退院が近くなったとき、俺のところに真霜姉さんがやって来た。やって来た目的はというと・・・・・・
「え?私服?」
「そうよ。マーちゃん」
姉さんがやって来た理由は。退院後、住む寮に行く前に私服を買いに行くということであった
「マーちゃん。突然この世界に来て服持っていないでしょ?着ていた服も穴が開いて血がついているしボロボロになっているし。直すのに時間がかかるし、それにそれ一着だけだといろいろと不便でしょ?」
「それもそうだな……」
確かに姉さんの言う通り、俺の飛行服はメッサーシュミットの銃撃で穴だらけになっていると思うし、もともと持っていた予備の服は元の世界の兵舎に置いてあるし、ここにいる今俺には替えの服がない
「でも、姉さん。俺、金あまり持っていないよ?」
一応、この世界の通貨は俺のいた世界のと同じで使用できるのは幸いだ。しかし。今俺の財布にあるのはほんの僅かだ。カードも持っていたが異世界であるこの世界では使えないし、銀行に預けた給金を下すこともできない。俺が困っていると
「大丈夫よマーちゃん。私が買ってあげるから」
「でもな。姉さんにこれ以上世話かけるのも……」
「も~そんな遠慮しない!姉弟なんだから助け合わないと!」
「で、でも・・・・・・」
「つべこべ言わない!返事は、はいっよ!!」
「は、はい!!?」
真霜姉さんの威圧で俺は不動の姿勢になり、そう答える。真霜姉さんのこういう姿を見ると杉さんや源田中佐を思い出してしまう。ああ、これはあれだ言い出したら絶対に聞かないな。まあ知っていたけど
「とにかく。マーちゃんは退院後、もう軍人じゃなくて普通の男の娘として生活するんだから。服もちゃんとしないと」
「姉さん。今、男の子の字を間違っていなかった?」
「気のせいよ。気のせい!男ならそんなこと気にしないの」
真霜姉さんがにっこりと笑うと俺は軽くため息をつきロフストランドクラッチ杖を取る
「あら?マーちゃん。歩くの?」
「ああ、リハビリだよ。たまには歩いて海を見たいからね」
「そう、なら手伝うわ」
「大丈夫だよ姉さん。前に比べて回復しているしね。一人で大丈夫だよ。ただ、この病院から海がよく見える場所がどこにあるか知らなくてね。案内してくれる?」
「ええ。それならお安い御用よ」
そう言い俺は杖を突き、姉さんとともに海の良く見える場所へと歩くのであった。
そしてしばらく歩き海がよく見える屋上へと着く。俺は海が大好きだ。特に高いところから見る海原は最高にいい。俺が飛行乗りになったのも、ただ単に鳥のように自由に空を飛びたかっただけ。俺は早く空を飛びたかった。その時に目に入ったのが航空兵募集のポスターだ。それで俺は親の反対を押し切って海軍航空隊に志願した。普通の航空会社に入る道だってあったがそれだと高校卒業まで待たなければいけない。俺はそこまで待てられずに軍に志願した。空を飛びたいというその願いは叶った。しかしそれと代償に多くの仲間を失った。そして俺自身が奪ってきた命も・・・・・
「マーちゃん。どうしたの?また悲しい顔をして?」
すると真霜姉さんが心配そうに顔をのぞかせる
「え?ああ。大丈夫だよ姉さん。ところで姉さん。俺の処遇と俺の愛機はどうなるんだ?」
「マーちゃんは海上安全整備局と日本政府の指揮のもと私たちブルーマーメイドが保護することになったわ。マーちゃんの乗っていた飛行機も私たちブルーマーメイドの管轄下に置かれるわ。でも管理下に置くだけで使う事は無い筈よ。私たち飛行機について何も知らないから」
「でしょうね。それで姉さん。俺の持ち物は?」
「ちゃんと大事に預かっているわ」
「そうか。よかった」
「何か大切なものでもあるの?」
「ああ、俺の上司から餞別としてもらった刀があるんだよ。俺にとって大切なものだよ」
「そうなの……」
そう言い、俺と真霜姉さんはしばらく海を眺めている。すると真霜が少し笑う
「どうしたの姉さん?」
「いえ、なんか。昔のことを思い出しちゃったわ。覚えている?諏訪神社で母さんやましろたちと一緒にこうしてよく海を眺めたこと」
「うん。よく覚えているよ」
「その時ましろが被っていた帽子が風で飛ばされたときマーちゃんジャンプしてその帽子を取って危うく崖から落ちそうになったのよ?」
「あはは……あの時はましろ姉ちゃんに怒られたっけな」
真霜姉さんの言葉に俺は笑ってそう言う。確かあれは桜が咲いていたころのことだったけ、宗谷家と俺で諏訪神社のほうへ行った時のことだ。真雪さんがましろ姉さんにブルーマーメイドの帽子をかぶせ、ましろ姉さんが嬉しそうにしていた時、突如、突風が吹きましろ姉さんの被っていた帽子が吹き飛ばされ、俺がそれをジャンプしてキャッチしたのだがその先は崖で危うく真っ逆さまに落ちるところだったが間一髪、真冬姉さんたちが俺の足を掴み、助かった。その後ましろ姉さんに
『帽子が飛ばされるより、マー君が怪我した方が一番いやだ!』
