「お前は・・・・・戦争を経験したのか?」
「っ!?」
ましろの突然の言葉に守は固まる。だがましろは続けた
「お前の言葉が前から気になっていた。そして美波さんから聞いたお前の体に銃創・・・・銃で撃たれた痕があるって・・・・・守。教えてくれ。向こうの世界で・・・・私の知らない9年間何があったんだ?」
ましろは心配そうに訊くが守は
「・・・なんでもないよ。姉さんには関係ないことだから・・・・」
そう言い立ち上がり倉庫を出ようとするが、守の動きが止まる。それはましろが彼の手を掴んだからだ
「姉さん・・・・・離してくれ」
「ダメだ。今離したら、きっとお前は人を避け続けるようになる。このままじゃ、お前の心が壊れてしまうぞ!守。辛いことがあるなら私に相談しろ。一人で抱え込むな」
「そんなことないよ・・・・・俺はいつも大丈夫だって・・・・」
ましろの顔を見ず、そう答え無理にでも出ようとする守だったが・・・・
「・・・・・嘘だな」
「っ!?」
その言葉に守は固まる
「守。私を見くびるな。お前は嘘をつくときいつもそういう顔をする。6年前もそうだ。私を守って怪我した時も私に心配させないように怪我をしていないと言っていた時と同じ顔だ」
「・・・・・・」
ましろの言葉に守は言い返すことができなかった。そして守は
「・・・・・姉さん。姉さんにとって俺は・・・・・どういう存在なんだ?」
守はましろにとって自分がどういう存在か恐る恐る訊くとましろは
「決まっているだろ!お前は私の大事な弟・・・・家族だと思っている」
「っ!?」
ましろの言葉に思わず守はましろの顔を振り向く
「確かにお前とは血はつながっていないし、一緒に過ごしたのはたったの一か月だ・・・・だが血縁が何だ!一緒にいた日にちが何だ!そんなの私には関係ない!なにより・・・・」
ましろが守の目を見て
「大事な人が苦しんでいるのを見て、放っておけるわけないだろっ!!!」
「っ!!!」
守の両肩を掴み、強い意志と言葉で守にそう言うましろ
「このままお前が苦しむ姿なんて見たくないんだ私は・・・・・」
「姉さん・・・・・」
悲しそうな目でそう言うましろ。それを見た守はついに決断
「(もう・・・・隠せないな・・・潮時だな)・・・・わかった」
静かに守は頷いたのだった。そして守は座り、ましろも彼の隣に座ると、しばらく守は黙っていたがやがて口を開いた
「姉さん・・・・・さっき言っていたよね?『お前は戦争を経験したのか?』って」
「ああ・・・・・」
「それだったら俺の二式水戦が答えだよ」
「え?」
「姉さん。あれには機銃がついている。それは知っているよね?」
「ああ・・・・前に守が整備して何時時に機関銃みたいのを整備していたな?」
ましろは以前、守が二式水戦の整備をする中、機首の12・7ミリ機銃の整備をしているところを目撃したことがあった
「・・・・・・ただ、空を飛ぶだけなら機銃はいらないよね?」
「あっ!」
守の言葉にましろは気づいた。確かに守の言う通り、ただ飛ぶだけの乗り物なら機関銃は不要だ。そしてもう一つ思い出したことがある。それは晴風のみんなに自己紹介する時に『日本国海軍少尉』と名乗っていたことだ
「守・・・・やっぱりお前は」
「ああ・・・・・そうだよ姉さん。俺は元の世界では軍属・・・・・軍人・・・人殺し家業をしていたんだよ」
そう寂しそうな笑みをこぼし守はましろに話した
「9年前。姉さんと別れて俺は元の世界に戻った・・・・でも俺の世界では戦争があった・・・・いわゆる世界大戦・・・・第三次世界大戦と呼ばれる戦争だよ・・・・俺は小学校を卒業した後、軍に志願した」
「なんで・・・・・」
「軍に入れば、いち早く飛行機に乗れると思ったんだよ。通常なら高校を卒業して、航空学校に入らなければ乗れなかったから。でも軍に貼って航空学校に行ければ早く飛べると思ったんだ。当時は『少年、少女兵』を募集していたから丁度良かったんだよ・・・・」
「少年少女兵・・・・・」
