意識が浮上した瞬間、見慣れた研究施設の天井が視界に入った。
イズモ「……あれ。
なんでクデュック?」
胸の奥に溜まっていた緊張が、一気にほどける。
イズモ「もしかして……戻れた?」
ハルヒ「どうしたの?
いきなり呆けた顔して」
イズモ「今、何年だ?」
ハルヒ「二〇四五年五月二十一日だけど」
イズモ「ゼーレ壊滅作戦の後か……」
確信した瞬間、喉の奥が震えた。
エミリア「イズモ……」
エミリア「大変だったね」
エミリア「助けてくれて、ありがとう」
イズモ「エミ……リア……」
ハルヒ「エミリア?」
感情が決壊し、視界が歪む。
ハルヒ「ど、どうしたの?」
イズモ「……ちょっと、抑えきれなくてさ」
ハルヒ「ミクル、呼んでこようか」
イズモ「……うん」
ミクルの胸に顔を埋めた瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出した。
イズモ「ずっと……負の感情を押し殺してきた」
イズモ「仲間が死んでも泣かずにやってきて……正直、きつかった」
イズモ「でも、それも今日で終わりだ」
イズモ「もう俺一人で世界を背負うのは……やめる」
ミクル「……」
イズモ「だけど、またパラレルワールドに行く」
ミクル「……分かりました」
ミクル「みんなには、私から伝えておきます」
その後、再びクデュックへ戻ると、そこに強欲の魔女が立っていた。
イズモ「……うち、来る?」
エキドナ「いいえ。
私はこの世界に残るわ」
イズモ「そういえば、試練って……これだったのか?」
エキドナ「そうとも言えるし、そうでないとも言えるわね」
エキドナ「あなたには意味が薄かったけど、意識は確実に変わったみたい」
イズモ「そっか」
イズモ「じゃあ、あんたが作った虚数空間に投影したってわけか」
エキドナ「ええ。
あと二つあるから、次の設問も頑張ってね」
言葉と同時に、世界が切り替わる。
元の空間に戻ると、イズモはすぐにエミリアのもとへ向かった。
イズモ「エミリア、大丈夫か?」
エミリア「違うの……私……」
イズモ「それは偽物だ。
大丈夫だ、エミリア」
念のため治療ポットに横たえ、眠らせる。
ラム「イズモが出した医療ポットには、香料由来の穏やかな催眠作用を加えてあるわ」
ラム「悪夢は見ずに済むはずよ」
イズモ「助かる。
ここの植物事情に疎くてさ」
部屋の入口に、いつの間にか小柄な少女が立っていた。
イズモ「……君は?」
リューズ・ビルマ「わしはリューズ・ビルマ」
リューズ・ビルマ「この集落の代表ということになっておる」
イズモ「この世界、老いと若さの基準が分からんな」
その時、治療ポットが静かに開いた。
イズモ「……治療、終わったみたいだ」
イズモは駆け寄る。
イズモ「おはよう」
エミリア「……待って。
なに、これ?」
イズモ「治療ポットだ」
イズモ「この世界の薬草で薬を作って、休んでもらってた」
朝、ラムから忠告を受けた。
誰が敵か分からない状況だと。
だからこそ、エミリアを守れと。
その夜。
エミリアは気絶してはいなかったが、泣きながら部屋を出てきた。
エミリア「ごめんね……また、失敗しちゃって」
イズモ「いや」
イズモ「試練って、何かを倒すものじゃない」
イズモ「過去の記憶と向き合うことだ」
イズモ「精神的に、一番つらいやつだな」
エミリア「……なんで、分かるの?」
イズモ「昨日、取り乱してた」
イズモ「過去を悔やんでる顔だった」
イズモ「たぶん、俺なら突破できる」
イズモ「でも、それじゃ意味がない」
イズモ「エミリアじゃなきゃだめなんだ」
イズモ「どんな精神攻撃も、俺のATFみたいに弾き返せるって思えばいい」
エミリア「……イズモのばか」
エミリア「そんな優しく言われたら、できないなんて言えないじゃない」
イズモ「大丈夫」
イズモ「何があっても、俺がついてる」
エミリア「……甘やかさないで」
エミリア「信じて、待ってて」
イズモ「うん」
その後、村の住民を解放するよう説得し、元の場所へ帰した。
ついでに屋敷でレムの様子を見に行こうとした、その時だった。
暗がりから、鋭い殺気が突き刺さる。
イズモ「……またあんたか」
イズモ「奇襲のつもりだったみたいだが、遅い」
イズモ「屋敷に入る瞬間、情報はもう回ってる」
イズモ「レムに危害が及ぶ可能性があるから起動しなかっただけだ」
イズモ「……覚悟はいいな、腸狩り」