VillainのVはVOICEROIDのV   作:捩花

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今回は口田甲司の独自設定あり
考察・補足は後書きにて


Voice21 Plus Ultra強制レッスン・口田編

 逃げ場の無い閉鎖空間。 空は真っ黒で天井すら見えず、周囲を棘壁のような大蛇の体で囲われた不可思議な場所。

 砂藤力道と口田甲司、パンプアップヒーロー・スウェルミートとラミアヒーロー・セルパファムの四人は元凶と思われるヴィランと相対した。

 個性を使った影響で、立ち上がることすら億劫なスウェルミート。 しかし彼は緩慢な動作で立ち上がると、砂藤達とヴィランの間に入って口を開く。

 

「いやー、参ったもんだね。 厄介な個性は数あれど、独自の領域を創り出すなんていう頓珍漢な個性は見たことも聞いたこともないぞ」

「スウェルミートさん!?」

 

 個性の使えない状態であるにも拘わらず前に出て、両手を腰に当て仁王立ちするヒーローに声を上げる砂藤。 前に出ようとする彼を水が滴っているセルパファムが割って入り、寒さで震えている頭を横に振って彼を止めた。

 相対する女性はヘッドホンの位置を直しながら、蛇の頭の上から細身のヒーローを見下ろす。

 

「思ったより驚かないんですね」

 

 天気でも聞くような問いかけに、ヒーローは笑って答えた。

 

「滅茶苦茶、驚いているさ。 こんなこともできる個性が、なんてね。 職業柄、色んな個性を見るけれど、空間そのものに作用する個性ってのは無かった。 どれもこれも何かを生み出したり、触れたものに影響を与えたり、体の一部から現象を起こすものばかりだからね」

「幻惑の個性とは、考えられませんか?」

 

 蛇に乗る女性は足元の蛇を片手で叩きながら、もう片方の手から水を滴らせる。

 流れ落ちる液体が地面に届く前に、虚空へ消えていく風景を視界に収めながら、スウェルミートは首を横に振って否定した。

 

「幻というのは、あくまで実体の無い映像を見せる物。 けれど、僕たちが落ちた場所は紛れもなく水場だった。 幻を見せる個性だとしても、感触も質量も再現できるならば、それは幻ではなく本物だよ」

「誤認識させる個性かもしれませんよ?」

「たとえそうだとしても、君が僕らにかけた個性は本物と認識できるほどだ。 全員が水と間違うほどならば、もうそれは水でしかないだろう?」

 

 スウェルミートとヴィランが言葉を掛け合いを続ける中、砂藤と口田は悠長にも見えるやり取りに、そわそわし始めた学生二人へセルパファムは小声で彼の意図を伝えた。

 

(情報収集ついでに時間を稼いでいる。 スウェルミートはまだ、個性が使えるようになっていない。 相手の個性もはっきりしていないから、迂闊に動くのは危険)

 

 彼女に教えられ、二人はヴィランと問答を続けているスウェルミートへ視線を向ける。 腰に手を当てている彼は、相手から見えない親指をピクピクと動かしていた。

 セルパファムは二人を自分の背に庇いながら、彼の奇妙な行動の理由も伝える。

 

(指を動かしているのは、個性を使えるようになったかどうかの確認。 もし、相手が仕掛けてきたら私も前に出る。 出口がどこにあるか分からない以上、ヴィランを倒さないといけないみたい。 だから、君たちはヴィランから逃げる事だけを考えて)

 

 問答を続けていたスウェルミートの指が少しだけ膨らむ。 個性を使えるようになった彼は、口角をわずかに上げて腰に当てていた手を離し、ファイティングポーズをとった。

 

「どうしても通してくれないのならば、仕方ないが力づくだ。 ヴィランを捕縛する」

 

 ヒーローの業務執行宣言に対し、敵対する女性は笑顔を崩さずに手を軽く振るった。

 パソコンのウィンドウに似た光源が複数現れる。 ヒーロー全員が警戒を強くする中、ヴィランは手を動かしながらスウェルミートに言葉を投げた。

 

「お芝居はこれくらいでいいでしょうか スウェルミートさん」

「ははは、ばれたか。 いや、ここに誘い出したのなら当然だな。 獲物の動向を見ていないはずがない」

 

 個性の公開はヒーロー活動を行う過程で必然的に晒されるのが当たり前の世界。 ヴィランとの戦いに身を置くのならば当然、時には目ざといファンに細部まで暴かれる場合もあり、よほど意識しない限り個性は元より、欠点も周知されることとなる。

