あれから数日後、何事もなく横須賀女子海洋高校の合格発表が行われた。通常の高校と違い入学試験から僅かな期間で合格発表をするのは、この高校独自のシステム‥‥入学試験の成績によりクラスを決める為、早急に入学予定者を集める必要があったのだ。
更に合格には補欠合格もあり、横須賀女子に入学の意志がある者には直ぐに手続きを取ってもらう必要もあったのだ。そして合格発表を掲示する掲示板の前には受験生が合格か否かを見に来ていた。あるものは受かって喜んだり泣く子もいた。そして不合格だった子はまるでこの世の終わりみたいな表情をして家に帰っていった。
そして港では合格発表を見るため、マロンたちも来ていたのだが・・・・・
「(空気が重い)」
屋台船を操縦するあかねが苦笑いしていた。船内では麻侖と黒木、そしてほまれそして美甘が乗っていたが黒木は平然としているのだが、麻侖は少し落ちつきがないし、みかんはじっと黙って顔を俯かせている。まさに通夜みたいであった。すると黒木が
「杵崎さん、ありがとね。私達まで船に乗せてもらって」
「気にしないで、目的地は一緒だし」
「うぅぅ~‥‥き、緊張するよぉ~もし、落ちていたどうしよう~」
美甘が不安に言うと
「何言ってやがんでぃ、すっとこどっこい!!結果を見る前から落ちた事を考えてどうすんでぃ!!」
麻侖は、そんなみかんを勇気づける。
「マロンちゃん‥‥」
「ししししししし心配しなくても受か受か受か受か受か受か受か受かてやてやてやてやてやてでぃでぃでぃでぃでぃ」
「マロンちゃんが壊れた。って言うよりマロン。あなたが一番落ち着きなさいよ」
マロンとの付き合いの長い黒木がそう言うのであった。そして5人の乗る。屋台船は受験合格者の番号が掲示されている岸に着くのであった
一方、守は合格発表を見に来た受験生たちを見ていた
「カオスだな・・・・・飛行学校時代を思い出すな」
守自身も航空学生のころ、航空訓練性になれるかどうかではらはらしたのを覚えている。航空学生は合格率は非常に低い。たとえば2千人志願して合格でき訓練生になれるのはわずか100名、その中で無事に卒業できるのは半数の50名。そしてその中で戦闘機乗りになれるのは10名少々、そして花形である母艦乗りになれるのは一人か二人の割合だ。守自身も無事に合格し卒業できたことは今でも奇跡だと思っていた。
しばらく見ていると見慣れた顔がいた
「あれは・・・・マロンさんか?」
そこにはマロンと黒木、杵崎姉妹そして美甘がいた。するとマロンも守に気づいたのか
「おっ!お~い守!!」
と嬉しそうにこっちにやって来た。あの表情から見るに無事に合格したみたいだ
「やあ、マロンさん。その様子だとみんな無事に合格できたみたいだね。おめでとう」
「当然の結果でぇい!!」
守の言葉に嬉しそうに言うマロン。すると・・・・・
「うわあぁーーーーん!!!」
「「ん?」」
急に誰かが泣き叫ぶ声が聞こえたかと思ったら、一人の少女が麻侖達の列の横を走り抜けていく。
「人間なんてやめてやるぅ~!!」
「待て、ルナ!!」
「ルナ、人間やめるってよ!?」
「意味が分からん!!」
走り抜いていった少女を追って三人の少女達が後を追いかけていく。
「な、なんだ?」
突然の出来事にマロンは首を傾げ、黒木達も唖然としていた。
「あれ?確かあの先て海だよな・・・・・・まさか!?」
「あ、ちょっと守!!」
守は何か悟ったのか、急いで先ほどの少女を追いかける。そしてそれに続いてマロンたちも走り出すのであった。そして少女ルナは桟橋の方へ走り出す
「私は今日からお魚として生きていく」
「何言ってんだ!!お前は肺呼吸だろう!?」
「お魚さんなめんな!!」
後を追いかける少女らもなんかズレている事を言う。
「母なる海よ!!」
そう言って彼女は桟橋から海へとダイブし飛び込んだのだが、今は二月の中旬、海は氷のように冷たかった
「あばばば!!冷たいし!!寒いよ!!助けて!!母も私を拒絶するのか!!だ、誰か助けて!!」
自ら飛び込んだのに助けを求めるルナ。すると
「この馬鹿!命を粗末にするな!!」
と、そこへ守が海へ飛び込みルナを抱えて、岸ヘとあげる。そしてルナの友達がやってきて
「ああ、警備員さん。ありがとうございます」
「お騒がせしました」
と、守に礼を言うと守は
「全く、何があったか知らないが、まだ若いのに命を粗末にするなよ」
「いや、若いってあんたも若いじゃん」
守の言葉に若狭が突っ込む。すると
「さ、寒い~‥‥」
冬の横須賀の海に飛び込んだ留奈は寒さで身体をガタガタと震わせる。
「もぉ~ずぶ濡れじゃない」
桜良がハンカチで留奈の身体を拭くが焼け石に水である。
「どこかで乾かさないと風邪ひいちゃうよ」
広田が心配そうに言う。そこへ、
「何でぇ、誰かと思えば実技試験で隣に居た四人組じゃねぇか」
マロンたちが追いつく
「あっ、ちっちゃい凄い人」
マロンの声に気づいた四人が振り返る。
「ちっちゃいは余計だ!!」
