俺がこの世界に来てから三日が立った。今のところ俺は傷を治すため病院で入院生活を送っている。まあ、先生の話では退院も近いとのことだ。俺の見立てではせいぜい一週間ちょいくらいかな?
俺は今、この世界の歴史について書かれた本や雑誌なんかを読み漁っていた。この世界がどういう世界なのかは9年前に知ってるが、その時はまだ子供で詳しくは知らず改めてみるとこの世界は世界大戦はおろか、朝鮮戦争やベトナム、中東、湾岸やイラク戦争なんかは勃発しておらず。代わりに海賊らのテロ行為が起きているぐらいで、正直言って平和そのものだった。
「うむ・・・・ここまでとは予想外だったな……杉さんが訊いたらきっと驚くだろうな」
俺は本を読みながらポツリと呟く。因みに杉さんとは俺のかつての上司で空戦を教えてくれた杉田清美曹長のことだ。階級的には俺が上だったが、杉さんのほうが俺よりも一年以上の戦っっているので俺にとっては大先輩だ。俺が今あるのも杉さんのおかげだな。あの人、欧州でどうしているのだろうな・・・・・
そんな昔のことを思い出していると、ノックの音がした
「開いてますよ?」
俺がそう言うとドアが開き
「こんにちわ森君」
「こんにちわ」
そこへ福内さんと平賀さんが入ってきた。彼女たちはあれからちょくちょく時間を見つけては俺の見舞いに来てくれた。
「はい。これ差し入れ」
「いつもありがとうございます」
福内さんはフルーツの入ったかごをそばにある机に置く
「それで、どう?ケガの様子は?痛いところない?」
平賀さんが心配そうに聞く
「大丈夫ですよ。杖を使ってはいますが、普通に歩けますよ」
「そう良かった」
平賀さんは安心してそう言う。そして福内さんは俺のそばで積んである本を見て
「森君。歴史の勉強をしていたの?」
「はい。それと海の治安を守るブルーマーメイドやホワイトドルフィンがどんな活動をし、そして航海に関する法律や現在使われている信号等の通信関連なんかの参考書も見てました」
「勉強熱心ですね?」
「勉強は好きな方でしたから。特に読書も好きでしたし」
「そうなの。なら航海に関する事教えてあげましょうか?」
「え?いいんですか?」
「もちろんよ」
と、そう言い福内さんたちは参考書に書かれている海上での法律や旗信号などの専門用語を教えてくれた。そしてしばらくすると
「ちょっと休憩しましょうか」
「は。はい」
福内さんの言葉に俺は頷くと平賀さんが
「それにしてもすごいですね森君は。あれだけの資料をここまで理解し覚えるなんて」
「別に大したことはありませんよ。自然に頭に入っただけですから。それに・・・・」
「「それに?」」
俺の言葉に首をかしげる二人。そして俺は
「覚えなければ、死ぬような世界で生きてきましたので……」
「「あ……」」
そう、俺のいた世界では戦争があり、そして俺は戦闘機乗りのパイロットだった。空戦こそ最大の勉強ッと、誰かが言っていたのを覚えているただ、学校での普通の雑学とは違い学びそこなえば待つのは死のみ。わかりませんじゃ生き残れない。できませんじゃ死ぬ。そう言う世界で俺は必死に空戦技術を覚え生き残ろうとした
俺の言葉を察したのか二人は少し悲しい顔をしていた
「(覚えなければ死……そう言えば森君は戦争で兵隊として戦っていたって言っていたわね……でも)」
「(まだ中学生ぐらいな子が武器を持って戦場に出るなんて……いくら何でも悲しすぎます)」
二人は守が戦争で戦っていたというのを本人から聞いていたため。守の表情を見て少し悲しく思ったのだ。それに気づいた守は何かすぐに話題を変えないとと思ったとき
「はぁ~い、マーちゃん、元気?」
「真霜姉さん?」
そこへ真霜が見舞いに訪れた。その明るい雰囲気に先ほどまで暗かったのが消えた。そのことに三人はほっとすると守は苦笑いして
「姉さん。そのマーちゃんていうのもう決定なんだね?」
「いいじゃないこの呼び名好きなんだから。ん?あら?これって参考書?勉強していたんだ。えらいわね~マーちゃん」
真霜は守のベットの上に置いてある参考書や本を見てこの世界について勉強をしていることに感心し、真霜は守の頭をなでると守は顔を赤くし
「ちょっ!?よしてくれ真霜姉さん。子供扱いしないでくれ!!」
「えぇ~私より年下なんだし、それに弟なんだから、素直にお姉ちゃんに甘えて良いんだよ?あっ!何なら今夜一緒に寝る?」
「いや、病院じゃできないだろ!?て、そうじゃなくて人目もあるんだからさ。恥ずかしいって!」
「も~この子はいつの間にそんな口を利く子になって生意気な~」
「だから、撫でないでってば///!!」
そう言い真霜は再び、守の頭を撫でまわす。守も否定の声を出すがまんざら嫌でもなく抵抗しないで真霜に頭をなでられていた。それを見た福内と平賀は微笑ましく見ていた。
「そ、それで姉さん。何しに来たの?」
「あら?要件なしに来ちゃいけないの?ちょっと寂しいわね~」
