VillainのVはVOICEROIDのV   作:捩花

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原作との差異を考え描写するのがキッツい(自業自得)


Voice12 綻び始めたメンバー交渉

 障害物競争のゴールへ到着した八百万百は荒い息を整えながら、到着順位が映されている大型ビジョンを見上げた。

 一位は派手にアナウンスが流れたダークホース、緑谷出久(みどりやいずく)。 次いで轟焦凍(とどろきしょうと)爆豪勝己(ばくごうかつき)塩崎茨(しおざきいばら)骨抜柔造(ほねぬきじゅうぞう)飯田天哉(いいだてんや)常闇踏陰(とこやみふみかげ)瀬呂範太(せろはんた)……そして九番目に百の名前が表示されている。

 九位。 二百二十人の中で頭から数えて九番目。 トップクラスと言い換えてもいい順位だが、当の本人は顔を歪めたまま俯いた。

 

(予言? まさか。 あのヴィランは私に似た、物を創り出す個性だったはず)

 

 雄英襲撃に現れたヴィランの言葉。 体育祭を迎えるまで記憶の彼方だった雑音が、第一種目の最初に配置された関門を見てその言葉を思い出した。

 

『ロボ 綱渡り、地雷原。 次に騎馬戦、最後にトーナメント。 一回戦目で常闇君に勝てるとええなぁ?』

 

 第二関門の時には気にも留めていなかったが、轟が第三関門に入ったアナウンスで疑惑が首をもたげる。 ヴィランの戯言と記憶の隅にやっていた内容とまったく同じ内容の競技、集中力が乱れた百は最終関門で地雷原の移動に手間取ってしまった。

 百は頭を振って雑念を払う。 一位を取れなかったことは心の底から悔しい。 上位の成績とはいえ、年に一度の晴れ舞台で他の事に気を取られているほど余裕はない。 事実、トップを争っていた爆豪と轟の二人には追い付くことすらできなかった。

 

(とにかく、今は次に備えてしっかり休憩しませんと)

 

 顔を叩いて気合を入れなおし、スタジアムコート壁際のスポーツドリンクと栄養食が置いてある補給所へ向かう。 タオルを貰って汗を拭い、水分補給している間にも続々と通過者がスタジアムへ入ってきた。

 百から七人目に入ってきた人物、ほぼ二週間を共にした相手を見つけて百は駆け寄る。

 

(めい)さん!」

「フフフお早い到着で、ヤオモモさん。 サポート科に転科しませんか?」

「はい?」

 

 挨拶もそこそこに、いきなり転科を勧めてくる発目明(はつめめい)。 ずいっと鼻先同士がぶつかりそうな程に距離を詰める彼女に、その勢いに一歩引く百を気にも留めず百の手を取って力説を始めた。

 

「創造の個性、やはり素晴らしいものです。 図面から短時間で完成させる事ができるその能力、どんな個性よりもオンリーワンでナンバーワン! 複雑な部品も造れて希少素材がデータさえあれば生成できるようになる、むしろベイビー達に使った手の届かない値段の素材をふんだんに使えるというのはサポートアイテムを造る為の個性と言っても過言ではないでしょう!!」

「いえ、私はヒーローに……」

「ええ、もちろんヤオモモさんの目指すものは知っています。 しかし現代はヒーロー飽和社会! 確かに世間では憧れの職業ですが、それを支えるサポートアイテム制作も立派なお仕事です! ですので妥協案として許可証(ライセンス)を取って頂ければヒーローの副業としてもぉん!?

 

 熱弁する初目の首に濡れたタオルが置かれ彼女は飛び跳ねた。 置いた人物は補給所で配られている片手に栄養ゼリーを咥えてやってきた耳郎響香。

 ゼリーを一気に吸い上げて飲み込むと百に声をかける。

 

「っぷはぁ! お疲れヤオモモ。 最初に空を飛んで行ったのはびっくりしたよ!」

「響香さん、お疲れさまでした」

 

 互いに労う中、勧誘を邪魔された発目はタオルで顔を拭いてから二人の間に割って入った。

 

「タオル有難うございます。 それはそれとして先ほどの続きですが!」

 

 お礼を言いつつ話を続けようとする発目を響香はじろりと目だけ動かして見る。

 

「さっきもそうだけどさ。 ヤオモモは勉強始めて一年目だし、そんなに急かさなくていいじゃん。 片手間でするにしても、まずは本命の勉強させてあげなよ。 てかあんた誰」

「サポート科の生徒です! それでヤオモモさんどうでしょう今ならパワーローダー先生も諸手を上げて歓迎するとおっしゃっていましたよ!」

 

 何気なくヤオモモ呼びしている明を見て無意識に口をへの字に曲げる響香。 親しい呼び名を使っている発目を百は抑えながら紹介した。

 

