VillainのVはVOICEROIDのV   作:捩花

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Voice25 雄英高校教員 緊急機密集会 "頭文字V"

 雄英高校の一室。 学校の施設に襲撃してきた、敵連合の情報公開がされていた場所には、雄英の中核ともいえる教師陣が出揃っていた。

 プレゼントマイク、ハウンドドッグ、エクトプラズム、ミッドナイト、スナイプ、パワーローダー、ブラドキング。 そして、敵連合襲撃事件の時には席を外していた、十三号とイレイザーヘッドこと相澤消太もこの場に姿を連ねている。

 高校周辺にヴィランが出れば動ける者が即座に出動し、最小の被害で事件を解決できるフルメンバー。 そんな一同が部屋に揃っている中、腕を組んで事が始まるのを静かに待っているハウンドドッグの隣で、机に足を乗っけたプレゼントマイクが愚痴をこぼしていた。

 

「ったく、何で招集がかかったんだ。 誰か知らねぇ!?」

「内密かつ直々。 そして、根津校長の縄張り(テリトリー)である校長室で招集連絡を伝えるという、念の入れ様。 よほど他者の耳に入れたくない内容でしょう。 心当たりがあるとすれば……」

 

 いつもならば生徒達にマスコット扱いされながら、神出鬼没に現れては必要な連絡を入れる根津校長。 今回の回りくどい方法で招集をかけた事に唸っているハウンドドッグの横で、パワーローダーは明後日の方向を見ながら彼の言葉を引き継いだ。

 

「十中八九、保須市の件だろうな。 敵連合と"頭文字V"の出現。 世間ではヒーロー殺しの動画に夢中だが、ヒーローネットワークにはココ(雄英高校)を襲撃した脳無の情報、そして"頭文字(イニシャル)V"の報告もあった」

 

 記憶に新しい保須市の動乱。 ヒーロー殺しのステインが見せた、強い意志の宿る言葉が撮影された動画はインターネットに上げられ、あらゆる所に燻る火種が飛び火している。 水面下で活発になったヴィラン達の動きに影響を与えたステインとは裏腹に、敵連合と"頭文字V"の事はあまり話題に上っていない。

 しかし、公開されているヴィランの情報に、エクトプラズムは不満の声を上げる。

 

「内容ハ 同時ニ出現シタ トイウ事ダケダ。 公開サレタノハ 新タニ現レタ ヴィランノ容姿ダケデ、ソノ他ノ詳細ハ曖昧カ、伏セラレテイル」

 

 ヒーローネットワーク上に上げられた新たな"頭文字V"のメンバー。 個性も相変わらず推測の域を出ず、上げられた情報には内容も似顔絵と容姿の数行の文字列しか無い。

 実際に敵対した事のある彼は、自分の時に根掘り葉掘り聞きだされたのとは雲泥の差である内容に納得ができず、その有様にミッドナイトも相槌を打つ。

 彼女もまた、教職の片手間にテレビやネットワークに上がっている情報を精査しながら、警察の動きに疑問を感じていた。

 

「"頭文字V"と交戦したヒーロー達も匿名にされ、マスコミの取材をさせないように警察は情報を断っているみたい。 ヒーロー殺しの方が熱いから、目を向けられる数は少ないけれど、よほど世間に公開したくないものがあるのかしら。 あのグループが関わってくると碌な事が起きる気がしないわ」

 

 詳細及び正体不明、かつ明確に雄英生徒を狙って襲撃してきたヴィラン集団。 誰もが頭を抱える状況の中で一人、相澤は栄養食を飲み込んでそっけなく言った。

 

「ヴィランの考える事を理解する必要はありません。 奴らは自身の都合で好き勝手しているだけです。 無闇に個性を使うという、法を破る犯罪者以外の何物でもありません。 幸い、雄英生徒と関わったという報告は届いていませんから、予想していた生徒を標的にしていたという推測が外れた事は良しとしましょう」

 

 淡白な反応の相澤に、ブラドキングが彼に物申そうと顔を向けると、会議室の入り口が開く。

 入ってきたのは、私服に鞄を持っている警察官の塚内直正と、彼の肩に乗った根津校長。 警察の服装ではない塚内の姿に、彼と会った事の無い十三号は首を傾げていると、校長は集まったメンツを見回して頷いた。

 

「HAHAHA! 急な呼び出しに応じてくれてありがとう。 全員揃っているようだから、手早く始めようか」

「そちらは警察の方……ですか?」

 

 現れた公務員の出で立ちに違和感を感じている十三号。 塚内は頷いて校長を下ろすと、根津は自身の席へ走り飛び乗って腕を組んだ。 席に着いたのを確認した警察官は軽く頭を下げる。

