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「弦巻マキとー!」
「紲星あかりのー!」
「「雄英体育祭、実況プレィいえーい!!!」」
「プレイはしないでしょ、実況だけでしょ、いや実況重なると聞こえにくいから座って見てようよ」
「「えー?」」
結月紫の部屋で、大型テレビの前で拳を振り上げテンションの高い二人に思わず突っ込みを入れる紫。 彼が抱えているみゅかりも呆れたように「みゅみゅあぁ」と鳴いていた。
二人の他にボイスロイド達の姿はない。 東北三姉妹は体育祭に出す和菓子を配達しに出払っており、琴葉姉妹の葵と茜はセイカの私事を表裏で手伝うために外出している。
頬を膨らませている二人を宥めている間に、テレビからは雄英教師のプレゼントマイクによる放送が始まっていた。
『雄英高校にヒーロー目指し集った新星、まだまだ原石な卵達が互いを削りあう年に一度のビッグイベント! 特に今年は世間を賑わせた前代未聞の雄英高校ヴィラン襲撃事件、それを乗り越えた奴らを見に来たんだろぉ!? ヒーロー科! 一年!! A組をよぉ!!! 』
「早速出ましたA組贔屓だー!」
「露骨なA組上げ。 これは生徒を導く教員として卑劣ですね」
「容赦ないな二人とも。 まあ、他のクラス紹介が投げやりすぎるけどさぁ」
いくら話のタネになるとはいえ、一方だけ上げて他をフォローしていない音声に苦言を呈する紫。 漫画では流し読んでいた部分だったが、いざ目の前で見せられると言葉にできない不快感がこみ上げてきた。
事実、ヒーロー科A組以外は入場すら揃えて入ってきていないバラバラとした入場であり、体育祭を流している他のチャンネルを分割画面で映せばどれもA組の映像ばかり。 かろうじて映っているチャンネルもA組の背景にちらっとしか見えない他のクラスを見て紫はみゅかりを抱きしめる。
腕を甘噛みしているみゅかりを撫でながら、画面には選手宣誓の為にツンツン髪で目つきの悪い少年──
『せんせー。 俺が一位になる』
生徒たちの激しいブーイングが鳴り響く中、記憶通りの行動を直に見た紫はみゅかりの体毛へ顔を埋める。
対してマキは楽しそうに爆豪の行動についてあかりへ尋ねた。
「はい出ました! 体育祭に参加する代表の内容が『俺が一位になる』というのはどう思いますか、あかりさん」
「同じ会場にいる選手の代表として誓いを表明する場面でありながら個人のみの誓いを立てている発言であるため、他の選手を侮辱しています。 選手代表としての宣誓後に個人の宣誓を誓えばまだよかったのですが……国の一大イベントでこの行動ができるのはヒーロー候補生というより性格下水煮込み産業廃棄物特盛りですね間違いない」
「……反論できねぇ」
いくら自身を追い込む行動とはいえ、公の場で他者を軽視する行動をした件の少年を擁護できない紫。 読んでいた作品が割と酷い内容であったことを改めて突き付けられげんなりしている間、画面はすでに第一種目である障害物競走のスタートラインが現れていた。
参加するのは十一クラス、計二百二十人の生徒が入り口に殺到しているのを見て砂が詰まった砂時計を紫は連想しつつ、ゲートのカウントダウンランプが全て灯ると同時にプレゼントマイクの合図によって祭が始まった。
『コースアウトしなけりゃ何でもありの残虐チキンレース、スタァ────トォ!!!』
通勤ラッシュの満員電車が如くぎゅうぎゅうとなっているスタート地点。
その先頭周辺の足元を白く染め上げながら走り抜けていく人影が一つ。 赤と白のツートンカラーな頭髪に左目周辺が色素沈着で変色している少年、
『実況行くぜ、ミイラマン!』
『無理やり連れてきたんだろうが。 ……密集している場所はどんな個性でも当てやすい格好の的になる。 広範囲に影響する個性があればなおさらだ。 この数ならば奇襲は前提としてどう奇襲するか、奇襲を切り抜けられるかが見せ所だな』
『サンキューブラザー! しかし先頭のほぼ全員が餌食になってるぜ、A組の轟焦凍! 入り口周辺が全てフリーズして壁になり、後続も出るに出れない……っとぉ!? 通路の天井から誰か降ってきたぞ!?』
一人飛び出した轟の後ろに着地した生徒を見てあかりが嬉々とした表情で指さした。
「八百万さん、通路の天井でワイヤーアクションしてましたよ!」
「え、本当?」