「平和な時代からすれば狂っていると思うけど、あの時は戦争初期に一杯人が死んだからどうしても兵員不足を補うための対策だった。無論強制じゃなく志願制だったけど」
「・・・・親は反対しなかったのか?」
「無論されたよ。でもその反対を押し切って俺は半ば家出同然に入ったんだ。まあうちは母さんだけだったかし、軍の給料は結構高かったから、少しでも母さんを楽させたいという気持ちもあったのかもしれないな・・・・・」
「・・・・・・」
「俺は軍の訓練場に入って基礎訓練を終えた後、航空隊に志願して、適性試験に合格して、霞ケ浦の訓練所で日夜訓練に明け暮れた・・・・」
守は霞ヶ浦の訓練兵時代を思い出す。毎朝日が昇る前に起床し、そして夕方になるまで訓練に明け暮れた。それはも言う地獄のような厳しさだった。毎日のように怒鳴られ、殴られ。辛い日々を送ったが。それでも守は辞めようとは思わなかった。確かに辛かったが、それでも飛行機に乗るために彼は努力し続けたのだ
「訓練を終えた後、俺はしばらく本土の横須賀航空隊に配属されていたんだけど、すぐに太平洋の最前線のニューブリテン島ラバウルに配属になって、そこで俺は初めて敵と戦ったんだ・・・・そこで初めて敵を撃ち落とした・・・・・」
「敵って…守お前は何処と戦争をしていたんだ?」
「・・・・・ドイツ」
「え?」
「ドイツと戦争をしていた。正確にはナチス思想のドイツのテロリスト軍団だ」
ミーナが聞いていたらきっとショックを受けていただろう。ましろはそう思った。
「・・・姉さん。言っておくけど、俺はドイツ人が嫌いってわけじゃないよ?」
「え?」
「あっちはあっち。こっちはこっち。恨むのは筋違いだよ。それに俺が嫌いなのはファシスト、ナチズム思想を掲げ虐殺や殺戮を楽しむ連中だ。ドイツ人すべてが嫌いじゃないし、それに元の世界の友人にドイツ人がいるしね」
「そうなのか・・・・」
そう、俺は実際にドイツ人を恨んだことは一切ない。俺が嫌いなのは鍵十字を掲げる連中だけだ。共に戦った戦友にもドイツ人がいるし、ドイツそのものを嫌ったり恨むことは一度もない
「続けるね・・・・」
そして守は話した。自分の世界での戦争のこと、ラバウルでの激しい激闘のこと、ラバウルを離れ空母に勤務した際の戦闘のこと、そしてソロモン諸島で二式水戦を操縦し敵の爆撃機と交戦し続けたこと、そして戦う中多くの敵の搭乗員の命を奪ったこと、そして多くの仲間の死を見てきたこと、そして毎晩のように悪夢を見ることも
「・・・・」
ましろは守の話した言葉に衝撃を覚えた。9年・・・・言葉で言うとすごく短いが長く感じるその年数。自分は平和に暮らしていた半面。守は文字通り死と隣り合わせの戦争を経験していた。しかも中学生のころから今に至るまでだ・・・・とてもじゃないが今の自分には想像がつかない。
ましろはそんな弟にどう声をかければいいかわからなかった。戦争を経験をしていない自分がどう励ませばいいか・・・・
そんな中、守は話を続け、そして、敵と交戦中に被弾し、撃墜され死んだと思ったらこの世界に戻ってきたことを話した。
「俺がこの世界に戻ったのは今から2か月くらい前かな・・・・気が付けば横須賀の病院にいたよ。そこで真霜姉さんに再会した」
「そんな前に・・・・何で姉さんは私にそのことを教えてくれなかったんだ・・・・それに守。なぜ会いに来てくれなかったんだ?」
「俺が頼んだんだよ。『ましろ姉には秘密にしてくれって』」
「っ!?なんでだ!!なんで私に秘密にしようとしたんだ!」
ましろは声を上げると守は顔を背け
「さっき言ったろ?俺は戦争で多くの人を殺めた。そんな俺がましろ姉に会う資格がない・・・・会わせる顔がなかったんだよ・・・真霜姉たちはそんなことないって言っていたけど・・・・」
それでも会いに行けなかった。もし会いに行ってましろが自分を拒絶するんじゃないかと恐れていたから
だが・・・・
「・・・・けいない・・・」
「え?」
小さな声で何か言ったましろに守は首をかしげるとましろは守の両肩を掴み
「そんなの関係ない!!!」
「姉さん・・・・」