 

「今日は警察であり、塚内直正個人としてもこの場に来ました。 よろしくお願いします」

 

 教員たちが首を傾げる中、彼は鞄から書類を取り出して机に並べる。 顔見知りではあるが、部外者である彼が来た理由を根津校長が言葉を付け足した。

 

「彼は警察によるヴィラン対策の相談で呼んでいるのさ。 呼び出した名目はね」

 

 誰もが校長の言い回しに眉を上げて訝しむ中、資料が行き届いたのを確認すると塚内が説明を始める。

 

「まず、"頭文字V"に対する警察の意向ですが、この集団に関しては()()()、様子を見ることになりました」

「表向キ?」

 

 塚内が強調する単語にエクトプラズムが反応する。 誰もが嫌な予感を感じつつも、塚内の指示通りに資料をめくって内容に目を通した。

 

「保須市事件で関わったヒーロー及び住民の方から事情徴収を行った結果、ほとんどの被害は脳無によるものか"頭文字V"が連れてきたと予測される、モンスターへ不用意に近づいた住人だけです。 その住人も、現場を撮影しようとした際にモンスターに近寄りすぎて、吹き飛ばされて負った打撲傷だけで、実質"頭文字V"による人的被害及び物的被害はほとんど無いと言っていい結果となりました」

 

 保須市の被った損害の蓋を開けて見れば、酷い言われようだった街の被害は思った以上に微々たるものだった。 手渡された資料にも、化け物達の被害は大したことがなく、むしろ脳無と交戦していたヒーローによる被害の方が大きい可能性が高いという結果さえ出ている。

 

「よって、警察からは指定(ヴィラン)団体に登録する公式発表が後日、流れる手筈になっています」

 

 ヴィランに対する警察の措置に、納得のいっていないスナイプは帽子を被り直しながら反論を放つ。

 

「雄英の施設に不法侵入、生徒に暴行。 それに加えて保須市でも暴れた連中が、たとえ被害をほとんど出していなくても犯罪者だろう。 温情過ぎないか?」

 

 塚内は肩を落として申し訳なさそうな顔をしながら、鞄から一枚の封筒を取り出す。 その中からはジップ付きポリ袋が現れ、さらにその中に入っている白い布に巻かれた物品を取り出した。 三重に包まっていたのは一枚の写真。 塚内はそれを全員に見えるように掲げた。

 

「その件に関しては……まずはこちらを見てください」

 

 そこに写っているのは試験管の様な容器。 入れ物の底に、僅かに残っている物体をブラドキングは目を細めて凝視する。

 

「黒……いや僅かに赤が見えるな。 血ではないようだが。 いや、ヴィランの血だとしても、そこまで厳重に保管する程の物か?」

 

 個性故か、他の誰よりも赤色が混じる液体に反応している彼の疑問に、塚内は首を振って否定した。

 

「"頭文字V"が所持していた薬品、個性拡張薬……エクステンションと呼ばれる薬品です」

 

 彼の発した言葉に相澤が目を細め、十三号はマジマジと写真を見つめる。

 

「これは……随分と大層な名前を付けていますね」

「お恥ずかしい事ですが、現場にいたヒーローのセルパファムとスウェルミートによって確保されたこの薬品。 警察上層部の一握りが手に入れようと、密かに"頭文字V"へ接触しようと躍起になっています」

 

 額を抑えながら塚内が言った言葉に、相澤が勢い良く立ち上がり椅子が倒れた。 彼は注目されることも気にせず、目の前の警官と写真を睨みつける。

 

「ちょっと待ってください。 セルパファムにスウェルミート? そこは、口田と砂藤が職場体験に向かった事務所のヒーロー……まさか」

 

 相澤の発した生徒の情報に、ハウンドドッグとエクトプラズムが警官へ視線を向ける。 USJでも"頭文字V"によって襲われた八百万百と耳郎響香の記憶は新しい。 三人の脳裏に浮かび上がった最悪の予想は、塚内の言葉によって肯定された。

 

「非公開の音声記録とヒーロー二人の情報提供から、使用を強要されたのはヒーロー科A組の口田甲司君、砂藤力道君の二名です」

「戻ってきたあいつらは、そんな素振りは少しも……」

 

 襲われていた生徒の変化を気づきもしなかった事に呆然としている相澤。 震えるほど強く拳を握っている彼に、今まで静かだった根津校長が口を開いた。

 

「そこは僕が口止めさせてもらったのさ」

 

 相澤のみならず、教師達の視線が彼へ集まった。 その状況に校長は顔色一つ変えず言葉を続ける。

 

