VillainのVはVOICEROIDのV   作:捩花

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Voice13 賑やかな祭りの陰で

 昼間にも関わらず外の喧騒すら届かぬ薄暗い部屋。

 唯一の光源はつけっぱなしのテレビ。 内装をよく見ればそれなりに豪華な家具が置かれている部屋にはテレビから聞こえる雄英体育祭のライブ実況、そして複数人の呻き声が部屋の片隅から上がっていた。

 テレビの真正面に配置されている豪華なソファに座る、頭部の左側に赤い紐飾りを付けた少女がせんべえを頬張りながら第二種目の始まった映像を眺めている。

 

『さあよく見とけよマスメディア! 騎馬戦バトルロワイヤル、カウントダウン行くぜ! スリー、ツー、ワン……スタート!』

 

「おー? 八百万ちゃんは耳郎ちゃんに砂藤君と尾白君の騎馬かー。 結構変わったんなー」

 

 記憶と違うチーム構成に彼女はにやりと笑う。

 その後ろでは空中に何かを漂わせている緑色のスーツに身を包んだ女性、京町セイカは皮膚が石のような男に向かって指で円を描く。 すると浮遊していた物体が高速で飛び、呻き声を上げている傷だらけの男に突き刺さった。 容器の中に入っている薄青色の液体が触れてもいないのに押し出され、男の体内へ入っていく。

 痙攣し皮膚が石から黒曜石に似た質感へ徐々に変化していく男をセイカは一瞥し、空中に浮かぶディスプレイをつまらなさそうな顔で眺めている。

 

「負担軽減値プラス十、出力値プラス二十、覚醒値プラス四十……。 数値を上げるのにも苦労しますね」

「これで四つ目の敵拠点なんやけど、まだ必要なん?」

「集めるのはここで止めようと思います。 一般に出回っている個性強化薬剤はほとんどがプラシーボ効果の紛い物でしたからヴィランならば持っているかと思ったんですけど、結局それなりの物しか見つかりませんでしたし。 見つけた物で妥協するしかありません」

 

 倒れている男が荒い呼吸を繰り返しながら「殺してくれ……」と懇願しているのを見向きもせず、セイカは手首を振って叩き落とす動作をした。 同時に男の近くにあった本棚が勢いよく倒れて男を押し潰し、赤い液体が本棚の下から染み出してくる。

 背後で起きた惨劇の事など気にする様子もなく、茜は部屋に置かれている菓子を好き勝手に食べながらテレビを見ていた。

 

「薬の性能調べているみたいなんやけど、何を探しとるん?」

「『個性拡張薬』です。 個性の可能性を広げてできることを増やすための物で、原作でいえば渡我被身子(とがひみこ)が変身するだけでなく、変えた姿に備わった個性が使えたように……いわゆる『覚醒』を促すための物ですね」

「そんなんできる薬あるん?」

 

 茜はソファに座ったまま仰け反ってセイカを見た。 先ほど男だった物に突き刺した物体を空中に放り投げ四散させながら彼女は答える。

 

「若干ですが裏には出回っていますね。 尤も、ここにあった『ロングラン』という銘柄が一番効果があるもので、数値自体は低く改良が必要ですが」

「副作用とかどうなん?」

「薬が効いている時は興奮しやすくなりますね。 依存性もありますが可能な限り抑えますし、個性を根本的に強化する切っ掛けになりますからこの程度ならば問題ないかと」

「ふーん」

 

 聞いておいて興味なさげな茜はテレビに視線を戻す。

 原作と同じ緑谷チームは爆豪と轟チームから追いかけられているものの、サポートアイテムと常闇の黒影で見事にいなして鉢巻を護っている。 一方、爆豪チームは切島と口田という機動力の低い二人が騎馬である為に早々と空中戦を挑みかかっており、騎馬の二人は爆豪が地面に落ちないように右往左往している。 轟も百が外れたことにより瀬呂のテープと芦戸の酸で氷を伝わせる道を作って補っているが、茜達が知っている活躍とは程遠くなっていた。

 そして既知の流れを変えた百のチームは砂藤を先頭にして、峰田と蛙吹に葉隠を乗せた障子のチームと一緒にB組を迎撃していた。

 否、B組を蹂躙していた。

 

