VillainのVはVOICEROIDのV   作:捩花

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Voice3 山岳エリアの崖下で Side八百万 百

 山岳ゾーンの崖底に土煙が二つ立ち昇る。 人型の窪みができそうな勢いで叩きつけられた二人は、しかし見た目の外傷が全く見受けられない上半身を起こした。

 

「っ痛たた、何なのあいつら」

「個性でしょうか、思ったよりも全くダメージを受けていませんわ」

 

 立ち上がった二人を見図ったように、現状に追い込めたヴィラン達が着地し相対する。 即座に警戒する百達を余所に、金髪の女性と赤髪の少女が和やかに語り合っていた。

 

「で、茜ちゃんはどっちにする?」

「ウチはどっちでもいいけど」

「そっか。 じゃあ私は耳郎ちゃんとやろっかな」

「ならウチは八百万ちゃんとやね」

「何を勝手に……!」

 

 憤る響香だが、崖下に落とされた状況を思い返し、勝てるどころか善戦することすら思い浮かべられない現状に、対抗する手段を必死に模索していた。

 対してヴィラン達は明るい雰囲気を崩すことなく、話を聞いてなかった生徒を(たしな)める先生のように金髪の女性が言った。

 

「さっき言ったでしょ? スペシャルプラクティスって。 特別訓練。 Are you OK?」

「ふざけたことを!」

「こっちは真面目なんだけどねぇ。 じゃ、茜ちゃん。 また後で」

「いってらっしゃい」

 

 考える時間も与えられず響香はまたも接近され、いつの間にかヴィランが持っている棒切れを横薙ぎに叩きつけられていた。

 

「そーれぶっ飛べ!!」

 

 女性が棒切れを振り切れば、響香の体に衝撃が走ると同時に吹き飛ぶ。 ヴィランはぽっきりと折れた木の棒を投げ捨てて耳郎を追いかけていった。

 

「耳郎さん!」

「あんたの相手はこっちやで」

 

 追撃をかける姿勢のヴィランを止めようと向かう百の手首にガチャリと手錠がかけられる。 茜と呼ばれた敵は何処からか鉄杭を地面に深く突き刺し輪の部分に反対側の手錠をかけた。 行動を邪魔された百は繋がれた数メートル先にいる茜を睨みつけるが、茜は怯むどころか何処吹く風とすまし顔のままだ。

 

「女子がそんなおと()ろしい顔、しちゃあかんで」

「放しなさい、ヴィラン!」

 

 百は鉄棒を創造し茜に向かって構える。 その様子を見て茜は首を傾げた。

 

「んー、何で?」

「耳郎さんを助けに行くためです!」

 

 断言し茜に攻撃を仕掛ける。 鋭く突き放たれた鉄棒、半歩引いて棒を掴んだ茜は小枝でも振るかのような速度で持ち上げ地面へ叩きつけた。 流れるような動作に百は逃れるすべなく鉄棒と共に地面へ墜落、全身を強かに打ち付ける。

 態勢を立て直そうともがく百に歩み寄る茜。 百が立ち上がろうと顔を上げれば、見下ろす茜の目と視線が交わった。

 のぞき込む形で百を見る茜が口を開く。

 

「あ ほ く さ」

 

 唐突な罵倒に目を見開く百に対して、やれやれと茜は頭を振りため息をついた。

 

「あんなぁ、八百万ちゃん。 自分の能力、わかってへんの? 初めて会うた時から、何度もウチらを妨害できたの気づいとる?」

「な、何を」

「自分の個性、言ってみて」

「……個性は創造、です」

 

 有無を言わさぬ笑顔に気圧されて言いなりになる百。 もっと詳しく話せと無言で促す少女に目をぐるぐるさせながら、流されるまま口を開いた。

 

「せ、生物以外なら何でも造れます」

「ん? 今、何でもって?」

「は、はひ」

 

 緊張で呂律すら回らなくなってきた百から視線を外し、手をくるくると回す茜。 手を止めればそこには手品か魔法のように虚空から現れた銃器を握っていた。

 拳銃を回転させながら百の目の前に持っていき、銃口を百の腕に向かって引き金を引く。 百の体に発射された物体が張り付いついたと同時に稲妻が走ったかのような衝撃が、いや実際に電撃が走り百の体が跳ねた。

 

「あがっ!?」

「テーザー銃っていうんやけど、非殺傷武器とか知ってへん?」

「…………」

「まあ、知らへんよなぁ。 ええとこのお嬢さんでヒーローを目指しとるなら、そういう特徴のヒーローが出てくるよね」

「いぎっ!?」

 