画面の一部が分割されリプレイ映像に切り替わった場所に目を向ければ、入り口通路の上を移動する人影。 映っているの両腕には手首から肘までを覆うアームアーマーが装備されており、そこからアンカーを交互に打ち出して空中ブランコのように通路を進んでいた。 原作になかったその光景に紫は瞳を輝かせる。
百は渋滞を起している道の上空を華麗に飛び、ワイヤーの先端が鉤爪のようなアーム部分を切りはなして地面を転がりながら着地、すぐさま立ち上がって走り出し轟の後を追う。
『あれはA組の八百万百! サポートアイテムっぽい物使ってたが違反じゃないのか、どうなんだミイラマン!?』
『分かってて説明を投げるな。 映像見りゃわかるだろう、少なくとも一種目目が開示される前までは何も身に着けてなかった。 個性で作り出した物だ』
『オイオイオイ! 実用に耐えるサポートアイテムを即席で作り出すなんてクレバーかよ! って同じルートを同じように通ってる生徒が来たぞ!?』
プレゼントマイクの言葉に予想外の展開が続く画面を紫は凝視している。
「
つぶやきと共に分割画面が一つ増え、またリプレイに置き代わる。 百を追うようにツインアイゴーグルをつけた女子が映っており、先を行った百よりも一回りゴツいアームアーマーを使いながら動きはぎこちないものの通路に詰まっている他の生徒をどんどん抜きさっていく。
『ヤオモモさんと共同開発した、多目的軽量アームハンドのクローフックなら短時間であればこの程度! ヤオモモ印の超強力モーターに専用高出力蓄電池等々を詰め込んだ最新作ベイビー! 二週間の間に作り上げたヤオモモさんと私のベイビー達を見て、できるだけデカい企業ー!!!』
画面越しに聞こえてきたベイビー発言に意味が分かってても紫は息を吹きだした。 彼の隣ではマキとあかりが手を合わせ「キマシタワー?」と声を合わせたのが耳に入り咽せ返る。
『全身にサポートアイテムをつけている……サポート科だな。 実戦授業が無いヒーロー科以外は自作のサポートアイテムを持ち込むことを許可されているが……実用性と強度、両方の水準が高いな。 ただ発言がアレだから映す時は音声切っとけ』
『ハッハー! あれくらいならまだまだ!! っとここで一抜けた二人以外にも後続が突っ走っていくぜ! 大半がA組だな! そしてトップランナーが第一関門に到達、見上げているだけじゃ進めねぇぞ、ロボ・インフェルノ!! デカブツばかりに気を取られていると小型にぶん殴られるから気をつけな!!』
先頭を走っていた轟が関門として配置された巨大ロボットの群れを見上げている。 しかしそれもわずかの間、手を掬い上げるように振るうと一体のロボットが足元から凍りついていった。
時間にしてわずか十秒未満。 馬鹿げた出力にマキは腕を組んで唸りだす。
「むむむ、やっぱり強個性だねー。 足元を凍りつかせるだけで足止めできるし、暑い時もクーラー要らずは羨ましい」
「便利な個性ですよね、寒くなると体が鈍る点も炎の個性で補っていますし。 なおナンバーワンヒーローから遠ざけている一番の要因が糞親父」
「おー、百はワイヤーをロボの股に突き刺して抜けたかー。 構造上、足を閉じても股下は隙間ができるから安置だなー。 大砲よりも地味だけど突破速度ならこっちが圧倒的だー」
画面そっちのけで議論が盛り上がりそうな轟の父、エンデヴァーの話題を躱すべく紫はテレビ画面に意識を向ける。
一足早く抜けた二人を除けば、轟が転倒させたロボットから生えてくる切島鋭児郎と似た個性を持つB組の
そしてロボの装甲を拾い上げて追走する緑谷出久と原作そのままの展開で第二関門へと向かっていく。
『落ちれば失格、這いずれば安全でも追い越されるぜ!! 大胆に行くか慎重に行くかはテメェで決めろ、ザ・フォール!!!』
いくつもの足場に綱が渡された綱渡りの関門。 先行く轟はバランスを崩すことなく渡っているのを見て紫は感嘆の声を出す。
「氷使わなくても早いな、そしてやっぱり身体能力も高い。 ……あれ、ここで氷使ってなかったっけ?」
二人に顔を向ければ揃って「さぁ?」と首をかしげている。
二次創作と混同したのかなと首をかしげていると、轟の後ろを追っていた百が崖前で屈みこんでいるのを見てあかりと紫は画面をのぞき込んだ。
「八百万さん、何しているんでしょう」
「太もも辺りから何か造り出してるね……車輪?」
百は生み出した物を右腕のアームアーマーに接続、軽く引っ張って外れないことを確認すると綱にぶら下がり車輪が綱に載っているのを確認し、U字金属で綱が車輪から外れないように固定した。 さらに生成した棒状の部品をアームアーマーの手首と肘の間に差し込んで左手で掴む。
