VillainのVはVOICEROIDのV   作:捩花

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Voice18 雄英一年 決勝戦/介入準備

 ステージの中央、轟焦凍と八百万百が向かい合う。 他の学年よりも一足早い、雄英高校一年生の決勝戦をプレゼントマイクが宣言した。

 

『いよいよラスト! 雄英一年生の頂上を決めるファイナルバトル! 轟対八百万の戦いが今、START!!』

 

 合図とともに轟は巨大な氷を百に向かって解き放つ。 あっという間に氷の津波はフィールドを飛び出て、会場へ届きそうなほどの氷塊が彼女の姿を簡単に飲み込んだ。

 最初の試合と同じ規模の攻撃にプレゼントマイクが声を張り上げる。

 

『いきなりぶちかましたぁ! 瀬呂の時と同じ出力とか容赦ねえな!』

 

 氷の冷気で冷えた会場が静寂に包まれた。 一方的な蹂躙、クラスメイトでさえ勝者が決まって盛り上がる事よりも、氷漬けにされた少女の安否に意識が向いている。

 誰もが刹那で勝敗の決まった試合だと思い、主審のミッドナイトに視線が集まる。 彼女は氷塊に映る影を凝視しながら手を高く上げた。

 

「テンカウント以内に動きが無かった場合、轟選手の勝利とします。 テン、ナイン、エイト……」

 

 誰もが無意味と思われるカウントに、ミッドナイトは氷の中に一メートルの金属板の影にできた空間で、何かを作り続けている彼女を見ながらカウントダウンを続ける。

 

「フォー、スリー、ツー」

 

 残りツーカウントの所で氷塊の上部の一角が轟音と共に爆ぜた。 蒸気が漂う白い煙の中から物々しい金属でできた手が氷を掴むと、両手には第一種目で使っていたアームハンド、顔には遮光グラスを身に着けた百が現れ、会場は驚きと歓声の声が響き渡る。

 

『これは……氷の壁を逆に利用して時間稼ぎ、その間に物々しい武装で再エントリーだぁ!!』

『閃光手榴弾を警戒して広範囲を選んだのだろうが、視界を遮ることで相手を確認することができず、八百万に準備する時間を与えることになったか』

 

 プレゼントマイクと相澤の実況が終わると同時に両者が動いた。

 百を確認した轟が再度、右手を振りかぶって氷を生み出そうと構える。 同時に、百は右腕のアームからワイヤーを氷塊から生えている棘のような柱へ射出した。 再び氷が襲い掛かる前に百が左腕のアームから何かを轟に向かって打ち出し、右腕のワイヤーを巻き取って横へ飛んだ。

 転がってくる物体を轟は一瞥すると、地面に着けたままの手から二度目の氷を生み出して迫ってくる物体を巻き込んで百を狙う。

 

「閃光手榴弾……面倒だな!!」

 

 彼女の戦闘を見ていればもはや見慣れたと言ってもいい、転がってきた物体を包み込むと同時に四つが次々に爆発した。 氷を砕く程の爆発力は無いそれらから視線を外し、百を探すと地面に降りた彼女が再び閃光手榴弾を放り投げてくるのを見つけ、三度目の氷撃を放つ。

 今度は逃げきれず、手榴弾と一緒に左腕を氷漬けにされた百だが、腕を強引に動かして隙間を作ると、アームを脱ぎ捨ててその場を離れる。

 轟がその隙を見逃すはずもなく、氷撃を放って無力化を狙う。 が、大出力の後に連続使用を行った弊害で、震える体で放った氷の波は、百が最初に轟の攻撃で生まれた氷塊に向けて移動用ワイヤーを放ち、飛んで逃げる彼女を捉えることができなかったのを見て彼は顔を歪める。

 

『先に当てた方が勝利のじゃんけん勝負だな』

『白熱した一戦だ! 氷溶かすくらいヒートアップしていけよ!!』

 

 プレゼントマイクの台詞で観客たちが前評判を覆している百に声援を送る。 A組のクラスメイト達も二人に声援へ送る声を背に、轟は五度目の氷を彼女へ放つ。 今度は手の大きさ程度に絞り百を捕まえようと放った攻撃だったが、思ったより速度の上がらなかった攻撃を彼女はワイヤーを使って先ほどと同じように避けた。

