VillainのVはVOICEROIDのV   作:捩花

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Voice16 保須市に踊る英雄殺しと葵色の影

 年に一度の大祭り。 しかし日本の国民が全員集まっているはずもなく、己の仕事を全うする働き者達が今も国を支えている。

 人気(ひとけ)の少ない電車に揺られながら青い髪飾りを着けた少女、琴葉葵は窓から見える景色をぼーっと眺めていた。 敵襲撃の影響で多くのヒーローが体育祭の警護へ呼ばれた影響か、密かに葵を監視していた人達の視線が今日は消えている。

 ヒーローの目が無くなった事で京町セイカに呼ばれ、手伝ってほしいと頼まれた内容はヒーローがあまり寄り付かなさそうなヴィランの拠点を探してほしいとのことだった。

 尤も、目的のほとんどは既に達成してるのだが。 都市部に潜んでいる都合のいいヴィランは根こそぎ洗い出し、後は必要な時に襲撃するだけなので葵はやることが無くなり東北じゅん狐堂へと帰る途中だった。

 景色を瞳に映しながらも頭の中を空っぽにしている葵。 その耳に同じ車両で騒いでいる男子学生達の声が入り込む。

 

「次の試合はどいつら?」

「筋肉ムキムキと丸っこい奴」

「どっちが勝つか賭けよーぜ、負けたらジュース一本ずつな!」

「俺、筋肉で!」

「俺もー!」

 

 騒いでいる中、立場の低い男子が強制的に誰も賭けていない方へ賭けさせられている風景を見ながら、葵は早く目的地へ着かないかと案内モニターに視線を移す。

 そこで、漫画で見たことのある市名を見つけて目を見開いた。

 

保須市(ほすし)……保須市!?」

 

 葵は思わず口に出してしまい、学生の視線を感じて慌てて明後日の方を向く。 体育祭とセイカの手伝いばかりに意識が向いていたが、葵は次の舞台となる場所を思い出してどうしようかと口に手を当てて悩む。

 

(そういえばすっかり忘れていたけど、そろそろスタンダール……じゃなくて英雄殺しのステインがインゲ兄さん……インゲニウムを襲撃する頃だったっけ。 というか体育祭の今日が襲撃する日!?)

 

 マスターである紫の記憶を引っ張り出してみれば、A組の飯田天哉が轟焦凍と対戦していた時に飯田の兄でヒーローでもあるインゲニウムが襲われた事が発端で、職場体験にて保須市を中心に英雄殺しとの物語が始まる切っ掛けの事件が起こる日。

 本来であれば彼女は関わる必要の無い場所でもある。 自分たちの活動には関係ない相手であるし、関わったことで物語がどう転がっていくのかわからない以上、過剰に接触してもリスクはともかくリターンがどうなるかわからない。

 事実、活躍の場を増やすために八百万百と耳郎響香へ介入した結果、爆豪勝己は最終種目へ通ることが叶わず観戦席に座ったままとなり、反対に辞退するはずだったB組の庄田二連撃がトーナメントに参加する等々、本筋を知っているならばどうしてこうなったという状況である。

 しかし、介入によって元々の物語が変化しようともボイスロイドと名乗る少女たちは気にもしない。

 

(マスター、ヴィジランテも好きだったよね。 なら、インゲニウムは無事だったら喜ぶかな?)

 

 彼女達の活動理由は全てマスターである紫がどう反応するかにかかっている。 故に自分たちの思い描く筋書よりも大きなズレが発生しない限りは勝手気ままに世界をかき乱す。

 葵は額に手の甲を当てて目を閉じた。 真っ暗な彼女の視界には以前に分散しておいたあかり草の群れが見ている景色を映し出され、保須市に生えている個体からインゲニウムとステインを探し始める。

 

(……いた)

 

 探し人の姿はすぐに見つかった。

 韋駄天ヒーロー、インゲニウム。 フルアーマーのヒーロースーツを身に着けながら見回りをしている姿が視界に入り、まだ襲われていない目標を確認した葵は目をゆっくり開ける。

 案内モニターを見上げれば、次の次で保須市に止まるのを確認して腕を伸ばす。 急遽決めた予定をこなすべく、紫がどのような反応をしてくれるか思い浮かべながら体を解して停車駅までの時間をつぶした。

 

 

 

 

 

 

 保須市の小道、車一台がやっと通れそうな幅の路地裏。 祭りの日という事で普段よりさらに人気の少ない場所で、肩にINGの文字が書いてある全身鎧を身に着けたヒーローが地面に倒れている。

 彼はほんの僅かにしか動かない体を震えさせながらも近寄ってくる足音の聞こえる方を睨みつけた。 視線の先には包帯状のマスクを身に着け、赤いマフラーと血が滴るナイフをゆらゆらと揺らしながらヴィランが近づいてくる。

 マスクから除く充血した目は倒れているヒーローを見下ろし、ナイフに付着している血を振り払ってしまうと口を開いた。

 