すると車輪が動き出し、即席リフトで百は対岸へと渡っていった。
渡る度に行うその光景を見てプレゼントマイクが唸り声をあげている。
『走るより遅いんじゃないかぁ、なあミイラマン?』
『速度より安定重視、そして個性を魅せるって所か。 今回は移動手段がメインだが、組み合わせて使える細かい部品を生成できるアピールとしては申し分ないな』
『やっぱ万能過ぎないあの個性!?』
『道具を作り出す一手は必要だが、汎用性は群を抜いている。 あとは本人の力量次第だが……いつの間にあんなことできるようになってんだアイツは』
『担任も予想外なクレバーガール、途中で爆豪と飯田に追い抜かれたが個性アピールをこなしつつも第二関門突破ぁ!』
第二関門を抜けた百は両腕のアームアーマーを通路の端に脱ぎ捨てた。 先行するクラスメイトの背中が見えるものの、元々の身体能力に差があるので距離を離されていく彼女は悔しそうな表情をしながらも追いつこうと駆け出す。
続々と第二関門を進む生徒達。 サポート科で一番目立っている発目もまたその一団の中にいた。
『フフフ、私のベイビーを土台にヤオモモさんと意見を出し合って造ったザ・ワイヤーアロウType.Y、そしてホバーソールType.Y! ヤオモモさんのお力添えで大幅に製作時間を短縮できました……ヤオモモさぁん、サポート科に転科しませぇんかー! 一緒にベェイビー作りまっしょー!!! 』
『規制音入れろぉ!? てかあいつだけ音を切れぇ!! 去年のヌードマンと別方向で放送事故になってんぞぉ!?』
『言わんこっちゃねぇ……』
大声で欲望をぶちまけつつサポートアイテムを使いこなし上位に食い込んでいる発目。 その放送事故を聞いて視聴している三人は口に手を当てて必死に笑いを抑えてた。
「ま、まるで水を得た魚のようだ……!」
「ふひ、お腹痛ひ……!」
「痛っ……喉にお菓子詰まって取れないぃ!」
あかりが飲料を流し込んで落ち着いた頃には最終関門へ挑んでいる生徒達の映像が映し出されていた。 解説のプレゼントマイクも気を取り直し終盤ということで盛り上がっている。
『ラストは一面地雷畑、怒りのアフガン! 地雷っつっても音と爆発が派手なだけの吹き飛ばし玩具だがな! 目を凝らせば見える、目と足使って駆け抜けな!』
『おいコース担当者出てこい。 よりにもよって旧ギネスブックに【最も暴力的な映画】で記録が残っているモンの名前を持ち出してんだ』
『勢いでつけるもんじゃねーな! おかげで減給処分だぜ!』
『何やってんだ山田』
『山田って呼ばないで!?』
解説二人の漫才を余所に最終関門先陣を行く轟、その後ろには爆豪と飯田が追随する。
慎重に歩を進める轟、乱暴ながらも地雷を避けて前に進む爆豪、突っ込んでは足運びが上手くいかず何度も吹き飛ばされている飯田。
百もまた慎重に進みながら地雷の隙間を進んでいく。 しかし、元々が高水準の能力である轟と個性で空中を飛ぶ爆豪には追いつける道理は無い。
トップ争いの状況を見てマキとあかりはため息をついた。
「あー、やっぱり八百万ちゃんのトップは無理かなー?」
「うーん、やっぱりこういう場合の決め手が。 クラスター爆弾よろしく上空からマトリョーシカでも降らせて一斉爆破すれば走っている全員足止め出来そうですけど、失明もしくは鼓膜破れそうですし八百万さんがそれをできるかと言われれば……あ、後方で爆発しました、原作通りですかねぇ。 マキさんが発破をかけた耳郎さんはさらに後方ですけど」
あかりの言葉にマキはむっと顔を膨らませる。
「だって体育祭で彼女の活躍を見せるって難易度高いでしょ。 あかりちゃんならどうしてた?」
「知りませーん。 彼女の個性って体育祭じゃ生かせないですし、適当に体を鍛えればいいんじゃないですか?」
「ちょっとー!?」
二人のやり取りを苦笑しつつ紫はテレビに視線を戻す。 そこには紫の記憶にある通り、大歓声轟く舞台に戻ってきた生徒が画面いっぱいに映されていた。
『さぁさぁ誰が予想した!? 一番最初に戻ってきたその男の名は……緑谷出久! 文字通り最終関門を飛んできたダークホースが今、ゴォール!!』
毎度の感想、指摘ありがとうございます
某所のセメントガン考察見たけど、漫画を見直してもう現実ではなくヒロアカ世界だからと諦めの境地
輪郭ぶれる速度で重量のある粘性液体弾を多数射出する、片手で持てるバックパックなしの銃ってやっぱりこの世界はゲー(文字はここで途切れている)