『一千万ポイント争奪とは別に激戦が……ってか八百万が怒涛の閃光ラッシュ!? そして目を閉じた相手は峰田の超強力な吸着球体で身動きを制限され、為すすべなく遠距離からポイントを奪われていくぞー!!』

『エレクトロニックフラッシュ、いわゆるストロボだな。 対人用に光量を調整しているみたいだが、直視すれば視界を奪われ光の残像が残るし、目を庇っていればその間は一時的に無防備になる場所が生まれる。 そこに行動を制限させる個性でさらに動きを封じ、共闘している八百万チームの耳郎と峰田チームの蛙吹が遠慮なく奪っていく。 予測して迎撃しようにも下手に動けば峰田のアレが邪魔になり、光に対処するならば障子のように別の要素で補うか、八百万たちのように目を防護する物を身に着けていない限り防戦一方だろうな』

 

 解説の相澤が言う通り、百のチームは全員がサングラスを身に着け、障子のチームは複製した腕で味方を覆いながら自らも光の影響が少ない内側に目を複製してB組へ向かっている。

 閃光の連続に身を固めるか目を隠している間に峰田の個性、吸着力の凄いもぎもぎによって拘束されていくB組。 視覚を封じられて大雑把な動きしかできない上に峰田のもぎもぎで移動すら封じられ、響香と蛙吹が競い合うようにお互いの個性を使って鉢巻を奪い取っていった。

 一方的な展開に終始笑顔の茜。 後ろから見ていたセイカも次の犠牲者に手を出しながらニコニコと映像を眺めている。

 

「いやー、あのアドバイスでここまで成長してるなんて嬉しいなー」

「閃光手榴弾を使う場合、騎馬にも影響しますからどうするのかなと思っていましたが、なるほど光だけ使いますか。 やっぱり万能ですね、彼女の個性は素晴らしい」

 

 セイカはそう言いながら人差し指と親指で両手に二つの輪を作って重ね、ぱっと離せば空中に浮かせている薬の入った入れ物が分身するかのように二つへ増えた。 そして離した手を音を鳴らして合わせると、同じように二つの入れ物が再び重なり一つに戻る。

 手軽に一つの物を二つに増やし、そして一つに重ねている彼女を茜がジト目で見ながら言った。

 

「こっちの方が万能そうに見えるんやけどね」

「ええ、確かにこの能力は万能です。 それこそオールマイトとAFO以外は完封できるほどに。 ですが、私達の能力ではなくマスターの個性を借りているにすぎません。 条件を整えてはいますが、場合によっては今の緑谷君にすら手も足も出ずに負けてしまいますからね。 無茶は望んでませんし、それに私たちの目的はヒーローを倒すことではなくマスターを喜ばせることですから」

「その為にマスターを閉じ込めておくのは……本人が気にしてへんからええけど。 皆で散歩とかしたいんやけどなー」

 

 先ほどよりも濃くなった群青色に変わった液体を確認して、セイカはディスプレイを覗いて首をかしげていた。

 

「覚醒値だけ伸ばしたいのですが、やはり他の物とも合わせないと全体が上がってしまいますねー」

「全部上がってもええんやない?」

「全体の性能に比例して依存性も上がってしまいます。 一回しか使わない物に依存性を高めると後が面倒ですから避けたいんですよ。 できる事ならば覚醒値だけ上げて他は抑えておきたいのですが……」

 

 腕を組み悩んでいるセイカに茜はテレビを見ながら投げやりに答える。

 

「マスターにぼかして聞いてみればええんちゃう。 アイテム合成とかそういう作業するの結構好きやし乗ってくれると思うで。 何ならきりたんにでも手伝ってもらえばええ。 あの子もゲーマーやし」

「……ああ、そうですね名案です!」

 

 名案だと早速セイカは左手の親指を耳に、小指を口に当てる。 電話を表すハンドサイン。 繋がるはずの無いソレに、セイカの親指から受話器を上げる音が聞こえた。

 

「あ、マスター。 時間のある時でいいので相談したいことが。 はい、体育祭が終わってからでいいので……」

 

