「マー君・・・・遅いね」
晴風の艦橋の中、鈴は小さく呟く。彼が飛んで、もう3時間以上がたとうとしていた。そして最後に無線連絡があったのは一時間半前、それ以来通信もなく、そしていまだに守の乗る二式水戦は戻ってきていなかった。
「守・・・・・」
「シロちゃん・・・・・」
艦橋の窓から心配そうに空を見るましろに皆は何も言えなかった・・・・
すると・・・
『帰ってきました!!左前方!上空に機影確認!!森君の乗った飛行機です!』
「「「っ!!?」」」
艦橋見張り台にいる野間の声に皆は外を見る。すると、青い空からエンジンの鳴り響く音が聞こえてくる。そしてそこから白い飛行機。
「マー君だ!」
「帰ってきた!!」
皆は嬉しそうにそう言う。その飛行機は紛れもない守の乗る二式水戦だった。だが・・・・
バル・・・バルル・・・・
「ちょっとあれ・・・・煙吹いてるよ!?」
「もしかして撃たれたの!!」
戻ってきた二式水戦の左翼が煙を吹き、プロペラも回転が止まりそうになっていた。それどころかエンジンも黒い煙が小さく漏れていた。
そして二式水戦はふらつきながらも晴風の近くに着水した。
「鈴ちゃん!船よせて!!」
「は、はい!!」
状況を見て明乃はすぐに晴風を二式水戦に寄せる。そして艦橋にいたみんなは二式水戦へ向かう
するとキャノピーが開き、守はふらつきながらも晴風に乗りあがると、
「艦長・・・・艦長はいますか?」
力のない声で明乃は何処にいるか言うと
「マー君!」
「守!!!」
皆が守のもとに集まると、守は明乃やましろに敬礼する
「た…ただ今戻りました・・・・・11:00・・・・濃霧の中・・・・大型艦を発見・・・・・場所・・・・xx地点・・・速度は約・・・・」
たどたどしく言う守、その表情は若干青くなり息も荒い
「守・・・どうしたんだ?」
「もしかしてどこか悪いの?医務室に行った方が・・・・」
「いえ・・・報告が先です・・・・それでその艦種は戦艦級・・・・大型直接教育艦・・・・・・ひ・・・・・・えい」
そう言うのと同時に守は甲板に倒れた
「マー君!!」
「守!!!」
守が倒れたのを見て皆、守のもとへ駆け寄り
「守!!どうしたんだ!!守!!」
ましろが抱え上げ守の名を呼ぶ。だが、彼は返事をする子ことはなくただ息を荒くしていた。その時
「っ!?」
彼の脇腹に何か濡れた感触を感じ、その手を見るとその手は真っ赤に染まっていた。そして改めて守の脇腹を見ると赤黒く染まっていた
「守・・・・お前、撃たれていたのか!?」
傷の状況からかなりひどいのは見てわかった。すると・・・
「ぐっ!!」
「っ!?」
守の顔が歪み息が先ほどより荒くなっていた
「マー君!!酷い怪我!!」
「マー君!!どうしよう・・・・急いで美波さんを!!」
かなり危険な状態だと感じた明乃たちは急いで守を医務室に運ぶのだった・・・・・
「こりゃ、ヒドイな・・・・」
麻侖が顔をしかめた…あの後、守は医務室に運ばれ、守の二式水戦は引き上げられ、マロンたち機関科は二式水戦の状態を見ていた
二式水戦は左翼と操縦席に無数の穴が開いていた。そして操縦席の中は血だらけであった
「守も・・・3時間以上の長い時間、よく飛行で来たな・・・・・」
麻侖が二式水戦を軽く触り深刻そうな顔をする・・・・
「麻侖・・・・・これ、7.7ミリ機銃の痕?」
洋美は胴体に空いた穴を見て、驚愕した顔をする
「ああ・・・・守の奴もまさか大型直接教育艦を相手にするなんて…思わなかっただろうな・・・・守・・・・・・勝手に死ぬなよ、バカ野郎」
麻侖は思わず涙ぐんで口にした・・・・・
医務室では
「美波さん!マー君は助かるの!!」
医務室では美波が守の容態を見ていたところに明乃とましろたちがそう訊くと
「出来ることはした・・・・・正直言って生きていたのが奇跡としか言いようがない」
そう言うと、美波は一枚のジャケットをましろたちに見せる。それは守の着ていたジャケットだった。そしてそのジャケットは前後に穴が開いていた
「服を見たが弾丸脇腹を通って貫通していた。普通なら死んでいてもおかしくはないただ・・・・・」
そう言い美波は守の持っていたロケットをましろに見せた。そのロケットは歪んでいた
「美波さん・・・これは」