「サポート科の発目明さんです。 パワーローダー先生から特訓にとのご紹介で、色々とお世話になっていまして。 あの、響香さん……さっきとは?」

「ザ・フォールでヤオモモにサポート科に来てって叫んでた」

「フフフ……ヤオモモさん、私は何度でも言いますよ。 サポート科に来て一緒にベイビー造りましょう!」

 

 再度、大声で勧誘する発目に呆れ返る響香。 そして誘われた当人は眉尻を下げて答えた。

 

「お誘いは嬉しいのですが、やはり私はヒーローを目指したいと思います」

「フフフ……勿論、一昼夜で説得できるとは思っておりません。 私は諦めが悪いので、ベイビー開発の協力ついでに許可証を取って頂くまではつき纏いますよ!」

「はい、こちらとしてもサポートアイテムの勉強になりますのでよろしくお願いします」

 

 二人のやり取りを見て、タオルでイヤホンジャックを拭きながら響香は深くため息をつく。

 

「アンタ達はさ、まず自分の言葉が他人にどう聞こえているか考えなよ」

「「?」」

 

 二人して首をかしげている様子に響香は額に手を当てる。 二人にとってベイビーとは開発したサポートアイテムを指す共通単語と認識しているが、日常に於いて赤ん坊を指す単語を使い『一緒につくりましょう』等と喋っているのを目撃した場合、人はどう思うだろうか。

 純粋な百と頓着しない発目に響香がどう伝えようか迷っていると、補給所から食べ物が山盛りに盛られた皿を持った砂藤力道がやってきた。

 

「おう、みんなお疲れさん。 出し物に東北じゅん狐堂のずんだ餅があったから持ってきたぞ」

 

 数人分の箸も置かれた大皿を三人に差し出す。 聞かされた品物に響香が目を向いて砂藤を見た。

 

「ちょっと、じゅん狐堂の商品が並んでたって……!?」

「さすがにあの時のような高級品じゃないけどな。 一個千円ちょいのだが」 

「まだ食べたことないやつじゃん、頂き!」

 

 目の色を変えて早速ずんだ餅を頬張る響香。 釣られて百と発目も砂藤の持ってきた甘味に舌鼓を打つ。

 到着した各々が休息している中、四十二番目にスタジアムへ入った青山優雅がゴールラインを踏み越えると花火が打ちあがり、ファンファーレの音楽と共に壁が地面から現れ作られた通路は補給所へと繋がった。

 一年の主審である際どい衣装のヒーロー、ミッドナイトが鞭をしならせ地面を叩きながら第一競技の終幕を宣言する。

 

「終了ー! さあ、結果発表の時間よ。 発表が終わったらすぐに次の本戦を開始するわ、聞きながらしっかり休みなさい! そして今回、涙を飲んだ生徒達も待合室で補給所と同じ物を用意しているわ。 貴方達の出番もあるからしっかり休んでおきなさい。 それでは、結果発表ー!」

 

 大型ヴィジョンに映像が映されていく中、到着したばかりの青山は生まれたての小鹿のように足を震えさせている。 そこに砂藤が両手に栄養食と飲み物を持って差し出した。

 

「お疲れさん。 スポーツドリンクと適当な物持ってきたから良かったら食べてくれ」

「できればトイレに案内してもらえると嬉しいよ☆」

「そうか、俺も着替えたいから一緒に行くぞ」

 

 よく見ると背中に黒い球体をいくつかくっつけている砂藤が青山と一緒に目的の場所へ移動している間にも、大型ヴィジョンには次々と突破者の名前が挙げられていく。

 響香は順位を見上げ、自分の順位とある人物の順位を見つけて口をへの字に曲げた。

 

「二十二位か。 てか峰田が十八位ってどういうこと?」

「砂藤さんの背中を見るに、くっついてきたのではないかと」

 

 砂藤の背中を指し示す百。 黒い球体はよく見れば峰田の個性である引っ付く髪の毛だった。

 そんなやり取りをしていると砂藤と青山が戻ってくる頃には通過者四十二名の公表が終わり、五分の一にまで減った生徒達の本戦開始が発表される。

 

「さあ、本戦へ移るわ。 取材陣も本腰入れて見るからしっかりやりなさい! 第二種目は……騎馬戦よ!」

 

 大型ビジョンに映し出された項目に全員がざわつく。

 予選では個人の力を試されたが、第二種目は集団行動が前提とした競技の出現に騒めく会場を鞭を振るって静かにしてからミッドナイトが説明を続けた。

 

「二人から四人のチームを作って十五分の間、ポイントの争奪戦を行うわ。通常の騎馬戦と同じルールだけどいくつか変更点があるからよく聞きなさい。 一つ目は先ほど発表した順にポイントが付与、下位から順に五ポイントずつ……四十二位なら五ポイント、四十一位には十ポイントってね。 騎馬チームのポイント合計が鉢巻を身に着けての奪い合いよ。 そして二つ目、騎手は落ちても鉢巻を取られても失格にはならないわ。 ただし、あくまで騎馬戦! 悪質な崩し目的は一発退場だから注意しなさい!」

