数分前
「(う~ん……釣れないな……)」
俺は釣り糸を垂らし鼻歌でラバウル小唄を歌いながら魚が掛かるのを待っていた。だが、一向に釣れる気配がない。餌が気に入らないのだろうか?そう思いながら、釣りをしていると
「宗谷っていう子に憧れて行くクロちゃんに言われたくないやい!!」
「ん?」
急に後ろから声が聞こえ少し振り向くと、50メートルくらい先の方だろうか?二人組の女の子たちが釣りをしていた。どうやら俺と同じ釣りに来たらしい。俺は気にせず釣りをし始めた
「(そう言えばさっき宗谷って言っていたけど……まあ、宗谷ていう名前結構あるし、真霜姉さんたちのことじゃないな。下手に首を突っ込むのやめよう)」
内心そう思いながら波の音と先ほどの二人組の女の子たちの会話を聞きながら、俺は魚が掛からないかジーと待つ。だが、一向に魚は釣れない
「(釣れないな……ポイントが悪いのかな?それとも……)」
俺は竿を上げて針を見るとそこにはオキアミがなく針だけとなっていた
「はぁ~……通りで釣れないわけだな。餌付け直すか」
そう呟き俺は餌をつけ直してまた海面へと糸を垂らす。すると一隻の小舟がこちらの方へとやって来た。船には暖簾がつけてあり名前は『和菓子杵崎』と書かれていた。どうやら和菓子屋さんのようだ。そしてよく見ると先ほどの二人組の一人、背の小さい子が両手を振って大声で呼んでいるのが見えた。たぶんあの船はあの子の声で来たのだろう
「(へ~車で移動営業する食べ物屋は知っているけど船の移動営業なんて初めて見るな。これも海洋国家ならではかな?)」
そう思っていると、急に腹が鳴る。そう言えば朝からここでずっと釣りをしてたから何も食べていないな。そう思い俺はポケットから財布を取り出し中身を見る。中には千円札と500円玉が入っていた
「うん。ちょうどいい時間だし、少し休憩でもしようかな?……ん?」
俺はその船店へ行こうとしたが、なんかガラの悪い二人組がやってきて何やら店の人に怒鳴っているのが見えた
「(恰好からして、どこかのヤクザ気取りの三下のチンピラか……)」
ものほんのヤクザを見たことのある俺はすぐに相手が三下だと気づく。なぜやくざを見たことがあるのかというと、ラバウル時代の上官、杉田曹長こと杉さんの実家はやくざであり、杉さん自身もやくざであるからだ。なによりその杉さんが率いる301部隊はほとんどがヤンキーやらやくざ者なんかの連中でほかの隊からは『空の暴走族』とか『狂犬組』なんて呼ばれていたからな……まあ、確かに強面というか不良集団的な感じだったがみんないい奴だったんだけどな
まあ、その話は置いといて、何やらチンピラたちは屋台船に乗り込んだかと思うと席を蹴り飛ばし無茶苦茶なことをやっていた。これ以上は彼女たちの身が危ないな
「(これは見て見ぬふりはできないな。仕方ない。少しやるか)」
俺は釣竿を置いて、屋台船の方へ向かい
「おい……そこで何やってんだよコラァ?」
威嚇を含めた声でそう言うとチンピラ二人は俺の方へと振り向き、何やらお決まりのセリフを言うが俺はそれを無視して腕を組み、威圧を含めた言葉で言うが、チンピラどもは屋台船から降りて俺に向かって殴りかかってきた。
しかし、敵戦闘機の銃弾を命がけで回避し続けてきた俺にとってはまるで止まって見えたしレンジャー持ちである俺にはこの程度の攻撃は大したことがなかった。俺はチンピラのパンチをよけて懐に忍び込み、膝蹴りを食らわす。そしてもう一人が殴り掛かってくる
「(これじゃあ、キリがないな。さっさと終わらせるか)」
俺はそう思い、チンピラ二人組に鼻フックを決め海へと放り投げた。そして俺は海面から顔を出したチンピラ二人の頭を鷲掴みにし持ち上げる。予科練やラバウル時代から操縦桿が空中戦の際のGで重くなった時、動かせるように筋トレしていたためこいつらの体重などあの時の重りに比べれば軽い方だった。そして俺はそのチンピラどもに杉さん直伝のやくざ風の脅し文句を言い手を離すとチンピラどもは逃げて行った。そして俺はちらッと屋台船を見ると絡まれてた子たちが唖然とした表情をしていた。
「(さて・・・・・この状態じゃ釣りも無理だし、それに後から警察とか来て事情徴収とか受けるのめんどくさいし、ここらで引き揚げようかな)」
軽くため息をつき、立ち去ろうとすると
「あ、あの!!」
「ん?なに?」
急に呼び止められて振り返ると黒髪で星の髪飾りをした子が
「あ、あの。助けてくれたお礼にお団子食べていきませんか?」
「……え?」
で、現在
「すみませんお団子ごちそうになって」
「いいんですよ助けてくれたお礼ですから。あ、お茶もどうぞ」
「ああ。ありがとう」
チンピラを追い払った後、助けてくれた礼にお団子をごちそうになっていた
「いやーやっぱ海で食べる団子はうまいね~!」
「人のお金だからなおさらね~」
「人聞きの悪いこと言うねぇ!」
「すみません。私たちまで団子を奢ってもらって」
黒木が守に申し訳なさそうに言う。二人は今、守のおごりで団子を食べているのだ
「別にいいよ。みんなで団子を食べた方が美味いしね」
と、屋台船で守とマロンたちは団子を食べていた
「それにしてもあんた強いね。あんな怖そうなやつを倒しちゃうなんてさ!」