 スウェルミートの欠点も調べれば、それほど時間はかかることなく知ることができるだろう。 尤も、この場に誘い出された時にヴィランが監視をしていないはずはなく、個性を使った後の弱体状態を晒していた事もあって相手には知られていただろうが。 

 女性は動かしていた手を止めて、ヒーローへ顔を向ける。

 

「用事があるのは後ろの二人なので、そろそろ退いていただきますね」

 

 ヴィランの狙いが学生である砂藤と口田だという言葉に、スウェルミートの表情が強張った。

 

「それを聞いて退くとでも? それなら尚更、僕に時間を与えたのは悪手じゃないかな!」

 

 彼は即座に全身を膨らますと、先手必勝とばかりに駆け出してヴィランへ接近する。 蛇の頭はおよそ十メートルほどの高さ。 ヒーローが間合いを詰めてくる姿を見て、ヴィランは驚く様子も慌てる様子もなく、一度だけ手首を回して光源を撫でるように触れた。

 

「データ抽出……記憶再現……フラワーナイトガール。 さて、まずは露払いですよ。 水影(アクアシャドウ)!」

 

 最初に異変を感じ取ったのは、様子を見ていた砂藤達の三人。 足元にうっすらと張っていた水が一気に引いたかと思うと、スウェルミートとヴィランの間に渦を巻いて水柱が現れ、地面から蛇の頭まで伸びて立ち塞がった。

 それを見たスウェルミートは、飛び越えてしまえと言わんばかりに体を沈みこませると、高く跳躍してヴィランへ向かう。

 ヒーローが空を飛ぶ中、水柱は蛇の頭の前で球体に変形すると、人の形をとった。 出来上がった造形を見て、空中にいるスウェルミートは目を見開く。

 

「これは……僕か!?」

 

 自分よりも二回り大きい、ほっそりとした姿のスウェルミートを模った水塊。 次の瞬間には、個性を使ったかのように体を膨れ上がらせ、巨大な拳を飛んできたヒーローへ打ち付ける。

 空中でよけることのできない彼は直撃を食らい、地面に叩きつけられてからバウンドするとヘアリーブッシュバイパーの棘壁に背中を打ち付けてがっくりと項垂れた。

 意識を失ったことで個性の発動が解けたスウェルミート。  微動だにしない彼を見て、セルパファムが悲鳴を上げる。

 

「スウェルミート!?」

 

 学生を護らなければいけない彼女は彼に駆け寄ることもできず、ヴィランを睨みつけるセルパファム。 その敵はやりすぎたといわんばかりに頭に手を当てて、眉間にしわを寄せていた。

 

「あちゃ、ヘアリーブッシュバイパーはちょっと選択ミスでしたかね。 まあ死にはしないので大丈夫、大丈夫」

 

 落ち込んだのも一瞬。 気持ちを切り替えたヴィランは、次なる障害であるセルパファムに視線を向けて手を振るう。

 

「では次。 用事を済ませたいので、さっさと潰れてください」

 

 スウェルミートの姿をした水が地面に流れ落ちると、今度はセルパファムの姿を模して襲い掛かった。

 

「っこの!?」

 

 セルパファムが尾を振って攻撃を試みるが、寸分違わぬ相手は片手で攻撃を受け止めると、水の尾が彼女へ巻き付いた。 自身の攻撃をたやすく受け止めた驚きに一瞬で締め上げられた彼女はもがいて脱出を試みるが、水の尾はさらに口から尾の先まで締め付け、セルパファムは声にならない悲鳴を上げる。

 

「セルパファムさん!?」

「……!?」

 

 身動きが取れなくなったヒーロー達。 砂藤と口田が上を見上げると、大蛇の目と視線が合って体を固まらせる。 その蛇の上から女性が身を乗り出して、まるで散歩を誘うような調子で二人に声をかけた。

 

「さて、邪魔者はいなくなりましたので、始めましょう」

「お、お前の目的は何なんだ!?」

 

 他のヒーローが来ないであろう奇妙な場所。 そして戦えるヒーローがいなくなった今、二人は自分たちで自衛しなければならない。 砂藤は震える体を誤魔化すように声を上げる。 虚勢を張る彼の質問に、女性はにこやかに答えた。

 

「貴方たちが強くなる為のお手伝いですよ」

「……何を言っているんだ!?」

 

 ヒーローを追い詰めた敵の予想外な答えに、砂藤は反射的に叫び返す。 彼の言葉にヴィランはきょとんと目を瞬かせた。

 