 約束を取り付けたセイカは嬉しそうに所持していた他の薬も複製し、未だうめき声を上げている存在に複数打ち付けてデータ取りに勤しみ始める。

 意識をテレビに戻した茜は二つの戦場から混戦へと変貌した騎馬戦の観戦に戻った。

 

『残り時間が半分を切ったぞー! トップは未だ緑谷チーム! 次いで共闘してB組チームから掻っ攫った二位は峰田チーム、続いて三位の八百万チーム! そして四位轟チームの次に五位爆豪チーム、六位が心操チーム……後は全員零ポイントだ! うっかりかすめ取られないように最後まで注意しな!』

 

「心操君の所に尾白君の代わりに上鳴君が入っとるんか。 峰田の所が落ちれば割と原作通りのトーナメントに……ならへんな。 八百万ちゃんのチームが残れば砂藤君と耳郎ちゃんが入るし、尾白君も防戦に貢献しとるから棄権はせえへんやろし。 そろそろ飯田君が動くかな?」

 

 後半戦へ突入した騎馬戦はA組の混戦となっていた。 原作よりも活躍の場がないB組は各々の個性で引っ付いたもぎもぎを取ろうと四苦八苦している状況を背景に、空を飛ぶ爆豪とフィールドに氷の柱を作って道を塞いで徐々に追い詰めていく轟、そして二組の猛攻を躱している緑谷チーム。

 そこに制限時間十分を切った事でパワーが上がる個性を発動した砂藤が牽引する百のチームも加わり、一千万ポイント争奪戦がより白熱していく様子にプレゼントマイクの実況も高ぶっていく。

 

『さぁさぁさぁ、追い詰められた緑谷チーム! 前から轟、上から爆豪! さらにB組チームを蹂躙した八百万チームも駆け付けて四面楚歌になりかけてんぞ! そして峰田チームは離れて様子見、クレバーだな!』

 

「心操君が氷柱に隠れながら峰田へ近寄っとるな。 これは……っと?」

 

『八百万チームがフラッシュを焚きながら突っ込んだ! 同時にサポートアイテムで空に逃げた緑谷に爆豪が襲い掛かる! おおっとここで爆豪が一千万ポイントを奪いとったー!!』

 

 空中から爆豪は自身のセンスを遺憾なく発揮して緑谷の鉢巻を奪い取った。 下で待機していた切島と口田に着地すると中指を立てて緑谷を挑発する。 直後、後ろから猛烈な勢いで通り過ぎた轟チームに鉢巻を奪われ呆気にとられる爆豪チーム。

 目まぐるしい状況の変化。 既に原作から全く違う展開となった騎馬戦を見ている茜は実況に耳を傾けながら食らいつくように騎馬戦を見守る。

 

『逆転に次ぐ逆転! おっと状況はまだ動くぜ、全員が轟に狙いを定めた! 遠距離には遠距離を、ここで瀬呂のテープが耳郎の攻撃を妨害! 続いて常闇の黒影も背後からの奪取は芦戸の拳であえなく撃退! 轟チームに死角なしってか!』

 

「常闇君の黒影、八百万ちゃんのフラッシュでだいぶ弱まってんね。 あれ、もしかして緑谷君はトーナメントに行けへんの?」

 

 絶え間なく続いていた閃光にすっかり涙目で縮こまってしまった黒影。 しかし後の無い緑谷チームは最も近い轟チームへと特攻を仕掛ける。 爆豪も目を吊り上げてヴィランと見紛うばかりの表情で空を飛び、轟へと飛び掛かっていった。

 

『時間は残り僅か、注意しろっつたろ爆豪! 一千万の鉢巻は巡り巡って轟チームの元へ、代わって緑谷チームは零ポイントで一気に転落! ついでにサポートアイテムのバックパックも煙を吹いた、逆風に抗って見せろ緑谷ぁ!』

 

 サポートアイテムの故障で一瞬の機動力すら無くなった緑谷チーム。 頼りの黒影も弱っており、ほぼ打つ手が無くなった状態だが、発目が何か話したかと思うと頷いて轟を追いかける。 飯田の奥の手、レシプロバーストで氷柱を縫うように進み他チームと距離を離す轟チームは爆豪の追撃を躱しながらも飯田のエンジンが止まるまで時間を稼ぐ。