 

「ウチは……百五点か」

「私は百七十点ですね」

 

 各自得点を確認している中、一つだけ表示されていない場所を見つけた緑谷が首をかしげる。

 

「あれ、僕の所だけ表示が……」

 

 彼の呟きと同時に数字が三つ、ルーレットのように現れ回転しだした。 カシャッカシャッカシャッと軽快に止まっていくそれらはそれぞれ十、零が二つ、そして最後に零と漢字の万を表示して止まる。

 

 一千万点。

 

 三桁の数字かと思われた演出に全員の目が点になり、視線は示し合わせたかのように緑谷へ集まった。

 選手の中で一番目を見開いている緑谷を楽しそうに見ながらミッドナイトが第二種目の前半戦……チーム交渉の開始を宣言する。

 

「トップの得点は一千万ポイント、上を目指す者には更なる受難を! 雄英に在籍するならこれくらい笑って跳ね返して見なさい、これから十五分でチームを決めて貰うわ。 既に戦いは始まっている、交渉開始よ。 Plus Ultra!(プルス ウルトラ)

 

 ミッドナイトの合図と共に生徒たちが一斉に動き出した。

 実力の高い爆豪にアピールするクラスメイト、既に集まり組み分けているB組……一人だけ意図的に避けられている緑谷以外は交渉を進めている中、百の所に轟がやってきた。

 

「八百万。 組んでくれるか」

「私ですか!? ええ、是非……」

 

 轟の誘いに二つ返事で返そうとして、百の脳内に抵抗できず圧倒された敵の言葉が蘇る。

 

『貴方がその他大勢と変わらへんからやで』

 

「……」

「どうした?」

 

 唐突に額に手を当てた百を見て不思議そうに首をかしげる轟。

 わずかな沈黙の後、百は轟を見据えて口を開いた。

 

「すみません、私は……私もヒーローを目指しているんです。 貴方と組めば確実に次へ進めるでしょう。 でも、それは第一種目を上位で突破した轟さんの実力があってこそと思ってしまいます……少なくとも私は」

 

 響香が成り行きに驚いている中、百の視線を受けながらも轟は黙って続きを促した。

 

「だからこそ私は貴方に挑みます。 控室で貴方が緑谷さんに言ったように、私は貴方に勝ちたい!」

「……そうか。 邪魔して悪かったな」

 

 轟が軽く頭を下げて離れていくと、様子を窺っていた響香が信じられない物を見たような眼をしながら百に詰め寄る。

 

「ヤオモモ、本気?」

 

 周囲の視線を代弁する響香に対して、百は決意を秘めた顔で頷いた。

 

「もしかしたらここで脱落するかもしれません。 ですがヒーロー科A組は轟さんや爆豪さん、緑谷さんだけではないということを証明して見せますわ!」

「……あー、ったくもう眩しいなぁ」

 

 響香は目を細めながら後頭部を掻き、にっと笑う。 彼女もまた、敵襲撃に出会ったヴィランが残した傷跡が心に染みついていた。

 

『未来のただのモブさん?』

 

 ヒーローを目指す人間でなくとも最大級の侮辱。 ましてや大衆に魅せる職でもあるヒーローへ『モブ』という言葉はサイドキックにすら劣るヒーローへの暴言である。 トップの三人が目立ち自分はその他大勢としてしか見られていない現状、今の自分を予知されたような言葉に彼女の反抗心が持ち上がった。

 

「ま、その三人ばかり目立つってのも腹が立つし。 いっちょ見返してやりますか」

「響香さん?」

 

 首をかしげる百に親指を立てて彼女は笑って言った。

 

「トップの三人とは別チーム組むんでしょ、アタシも見返してやりたいし組んでくれる?」

「……はい!」

 

 響香の申し出に百は満面の笑みで頷く。 了承を得たことで響香は早速周囲を見渡し、チームに引き込む相手を探し始めた。

 

「さすがに二人じゃきついから二、三人声掛けに行こう。 さっきまで隣にいた発目って子は緑谷の所に行ってるし。 ヤオモモは誰かチームに誘う人はいる?」

「そうですね……」

 

 ふと周囲を見れば、既に轟は飯田天哉、瀬呂範太、芦戸三奈の三人と向かい合って作戦を練り始めていた。 近くにいた発目は緑谷の所で自分をアピールし、爆豪の周囲はA組の大半が囲み、B組はB組で固まっている光景を見渡す。

 峰田が障子目蔵に組んでくれと叫び声を上げている中、爆豪に自分の個性を説明している多くのA組生徒という、端から見れば奇妙な光景に百はその一端へと歩を進めた。

 

 




感想、指摘ありがとうございます

峰田「女子にくっつこうとしたけど芦戸に妨害されまくって泣く泣く砂藤に」

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