「あっれー? もしかして、八百万さんや耳郎さんから聞いてませんか?」

 

 今度は砂藤達が口を開けて呆気にとられる。 クラスメイトの名前を口走る相手は、世間話をするかのように話を続けた。

 

「その二人、私の仲間がちょちょっとご指導しましてね。 耳郎さんは、まぁ結果は芳しくありませんでしたが。 そのおかげで、八百万さんは見事に体育祭の二位へと上り詰めたんですよ」

「お、お前たちの目的は何なんだ!?」

 

 敵対しているはずのヴィラン。 その口から放たれる内容に理解が追い付かず、砂藤が再び叫んだ。

 そんな彼の反応に、ヴィランはやれやれと頭を振って指を立てて説明する。

 

「さっき言ったじゃないですか。 『貴方たちが強くなる為のお手伝い』ですよ」

 

 彼女は強調して言い直すが、相手はヴィラン。 教職員でもない相手どころか、世間では後ろ指を差される存在が何を言っているのか。

 混乱している雄英生徒二人を置いてけぼりのまま、蛇に乗った女性は言葉を続けている。

 

「強くなれば活躍の機会が増える。 その雄姿を見たいマスターもwin、強くなれる貴方たちもwin。 損な事なんて何一つありませんよー?」

「……!??」

 

 ヴィランの言葉に口田の体が少し跳ねた。 彼が見えない砂藤はその異変に気付くことなく、敵対者を睨みつけている。 ヴィランは口田の様子に薄笑いを浮かべ、スーツのポケットをまさぐりながら二人に語りかけた。

 

「とはいえ、個性の活用幅が広い八百万さんとは違い、耳郎さんや貴方達は身体そのものを鍛えるか、個性を伸ばさないといけませんからね。 どちらも長期間鍛えないと結果は出ません。 マキさんはそれで失敗しましたから……じゃじゃーん!」

 

 ポケットに入れていた手を高々と上げた。 試験管のような細長い容器にどす黒い赤色の液体がゆらゆらと揺れている。

 見ただけで本能が手にするべきでないと叫んでいる二人に、自信満々で持ち上げた物を紹介する女性の顔はとても生き生きとしていた。

 

「【個性拡張薬(エクステンション)】ー!! いえーい!!」

 

 テンションの高くなったヴィラン。 取り出した禍々しい物とは裏腹に天真爛漫な顔の彼女は、目を瞬かせている二人の視線に気づいて顔を赤らめながら、掲げている物を胸元まで下ろした。

 一つ咳払いを入れて、二人に向かって容器を放り投げる。 地面に落ちたそれは、カランと音を立てながら割れることなく二人の足元まで転がっていき、拾えと言わんばかりにつま先の目の前で止まった。

 

「これは個性の可能性を広げる薬品です。 首にぷすっと刺してください。 大丈夫、痛みも依存症もありませんよ」

 

 一歩も動かずヴィランを睨みつけている彼らに、興味を持ってもらおうと敵対者は人差し指を立てて語りだす。

 

「例えば、誰かに変身する個性。 その個性は姿形をそっくりに変えられますが、変身した人物の個性は使えません。 ある意味、その個性の欠点であるともいえます。 しかしある時を境に、変身した後でも個性を使えるようになりました。 出来なかったことができるようになる、個性の影響する範囲が伸びる……私達はそれを個性の覚醒と呼んでいます」

「……覚醒?」

 

 聞きなれない言葉に砂藤がつぶやく。 やっと反応をもらえた女性は嬉々として説明を始めた。

 

「この薬品はいわばチート(ズル)です。 本来、覚醒というのは追い詰められた時に本能が引き起こす、火事場の馬鹿力。 人間が共通して持っている肉体とは違い、個性となれば状況も噛み合わない限り、早々に覚醒することはありません。 その条件を無視して意図的に、強引に引き出すのがこの【個性拡張薬】なのです」

「誰が、そんな怪しい物を使うか!」

 

 都合のいいほど怪しい薬に砂藤が叫び、口田は不気味な液体の薬品をじっと見つめる。

 個性の出力を補助する薬。 世間一般に出回っている物は精々プラシーボ効果程度の影響でしかない。

 砂藤もまた、個性のデメリットを直そうと探し回った時期もあった。 結果はどれもこれも効果があるのか、胡散臭い物ばかり。 一般企業が販売している物でも、個人の感想で効果があるとうたわれる物しかなく、目の前の存在のように自信満々で言い切っているのを信じられるわけがない。

 彼らの否定に、ヴィランは困った顔で腕を組む。

 

