VillainのVはVOICEROIDのV   作:捩花

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感想でも突っ込まれてましたが不自然に思った事などはどんどん書きこんでください
何度も文章を読み直していると「これでいいんじゃね?」
と脳がマヒしてくるので本当に有難いです


Voice15 トーナメント第一回戦 七試合目と八試合目

 一回戦の六戦目。 常闇踏陰と八百万百の対戦はあっけなく終わった。

 百が開始と同時に先手を取って閃光手榴弾を複数投擲する。 意図せず個性の弱点を突いて予想以上に弱体した黒影(ダークシャドウ)と目を眩ませた常闇もろとも鳥もちで動きを封じ、頭以外が鳥もちまみれになった彼らを見て、主審のミッドナイトは戦闘不可能と判断し百の勝利を宣言した。

 常闇は強個性であると認識していた百にとって呆気ない勝利。 個性の弱点を明かした常闇へサラダ油を使って鳥もちを引きはがし、一礼してからお互いが入ってきた入場口へ戻り観戦席へ向かった。

 帰ってきた百と入れ替わりで選手控室へ向かう麗日お茶子と耳郎響香、彼女たちは常闇を完封した彼女を称えた。

 

「お疲れヤオモモ、すごかったじゃん!」

「本当本当! あの常闇君をあっさり倒しちゃった!」

 

 試合に勝ったものの、強敵に勝利した実感の無い百は彼女達と自分の温度差に戸惑いながらも言葉を返す。

 

「有難うございます。 でも、まさか光で黒影さんが弱まるとは思いもせず……」

「知ってても対処できる人は少ないし胸張っていいと思うよ。 アタシ達は次だから行ってくるね」

「じゃあね八百万さん! あ、爆豪君が結構いら立っているから今は近づかない方がいいよ」

 

 戦う前にも関わらず和やかな雰囲気で去っていく二人。 小さく手を振り見送ってから観戦席へたどり着いてみれば、爆豪の近寄りがたい雰囲気がトーナメント開始時よりも目に見えて広がっている。 百は忠告通り離れて爆豪以外のA組が固まって座っている席へ向かうと、勝利を祝うクラスメイト達にあっという間に囲まれた。

 同級生の中では爆豪との距離が一番近い切島鋭児郎に声をかければ、彼も困ったように鼻の頭を掻いて爆豪へ声が届かないように小声で喋る。

 

「一位になるっつー啖呵切っといて予選落ちだから、達成できなかった自分に苛立ってんだろ。 あいつと幼馴染の緑谷が言ってたけど、滅多にない事だけど目標達成できなかった時には今みたいになるらしいぜ」

 

 そう言って切島が緑谷に顔を向けると、彼はコクコクと首を上下に動かした。 プライドの高さ故にハードルを上げた結果、そのハードルにすらたどり着けなかった彼が浮かべる般若の如く歪んでいる顔を見て百は表情を引きつらせる。

 歓声の音量が上がり、次の試合が始まろうとしている事に気づいてステージの中央へ目を向ける。

 クラスメイトの砂藤力道とB組の庄田二連撃は向かい合い、互いにファイティングポーズをとって開始の合図を待っていた。

 会場も緊張する中、プレゼントマイクが前口上を述べて戦闘開始を宣言する。

 

『第二種目をトップで切り抜けたチームの立役者、パワーボーイ砂藤力道(さとうりきどう)! 対するはB組の看板背負ったラストバトラー、庄田二連撃(しょうだにれんげき)! どんな試合を見せてくれるのか……刮目しろよ! 第一回戦七試合目、START!!』

 

開始の合図と同時に両者が駆け出す。 庄田の個性を知らない砂藤は先手必勝とばかりに個性のシュガードープを使ってパワーを強化、相手との距離を詰めて投げ飛ばそうと手を伸ばす。

 その手を丸っこい見た目よりも予想以上に素早く動いた庄田は、会場からも驚くような声が上がる身のこなしで砂藤の腕を躱し、拳を振り切ってがら空きになった脇腹に正拳を放った。

 しかし庄田の拳は体格のいい砂藤の体を多少揺らす程度の威力。 砂藤は再び庄田の体を掴もうとするが、当たるどころか掠める気配もしない。 その間にも何度も庄田の拳が砂藤に当たってはいるが、決定打とは言い難い威力で優勢に傾かない。

 端から見れば泥沼にも見える格闘戦を見守る百。 その後ろから芦戸三奈がタオルを肩にかけて戻って来ると、自分の試合の後で戦っているはずの百の姿と既に始まっている試合を見比べて驚いた。