と、めちゃくちゃ怒られたのを覚えている。あの時はましろ姉さんに悪いことをしたって今でも思っている。そんな思い出話をした後、俺と真霜姉さんは病室に戻ったのだが……
「……姉さん。その手に持っているメジャーは何なの?それになんで部屋に鍵を?」
部屋に戻るや否や真霜姉さんは病室に鍵をかけ、なぜかメジャーを持ち怖いくらいの笑みをしていた
「何って、決まっているじゃないの。服を買う前にマーちゃんのサイズ測らないとマーちゃんに会う服のサイズわからないでしょ?」
「ふ、服のサイズなら俺が知っているから、あとで紙に書いて……」
「だ~め。私は自分の目でマーちゃんの体をしば・・・・いいえ測りたいのよ。それにマーちゃんがどのくらい成長したか見たいしね?」
「今、縛るって言いかけなかった姉さん!?」
「気のせいよ。あなたの気のせい。さぁ!覚悟なさい!お姉ちゃんが隅の隅までマーちゃんの体を測ってあげるから!!」
「ギ、ギヤアァァーーーーーーーーーー!!!!」
その後、俺は真霜姉さんにセクハラまがいに体中をあっちこっちを触られた。まあ貞操だけは守ることだけはできたが、なんか俺が所属していた452航空隊でかわいい子を見たら女装させないと気が済まない、山中さわ子中佐に自作のコスプレを着せられて以来の辱めを受けた気分だ。今思えば真霜姉さんと山中中佐って似た者同士だと思う。そう言えば、俺と同い年であり杉さんの上司でもある疾風中尉も同じ悩みを持っていたな。たまに会ってそのことについてお互いに相談したっけ……
「終わったわよ。マーちゃん」
「はあぁ~……」
姉さんの言葉に俺は魂の抜けたような表情をする。
「(それにしてもマーちゃんって見た目は女の子だけど、やっぱり男の子ね~。顔を赤くしちゃって可愛いわ~」
少し涙目で顔を赤くする俺を見て姉さんは何を思っているのか笑っていた。正直言って怖い。その後、姉さんは
「じゃあ、マーちゃん。また来るからね。服の件、楽しみにしてね」
「言っておくけど、女物の服はダメだからね」
「……チッ」
「なぜ舌打ち!?」
舌打ちをする姉さんに俺は突っ込む。もしかしてほんとに女性ものの服を買うつもりだったのか?そんなことを不安に思いながら姉さんは帰っていった
そして数日後、退院の日。姉さんがやってきて俺に着替えの服を渡す
「……」
俺は紙袋に入れられた服を見る。大丈夫だろうか?女の子の服じゃないよな?俺が不安に思うと真霜姉さんが
「どうしたのマーちゃん?」
「え?いいや。何でもないよ」
ここは姉さんを信じよう。そう思い俺は紙袋を開けると中に入っていた服は国防色の長ズボンに白いYシャツだった。
「(よかった。女物じゃなかった)」
それを見た俺はほっと安心するように息をつくと、真霜姉さんは俺の思考を呼んだのか
「大丈夫よ。弟の嫌がることはしないわ。ちょっと惜しいと思ったけど」
と、にっこりと笑ってそう言う。惜しいってなんだよ……それはともかく俺は姉さんの買ってくれた服を着た。そして病院の人たちにお礼を言うと俺と姉さんはタクシーに乗って、俺が住む寮へと向かうはずだったのだが、ついた場所はなぜか大きな屋敷……そう、かつて俺が世話になった宗谷家の屋敷であった。そしてタクシーは建物の陰になる場所へ止まる
「姉さん……これは」
「ちょっと寄り道よ。寮に行く前にあなたに見せたい者があったから」
「見せたい者?」
「ええ。そろそろよ」
と、真霜姉さんがそう言うと家の門の前からセーラー服を着た少女がやってくる。その少女はポニーテイルの少女で俺はその少女に見覚えがあった
「(ましろ姉さん……)」
そう、間違いない。大きくなっているがましろ姉さんだ。
「寮に行く前にあなたにどうしても見せたかったのよ。ましろが元気にしているって、でもましろはいまだにマーちゃんのことを心配しているわ」
「……」
「マーちゃん。今すぐとは言わないわ。でもできるだけ早くあの子たちに会いに来てね」
真霜姉さんの言葉に俺は頷く。そしてタクシーはそのまま走り出し、再びついた場所は海がよく見える学校と思をしき場所の隣にあるアパートであった。タクシーを降り寮の中に入り二階へ上がりとある部屋に入った。その部屋は6畳間でガス代や洗面台のある部屋だった
「ここはあまり使われなくなった横須賀女子海洋学校の寮のそばにある職員や警備員の宿泊寮よ。職員や警備員については母さんがすでに話をつけているわ。食事は一階にある食堂に行けば大丈夫よ。それ以外で何か困ったことがあったら連絡して」
「ありがとう姉さん」
俺は姉さんに礼を言うと姉さんは去っていった。そして残された俺は
「さて……新たな生活の始まりだな。まずは掃除に荷物の整理かな?」
そう言い俺は新しく住む部屋の掃除や荷物の整理をし始めるのだった。再び異世界に来た俺、果たしてこの先どういう人生を歩むのかはわからない。だが、この時の俺も、そしてこの世界に住む人たちもその後、とんでもない出来事が起きるなんてことはまだ知らなかった……