「確かに、見知らぬ人から不用意に物を受け取るのはいけませんよね。 でも……」

 

 組んだ腕の中から右手の人差し指を立てる。 自身の姿をした水によって体温を奪われ、動く気力も残っていないセルパファムはさらに締め上げられ、痛みに背中を仰け反らせて目を見開く。

 

「使わなければ、人が死ぬとなったら?」

「セルパファムさん!?」

 

 水で捕縛されている彼女の体がじわじわと仰け反っていく。 これ以上力が加われば、人間では折れてしまいそうなほどに反り返ったヒーローの体を指さしながら、ヴィランは淡々と彼らを責め立てる。

 

「選べる道なんてありませんよ。 助けられる手段を目の前に、見捨てる事ができますか? それでヒーローを名乗れますか? それでヒーローを名乗りますか? 人を見殺しにしたのに? 早く解放してあげたらどうですか。 さぁ、さぁ、さぁ!」

「てめぇ……」

 

 選択肢を潰し、行動を強要してくるヴィランに砂藤は顔を歪める。 事実、現役ヒーローすら歯が立たなかった相手になす術は思いつかない。

 決断しない雄英生徒を見て、ヴィランは肩を落としながらため息をついた。

 

「先ほどから言っているように、私の目的はその薬を貴方達が使用する事。 それ以外はどうでもいいんですよ。 ですので、パパっと使ってください」

 

 再三、薬を使うことを勧めるヴィラン。 その間にも項垂れているスウェルミートのもたれかかっている場所から赤い液体が少しづつ広がり始め、セルパファムは水に覆われていない鼻で呼吸しながら、食いしばった歯の間から泡を吐き出している。

 砂藤の視界の端で、何かが動くのが見えた。 そちらに目を向ければ、口田が足元に転がっている薬を屈んで手に取っている姿を見つけて目を見開く。

 

「口田!?」

「……砂藤君。 もしも何かあったら、君だけでも逃げて」

 

 口田が喋った事に驚く砂藤。 彼が止める間もなく、口田は自分の首筋に薬を打ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 口田甲司という少年は、自身の個性『動物ボイス』に劣等感を少なからず抱いていた。

 

『ヒーローとは本来、一人で何でもできる存在でなければならない』

 

 現代ヒーローの風潮で在り方でもある、根底的思考。 動物がいなければ、他と比べて力が比較的強いだけの彼にとって、今の時代は生きにくいものだった。 誰もかれもが彼を後ろ指を差し、ヒーローにはなれないと嗤っているのが常日頃。 これでもまだ、同じ世代では希少となった無個性に比べれば軽いものではあるが、彼の心が多少でも歪んでしまうのは仕方がなかった。

 いつしか彼は人と喋る事を嫌い始め、動物か心を許した友人や家族にしか言葉を発しないようになった。 人に伝えるのは筆記が主で、時間が経つにつれて身振り素振りでも意思疎通を行うようになり、最終的に口を開くのは家族と動物だけと狭まっていく。

 それでも、彼は偶然にも飼っていた動物達の動物による介在療法(アニマルセラピー)によって、前向きに考えられるようになった事が幸いだった。

 動物に囲まれながら勉強して筆記試験を乗り越え、実技試験は持ち前のパワーと同年代では大きな体を活かして無事に難関校の受験を突破。 かくして彼は雄英の門を叩く権利を得た。

 そして、雄英に入ってからは環境が一変する。 クラスメイトで自身を見下すのは爆豪勝己のみ。 それも名前をまともに呼ばないだけで個性の事には何一つ言及しない。 他のクラスメイトからも、吠える犬を静かにできるか、どれくらい動物が逃げないようにできるのか等々。 緑谷出久に至っては「凶暴な動物を無傷で鎮めることができるなんて!」と、騒いだのは記憶に新しい。

 雄英高校に来たことで、心にできた傷を知らず知らずのうちに、静かにゆっくりと癒していった口田。 しかし、心の傷跡は決して無くなる事はない。 幼少期の人格形成に大きく影響した痛みは無意識下に染みついて取れることはなく、切っ掛けがあれば再び姿を現す。

 だからこそ。

 口田は罠であろうとも【個性拡張薬】を手に取った。

 動物を操るだけ。 劣等感の象徴でもある個性が変わるというならば、ヴィランから強要されることを言い訳に薬を打ち込むほどに、個性によってできた心の傷跡は深かった。

 

 

 

 

 