「本当にそうですね。私びっくりしちゃいました」
「私もだわ。どこからあんな力が出るのかしら?」
「あはは……」
と、マロンと美と洋美がそう言うと守は苦笑する。すると美甘が
「あ、すみません。自己紹介がまだでしたね。私は伊予子美甘って言います。それでこっちが友達の」
「杵崎あかねです」
「同じくほまれです」
「私は柳原麻侖ていうんでぃ!で、こっちが……」」
「黒木洋美よ」
と、自己紹介をし守も
「俺は森守。よろしく伊予子さん。杵崎さん。柳原さん。黒木さん」
と、互いに名乗った後、5人は交流を持つこととなった
「へ~皆さんは横須賀海洋女子を受験するのか」
「ええ。でも行けるかまだ分からないけどね」
「クロちゃん!水を差すようなことは言いっこなしでぃ!」
「まあ、確かにあそこは名門だし、倍率は高いからな~」
「守までそんな無粋なこと言うねぇ!!」
洋美と守の言葉にマロンは突っ込む。
「アハハ、悪い悪い。で、そちらの三人も?もしかして炊事の家政科志望?」
「うん。料理ならちょっと自信があるし、私にも役に立てることあるかなって」
「私たちもどうせなら、自分の作ったものは大勢の人に食べてもらいたいし」
「カレーとかも一気にたくさん作ると美味しくなるっていうしね!」
「ああ、確かに一人で食べるカレーよりみんなで食べたほうが美味いからな」
杵崎姉妹と美甘の言葉に守はうんうんと頷く。守は軍人時代ではよく戦闘機隊の仲間と一緒にご飯を食べるときが一番好きだったため、その気持ちはよくわかった。
「よぉーし!そんなら皆で海洋合格するぞー!!目指せブルーマーメイド!!」
「「「おーーーーーー!!!」」」
マロンの言葉に杵崎姉妹と美甘がこえをあげる。すると美甘が
「あ、そう言えば守ちゃんは何処に受験するの?やっぱり私たちと同じ海洋?」
「え?俺?俺はどこも受験しないよ。働いているし」
「え!?そうなの!どんな仕事をしているの?」
ほまれの問いに皆も守の仕事がどんな職なのか興味があるのかまじまじと見ていた
「う~ん。警備員かな?」
「自宅の?」
「違うよ。学校の警備員。今日は休暇で釣りをしに来たんだよ」
「へ~学校の警備員なんだ。私たちと歳が変わらないのにすごいね」
「でも、なんで学校行かないで働いているんでい?」
「まあ、家の都合というかまあ、いろいろだよ。あまり詳しくは訊かないでくれ」
「ふ~ん。そうか。家の事情なら仕方ないね」
と5人は守の言葉に納得する。すると洋美が
「ねえ、森君。あれ、あんたの竿だよね?なんか掛かっているわよ?」
「え?」
洋美の言葉に守は竿を置いてある方向を見ると竿につけられた糸がぴくぴくっと動いているのが見えた
「おおっ!もしかしてかかったか!!」
それを見た守は急いで船から降りて、竿を持とうと瞬間、竿が急に引っ張られ海へ落ちそうになる
「食い逃げはさせないぞ!!」
そう言い守は間一髪、竿をキャッチして引っ張る。するとかかった魚は釣られまいと抵抗する
「うおっ!?この引き、でかいぞ!!」
そう言い引っ張り上げようとするが魚の抵抗が強く、持ち上がらない。逆にその強い引きに守は海へ落ちそうななったが
「守。手伝うぜ!」
「網のほうは任せて!」
「柳原さん、黒木さん!?すまない!!」
そこへマロンと黒木がやってきてマロンは守の持つ竿を一緒に持ち、黒木は網を持ってスタンバっていた。そして
「「うりゃぁー!!」」
マロンと守はともに声を上げ竿を持ち上げると、その衝撃で魚が水面から飛び出し、地面へと落ちる
「やった!釣れた大物だ!!」
「すげぇー!しかもこれ鯛じゃないか!?」
「すごい。ここで鯛が釣れるなんて!!」
守が釣りあげたのは何と大きな鯛であった。その鯛に釣り上げた三人は驚いた
「すごいな~。守。餌は何を使ったんでぃ?」
「オキアミだよ。まさか鯛が釣れるなんて。これはちょっと縁起がいいね」
「まさに海老で鯛を釣る…って奴ね」
その後、守たちは釣りあげた鯛をどうするか考えているとそこへ杵崎姉妹と伊予子たちがやってきて、その鯛を調理してくれた。そして守たちは杵崎たちが作ってくれた鯛めしを食べた後、守たちはお互いに連絡先等を交換して別れるのであった
そして帰る中、マロンと洋美は
「変わった子だったなクロちゃん」
「ええ、そうね。もしかしたらまた会えるかもしれないわねマロン」
「だな。さっきあいつ警備員とか言っていたけどもしかしたら海洋の警備員だったりしてな」
「アハハ…まさかそんなわけないでしょ。きっと冗談で言ったんだと思うわよ」
「確かに、中学生くらいの
と、そう言い二人は家に帰るのであった。同じころ杵崎和菓子店でも
「森ちゃん。
「そうだね。まるで男の子みたいだったね~」
「また会えるかな?」
と、マロンたちも杵崎や伊予子たちも守のことを女の子だと勘違いしたまま家に帰り受験に備えて勉強をするのであった。だがこの時知らなかった、森とは意外な形で再会することに
一方、守はというと
「さて、明日も警備員の仕事だな。がんばらないと」
と、部屋で勉強をしながらそう呟いているのだった
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