過酷な日々の、ほんの一幕

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あけおめ(激遅)


アーミヤちゃんはドクターが心配

『ドクター』

『ドクター!』

『ドクター?』

『ドクター、ドクター……!』

 

 

 

前略。

目が覚めたらウサミミの美少女に懐かれていた。

何を言っているのかわからないだろう。自分もだ。

 

聞くところによると自分はどうやら記憶喪失というやつらしい。

鉱石病(オリパシー)、と呼ばれる致死率100%の奇病に関する研究者だそうだが実感も何もありはしない。

記憶喪失だから、と言ってしまえばそれまでだが、周囲の反応や対応からして実際にそうだったらしい。

 

ぶっちゃけてしまうが胃痛が痛い。

 

目覚めて早々にテロに巻き込まれ、命からがら逃げおおせたにも関わらず状況は休むことを許してくれない。

周りの人々も一応の配慮等はしてくれているが、その裏では「さっさと思い出せマヌケぇ」と言外の圧力を向けてきている気がしてならない。被害妄想かもしれないし、そう思っても仕方ないほどに逼迫しているのが現状なのだから。

 

だがそれら以上に極めつけが

 

 

 

「あっ、ドクターっ。大丈夫ですか? 何か不自由なことや不便なことはありませんか? もし何かあれば……その、何でも、は難しいですけれど、それでも出来うる限りの精一杯でドクターのお手伝いやご不満の解消などしますから、何でも言ってくださいね、ドクター」

 

 

 

これである。

所々の毛先が青く色づいた濃い栗色の長髪、その頂にウサミミを持つ小柄な少女。

アーミヤ、という名の彼女から向けられる無条件な信用と信頼はハッキリ言おう。

重い、重くない?

記憶を失う以前からの付き合いだったそうだが、それにしたってこの懐かれっぷりは異常と言わざるを得ない。

『ドクター』としてだけではなく、『自分という個人』を尊重してくれているのはこんな環境では非常にありがたい。ありがたいのだが、彼女と過ごした(と思われる)時間も何も思い出せない自分には少々どころかだいぶキツい。

かと言って純粋に慕ってくる相手を無下にするわけにもいかぬ、という面倒くささ極まる自身の心情故に突き放すことも出来ず。

というか下手に遠ざけようものなら重装甲ケモミミ生真面目金髪女騎士あたりにシバき回される可能性もある。

 

結果、何かもうお世話されるがままである。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「ドクター……」

 

アーミヤは恩人を思い黄昏ている。

眠りから覚めて早々にあの地獄に巻き込まれ、今もなお身を粉にして駆け回る背中を見ていると、どうしようもなく自分まで苦しくなってくる。

少しでも気を楽にしてほしいと思い、あれやこれやと手を尽くしてはみるも、状況がそれを許してはくれない。

ならばとせめて手伝おうにも、ロドスのリーダーという立場からなかなかドクター一人だけに時間を割くわけにもいかず、現状のまま今に至る。

 

「……よしっ」

 

が、そんな理由で彼への大恩を忘れるつもりは無い。

ぐっ、と拳を握り、ドクターの心労をほんの少しだけでも癒すために、足早に歩を進める。

 

 

 

「ドクター……?」

 

室外から声をかけても当人から返事は無く、ドアの鍵は開いていることに無用心では、と思いつつも中に入る。

 

対象はすぐに見つかった。

生活するのに必要最低限な家具だけが揃えられた殺風景な部屋、その隅に置かれた小さなデスクと椅子。そこに深く腰かけてぐったりと項垂れているのを見て血の気が引いた。

 

「ドクター!?」

 

思わず上がった声に、彼の身体がびくりと跳ねる。

そのまま何事かと周囲を見回してアーミヤに気付き、しばし沈黙。

 

「…………あの」

 

寝てた、とぽつり呟いたその姿に、緊張で強張っていた身体から力が抜けるアーミヤ。口から大きな安堵の息が漏れるが、それをどう判断したのか、ドクターは小さく謝罪の言葉を口にした。

 

「い、いえっ。怒っているわけじゃないんです。……その、ドクターが体調を崩されたのではと思って……そうじゃなくて、安心して……」

 

一つ思い直して、懐に隠し持っていた物を取り出す。ややくすんだ色合いの魔法瓶を手に、ドクターの隣へと歩を進める。

 

「あの、コーヒーをお持ちしました。もしよかったら、その……一緒に」

 

おずおずと差し出されるそれとドクターを伺うような視線。彼が返す答は決まっていた。

ありがとう、と告げればアーミヤの顔が喜色に彩られる。

 

 

 

明日も知れぬ状況であれ、ただこうして過ごす静かな時間。誰もが寝静まる時刻になるまで、小さな部屋には語り合う声だけが響いていた。


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