「守!お前がたとえ軍人だとしても何であろうと私には関係ない!私にとっては大切な弟だ!だからそんな悲しいことを言うな!」
「でも姉さん!俺は・・・俺はもう昔の俺じゃないんだ。もう俺は血で汚れた人間なんだ!そんな俺が姉さんたちと一緒にいる資格なんて・・・」
苦しそうにそう言う守。今まで弱音なんて吐けなかった。自分の胸の内を言うことはしなかった。だが守はなぜか敬愛する姉、ましろにだけ自分自身の本心を打ち明ける。
するとましろは彼に対し怒ることなく優しく守を抱きしめた
「っ!?」
「守・・・・辛かったんだな…今私は悔しい。大事な弟が苦しんでいるのにお前の背負った罪も苦しさもわかってあげられることもできない・・・・私は戦争を知らないから、だからお前の人を殺したと言う重みもわかってあげられない。だがこれだけは言える。お前がそうした。そうしなきゃならなかったのは大切なものを守るためだったのだろ?」
「え・・・」
「もちろん正当な理由で殺してもいいってことじゃない。だがその結果助かった命を考える権利が関わった人にもある。無論お前にもだ。守…お前は自分が助けた人を思い浮かべる事で自分を助ける権利があるんだぞ・・・・」
「自分を助ける権利・・・・・でも・・・俺は結果的には人を殺したんだ。仲間を守るため・・・国に住む人を守るためとはいえ俺は・・・・そんな俺が救われる権利なんて・・・・」
守は涙を流しながら叫んだ。するとましろは強くは守を抱きしめ頭をなでながら言った。
「お前は優しい子だ。だからお前はそんなに苦しんでいる・・・だけど私はお前のその姿を見たくない・・・・助けたい。守・・・・お前はいつも私を守ってきてくれた。助けてくれた・・・・だから今度は私がお前を守る番だ」
ましろは守を抱きしめそして優しい言葉で囁く
「お前を恨み、呪う声が聞こえるなら、私が大声で叫んで聞こえないようにしてやる。お前を闇に引きずり込もうとするやつがいるなら、私がお前の手を握って守を必ず連れ戻す!!お前を拒絶する奴がいても私は最後までお前の味方でいる!お前を拒絶しない!!私が!私がお前を守るから!!」
「ねえ・・・・・さん・・・」
ましろの温かいその心に守は涙が流れた。そして守は静かに泣き、ましろはそれを受け止めた。
すると・・・・
『うぐっ!・・・・そうだよマー君はみんなの友達だよ!!』
『そうです!もうマー君は晴風クラスの仲間なんですから!!』
「「えっ!?」」
急に伝達管から声がする。声の正体は明乃と幸子だった。他にもみんなの涙をこらえる声が聞こえ明乃たちと同じことを言っていた。
その時守るとましろは気づいた伝達管のふたが開けっ放しなことに
つまり今までの会話は晴風内部にみんな聞こえていたのだ
そのことに二人は先ほどの会話を思い出しましろは守に言ったセリフがみんなに聞かれ少し恥ずかしかったが
守は嬉しかった・・・・姉であるましろは自分のことをこれほど大切に思ってくれたこと、そして晴風のみんなも自分のことを拒絶する言葉を言わず逆に仲間だと言ってくれたことに心の底から嬉しかった・・・・
そしてましろは
「と・・・とにかく!守!お前は一人じゃない・・・・えっと・・・そろそろ食事の時間だし、みんなのところに行こう」
そう言い立ち上がり手を差し伸べるましろに守は
「・・・・うん。そうだね姉さん」
守はましろの手を取り立ち上がり一緒に倉庫を出る。そして守は先ほどのましろの言葉を思い出した
『守・・・・お前はいつも私を守ってきてくれた。助けてくれた・・・・だから今度は私がお前を守る番だ』
「(姉さん・・・・・守られていたのは俺の方だよ。小さいころ突然この世界で一人ぼっちだった俺をいつもそばにいてくれた。だから俺はそんな姉さんを一生守ろうと決意したんだよ・・・・そしてこれからも俺は姉さんを守るよ・・・・何があっても)」
「守?どうした?」
「ううん。なんでもないよ」
守はそう返事をし、ましろとともにみんなのもとへと向かうのであった
次回は彼の過去。追憶話を書きたいと思います