「姉さん・・・・・・」
声をかけたのはましろであった
「みんなと話をしたのか?」
「ああ・・・・次何時乗れるかわからないしな。まあ立つ鳥後を濁さずって奴かな?」
「何を言っているんだ。お前が行くわけじゃないんだぞ?」
「それもそうだね・・・・・向かうのは姉さんたちの方だよな・・・・出来れば・・・俺も一緒に行きたかったよ」
「・・・・・守」
「ん?なんだ姉さん?」
「ちょっと私の部屋で話さないか?」
「え?いいけど・・・・」
信濃飛行甲板
「そっか~少尉はんもここに残るんでっか・・・・」
「ああ・・・・君も残るとは思わなかったがな?」
飛行甲板でハルカと山口が話していた
「うちはこれからここに来るブルーマーメイドの人に連行。事情聴取や。部署は違えどゾル大佐の所にいたんやからな~まあ、つるし首にされることは覚悟しております」
「さすがにそれはないと思うが・・・・・まあ、よくて堀の中だろうな」
「まあ、それはそれでいいと思います。向こうに戻って戦争の続きというのも嫌やからな~牢の中でゆっくりしてた方が平和でええ」
「それにブルマーに保護されれば親衛隊連中に粛清されずに済むからかね?」
「まあ、それもありますかな?」
と、ケラケラ笑うハルカに山口は呆れた表情でタバコを吸う
「それで森少尉は晴風に?」
「そうや。最後の挨拶とか言うてましたわ」
「最後・・・・ね」
「少尉はんも終わってないんやろうな・・・・・うちらみたいに」
「そうかもしれんな・・・・」
晴風、ましろの部屋
「なんか名残惜しいな・・・・・あと数時間で姉さんとお別れか・・・」
ましろの部屋でましろと守はお茶を飲みながら話していた
「そう寂しそうに言うな守。また会える。この事件が終わったらな」
と守の隣でましろがそう言う
「そうだな・・・・この事件が終わったら、みんなで横須賀に帰るんだよな・・・」
「ああ・・・それに守。お前もだ。一緒にまた暮らそう‥・9年前のように」
「そうだな・・・・・またあの日みたいにか・・・・・」
守はそう言うとカップを置く
「・・・・守?どうしたんだ?浮かない顔をして・・・もしかして一緒に暮らすのが嫌なのか?」
「いや・・・違う・・違うんだよ姉さん」
不安そうな表情をするましろに対し、守は首を横に振る
「今でも、信じられないんだ・・・・戦争で戦い続けた俺が今こうして、子供時に行った姉さんたちの世界に戻れたなんて・・・・・夢でも見ているんじゃないかって・・・・」
「守・・・・」
「そもそも・・・・俺って生きているのかわからない時がある・・・・・本当はあの戦争でとっくに死んで・・・・・今いる姉さんや晴風のみんなもその屍が見ている幻じゃないかって・・・・・そう思っちゃって・・・・・」
守がそう言った瞬間、ましろは守を抱きしめ
「守・・・・・お前は生きている・・・・・生きているんだよ。わかるだろ?」
そう言うとましろは守の頭を自分の心臓の位置に抱きしめ
「守…聞こえるだろ?私の鼓動が・・・・」
「ああ・・・・聞こえる…聞こえるよ・・・・それに温かい・・・・」
「そうか・・・・・」
と、ましろはしばらく守を抱きしめ、守はその身をゆだねる・・・・
まるで恋人のような雰囲気でもあった
「大丈夫か?守?」
「ああ・・・・すこし落ち着いたよ姉さん・・・・ありがとう」
「そうか・・・・・」
しばらくして、守はましろから少し離れ
「それで・・・姉さん。姉さんたちは本当に行くんだね?」
「ああ・・・・正直不安だ・・・・だがそれでも私は艦長や晴風のみんなと一緒に行くと決めた」
「そうか・・・・じゃあ」
守は腰に差していた軍刀をましろに渡す
「守?これは・・・・・?」
「守り刀‥‥どうも嫌な予感がする‥‥でもこれがあれば姉さんたちを守ってくれるだろうと思ってね…まあ、魔よけ代わりでもあるかな?」
「でも…いいのかそれは確かお前の尊敬する先輩から貰ったものだろ?」
「大丈夫だよ。それに俺には・・・・・」
そう言い守は胸に下げているロケットペンダントを見せた
「俺には最高のお守があるからね」
ニコッと笑う守にましろは
「そうか・・・・・なあ守」
「ん?何姉さん?」
「もう、お前が戦う必要は…ないんだよな?」
「え?」
「信濃にいればもうお前が傷つくこと…ないんだよな」