「少々手こずったが、所詮は贋作。 真のヒーローでなければ俺を殺すことはできない」

「ここまでの手練れとは、ヒーロー殺しのステイン……!!」

 

 インゲニウムが絞り出すように声を上げるとステインはヒーローの背中を踏みつけ、背中から刃こぼれした刀を引き抜く。

 

「これは歪んだ社会に対する警告だ。 貴様にはメッセンジャーになってもらう。 ハァ……まずはその個性を潰させてもらおうか、二度とヒーローと名乗れぬようにな」

「……!!」

 

 インゲニウムの腰に狙いをつけ、位置を調整し腰椎(ようつい)を狙って切断しようと試みるヴィラン。 逃れる事ができないヒーローは次に来るであろう苦痛に体を強張らせた。

 

「さらばだ、贋作のヒーローよ」

 

 インゲニウムは恐怖に目をつぶる。 逃れられない凶刃の痛みを覚悟した瞬間、表通りから突風が吹いた。

 同時に背を踏みつけていた重さも消え、目を開けてみればステインが風の吹き去った方へ飛び退き武器を構えている姿が見えた。 同時に頭部へ衝撃が走り、インゲニウムの意識は闇へと沈む。

 邪魔をされたステインは割って入ってきた闖入者(ちんにゅうしゃ)を睨みつける。

 気絶したインゲニウムとステインの間に立つ人物は、正に珍妙という他なかった。 首元しか肌が見えない北国の軍服とも見える厚手の衣装、頭には額部分にVと刺繍された耳あてのあるロシア帽子、そして顔には表情が見えないガスマスクを身につけた小柄の人間が仁王立ちしている。

 後頭部に見える髪飾りらしきもの、そしてガスマスクと帽子の間から垂れる青色の髪をみれば恐らく女性だろうと推測できるが、ステインは視線を敵対者の持つ武器に向けながら刀を構えた。

 一陣の風を起こしステインの私刑を遮った巨大な三叉槍(トライデント)のような武器。 柄と刃を合わせれば所有者の倍はある長さで先端の刃は三つに分かれ、刃の半分から根本まで装飾が施されており槍の突き刺す機能が損なわれている。 元々は観賞目的の美術品であろう美しさを持つ長槍、それを軽々と扱う相手にステインは睨みつけながら愚痴を吐いた。

 

「ハァ、いい所で……ヒーローかヴィジランテか。 どちらにせよ邪魔するならば貴様も殺す」

「……」

 

 無言で槍を構える相手に合わせてステインも腰をかがめ戦闘態勢をとる。

 乗用車一台分より少し大きい程度の横幅で建物の壁がある一本道。 長物を使用するには狭すぎる場所で先に動いたのは介入者だった。

 数歩で距離を詰めて素早く槍を突き出す。 ステインは上に飛んで躱し、数本のナイフを指に挟んで構える。

 敵対者は間髪入れず、ステインが飛んだ後を追って槍の穂先が弧を描いて敵を切り裂かんと振り上げられた。

 

「っちぃ!」

 

 小枝でも振るうような素早い挙動にステインは舌を打ちつつも背を勢いよく仰け反らせる。 動きの制限される空中で体を曲げることにより、僅かに浮いて高さが上がった靴裏を撫でるように刃が掠めた。 そのままステインは一回転して手に持ったナイフを投げつける。 敵対者は石突きで払いのけるが、一本だけ対応できずに左腕へと突き刺さった。

 今度はステインが距離を詰めて刀を突き出す。 敵対者は柄で受け流すが、ステインは空いた片手を伸ばし敵の腕に刺さっているナイフを抉りながら抜き取る。 敵対者は僅かに身を引いて柄を短く持ちなおし、穂先をステインへ叩きつける。 が、即座に離れたステインには届かず地面に打ち付ける音だけが響いた。

 再び向き合う両者。 ステインは一滴の血すら流れていないナイフを握り直し相手を睨みつける。 

 

「動きは素人同然だが面倒な個性……肉を抉る感触はしたが一滴も血を流さないのは想定外だ」

 

 相手の血を舐めることで動きを封じる個性を持つステイン。 搦め手でもあり決め手の個性が通用しない相手を睨みつけ、億劫になっていると敵対者がガスマスク越しに聞き取りにくい声を発した。

 

「面倒事に対策をするのは当たり前でしょ。 だいたい力量差が分かったし、そろそろ終わりにするね」

「女……いや子供か? どちらにせよ、お前ではオレをどうこうすることはできない。 ハァ……さっさとここから立ち去れ」

 

 言葉は聞こえるものの、声がこもっている為にはっきりとした性別が判断できない。 声の高さから女性もしくは少年であると推測したステインは僅かに首を傾げながらも敵対者を睨みつける。