 轟の攻撃が遅くなった事に気づいた百は立ち上がると、アームハンドを構えながら疑問を投げかけた。

 

「轟さん、動きが鈍いようですが……私では貴方の、本気の相手にはならないのですか」

 

 彼女は轟の弱点に気づいていない様子で一挙一動を警戒している。 事実、緑谷との激戦では押されている彼を百は見ていたが、彼は今まで弱点の片鱗を見せなかった為、そして緑谷と会話する機会の無かった彼女には氷撃の使い過ぎで体の動きが鈍るという推論までたどりついていなかった。

 ぼそりと百が呟く。

 

「……私では、全力で相手するほどではないという事ですか」

「……?」

 

 轟が風に消えそうな百の声を聴いたと同時に彼女は右手を突き出す。 装備されたアームが展開してボウガンのような姿になると、百は腰にぶら下げているアームハンドと同時に作り出していた、網目状の球体をボウガンにつがえて放つ。

 轟は手をついて等身大の氷壁を作り出す。 発射された球は途中で広がり、投網となって壁にぶつかった。 轟が壁から顔を出して様子を見ると、今度は棒状の矢をつがえて撃ち出してきたのですぐに身を引っ込める。 数発ほど同じような間隔で壁を砕く音がした後には聞こえなくなったので、攻勢に移ろうとした轟の頭の上に網状の影が落ちてきた。

 

「っちぃ!!」

 

 被さる投網に氷の柱を作って凌ぐ。 氷柱(ひょうちゅう)に被さった投網を見上げ、轟はすぐに百の方を見て……姿が見えない事に気づく。

 即座に周囲を警戒する轟の目の前にカツンと何かが落ちてきた。 物体を認識したのと同時に閃光と轟音が轟を襲い、彼が手と膝をつくのを確認して百が氷柱から降りてくる。

 ボウガンで近づきながらも発射間隔をずらし、あたかも元居た場所から攻撃しているように見せかけ、投網を上から投げて現れた氷柱を登り身を隠した。 見失った彼に地面にぶつかる衝撃で起動する閃光手榴弾を落とした百が身動きの取れない轟の目の前に立った。

 

『八百万、相手の攻撃を利用して追い込んだー! こりゃ勝負決まったな!』

 

 プレゼントマイクの言葉に誰もが勝負が終わったと思った瞬間、轟は俯いたまま右足から氷を生み出して至近距離にいる百を包み込んだ。

 

「なっ……しまった!?」

 

 百は意表を突かれて逃れることができず、下半身は完全に封じられて身動きが取れなくなってしまった。

 轟を見れば、耳には氷でできた耳当て。 完全ではないが、音の攻撃を凌いだ彼は姿を現すであろう百を地面についた手から感じる振動で探しだし、感知した瞬間に彼女に攻撃を仕掛けた。

 百はそれでも諦めず、左肩から閃光手榴弾を生み出そうとするが、轟の追撃で頭部以外を氷で覆われてしまい完全に動きを封じられてしまった。

 

「ま、まだ……!」

「これで決めさせてもらうぞ」

 

 轟は目が見えないままでも、最後の一押しとばかりに百の足元から細い氷柱を生み出し、動けない彼女を持ち上げる。 百が包まれている氷の自重で柱が折れると、轟は氷の坂を創り出してステージ外へと放り出した。

 場外の地面についた百を見て、ミッドナイトが勝敗を宣言する。

 

「八百万ちゃん、場外! 轟君の勝利!」

『…………終了ー! 今年度の雄英体育祭、一年の優勝はヒーロー科A組の轟焦凍だー!』

 

 大きい間の後にプレゼントマイクが放送し、会場に大歓声が響き渡り優勝者を祝福した。

 

 

 

 

 

 弦巻マキが大歓声を流しているテレビを消す。 体を伸ばし震わせながら大きくため息をついた。

 

「体育祭やっと終わったー!」

「しーっ、マキさん静かにしてください」

 

 隣にいた紲星あかりが口に指を当てて注意すると、マキは慌てて口を塞いでベッドの方を振り向く。 そこには紫色の生物、みゅかりを枕にして横になっている結月紫が目を閉じて寝息を立てていた。

 