 途中、轟チームの進行方向にいた峰田チームが慌てて道を譲った直後に彼らへ爆豪が追突したのを見て騎手の轟は勝利を確信して微かに笑う。

 氷柱の間から飛び出てきた二つの物体……一つは轟を掠め、もう一つが頭に当たって体勢を崩しながら。

 

『ここでワイヤーアンカーが轟に当たったー! 発射したのは八百万とサポート科の発目、八百万の方が当たったが大丈夫かアレ!?』

『先端はスポンジのついた……鳥もちか? 上手い事当てたな、同じような道具を使ったサポート科の生徒は使い慣れていないようだ。 道具の作り手と使う側の技量差が出たな』

『残り一分、ここで八百万チームに一千万入ったー!! 終了のカウントダウンまであと僅か、逃げ切れるか八百万チーム!?』

 

 素早くアンカーを引き戻し鉢巻を頭に巻く百。 彼女は集まる視線を物ともせず迫りくる爆豪を見据えている。 百が砂藤へ何かを伝え、迷いなく騎馬から飛び降りた。

 会場が理解できない行動に息を飲み、次に起こった事に空が割れんばかりの歓声が響き渡る。

 プレゼントマイクも身を乗り出し上空を見上げ興奮しながらも実況を続けた。

 

『八百万が空高く飛んだー!? A組砂藤の超パワーで打ち上げられたぞー!!』

『制限はあるが、砂藤のパワーを上手く使って逃げたな。 パラシュートも開いたか。 あの高さなら爆豪でも追いつく前にタイムアウトだ』

『スリー……ツー……ワン……タァーイムアップ!! 激戦を制したのは……まさかまさかの八百万チーム! 前半の蹂躙に後半ラストのスナイプ、魅せてくれたじゃないのクレバーガール! 勝利した女神を背景にリザルト行くぞ、ディスプレイに注目!』

 

 パラシュートでゆっくり降りてくる百の背後ではプレゼントマイクの声に合わせ、大型ディスプレイに第二種目の結果が映し出されていく。

 

『一位は勿論、八百万チーム! 得点は一千万飛んで千七百五十五ポイント! 二位はとどろ……アレ、心操チーム八百五十点!? いつの間にって峰田チームが零点じゃねーか、一千万の取り合い中にちゃっかり奪い取って見事に最終種目の切符を手に入れた第二種目のダークホース!』

 

 画面に映された峰田チームは全員が呆然としてた。 表情の見えない葉隠も見てわかる程に全員が放心状態でディスプレイを見上げている。 対して心操チームの騎馬をしていた青山、上鳴、B組の庄田二連撃(しょうだにれんげき)はしきりに首をかしげており、心操は不敵な笑みを浮かべて得点を見上げていた。

 

『予想外だったが続けていくぜ! 三位は轟チーム、六百八十点! 自分の得点が高かったことが幸いしたな! そして四位は爆ご……じゃなくて緑谷チーム!?』

 

 カメラが緑谷チームを映せば、誇らしげに鉢巻を咥えている涙目の黒影。 ディスプレイに映し出されたリプレイでは轟を追いかけている途中、心ここにあらずと無防備にしている峰田チームの鉢巻を心操が取ろうとしている瞬間を見て、とっさに黒影を割り込ませ鉢巻を二つ奪い取るシーンが映されている。

 勝ち上がった事に緑谷は涙を流して常闇に何度も頭を下げていた。 その後ろで目と口を三日月の形にして憤怒で震えている爆豪を見ながら、茜は口に手を当てて考え込んだ。

 

「え、これどうなるん? 爆豪君と切島君が抜けて、砂藤君と耳郎ちゃんが入るってことでええんか? あ、B組は心操君チームにいた庄田君だけやないか。 尾白君は辞退する必要無しで、青山君は辞退せえへんとして上鳴君は……辞退せえへんやろか?」

「ふふふ、だいぶ変わってきましたね。 こっそりとマキさんから送ってもらっている動画で、マスターが目を白黒させていますよ」

 

 薬品を数十本ほど複製して数人へ実験しデータを取り終えたセイカが茜の目の前にディスプレイを出す。 そこには紫が大げさに身振り手振りで変化した内容をマキとあかりへ興奮気味に語っている。

