今から3年程前…一人暮らしをしていた俺は母さんからの電話でたまには家族みんなで出かけたいと言われ、久々に家族と顔を合わせていた時だ。突然サイレンが街に鳴り響いた。そこは比較的深海棲艦の被害が少ない場所だったんだが、運が悪かったらしい。俺達は逃げ遅れ、更には深海棲艦と鉢合わせてしまった。
「アラ?人間ノゲートハ初メテネ」
それはファントム級の戦艦だった。当時の俺はゲートってのがなにかわからず困惑して、とりあえず逃げ道を探したがそれを聞いた親父は血相を変えて俺達を庇うように飛び出した。
「家族には指一本触れさせん!お前達は俺に構わず逃げろ!」
「「親父!?」」
「あなた…わかったわ。生きて帰って来てね」
それを聞いた親父はふっと笑って右手の中指に指輪をはめ、ベルトにかざした。
《ドライバーオン、ナウ》
《シャバドゥビタッチヘンシーン!シャバドゥビタッチヘンシーン!》
「久しいな…俺もだいぶ歳をとったが…家族のためなら!!」
親父は左手の中指にも指輪をはめ、ベルトにかざした。
《チェンジ、ナウ》
親父に魔法陣が通過すると白いフードを被った魔法使いがいた。今だからわかることだが、親父は白い魔法使いだったんだ。
「お前達は早く逃げろ!深海棲艦!さぁ、ショータイムだ!」
「魔法使イカ、イイダロウ!相手ニナッテヤル‼︎」
親父と深海棲艦がぶつかり合っている間に俺達は逃げ出した。だが、深海棲艦は一体だけではなかった。
「逃ゲラレルトデモ?」
逃げた先に別のファントム級の深海棲艦がいた。
「運が悪いわね…あなた達は逃げなさい」
「母さん!?無理だよ!!」
「自分の命か息子達の命か…そんなの、親なら自分の命を捨てるに決まってるじゃない」
「母さん…」
俺達は母さんの覚悟を決めた顔にもうなにを言っても無駄だと悟った。母さんはその辺に落ちていた鉄パイプを拾って構えた。
「早く逃げなさい!私の犠牲を無駄にしないで!」
「…行くぞ魁」
「…ああ。母さん…あまり親孝行出来なくてごめん。でも、今まで楽しかった。俺を…俺達を…産んでくれて…ありがとう」
俺達は泣きながら母さんの背中に頭を下げた。
「ふふ…その言葉が聞けただけで母さんは満足よ。もう悔いはないわ。さぁ、逃げなさい。子ども達に手出しはさせない!」
俺達は母さんに背を向けて逃げ出した。
「バカネ」
ザシュッ!!
後ろで嫌な音がした。もう母さんは…涙を拭いながら俺達は走って逃げようとした。だがどうやら運命は優しくないらしい。
「人間ノゲートヲ易々ト逃ス訳無イジャナイ」
俺達が逃げようとした先に親父が足止めしてるはずの深海棲艦がいた。そして親父は変身が解け、首を掴まれていた。
「親父!」
「嘘…だろ…」
「…うう…すまん…許s」
「ウルサイ」
ボキッ!
その瞬間、親父は首の骨を折られた。俺達の目の前で
「邪魔者ハイナクナッタワネ。デモ、絶望サセルニハマダ生贄ガ必要ナヨウネ」
生贄…つまり俺達のどちらかが殺される。逃げるにしても相手は深海棲艦…生身の人間じゃ逃げられない。万事休すだ。
「…狙いは俺か」
「アラ、分カッテルジャナイ」
それは兄貴だった。多分兄貴は深海棲艦の視線でゲートは俺だと判断したんだろう。
「魁…お前とは喧嘩ばっかで兄貴らしいことなんて全くしてやれなかった…だから最後ぐらいは兄貴らしく…お前を守る」
兄貴は深海棲艦に向かって拳を構える。親父と母さんを失って心が折れかけてる俺は首を振る。
「ダメだ兄貴…艦娘が来るまで逃げよう。兄貴まで失うなんて…俺…」
「どの道来るまでに死んじまうよ。ならせめて、時間稼ぎぐらいしないとな。なぁ魁、寿命以外で死ぬんじゃねぇぞ。じゃあな。お前の兄貴で…良かったよ。先にあの世で待ってるぜ!!」
「兄貴‼︎」
兄貴はそう言うと深海棲艦に向かって走り出した。
「弟には…手出しさせねぇ!!」
「家族揃ッテバカバッカリネ」
深海棲艦は手に持った刀を心臓目掛けて突き刺すが兄貴は紙一重で躱す。
「オラッ!!」
兄貴の渾身のストレートが深海棲艦の腹に命中するがもちろん効いていない。
「ま、だよな…へっ…まぁ、魁が無事なら…いっか…」
「フフッ、ジャアネ」
深海棲艦は刀を兄貴の心臓に突き刺した。俺はその瞬間をハッキリと見ていた。その時俺の頭の中には逃げることよりも家族との思い出が走馬灯のように駆け巡っていた。
親父と兄貴と俺でバカやって母さんに怒られたり、母さんに料理を教えてもらったり…もう…会えない…俺は昔から人付き合いが苦手で友達なんて数える程しかいなかった。そんな友達も今じゃ巧以外連絡すら取ってない。そんな俺をずっと支えてくれたのが家族だ。その家族ともう…一生会うことが出来ない…俺は泣き崩れ、
「イイゾ!モット絶望しろ!ソシテ新タナファントムを生ミ出セ!」
その時、聞こえたのは砲撃音とそれに紛れたかすかな機械音…だが俺は顔を上げることが出来なかった。上げたら家族の無残な遺体を見ることになってしまうから….