 

「あれ、もうヤオモモの試合終わった!?」

「は、はい」

「はっや、汗を洗い流していたから気づかなかった! しかも勝ってるじゃん、常闇に苦戦しなかったの!?」

 

 再び質問攻めにあう百を余所に、スタジアムの中央で戦っている二人は早くも疲弊の色を浮かべながら対峙している。 方や個性を連続使用して全力で捕まえようと腕を振るっている砂藤、方や身軽に避けて移動しながらも倒すには力不足の打撃を繰り返す庄田。

 動かない状況に観客も気を抜き始めた所、砂藤の振るう腕が大きく空振った。 思考能力が鈍った彼は態勢を整えるべく後ろへ飛んで距離を取る。

 急に動きが悪くなったその姿を見て庄田は拳を構え直し口を開いた。

 

「君のふらつきを見るに、個性の連続使用は体に負担がかかるみたいだね。 そしてその位置……僕の勝ちだ!!」

「何!?」

 

 腕を交差させながら砂藤が素早く目を動かし自身の位置を確認する。 彼はいつの間にかステージの端から数歩の所にいるのを理解したものの、相手がわざわざステージ端へ誘った意図が分からず全身に力を入れて防御態勢を取る。

 しかし庄田の取った行動はその場から動かずに拳を突き出し、自身の個性を発動させた。

 

「ツインインパクト、連続開放(チェインファイア)!!」

 

 動かぬ庄田に怪訝な顔をする砂藤。 直後、突然彼の体が跳ねる。

 

「うっお!?」

 

 驚きに声を上げる間にも不意に訪れる衝撃が砂藤を襲う。 端から見てもいきなり体を揺らし始めた砂藤に会場全体がどよめきを上げた。

 しかし困惑する会場とは反対に、焦りの表情で砂藤は庄田から受けた攻撃よりも強い衝撃を後ろに下がらないよう必死に耐えている。

 ここで砂藤の個性に存在するデメリットが決め手となった。 連続使用によって普段より判断能力が低下した砂藤はいつ訪れるかわからない衝撃に警戒する事に意識を向け、僅かずつではあるがステージ端へと下がっていく事にすら確認する余裕がなく、全力で走ってくる庄田に気づくのが遅れて腹部へ飛び蹴りが吸い込まれるように打ち込まれた。

 腹部への攻撃とほぼ同時に個性の衝撃が砂藤を襲い……戦闘ステージの場外へと吹き飛ばされて倒れる。

 

『Finish! 戦いを制したのはB組、庄田二連撃だー! ……あん? どんな個性だって顔してるやつ多いな。 ま、次があるから二回戦目までに想像力掻き立てておけ!』

 

 

 歓声が沸き上がる中、プレゼントマイクのアナウンスを聞いて砂藤は倒れたまま脱力し深く息を吐いた。 そこに彼の顔を覗き込んで手を出す庄田を見て砂藤はぽかんとした表情を浮かべた。

 流されて手を取り立ち上がると、庄田は取り合った手を解いて拳を突き出した。

 

「お互い、まだまだ足りないところばかりだ。 でも、来年は僕が文句なく勝って見せるからね」

「……へへ。 その言葉は一言一句お前に……いや、B組に返してやるぜ」

 

 お互いの拳をぶつけるその光景を主審のミッドナイトが恍惚の笑顔で眺めている。

 背を向けて入場口へ消える二人に歓声が送られる中、セメントスによるステージの点検が終わるとプレゼントマイクのアナウンスに合わせて次の対戦相手である響香と麗日が入場した。

 

『フィールドは荒れなかったから巻いていくぞー! ポーカーフェイスの下に隠れた情熱を見せてみろ、ヒーロー科A組耳郎響香! 対してのほほん笑顔でどこまで食らいついていけるかお手並み拝見、同じくヒーロー科A組麗日お茶子! 第一回戦最終試合、華やかに始めるぜ! Go get'em(勝利を勝ち取れ), girls(女の子)……Start!』

 

 開始宣言に響香と麗日は向かい合ったまま動かない。 ひとつ前の試合とは真逆の静かな出始めに会場が息を飲んで見守る中、先に動いたのは響香だった。

 走って距離を詰める響香に麗日は腕を曲げて腰だめに拳を構える。 響香は拳の届かない距離で急ブレーキをかけると、麗日へイヤホンジャックを左右逆に波立たせて襲い掛かる。