 表情の見えない相手は穂先の根元に手を添え、勢いよく手前へ引っ張った。 金属がぶつかり合う音と共に三叉槍が巨大な剣へと変貌し、狭い空間で軽々と片手で振り上げる。

 ステインが身をかがめると同時に、闖入者は斬撃が届かない距離にも拘わらずその場で全身を使って自身の背丈よりも大きい剣を縦方向に回し始めた。

 

「器用に回すものだな!」

 

 敵対者が剣を振り下ろせば、槍で放った疾風の一撃とは比べ物にならない暴風が巻き起こる。 ステインはすぐさま近くの壁へ張りつくが、それでも浮き上がりそうになる体に全体重をかけた。 巨大な剣が回転するたびに放たれる烈風に煽られながら、背後へ転がっていくゴミが奏でる騒音を聞きいてため息をついた。

 

(ここまで騒がれたならば、他のヒーロー達も寄ってくる。 逃げ時か)

 

 ステインがこの場から離れようと決心した時、敵対者は剣を地面へ叩きつける。 アスファルトを軽々と砕きながら放たれた衝撃波に合わせて後方に飛んで衝撃を和らげながら、風に身を乗せて路地裏から飛び出しビルの陰に消えていった。 

 大剣を振り下ろした人物は静かになった路地裏を見つめ、誰もいないことを確認してため息をついてマスクを外す。

 同時に身に着けていた軍服と武器が虹色の帯となって虚空に溶け、普段の姿に戻った琴葉葵はナイフの刺さっていた左腕をさする。

 

「やっぱり個性抜きじゃ敵わないか。 んー、少しは体の動かし方を覚えた方がいいかなぁ……っとインゲニウムを起こさなきゃ」

 

 小走りにインゲニウムへ歩み寄って体をゆする。 暴風で砂埃まみれになっているヒーローが目を開け、頭を抑えながら立ち上がった。

 

「俺は……あれ、君は? って何だこの状況は!? ステインは何処に!?」

 

 葵に気づいたインゲニウムは裏路地の酷い有様に驚き、彼女を背に庇いながら先ほどまでいたはずのヴィランを探す。 そんなヒーローに葵は腕を突いて視線を向けさせ、彼女は表の活動に支障が出ないよう作り話を伝えた。

 

「先ほどすごい音がしたので気になって見に来たんですけど、私が着いた時には誰もいませんでしたよ」

「……そうか。 君がヴィランに襲われなくて良かった! 可愛い子がこんな裏路地に来ると危ないから、次からは異変を感じたら警察かヒーローに任せて入らないようにしよう!」

「はーい」

「はっはっは! さあ、表通りに行こうか!」

 

 朗らかに笑うインゲニウムに連れられて裏路地を出た。 先ほどの地を裂くような音を聞きつけた野次馬達が道の入り口を遠巻きに囲っている。 さらには他のヒーローや警察も集まっており、出てきたインゲニウムは警察から事情聴取を受けた。

 葵も事情聴取を受け、ステインや路地裏の惨状は知らぬ存ぜぬで押し通し警察から解放されると一つため息をつく。 すると目の前にお茶の缶が差し出され、振り向けば両手に缶を持つ素顔のインゲニウムこと飯田天晴(いいだてんせい)がそこにいた。

 

「お疲れ様。 好みがわからなかったからお茶を選んだけど、どうかな?」

「ごちそうさまです」

 

 葵は頭を下げて受け取り口をつける。 飯田天晴も自分の缶を開けて喉を潤した。 二人がお茶を飲み終わると、彼は空いた缶を受け取りビニール袋に入れて片手を上げる。

 

「今日は災難だったね。 帰り道にヴィランを見つけても近づかないよう気を付けて」

「ご忠告、ありがとうございます。 ヒーローさんもお気をつけて」

 

 葵は一礼すると最寄りの駅へ向かって歩き出した。 ヒーローからは見えない彼女の表情は仕事をやり切った顔で、足取り軽く帰り道を進んでいく。

 ふと空を見上げれば緑色のスーツを着た女性、京町セイカが空を飛びながら葵に向かって手を振りヴィランの住処へ向かっていくのが見えた。 葵も小さく手を振り返し、ふと自分の行った行動で影響が出るだろう今後の事へ思いを馳せる。

 

(これからどうなるかな。 でも保須市はあまり変えすぎると主人公組の成長に影響が出そうだし……皆に相談してみよ)

 

 帰り際に葵は雄英体育祭の進み具合を確認するため、電柱に寄りかかりながら携帯電話を開いて公開されている情報に目を通す。 第二回戦の一試合目と二試合目は原作通り轟と飯田が勝ち上がり、三試合目が始まろうとしているところだった。




感想、誤字報告有難うございます

早くインターン編が書きたい


以下蛇足

・大剣に変形した三叉槍の元ネタ
武器名エッケザックス。 騎空士ではなくFEの方の武器。
回転王で検索すればその姿が拝める浪漫武器。
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