「…い…てる…あげ…魁!」
しばらくして、その声にハッとして顔を上げると巧と山城が必死の表情で俺の顔を見ていた。
「なに絶望してやがる!!家族の死を無駄にしたいのか!」
「俺…は」
「自分の手を見ればわかるわ」
山城の言うとおり自分の手を見るとかなりヒビ割れていて、割れ落ちたところは紫色に輝いていた。
「これ…は…」
「絶望するな!希望を持て!じゃないとアイツらのお仲間入りだ!」
「あなたの家族はあなたにファントムになって欲しいなんて思ってない。だから希望を持って…生きて」
俺はその言葉をただ聞いていた。その時、なにかが背中に生えたような感覚があった。
「ッ!?もし魁がファントムになれば、魁の家族は無駄死したってことになる!それでいいのか!嫌なら生きろ!希望を持って家族の分まで生きろ!」
「希望…」
俺は兄貴の言葉を思い出した。寿命と以外で死ぬんじゃねぇぞ…母さんも俺達を助けるために自分を犠牲にした…親父もきっと俺がゲートってわかってたから…俺だって家族の死を無駄にしたくない。なら俺は…俺みたいな境遇の人を減らす為に絶望した人々に希望を与えてやる!!
その時、紫色が金色に輝き、俺を包み込んだ。
その後俺は横須賀鎮守府の医務室に運ばれた。怪我は軽傷でもちろん命に別条はない…見慣れないベルトが腰に巻かれていて、これまたよくわからない指輪があったこと以外は何の問題もなかった。
それから巧にファントム級深海棲艦のことを聞き、俺が魔法使いになったと言われ、もう二度とあんなことは起こらせないと誓った俺はこの力でファントム級深海棲艦と戦ってきた。
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「…これが俺の過去。この力を手に入れた理由だ」
艦娘達は静まり返っている…無理もないか。いきなりこんな話聞かされたんじゃ…
「だから明石を見つけたあの時、あんなに必死じゃったのか」
「じゃあ、うちらの提督になった理由って…」
「私達を絶望から救うため…」
「…横須賀の提督は知ってたのね。初めから」
「そうだな。俺は魁の「命の恩人ってことになるな。もし巧がいなかったら俺はファントムになっていた。こうして会うことも出来なかっただろうな」…割り込むなよ」
「その…提督!」
「ん?なんだ天龍」
すると天龍はいきなり頭を下げた。
「すまねぇ!!そんな事があったなんて知ってりゃ俺は!」
「最初の砲撃のことだろ?気にしてねぇよ。とりあえず、暗い話はこれで終わりだ。まだ聞きたいことがあんなら個別に来い…で、巧。お前がここに来たのは改修工事だけじゃないだろ?」
「あぁ、食料や物資、新しい家具、そして魁の提督服を持ってきた」
「わかった。艦娘達には急で悪いが、演習をやる。その間に巧は食料や物資を詰め込んで、服は執務室に置いといてくれ」
「あいよ。山城はどうする?」
「私は魁の演習を見学するわ」
「わかった。迷惑かけんなよ」
巧は早速、詰め込む準備をしに行ったが艦娘達は驚きの顔に変わる。
「電を旗艦に川内、霧島、龍驤、利根、天龍の編成で頼む。響と木曽は見学だ。まずは見て学べ。演習相手は…俺だ」
「し、司令官さんと!?」
「無理にとは言わない。だが俺はお前達の全力が知りたい。俺の力をどこまで引き出せるか…試してみたくないか?」
天龍は乗るだろうが…他はどうだ…
「もちろんやるぜ!」
「や、やるのです!」
「さっきの話を聞いた後だと抵抗あるけど、提督の指示じゃ仕方ないね!」
「ふふ…負けても文句なしですよ?」
「提督の力…見せてもらうで!」
「うむ!提督の力を最大限まで引き出してみせようではないか!」
あら?案外みんな乗り気…ま、その方が俺としても助かる。
「なら電、演習場への案内を頼む。演習は…」
えっと今何時だ…げっ!?もう12時過ぎてんじゃん!?こりゃ演習終わり次第飯だな。
「一三〇〇に行う!そんじゃ解散!」
そう言って俺は電について行く。
艦娘の本気…見せてもらうぜ。
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とある場所
「チッ…加賀もダメだったか…ファントムになったうえに敗れるとは…」
「次はどうしましょう?良ければ私が」
「いや、しばらく泳がしておけ。そして私直々に潰す」
「…わかりました」
「ククク…会うのが楽しみだなぁ~正義の魔法使い」
2人の男はその部屋を後にした。
次回『艦娘VS魔法使い』
ちょっと展開おかしいかな?でもようやく艦これらしいことが出来る!
ちなみに魁はドラゴン系(フレイムドラゴン、ウォータードラゴン、ハリケーンドラゴン、ランドドラゴン)は使えますがインフィニティはまだありません