「スウェルミート君が音声記録を警察に持っていく前に相談されてね、学校の責任者であるボクは一足先に内容を聞かせてもらった。 ボクの伝手でその情報を警察上層部の信頼できる所に渡して、拡散することを最小限にしたのさ。 それでも情報は漏れて、求める人は出たようだけどね」

 

 根津校長の言葉に塚内は肩をすくめる。 もし、スウェルミートが情報をそのまま警察に持って行っていたならば、今以上に情報が拡散していたことは想像に難くない。 良くも悪くも、権力を持った人間が自己保身と利益を天秤にかけ、最大の恩恵を受けようとするために情報を抱えている事が情報の拡散を抑える結果となった。

 

「それに、砂藤君と口田君は事前に声をかけて『職場体験中にヴィランに襲われ、撃退した際に個性が強化された』というカバーストーリーを守ってくれているだけ。 彼らも大根役者ではなかったという事なのさ」

「……生徒への配慮、有難うございます」

「HAHAHAHA! それでも、人の口に戸は立てられないけどね」

 

 思いつく限りでは最善の策に、相澤は絞り出すように言葉を紡ぐと、椅子を立て直して席に座る。

 重苦しい雰囲気の中、エクトプラズムは話の中心である薬品に興味を示して書類を叩いた。

 

「ソノ個性拡張薬トヤラハ、イカ程ノモノカ。 目ノ色ヲ変エテ 探ス程ノ物ト 言ウコトハ 分カッタガ」

 

 彼は手に持っていた書類を机に放り投げる。 資料には薬品の詳細はおろか、その存在すら意図的に消されているようなスカスカの紙束。 根津校長は手元にあるそれで折り紙を始めながら答えた。

 

「精密検査の結果から、個性因子に影響が出ていたらしい。 詳しくは調査中らしいけれど、因子そのものが成長したという推測との事なのさ」

 

 淡々と伝える校長に、今度はミッドナイトが立ち上がった。

 

「ちょっと待って、個性因子そのものを!? 間接的に因子を刺激する個性因子誘発物質(イディオ・トリガー)はあるけれど、因子そのものに影響を及ぼす物質が存在するの!?」

 

 彼女は教鞭を振るう前、個性を増強する薬物の事件に関わっていた。 その薬ですら個性因子そのものには作用せず、あくまで活性化させる代物であり、長くとも使用後一時間以内には効果が収まる程度の物である。

 恒久的に個性を強化するという薬品は、現人類の目指す頂の一つ。 場合によっては個性を書き換えるにも等しいその薬を、ミッドナイトは起こりうるであろう奪い合う争いを思い浮かべて睨みつけた。

 写真越しに、真正面からヒーローの気迫を受けてたじろぐ塚内だが、一つ咳を払って説明を続ける。

 

「はい。 個性研究所による報告では、確かに存在する物質です。 口田君と砂藤君は短期間で個性が飛躍的に強化、もしくは変質していると検査結果に出ており、悪性の症状も確認されていません。 そして、この薬品は条件を整える事ができるなら、作り出せるとも聞いています」

 

 どよめく声が上がる。 夢のまた夢かと思われた、純粋に個性を強化する薬品。 粗悪品や紛い物が当たり前の中で、それが手の届く所まで来たという事実を知らされた面々は、誰もかれもが眉を寄せていた。

 下手をすれば、国を超えて戦争の火種にもなりかねない物。 世界を狂わせる品が目の前にあったとして、諸手を上げて喜べるほど単純な人間はここにいなかった。

 思い思いに最悪の予想を浮かべる中、コスチューム開発許可証を持っている技術者の一人、パワーローダーが手を上げる。

 

「それの安定生産は可能なのか」

「……机上の空論であれば」

 

 塚内の弱弱しい返答は、事実上の不可能という提示。 パワーローダーが続きを促すと、塚内は研究者から教えられた内容を思い出しながら答えた。

 

「ええと、個性拡張薬に使われる成分は、地球上全ての物質に含まれているそうです。 それこそ大気中から植物、動物、土の中にまで。 今まで観測できませんでしたが、残った薬品を元に判別する手段が見つかり、その存在が判明した……との事です」

「実質、ダークマター(正体不明の物質)だった物を解析しやがったってことか。 とんでもない事をしやがるな、"頭文字V"って連中は。 しかし、どこにでもある物……にも拘わらず机上の空論ねぇ? 素材がたんまりある中でも不可能に近いってことは、取り出す技術が難しいのか?」

 

 パワーローダーは鋭い目をさらに細める。 彼としても畑は違えど技術者の端くれであるが故に、現実不可能である理由を知りたがった。

 その問いに、塚内は先ほど見せた写真を再度掲げて答える。

 

「この容器を満たす場合……素材に関わらず、およそ東京ドーム百杯分の量が必要、とのことです」

「……?」

 

 提示された条件を瞬時に理解することができず、パワーローダー含めた教師全員が首を傾げた。 どう説明したらいいのか迷っている塚内を見て、情報を共有している根津校長が噛み砕いて補足する。

 

「物量的に実現不可能なのさ。 現代の技術力で抽出する量はフェムト(一兆分の一)単位が限界。 そして、そんな小さな物を生産するコストも馬鹿にならない。 実行するならば、日本の国家予算で最低限でも一世紀ほどの資金が必要だね。 事実上のオーバーテクノロジーなのさ」

What the hell are they(アイツら一体何なんだ)!?