「これのおかげで威力が弱まったのと弾道がずれて、心臓や内臓に傷をつけるのを防いだみたいだ」
「これの・・・・」
ましろはロケットを見て涙ぐむ。そのロケットはましろが守にプレゼントしたものであり、守はそれ以降大切なお守りとして持っていた物だ
「じゃあ・・・・美波さん。マー君は助かるの?」
明乃がそう訊くと美波さんは
「正直言って血の出血量が多く輸血が必要だったが、副長のおかげで事なきを得た・・・・あとは安静にさせた方がいい・・・・」
そう。守は運ばれたときは出血多量で危険な状態ですぐに輸血する必要があった。その時ましろが
『守と私は同じ血液だから、私の血を使ってくれ!!』
と、いい自分の腕を差し出し美波にそう言い、美波は輸血機材を持っていたためすぐに輸血作業が行われ事なきを得た
「今、彼の体を流れる血の4分の1は…副長の血だ・・・・・一応は大丈夫だ」
美波の言葉にましろはガーゼが張られた腕をさすった。そしてましろは守を見る腹に包帯を巻いた守は先ほどの苦痛の表情はなくどこか安らかに小さく呼吸していた
「よかった・・・・・よかった・・・・」
「シロちゃん・・・・・・」
大粒の涙を流し安堵するましろに明乃も若干安心した表情をする。ましろはしばらく守の手を握り看病をしていたが、何時までも医務室にいる訳にもいかず、後ろ髪を引かれる思いでましろと明乃は艦橋へとあがった。
「艦長、副長。マー君は大丈夫なの?」
芽衣が心配そうに訊くと
「うん・・・・美波さんの治療のおかげで」
明乃の言葉に皆はホッとする中、明乃は
「シロちゃん・・・・ごめんね」
「艦長が謝る必要はありません・・・・・・艦長のせいじゃないんですから・・・・あの時私が・・・」
謝る明乃にましろは首を横に振る。あの時、いやな予感を感じていた。だから無理にでも守を止めていれば…そう思う自分がいた
ましろは自責の念を感じていた。
「そう言えば・・・・マー君。大型直接教育艦に発見したて言ってたけど・・・・もしかして武蔵・・・・」
明乃は守が親友の乗る船に撃たれたんじゃないか・・・そう思い、自分を責めた。もし飛行偵察をお願いしなければ、こんなことにはと・・・・・
晴風、見張り台
「はっ!?」
一方、見張り台で見張りをしていたマチコが前方から一隻の艦影を発見する。
更に電探もその姿を正確に捉える。
『新たな目標を確認!!』
『正面に艦影!』
『新艦種!!』
艦橋には、艦影発見の報告が続々と齎され明乃、ましろは、双眼鏡でその艦影を見る。
「艦橋形状から武蔵と思われます!?」
更に見張り台のマチコから接近してくる目標の艦橋形状から大和型独特の艦橋だっと視認し、武蔵だと断定する。
マチコからの報告を聞いた明乃は、唖然とする。
「ど、如何しよう・・・回避? 」
「撃っちゃう?てか、これ撃たれたらヤバイよね、これ?」
「うぃ・・・」
武蔵だと判明したせいか、3人は、如何すれば良いか迷う。
「・・・・武蔵・・」
明乃もボ~としている。
「艦長、余裕で向こうの射程に入ってます!? 」
「当たったら一溜りも無いぞ!!」
「あっ!?・・・と、取舵いっぱ~い!!340度ヨーソロー!!」
ミーナとましろに言われて、明乃は、急いで回避命令を出す。
「取舵いっぱ~い!!、340度ヨーソロー!!」
明乃に従い、鈴は、左へと回避行動を取る。
そんな時、思わぬ報告が電探室から齎される。
『目標、距離13マイル!!』
「13マイル!?そんなに近い筈は‥‥」
電探室の慧からの報告を受けたマチコは、艦影が武蔵に比べて余りに小さく近くに居る事に驚き、もう1度、正確に視認しようと見張り台の上に登り目を凝らしウィングから身を乗り出す。
すると・・・・・
「武蔵?・・・じゃない・・・二連装砲主砲!!・・・金剛型!!」
何とマチコが見た艦影は、武蔵ではなく、金剛型高速巡洋戦艦だった。
『金剛型右30度、方位角70度、進路変わらず』
見張り台のマチコから武蔵ではなく、金剛型高速巡洋戦艦だと報告が入り、明乃、ましろは、目標を見る。
「あれは、うちの学校の比叡!? 」
ましろは、目標を見て、相手が金剛型の大型直接教育艦比叡だと視認し、そしてあれが守を撃った船だと確信するのだった・・・・・・・