「急にどうしたんだよ・・・・・」
首をかしげる守にましろは
「私は怖いんだ・・・・お前をまた失ってしまうんじゃないかって・・・・・比叡でもシュペーでもお前は命がけで戦ってくれた…でも武蔵の時はどうなるかわからない・・・・・もしかしたらって」
「もし、いたら戦うかもって?」
守の言葉にましろは頷くと
「多分・・・・そうだと思う」
「やっぱりか・・・・・・何でお前はそうまでして・・・・・」
「そうまでして戦うかって?」
守が訊くとましろは頷くと
「そうだな・・・・・・姉さん・実は本当の意味で俺、まだこの世界に戻ってきてないんだよ・・・・・俺の戦争はまだ終わってないんだよ・・・・だから軍人を捨てきれてないんだよ・・・・・」
守はそう答える・・・・そう彼の戦争はまだ終わっていない。あの戦争の炎は守の心の中で灯したまんまだった・・・・それは消しても決して消えない業の炎・・・・彼の戦争が終わらない限り決して消えない炎なのだ
だから守は本当の意味ではこの世界に戻ってきていない・・・・9年前のあの頃のような少年森守ではなく、日本海軍少尉であるもう一人の自分まだ残っている限りは・・・・・・
「守・・・・・」
「でも大丈夫だよ。ブルーマーメイドの臨時隊員として残るように、真霜姉に命令されたら従うしかないしね。真霜姉怒ると怖いの姉さんだって知っているでしょ?」
「ふふっ・・・・そうだな・・・・それもそうだな」
守の返事に安心したのと同時に真霜が怖いという守の問いに同意するかのように笑って返事をする
「それより守・・・・・傷はもう大丈夫なのか?」
「ああ。美波さんに抜糸してもらったからな、ほら」
そう言い守は傷があったところをましろに見せる。そこには縫い目の痕があった。ましろはそこをそっと触る
「・・・・ん」
「あ、ごめん守。痛かったか?」
「いや、ちょっとくすぐったかっただけ」
「そうか・・・・・それにしても守傷だらけだな」
「まあ、向こうで結構撃たれたからね。今思えばここまで無事だったのが奇跡みたいなものだよ」
「そうか・・・・・」
ましろは守の傷をじっと見る・・・・・戦争のある世界でずっと戦い続けた守はいったいどんな思いで・・・・もしそれが自分だったら戦い続けることができただろうか・・・・そう思っていた
「あ…あの姉さん?ずっと見られるの恥ずかしいんだけど・・・・」
「え?・・・ああ!ごめん!」
恥ずかしそうに言う守にましろは顔を赤くして謝った
そして守は時計を見ると
「・・・・・そろそろ時間だね」
「そうだな・・・・・」
時間はあっという間に過ぎ、もうすぐ出港時間となっていた
「じゃあ、俺は空母に戻るよ・・・・・姉さん。気を付けて・・・」
「安心しろ守。必ずみんなで帰るから・・・・」
「そうだな・・・・・・姉さん」
「なんだ?守?」
部屋を出ようとする守が何か言いかけ、ましろが首をかしげると
「・・・・・いいや。なんでもない。横須賀に戻ったら言うよ」
と、ニコッと笑って部屋を出るのであった
「守・・・・・・」
ましろは呆然と見ていた。いったい彼は何を言いたかったのかと・・・・
だが、これが姉弟で話した最後の時だとましろはその時思わなかった
「出港!!」
明乃の号令に晴風は出港する。そして信濃にいる守、山口は帽を振って見送った。
「・・・・・乗員全員の無事を祈る」
山口の言葉に守は黙って姉の乗る船を敬礼し見送った
「‥‥別れはすんだのかね少尉?」
「いえ、言ってません‥‥別れの言葉は嫌いなもので」
「そうか・・・・・・それより少尉。例の物だが、」
「ええ・・・・・」
守は山口に連れられ飛行格納庫に行く
「こいつだけは誘爆の炎に包まれず損傷もしていなかった・・・・燃料もまだある。満タンにすれば海域までつけるが、帰りの切符はないぞ?」
「問題ありません・・・・それで爆装は?」
「対戦艦用に酸素魚雷を改良した航空魚雷があった・・・・・・」
「完璧です…万が一、パーシアス作戦が失敗に終わったら・・・・これで行きます」
「覚悟はできているってことだね?」
「ええ・・・・覚悟なければ戦争なんていけませんよ」
「それもそうだな」
タバコを吸う山口に対し守は格納庫の奥にあったW字に折れ曲がった大型の航空機を見てそう言うのであった