「あの‥‥よかったら、家の船で休んでいきます?そのままだと風邪を引いてしまうので‥‥守さんも一緒にどうですか?」
「ああ、俺も彼女がなぜ海に飛び込んだか事情を聴きたいからな」
ほまれの誘いに守とルナたちは屋台船に世話になる。そして船の中で
「とりあえず、全部脱げ」
マロンはルナ着ている服を全部脱げと言うと守は
「え?マロン。それって追剥か?それとも・・・・・」
「変態!?」
「違わい!!濡れている服なら脱いだ方がマシだってんでい!!」
怒ってそう言うと皆は納得し守は立ち上がる
「ん?どこに行くんだよ守?」
「いや、ここにいるのはまずいだろ?いったん警備室に戻って私服に着替えてくるよ」
「いや、ここでも問題ないじゃないか女同士だし」
「いや・・・・俺男だぞ?」
「「・・・・・・え?」」
守の言葉に皆目を点にする。そして
「「「ええーーーー!!!」」」
皆は驚きの声を上げ、まもるは「やはりか・・・・』という表情をする
「あんた男だったの!?」
「いや、どう見たって女の子じゃん!何!?いわゆる男の娘ってやつ!?」
「びっくり・・・・・」
皆は驚いた表情で守を見ていた。確かに守は女性とほとんど見分けがつかないほどの中性的な顔立ちのため女子だと勘違いするのも無理はない
「そう言うこと。じゃあ俺は外に出てるよ」
そう言い、守はいったん警備室へと戻り体を拭き予備の服に着替えた後、タオルと美鈴さんから女性用のジャージを借りてそれを持って先ほどの屋台船へと戻り外にいた美甘にルナ用のタオルとジャージを渡すのであった。そして数分後、
「やっぱり・・・・受験に落ちたから海に身を投げようと?」
「うっ・・・・ごめんなさい」
ジャージに着替えたルナは警備員である守から事情を聴いていた
「でもさ、それで魚になろうなんて、すっとこどっこいかオメェは?」
マロンは事情を聞いてあきれた表情をすると黒木が
「でも下手をしたらマロンも海に飛び込みそうね・・・・・」
「「何となくそんな気がするわ」」
若狭と広田も黒木の意見に同調した。
「するか!!」
麻侖は必死に否定する。すると守は
「でも命は大事にしなよ。生きていればまたチャンスはつかめるんだからさ」
と守はルナを励ますが
「はぁ~お終いだ。いくら積めば裏口入学できるかな?」
「それ犯罪だぞ!?人生詰む気か!?」
「金を積むより徳を積め!徳を!」
守とマロンはとんでもないことを言うルナに突っ込む。もう打つ手はないかと絶望するルナに守は・・・・・
「ん?そう言えば・・・・・君は補欠合格の掲示板は見たの?」
「・・・・・え?補欠合格?」
「ああ。合格者のほかに補欠合格っていうのがあるぞ。見てないのか?」
ルナは守の言葉にぽかんとするとほまれが
「補欠合格者は通常の合格者とは別の場所に貼り出してあったと思ったけど‥‥」
「ああ、あそこなら合格発表が掲示されている場所から、100メートル離れた場所にあるな」
「うそっ!!見ていない!!」
ほまれと守の言葉にルナは驚きの声を上げマロンが
「なにぃ!!全員立て!!今すぐ見に行くぞ!!」
『イエッサー』
「随分息が合っているな」
「そうですね・・・・・」
息の合った行動に守とあかねが苦笑してそう言うのであった。そしてルナは補欠合格者発表の掲示板を見ると自分の受験番号が張られてあった
「あった‥‥ほんとうにあった!!」
「よかったね」
ルナは補欠とは言え、合格して居た事に桜良に抱き付いて喜んだ。
「ってか、補欠合格ってなに?」
若狭が補欠合格とは何かと尋ねると守は
「まあ簡単に言えば、合格者が辞退した時の穴埋めだな。繰り上がり合格が来れば学校から連絡が来るぞ」
「ほんと!?私にも希望が!ありがとう警備員さん!」
横須賀女子に入れるチャンスがあると知ったルナは守に礼を言う中、黒木は
「でも、、そうそう辞退者何て出ないと思うけどね‥‥」
「まあまあクロちゃん。無粋な事は言いっこなしでぇい」
黒木の言葉に麻論はそう制す。その言葉に黒木は喜ぶルナや友達を見て
「‥‥そうね」
と、ポツリとそう呟いた。その御ルナたちはもう一度守に礼を言い、マロンたちとともに帰ったのであった
あれから数日後、守は仕事の合間、休憩室で昼食のラーメンを食べているとスマホから着信が鳴る
「ん?誰からだ?」
そう言い着信名を見るとそれはマロンからであった。そしてその携帯の画面には『無事合格』と言うメッセージと嬉し涙を流している留奈と若狭、広田、桜良の四人の画像が添付されていた。
「そうか…合格したか。よかった」
そう呟くとまた別に着信が来る。それは真霜からであった。その内容は
『マーちゃん。ましろ、無事に合格したわよ』
と、ましろが無事横須賀海洋学校に合格したことを知らせるものであった。それを見た守は笑顔になり
「そうか・・・姉さん。無事に合格したか・・・・良かった」
と嬉しそうな顔をしているのであった。その時守は知らなかった。近いうちに守は自分の姉であるましろとそう遠くないうちに再会するということを