「いや、別にそう言う意味じゃ。ちょっと気になってさ」
「わかっているわ。実わねマーちゃん。実はマーちゃんに会ってもらいたい人がいるのよ」
「俺に?……まさか」
「大丈夫よ。ましろたちじゃないわ。まだ会う心の準備できていないんでしょ?」
「ああ…‥姉さんには悪いけどまだ会えないよ。でも姉さんたちじゃないって言うことは誰なの?」
「それはねマーちゃんがよく知る人よ」
「え?」
守は首をかしげると、病室の扉が開くと、そこから一人の女性が守の病室に入って来た。福内と平賀は反射的にその女性に対して敬礼する。女性も二人に返礼し、福内と平賀は手を下ろし、女性を見た守も驚いて目を見開きベッドから起き上がろうとすると、
「あっ、そのままでいいわよ」
「いえ、自分は大丈夫です」
そう言いベッドに正座をする。そして守はその女性に頭を下げ
「……お久しぶりです。真雪さん」
「本当に……本当に守君なのね?真霜から聞いてびっくりしたけど。面影があるわね」
女性はにっこりと笑ってそう言う。そうその女性は真霜たちの母で9年前、守を保護し家族同然に接してくれた宗谷真雪であった
「話は真霜から聞いたわ。守君。まさかと思っていたけど本当に違った世界から来た子だったのね」
「え?お母さん。マーちゃんが異世界人だってこと知っていたの!?」
「っ!?」
「ええ。初めて守君と会ったとき彼の話を聞いてこっちの常識を知らないことを言っていた。それに守君が家で生活をしているとき、守君のことを調べたんだけど戸籍上に守君の存在は日本に存在していなかったわ。その時悟ったの守君は文字通り別世界から来た子だって」
その言葉に守は驚いた。既に彼女が自分の正体が異世界の住人だということを知っていたのだ。だが今にして思えば守は9年前に真雪に『もし帰る所がなかったら家の子になる?』と訊かれたことがあった。もしかしたらその時に自分が異世界人だということを知っていたのかもしれない
「そうだったの・・・でもなんで、あの時……マーちゃんがいきなり消えた時に言ってくれなかったの母さん?」
「いえなかったのよ。『異世界に帰った』って言ってもきっと信じなかったと思ったから」
「それはそうだけど・・・・・・・・・・」
まあ真雪さんの言うことももっともだろうと守は納得していた。そして真雪は
「守君。あなたのいない9年間。あなたに何があったのかは真霜から聞いたわ。いろいろ辛かったでしょうね?でも安心して頂戴。全部忘れろとは言わないわ。この世界にいる間、ゆっくり心の傷を癒してちょうだい」
「ありがとうございます。真雪さん」
守は真雪に深々と頭を下げて彼女に礼を言うと、真雪は
「それで守君。話は聞いているけど、本当に真冬やましろ……そして家に来る気はないの?」
「はい。心遣いとても嬉しいんですが。やはりまだ姉に会う心の準備ができていないのと家にお世話になれば自然とましろ姉さんたちに会っちゃうから……」
「あ~、それもそうね」
「でもそれだけじゃないでしょ守君?」
「はい。今の月を見れば受験シーズン。ましろ姉さんは受験勉強の真っ最中だ。その時に行方不明になった俺に会えば勉強どころじゃなくなる。姉さんの邪魔をしたくはない」
守は今が受験シーズンで姉と慕うましろが今、受験勉強をしていると聞き、今会えば勉強の邪魔になると思い合うことを断ったのだ。それを聞いた真雪は
「あなたは昔から姉想いな子なのね。わかったわ。でもたった一か月とはいえあなたは宗谷家の家族であり身内よ退院後、何もないところに放り出すわけにはいかないわ」
「じゃあどうするの母さん?」
「私の学校の寮の近くに使われていない部屋があるのよ。そこに一時的に住んでもらうわ」
「一時的?」
「ええ。守君がいつか家に帰ってきてもいいようによ。いつか……いつかは真冬やましろに会いに家に帰ってくれるわよね?」
「はい。もちろんです。あの家は俺にとってもう一つの故郷で、姉さんたちは大切な家族なんですから」
「そう。じゃあその時を楽しみしているわ守君」
と、微笑んでそう言う真雪。その後、面会終了時間となり、各自はそれぞれ帰路についた。帰りのタクシーの中で、真霜は
「どうだった母さん。久しぶりにマーちゃんに会えて」
「ええ。昔と変わらず元気そうで安心したわ……でも」
「でも?」
「昔と違って少し悲しそうな眼をしていたわ。きっと元の世界で起きた戦争が関係しているわね。たった15歳で戦場に出てあの子は何を思ったのだろう……今となってはわからないわ。なにせ異世界の出来事だから。願わくばあの子がこの世界で安らかに過ごしてくれることを願うしかないわね」
「母さん……」
「湿っぽい話をしちゃったわね。忘れて頂戴。真霜。早くあの子が
「ええ。そうね」
と、二人はいつか必ず守るが帰ってくることを願いそしてその日が来るのを楽しみにしながら家へと帰るのだった。