翌朝、白鯨討伐後の野営地は、まだ霧と血の匂いを残していた。
簡易天幕の間を冷たい風が抜け、兵たちは傷の手当てや装備の点検に追われている。
イズモ「ユリウス」
背を向けていた青年が振り返り、わずかに口角を上げた。
ユウリ「イズモ、私はユリウスではない。ユウリと名乗っておこう」
イズモ「アナグラムにもなってないだろそれ」
張り詰めていた空気が一瞬だけ緩む。
イズモ「まあ分かった」
ユウリ「怪我の具合はどうだ」
イズモ「俺よりユウリの方がやばくない?」
ユウリ「いや、私は白鯨討伐で負傷していないかと聞いている」
イズモ「そっか。それなら問題ない」
二人は顔を見合わせ、短く笑った。
イズモ「vtolの残弾と人員を使って次は魔女教だ。まず雑魚をキル、その後にボスをキルする」
地図代わりの投影を指でなぞりながら、イズモは淡々と告げる。
イズモ「ユウリ、俺、ビル爺でボスをやる。他は雑魚の殲滅。念のためエミリアと村の人間は先に避難させてくれ」
全員が短くうなずき、即座に動き出す。
雑魚を殲滅した後、vtolは洞窟の奥へと滑り込んだ。
湿った空気と腐臭が漂い、壁には禍々しい痕跡が残っている。
イズモ「ハロー、ペテルギウス」
洞窟の奥から、狂気に満ちた声が響いた。
ペテルギウス「あなたは?」
イズモ「魔女教に入りたい」
ペテルギウス「ノーが震える。私が優秀な魔女教徒を選別しているときにィ」
イズモ「こいつが答えだ」
イズモの掌から異様な寄生体が現れ、空気が歪む。
イズモ「多分、上が転生時によこしたマーカーだ」
イズモ「ユウリ、今だ」
ユウリは一瞬も迷わず背後から踏み込み、刃を突き立てた。
狂気の司教は断末魔を上げる間もなく崩れ落ちる。
視界が揺れ、世界が反転する。
色彩が溶け、甘い香りが満ちた。
花畑。
現実とは思えないほど鮮やかな景色の中で、触手が地面から伸び上がる。
イズモは即座にカウンターソードを抜き、迫る触手を切り裂いた。
次の瞬間、景色は霧散し、洞窟に戻る。
イズモ「ユウリ、皆を復活させてくれ」
ユウリ「わかった。だが少し君の力を借りる」
イズモ「うっわ、これはアルミサエル並みにきっついな」
ユウリ「精霊がパワーバランスを誤るとは珍しい。君、精霊との親和性が高すぎる」
光が広がり、倒れていた者たちが次々と意識を取り戻す。
そこへ、別方向から走ってくる足音。
イズモ「ラムか。まさか」
ラム「こっちでも大変なことが起きているわ」
イズモ「魔獣か」
花の形をした異様な魔獣が姿を現す。
その瞬間、上空で光が走った。
イズモは武器投下衛星を起動し、レーザーを照準する。
イズモ「幻覚には注意しろ」
イズモ「行くよ、カエデ。みんな」
カエデ「うん」
ユリウス「はい」
ガトリングの咆哮とレーザーの閃光、そしてユリウスの太刀が花型魔獣を切り刻む。
断末魔とともに魔獣は崩れ落ちた。
イズモは即座に衛星で周囲をスキャンする。
イズモ「まずい。エミリアが乗ってる竜車、危険物が多すぎる」
イズモ「vtolで行く。六人乗りで十分だ」
即席で六人乗りvtolを構築し、空へ上がる。
移動中、ペテルギウスの残党と、その亡霊のような反応を捕捉した。
イズモ「これは燃やすしかないな」
レーザーが空を裂き、敵影は灰となる。
残党は武器投下衛星の支援で一掃された。
イズモ「エミリア―――ァ」
エミリア「イズモ」
イズモ「爆弾が積んである。
こっちに乗って」
イズモはvtolをオートに切り替え、竜車へ飛び移る。
火魔法石を掴み投げつけた直後、爆発の衝撃で意識が途切れた。
目を覚ますと、柔らかな草の感触と白銀の髪が視界に入る。
イズモ「……って、ここは?」
エミリア「あなたが倒れた近くの平原よ」
イズモ「また助けられたな」
一瞬の沈黙の後、イズモは視線を逸らしながら言葉を絞り出す。
イズモ「そういえば、ユリウスのとき聞かれたな。
なんで俺が君のために傷つくかって」
イズモ「もちろん、仲間で……好きだからだ」
イズモ「君と国を作りたい」
エミリアは少し驚いたように目を見開き、それから柔らかく微笑んだ。
エミリア「私も」
エミリア「みんな揃ってる。行きましょう」
イズモ「うん」