「……おきちゃった?」

「大丈夫ですよ。 ずいぶんとはしゃいで疲れちゃったので、今日はもうお休みですね」

「そっかー。 まあ都合がいいかな? 葵ちゃんの方でちょっとトラブルあったみたいで、セイカさんが呼んでるから出かけようか」 

 

 マキとあかりは立ち上がり、そろりそろりと忍び足で部屋を横切って扉の前まで移動する。

 

「じゃ、みゅかりん。 マスターに何かあったら知らせてね」

「みゅあー」

 

 小さく鳴いたみゅかりを確認して二人は部屋から出る。 扉を閉じるとあかりは首を傾げてマキに声をかけた。

 

「別に部屋から出るのに徒歩ででなくても、ワープを使えばいいのでは?」

「部屋の中で個性を使うのはちょっとね。 マスターの前であまり何でもできるってボロは出したくないし」

「はぁ」

 

 マキは何処からともなく地図を取り出す。 彼女は目的地を探してペラペラとめくりながら呟いた。

 

「マスターの個性は本人が詳細を知らない方が強力だからね。 行為や行動が架空であることが条件だから、こんなこともできる」

 

 マキが地図に触れると、二人の視界が回転して真っ白になった。 景色の色が戻り、回転が収まると同時に目を回した二人は膝をつく。

 

「移動方法ミスった」

「マキさんぇ……」

 

 二人が移動したのは薄暗い部屋の一室。 元々はヴィランが占拠していたであろう場所は、散乱した家具しかない状態だった。 待っていた京町セイカと琴葉茜が地面に手をついている二人をのぞき込んで呆れている。

 

「お二人とも大丈夫ですか?」

「何やっとんねん」

 

 マキは胸を一叩きして立ち上がると、先ほどの酔った雰囲気はなく凛々しい顔でセイカを見る。

 

「それで、どういう状況?」

 

 切り替えの早い彼女に肩をすくめつつ、セイカは本題を切り出す。

 

「葵さんがインゲニウムを助けたので、その件での相談です」

「ウチの妹が面倒事を作って堪忍な」

 

 茜が頭を下げるが、マキは笑って親指を立てた。

 

「ナイスプレー。 インゲニウムの事とかすっかり忘れてたよ。 ただ、保須市の方がどうなるかな。 原作の流れにインゲニウムが加わって、保須市の戦いに参戦するかな? それとも飯田君は近づかせないように離すかな?」

 

 首を傾げてあれやこれやと考えているマキ。 その様子を三人が見守る中、結論が出た彼女はポンと手を打った。

 

「とりあえず、セイカさんは当初の予定通りA組の強化に入るとして……あかりちゃんは保須市へ行ってステインの戦いに状況を見て介入してほしいな」

「え、わたしがですか?」

 

 あかりはきょとんとマキを見ると、彼女は困り顔で頬を掻きながら理由を述べた。

 

「私と茜ちゃんは神野事件まで潜伏していないと、万が一にも興味を持たれてオールマイトかAFOが出張ってきたら、場合によっては拠点も割れるかもしれないからね。 世間では死んでいる扱いの私達より、まだ世の中に名が出てないあかりちゃんの方が動きやすいと思うんだ。 肉体を更新するとはいえ、目の前で自爆なんてしなければ良かったなー」

 

 半ばその場のノリで自爆したことを後悔しているマキ。 とはいえ、過ぎた事を変えることができるはずもなく、彼女は頬を叩いて意識を切り替えた。

 

「よし、前を向いて行こう。 私たちヴィラングループの方針は、私と茜ちゃんはマスターの傍で待機。 セイカさんはA組の強化、あかりさんは保須市で様子見ということでよろしく!」

 

 マキの決定にそれぞれが頷き、セイカは壁を通り抜けて、茜は扉から、あかりは足元に空いた穴から部屋を退出した。 誰もいなくなった部屋の中でマキは一人、頬に指を当ててにんまりと笑う。

 

「さーって、イタコさんの方は進み具合どうだろう? マスターの見逃した情報をみゅかりん通して映像を送らなきゃ。 夢で映像記録を見せられるって便利!」

 

 鼻歌交じりに地図を開き、雄英高校の近くにある東北じゅん狐堂の場所を触る。 今度は回転することなく、光の粒子となってマキも部屋からいなくなった。




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