イズモが目を覚ますと、天蓋付きの豪奢なベッドに寝かされていた。
柔らかなシーツと薬草の匂いが、ここが王都の治療施設であることを否応なく伝えてくる。
イズモ「うっ……うん?」
視界が定まるより先に、銀髪の少女の声が聞こえた。
エミリア「イズモ?」
イズモは上体を起こしかけ、すぐに全身の痛みに顔を歪める。
無理に笑って誤魔化すように口を開いた。
イズモ「さっきはごめんな。無駄に心配しすぎて、逆に心配させちまった」
イズモ「カエデと衛星までつけてたのにな」
エミリアは胸の前で手を組み、不安と怒りが混じった瞳で彼を見つめる。
エミリア「どうしてユリウスと戦うことになったの?きっとイズモのことだから、何か理由があったんでしょ?」
イズモは一瞬だけ目を伏せ、事実だけを切り分けるように言葉を選んだ。
イズモ「事実だけ言うと、ユリウスが宣戦布告してきた。俺は、それを受けた」
イズモ「心情を言うなら、騎士じゃないって言われて腹は立ってた。抑えてはいたけど、宣戦布告された瞬間、挽回のチャンスだって判断した」
エミリア「……それだけのために?」
胸を刺す言葉だった。
イズモは視線を逸らさず、深く頭を下げる。
イズモ「まだアンガーマネジメントができてない。その件についても謝る。すまん」
エミリアはしばらく黙り込み、やがて静かに告げた。
エミリア「私とカエデとロズワールは、屋敷に戻ることになるわ」
イズモ「俺は反省がてら、レムと治療だな」
エミリア「そう」
イズモ「わかった。何かあってもカエデに頼る。治療中は創造能力を封印する」
エミリア「……わかったなら、いいわ」
イズモは懐から小さな端末を取り出す。
イズモ「この前渡したやつ、プログラムいじってアラーム付けた。治療が終わるまで、創造能力を使ったら分かるようにしてある」
エミリア「そこまでするの?」
イズモ「今の俺は信用度ゼロだからな。監視がないと、信頼してもらえないと思って」
エミリアは少しだけ困ったように笑った。
エミリア「……わかったわ。ありがとう」
翌日。
イズモは治療のため、フェリスのいる屋敷を訪れていた。
柔らかな光に包まれた治療室で、治癒魔法が身体を巡る。
その最中、扉が静かに開いた。
ラインハルト「今回の件は、すまなかった」
イズモ「いや、まず俺がユリウスを傷つけた。それを謝らせてくれ。すまなかった」
ラインハルト「だが、あの決闘には何の意味もなかった」
イズモは即座に首を振る。
イズモ「収穫はあった」
ラインハルト「収穫?」
イズモ「使徒化したのは、実は初めてだった。だからこれはチャンスだと思ってる」
ラインハルト「チャンス、か」
イズモは少し間を置き、核心を口にする。
イズモ「俺は、この世界の人間じゃない」
ラインハルト「……薄々、気づいていた」
イズモ「向こうじゃ軍隊の二佐だ」
ラインハルト「だからユリウスと互角に戦えたのか」
イズモ「まあな」
ラインハルトは小さく息を吐いた。
ラインハルト「話を戻そう。イズモ君、君とユリウスと三人で腹を割って話そう」
イズモ「悪いが、それは無理だ。ラインハルトだけならいいが、ユリウスとは話せん」
イズモ「それに、主人がわめく気がする」
イズモ「今日は帰ってくれないか」
ラインハルト「……わかった」
ラインハルトが去り、屋敷に戻る。
レム「よかったのですか?
話さなくて」
イズモ「分かり合えないまま話しても、店や屋敷に迷惑がかかる」
イズモ「レム。薄々気づいてたけど、創造するたびにゲートを使ってるのか?」
レム「はい」
イズモ「量か、時間か?」
レム「両方です」
レムは少し間を置いて言った。
レム「……明日、出かけませんか?」
イズモ「いいな。創造もできないし、気分転換にちょうどいい」
翌日、王都。
掲示板には王候補たちの似顔絵が貼り出され、人だかりができていた。
イズモ「俺が割り込んだ件、載ってないな」
イズモ「……暇だ」
夜。
クルシュ「最上イズモ。少し付き合わないか?」
イズモ「ええ」
王都の屋敷のバルコニー。
夜風が心地よく、杯が置かれている。
イズモ「魂は成人ですけど、体は未成年でして」
クルシュ「水を舐めるだけでいい。私も酔うほど飲むわけではない」
クルシュ「ゲートの治療はどうだ?」
イズモ「いやあ……他に治療法ないんですか?」
クルシュ「ああ、そうだが」
イズモ「嫌じゃないですけど、ちょっと恥ずかしいというか」
イズモ「ところで、クルシュさん。なんか戦争でもするんですか?」
クルシュ「戦争ではない。だが、ある出来事に備えて、人と物資を集めている」
そこへ扉が勢いよく開く。
フェリス「あーーーっ!なんでイズモきゅんがここにいるのーーーー!」
フェリス「それにクルシュ様!なんでそんな無防備な格好してるんですかーーー!」
クルシュ「いつもフェリスと晩酌するときと変わらんだろう」
フェリス「それがダメなんです!男の子は狼さんなんですから!」
クルシュ「戯れはよせ。最上イズモの想い人が誰かなど、王宮にいた者なら知っている」
フェリス「まあ、喧嘩しちゃったみたいですけどね」
イズモ「まあな」
フェリス「もう、イズモきゅんたら。分かりやすすぎです」
その瞬間。
イズモの意識に、衛星からの緊急映像が流れ込んだ。
イズモ「ロズワール邸付近一キロの洞窟に、不審な軍隊を捕捉。
規模三千。装備、魔法、不明」
イズモ「だが、対応できるのは二千規模までだ。
無人兵器、衛星砲、武器投下衛星を含めてもな」
イズモ「クルシュさん。出撃の許可を」
フェリス「まだ夜ですし、治療もあと二日は必要です」
フェリス「それに、最上イズモが出撃するなら、敵になる」
イズモ「……エミリアとの契約か」
イズモ「なら、無人兵器と衛星砲、武器投下衛星で対応する。あとはラムとカエデが、なんとかする」