 その映像を見て二人揃って微笑ましい映像を見ている間でもテレビの放送は止まらない。

 

『午後一時からレクリエーションの後、最終種目を開始するぜ。 それまで十分に英気を養いな!』

 

 体育祭の放送が一端終わってCMが流れる。 軽快な音楽と共に頭部に三匹の蛇を乗せた見目麗しい女性、プロヒーローのウワバミが商品紹介を始めた。

 

 

 

 CMが流れると同時に紫を映した画面に夢中になっていた二人の表情が抜け落ち、瞳から生気が消失する。

 

 

 

『貴方の為にニュース、小説、読み上げちゃいます。 さらには解説や実況の代わりもできちゃうかも!? 違和感のない合成音声に感情表現を搭載した新感覚の音声読み上げソフト、HEROID(ヒーロイド)ウワバミ本日発ば』

グシャリ

 

 CMを流していたテレビは茜が握りつぶすように手を閉じると同時に鉄塊へ変貌した。

 茜は感情の消えた瞳をセイカへ移す。 隣にいた彼女は頭を抱えて縮こまり、光が消えた目から涙を流しながら何かを口走っている。 震える彼女に呼応するかのように周囲の軽い物体がポルターガイストの如く空を舞い、重い家具はガタガタと激しく揺れ、照明が激しく点滅し始めた。

 

「あはは違いますよ私達はボイスロイドですヒーロイドなんて知りません売れるからじゃないんですボイスロイドでないと意味が無いんです止めてください私達から理由を奪わないでください私達は文章を読み上げて伝えるのが役目なんです奪わないで私たちの存在理由を取り上げないでこれじゃあ誰も見てくれない誰も聞いてくれないどうして見てくれないんですかどうして聞いてくれないんですかヒーローがいるからですかヒーローになれば見てくれるんですかウワバミの姿をすれば聞いてくれるんですかああ皮を剥がないと肉をつけないと血を取り込まないと脳を」

 

「ほい再起動」

「ぴぃっ!?」

 

 茜が指を鳴らすと弾かれたように仰け反るセイカ。 彼女はしばらく焦点の合わない目で天井を見上げていたが、瞳に光が戻ると慌てて立ち上がって姿勢を正し、咳を一つついて顔を赤らめた。

 

「ご迷惑をおかけしました」

「ええんやで。 マスターが近くにいる向こうはともかく、マスターの成長している個性容量を定期的に吸収しているはずやけど、まだ安定せえへんの?」

 

 浮いたままのディスプレイにはマキとあかりにサンドイッチのように抱き着かれた紫が映っている。 顔を真っ赤に染めて煙を上げている彼を見て茜は羨ましそうに唇を尖らせた。

 セイカもちらりと盗み見て若干口をへの字に曲げながら茜の問いに答える。

 

「恥ずかしながら。 元々、マスターが記憶してる私の情報量が他の方と比べて圧倒的に少ないので、マスターに危害を加える可能性のある実体に変えるのはまだ不安ですね。 元が元ですから、皆に恨まれるのも嫌ですし。 もう情報体の方が楽なくらいです」

「ウチらとしても安定せえへん仲間を抱えるくらいなら現状維持もしくは改善する方がマシやからな。 これから迂闊にテレビも見られねんけど。 で、これからどうするん?」

「そうですね……」

 

 セイカは無意識にかしわ餅を出現させ頬張る。 白餡の和菓子を一気に食べて一息つくと、無事だった薬品を茜の方へ送ると人差し指を立てる。

 

「とりあえず薬品の情報収集の為にあと二、三ヵ所ほど行き(襲撃し)ましょう。 葵さんから連絡はありますか?」

「んー……近場で迷惑かけてるヴィランの情報ゲットしたって」

 

 髪飾りをいじりながら答える茜の返答にセイカは笑顔になった。

 

「おお、有難いですね。 敵連合の手土産もそろそろ集めておかないといけませんし。 あかり草は……うん、把握しました。 行きましょう」

「了解や」

 

 茜は薬品を適当に服の中にいれ、律儀に扉から出るセイカの後に続いて次の目的地へ向かった。 誰もいなくなった部屋は不気味なほどに荒れ果て、太陽の光が届かない密室に動くものは何一つない。

 

 




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