 

 机を叩く音が部屋に響き渡る。 妄想の産物としか思えない代物に、この場にいる全員の思いをプレゼントマイクが代弁した。

 世界を覆す可能性を秘めた異物。 予想の遥か上を行く馬鹿げた存在を創り出すヴィランに、誰も彼もが呆れることしかできなかった

 そして、それよりも気がかりのある相澤は、真っ先に使われた生徒の扱いをどうするのか校長に問いただす。

 

「生徒二人の扱いはどうなるのですか。 場合によっては保護も視野に入れなければなりません」

「検査の結果では薬の性質は既に消失している。 薬品関係の情報はボクの伝手がある警察の上層部と関わった一部の研究員、そしてここにいるメンバーしか知らされていない。 世の中を混乱に招くものとして、既に箝口令(かんこうれい)が敷かれている。 現状はここにいる皆で薬品の悪影響が出ないか経過の様子見、そして秘密裏に身辺警護をすると言ったところだね」

 

 この時代には場違いな物品(オーパーツ)が引き起こすであろう惨状を理解して、可能な限り情報が表にでないよう警察も行動している。 薬品の詳細が今の所、それを世に出したヴィランと世間の平和を守る事が仕事の警察のみである事は、不幸中の幸いともとれる。 尤も、創り出したヴィランが広めてしまえば止める手立ては無いが。

 しかし、人の口に戸は立てられない。 いずれ世に広まるであろう火種に、頭を抱える一同は例外なく暗い顔をしている。

 燻る不安を少しでも取り除くべく、警察の方でも動いている事を塚内が伝えた。

 

「警察でも都市伝説として情報操作を行う意向です。 この件に関しては、欲に手を出す以上に世界規模の騒乱を引き起こしかねないとの見解が勝り、隠蔽することが決定しました。 口田君と砂藤君も、彼らの通学経路に私服警察を配置する手筈になっています」

「HAHAHA、雄英からも通学路を通る教師にそれとなく気を付けるよう言っておくよ」

 

 最善すらわからない状況だが、それでも何か手を打つ手段を模索して実行している警察と校長を見て、一同は気を引き締め直した。

 それでも、与えられた情報の重大さに肩を落としながら、ブラドキングがぼやく。

 

「はぁ……仕事が増えるな。 今の所、被害は数人だが、普通科や経営科を狙わないという根拠もない。 一番はとっ捕まえる事だが」

 

 責任という重りに潰されないよう、各々が改善策を模索する雄英教師一同。 襲い掛かるヴィランを相手取る方が気楽であるほどに、各自がヴィラン対策を思案する一同。

 解散の雰囲気が漂い始めた一室で、校長はまだ終わっていないと待ったをかけた。

 

「今回集まってもらったのは"頭文字V"の他にも、伝えたいことがあるのさ。 オールマイトの宿敵についてね」

「オールマイトの宿敵?」

 

 "頭文字V"の事ですら、教員達の胃に穴が開きそうな状態。 そこに追い打ちをかける校長に、教員は例外なく「まだ何かあるのか」という表情が浮かんでいた。

 しかし、校長は口を止めることはしない。 そもそも、"頭文字V"に関しては生徒の事以外はほとんどが警察に任せることになる。

 根津校長も、雄英生徒二人の事は相澤含む教員の目から隠し通せるとは欠片も思っていなかった。 故に、隠し事をするよりも暴露した方が教員達と自分、互いの信頼を崩す要因を取り除いたに過ぎない。

 教員にとっては長く、根津にとっては前置きである"頭文字V"の報告が終わり、校長が彼らを集めた理由を切り出した。

 

「オール・フォー・ワンと呼ばれるヴィランが潜んでいるという可能性の浮上。 個性を奪い、個性を与え、幾多の力を自身にため込んだ悪の帝王。 六年前に、辛うじてオールマイトが倒したはずだった相手が生きているかもしれない」




感想、誤字報告、疑問点の指摘ありがとうございます


原作沿いがやりやすい理由を思い知らされますね(白目)

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