 迫りくるイヤホンジャックを一つは手の甲で払い、もう一つは体を捻って躱すと麗日は後方へ小さく飛んで距離を取った。 響香も追撃を行わず、麗日と同じく後ろに下がり相手の様子を伺っている。

 再び膠着状態になった試合にプレゼントマイクが場を持たせるべく実況を挟んでいく。

 

『襲い掛かる攻撃を辛うじていなし、お互い距離を取って再び睨み合い! かなり慎重に動いているがどう思う、ミイラマン!』

『互いに個性を知っているからな。 どちらも一撃入ればそのまま負けになる可能性が高い、故に相手の一挙一動に注意を払っている。 二人とも条件はあるが、最終的に相手を無力化できるから派手なのは期待するな』

『ヘイ、耳郎は音の振動をイヤホンジャックから放つのは知っているが、麗日は慎重になるほど使いづらかったか?』

『麗日の個性発動条件は掌にある片手の指先全部で触れたものを無重力にする。 ひとつ前の砂藤や庄田なら肉弾戦を挑んでくる分当てやすいが、今の耳郎は無闇に接近せず個性の発動できるイヤホンジャックで攻めている。 親指程度の太さを片手の指先全部で触れる場合を考えてみろ』

『掴みにくいな! 摘まむか親指を意識して伸ばさないと触れられねー! でも掴んじゃえば変わらなくね?』

『場所による。 イヤホンジャックが曲がっても動かない場所を掴まないと刺されるぞ』

 

 試合の動きが無いため解説と化した実況を聞きながら、上鳴がふとトーナメント表を映しているディスプレイを見て隣に座る緑谷へ声をかける。

 

「つか緑谷。 お前次の試合じゃね?」

「え? あ、そうだごめん行かなきゃ!」

 

 すっかり試合を凝視していた緑谷が慌てて控室に向かう彼と入れ替わりに常闇が戻ってきた。 さっぱりしている彼を見て、百は鳥もちを取る為にかけた油が取れているのを見てホッと息を吐く。

 

「対戦有難うございました、常闇さん。 べとつくところはありませんか?」

「問題ない。むしろ自身の未熟さを痛感した。 黒影に頼り切りでは弱点を突かれた時に俺が足手まといになるのは憂うべき事。 対処法もしくは弱点の克服を考えなければならない。 進むべき先を見せてもらい感謝する」

「ど、どういたしまして?」

 

 試合に負けたにも関わらず感謝で頭を下げる常闇。 どう対応していいか分からず百は生返事を返す。

 常闇が席に座ると状況が動いたのをプレゼントマイクの放送で気づいて試合へと視線を戻す。 そこには麗日が響香のイヤホンジャックを掴み宙に浮かせ、響香を場外へと落とすべくステージを走っていた。

 

『これは決まったか!? 麗日の個性、無重力で耳郎が浮かび上がったー! イヤホンジャックをガッチリ掴まれ引っ張られながらこのまま為すすべなく場外へ……っと耳郎が麗日へ接近、無重力を利用して上空から体当たりだー!』

『イヤホンジャックを引っ込める反動を使ったな。 相手を視界から外している麗日は油断しすぎだ、個性を使う場合は逆に使われる可能性も考えなければ、まあこうなる』

『耳郎が突撃! 麗日気づいたが回避が間に合わずモロに入った! そのまま二人で場外ー! 判定はどうなるミッドナイト!』

 

 どちらが勝者なのか、主審のミッドナイトに視線が集中する。 彼女達が落ちた場所は丁度ミッドナイトの目が届く場所だったため、結末を見届けた彼女が手を天に掲げ判決を出した。

 

「先に場外へ体が着いたのは麗日さん。 よって耳郎響香の勝利!」

 

 歓声沸き起こる会場。 A組もそれぞれが称賛の声を上げる中、トーナメントを勝ち上がり第二回戦を控えた選手たちは次の戦いに備えて気合を入れなおした。

 

 




感想、指摘、誤字報告有難うございます

ヒロアカ外伝、チームアップ読みました
ネタバレは控えますが、やっぱり描写は少数の方が各々の立ち方がしっかり見えていいですね
とても楽しかったです

感想を纏めるならば原作でやってほしかった
学友とのやり取り中心にヒーローのいる社会を描写しながら一話ずつ進めていき、途中途中で敵連合や野良ヴィランが割り込んでくると思っていたUSJのあの頃……
口田君や障子君達が何時スポットライトが当たるのが待ち遠しいです

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