
イズモ「暇だ」
イズモ「ドローン飛ばして、地図作るか」
レム「何を作るんですか?」
イズモ「これを大量に」
その後、騒ぎ。
イズモ「エミリア大丈夫か」
イズモ「って、ロム爺?」
イズモ「フェルトまでいるのか」
イズモ「ロム爺、消されるぞ」
騎士たちが囲む。
騎士「王宮侵入は死罪」
イズモ「俺はエミリアの騎士だ」
フェルト「ロム爺とイズモを離せ」
騎士「王選資格は破棄された」
フェルト「……なら、やってやるよ王選」
イズモ「ふー」
ユリウス「失礼する」
ユリウス「君がエミリア様の騎士なら、問わねばならない」
イズモ「何だ」
ユリウス「覚悟はあるか?」
イズモ「ある」
イズモ「エミリアを王にする」
ユリウス「君には足りないものがある」
イズモ「何だと」
ユリウス「隣にいたい人に、そんな顔をさせるな」
エミリア「もういいでしょ、イズモ」
イズモ「……わかった」
闘技場。
イズモ「木刀でいい」
イズモ「ATFも創造も使わない」
アナウンス「レディーファイト」
激しい攻防が続く。
エミリア「イズモーーー!」
その声に、イズモの中で何かが弾けた。
イズモ「まさか、ここまでとは」
イズモ「骨のある男だ」
ユリウス「君は……人か?」
イズモ「今は、使徒」
エミリア「だめーーー!」
激突の末、二人は同時に倒れた。