 口田の心の闇を知らない砂藤は、唖然とした表情で彼を見つめる。

 ゆっくりと薬が口田の体内に取り込まれ、十数分にも感じられた僅かな時間で空になった容器を彼は地面に落とす。

 打ち込んだ首筋を抑え、膝をついた口田が獣のような咆哮を上げた。

 

「あ、ああああ……があぁぁぁあ゛あぁああ゛ぁあ゛ああ゛あぁあ゛あぁああ゛!?」

「口田ぁ!? おい、しっかりしろ!!」

 

 明らかな異常。 砂藤が肩を掴んで揺すっても、意に介することなく叫び声をあげている様子に、すまし顔でこの状況を見ているヴィランを砂藤は睨みつけた。 蛇の上の女は彼の視線を受けて、大げさに肩を上下に動かして肘を曲げながら両手を広げる。

 

「てめぇ……!!」

「まあ、チートには相応の対価があるのが当たり前ですよね。 なんせ、体を書き換えるのとほぼ同じことをしているのですから」

 

 後出しで情報を出す敵を前に、砂藤は覚悟を決めて深く息をつく。

 彼には最早、退路はない。 ヒーロー達は動けず、クラスメイトも膝をついた今、自分がヴィランを倒すしかないと腹を括った。

 覚悟を決めたヒーローの卵に対して、砂藤と同じく口田の過去を知らないヴィランは、叫び続けている彼を眺めて様子を見ている。

 

「手に取ってもらうまで痛めつける予定でしたが、これは嬉しい誤算。 はてさて、どのように成長しますかね?」

 

 砂藤がヴィランに向かおうと踏み込んだ直後、不意に口田の叫び声が止まる。

 振り向けば、視線の先には肩を大きく揺らして息をしている口田。 彼はゆっくりと立ち上がってヴィランを睨みつけた。

 

「我が肉体よ 今一度 掛けられた枷を外し 敵を倒す力を解放し給え」

「口田……お前!?」

 

 見た目は変わらないが、明らかに雰囲気が変わった口田は駆け出す。

 スウェルミートよりは劣るが、それでも常人では出せない速度で走り出した口田。 セルパファムへ駆け寄ると、巻き付いているアクアシャドウと呼ばれた物体を引き離そうと試みる。

 液体だが、ヒーロー一人を閉じ込めるほどの硬度を持つ物体を口田が鷲掴みにして引っ張った。 徐々にだが離れていくが、完全に引き離すことはできず、捕らわれたヒーローを解放することができないでいる。

 その様子に、ヴィランは嬉々として目の前で起こっていることを、空中に浮かぶ板へ書き込んでいた。

 

「なるほどなるほど。 自己強化? いいえ、あくまで個性の延長ですから……人間、いえ動物型もしくは動物要素のある生物に対する増強効果? マスターの記憶に有る野生解放ってやつですかね? となると、動物個性の人間にも使えるようになったのでしょうか?」

 

 彼女の考察は、口田が取った次の行動で証明された。

 

「麗しき御使いの化身よ 邪悪なる束縛から逃れる為 内に秘められた力を解放せよ!!!」

 

 口田の個性が、捕らわれたヒーローの中に眠る潜在能力を引き出した。

 ラミアヒーロー・セルパファムは目を見開くと、全身に力を入れて水の牢獄を内側から弾き飛ばした。

 

「すごい。 力があふれてくる。 もう、何も怖くない!」

 

 飛散する水しぶきの中、先ほどまで弱っていたはずのセルパファムは体に活力を漲らせ、ヴィランを睨みつける。

 形勢逆転とも見える状況において、蛇に乗った女性は余裕の笑みを崩すことなくヒーロー達を見下ろしていた。




感想、誤字指摘ありがとうございます

・口田甲司の過去について
 物間寧人を調べていた所、彼は他人に頼ならければ個性を発動できない、本文にもあるヒーローの根底的思考である、『一人で何でもできる存在』ではないという理由で幼少のころから言われ続けて、あの嫌味な性格になったとのこと
……
対象が人か動物かの違いだけで口田君もあてはまらね?
というか口田君は異形差別も相まってより辛い過去持ってない?

というわけでこの作品では本文の過去持ちになりました
アニマルセラピーが無かったら、物間と同種かヴィランになってそうな過去してますね!(白目)


以下蛇足な補足

・水影(アクアシャドウ)
オンラインゲーム「FLOWER KNIGHT GIRL」水影の騎士に出演する敵
だいたい本文と同じで味方キャラクターと瓜二つの敵と戦う物語
ウメ団長です(隙自語)
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