 茜が引き金を引き、再び百の体が跳ねた。 二人の間には茜の持つ銃器からワイヤーが伸びており、その先は腕に吸盤のようなものが張り付いている。 銃器の引き金を長めに引いたり小刻みに操作する度、合わせて百が苦悶の声を上げ体を強張らせた。

 

「ここに来る前にサポートアイテム造っとる所へちょっとお邪魔したんや。 マスターの知っとるものより凄い素材が色々あってな、それらを組み合わせた物やねん。 ウチらの知っとる物より安全性が飛躍的に上昇しとるの、すごいやろ? これ、貴方も作れんねん」

「……マスター? っぁああああ!?」

 

 不意に飛び出た単語に反応してしまった百は電撃を浴びせられて悲鳴を上げる。

 

「話の腰を折らへん。 まあ、要は貴方に足りへんのは活用する道具の知識や。 移動を補助する乗り物、相手を無力化する武器、ほか色々。 すっごいでぇ、他の個性が出来る事、ようさん出来るんや。 頑丈な拘束具や投網、閃光手榴弾があればヴィランなんてだいたい無力化できるやろ。 必要になったら使い切りの銃器でも作ったらええ」

「っそれは」

「携帯性にも優れ、自分で作れば弾数も調整できて、奪われても規格をずらせば再利用されることはあらへん。 貴方は人類の英知を使うことができる、学ばん理由はないよね? 少なくともどつき廻すよりかは安全やんな。 ここら辺はマスターの受け売りやけど」

 

 そう言って茜は立ち上がり手に持っている銃を放り投げ、鉄杭を蹴り飛ばした。 テーザー銃は地面に落ちる前に、鉄杭と掛けられていた手錠は虹色のポリゴンとなって破裂し消える。

 

「ま、もう一つ理解せないけへんのは法律やけどね。 銃刀法とか古い刑法も残ってるみたいやけど、法律第……何やったっけ、まあええわ。 個性取締法なんたらかんたら、個性で生み出したものは個性取締法で裁かれるって奴や。 でも、個性で生み出した物は普通の法律じゃ裁かれへんって抜け穴があんねんで」

「……!?」

「個性が多くなってきた過渡期に急いで作られた雑な法律やけど、こないなテコ入れせんと体からナイフ生やしたり銃弾やら撃ちだせる人いたら、判明した時点で銃刀法違反の犯罪者っていう事になってしまうもんな? 貴方の場合、個性で銃器が造れるんやったら……後はわかるよね、貴方が持つ最大のアドバンテージを理解した?」

 

 笑顔で語りきったと胸を張る茜。 誇らしげにしているそれを見て、百は信じられないものを見る目で絶句している。

 確かに内容は百にとって有益なものであった。 ヒーローとして活動するにあたり、まだ漠然とした将来しか思い描いていなかった百の指針になる物ではあったのだが。

 しかしそれを示したのが目の前にいるヴィランであることが、百はどうしても理解できなかった。

 

「なぜ、貴方はそのようなことを?」

 

 ふと疑問が口から洩れる。 迂闊に口を開いたことに気づきすぐに口を紡ぐが、茜は何する事なく目を瞬かせるだけだった。

 

「なぜって? ああ、ウチの用事はもう終わったし、お迎えが来るまで質問タイムにしまひょか」

 

 先程とは違い、茜は気にすることなく百の疑問に笑顔で答えた。

 

「何でウチがこないなことをしたんか。 それはね、貴方がその他大勢と変わらへんからやで。 貴方、貴方たちがただの群衆(モブ)であること。 マスターはそうであることが嫌いやった。 貴方に活躍してもらいたかった。 貴方の物語も見たかった。 せやけど、マスターは見ることができんかった。 せやからウチが、ウチらがほんの少し背中を押しに来たの」

 

 茜の目は百を見ながら彼女を見ず、その後ろにある何かを見通して話しているように語る。 得体のしれない相手から、まるで未来は活躍のない末端ヒーローになると告げられている事を百は信じることができなった。

 

「馬鹿な事を! 勝手に私の未来をつまらないものにしないで!」

「ま、信じる信じないは自分の勝手やけどな」

 

 百の叫びもどこ吹く風と茜は笑っている。 彼女は背を向けて歩きながら、右手の人差し指を振って独り言のように呟いた。

 

「ロボ 綱渡り、地雷原。 次に騎馬戦、最後にトーナメント。 一回戦目で常闇君に勝てるとええなぁ?」

「……何を」

「ちょっとしたズルや、覚えとき。 まあ、そうなるかは知らんけど。 雄英祭、楽しみにしてるで。 お迎えも来たようやし、ほなさいなら」

 

 数メートル離れた茜は独り言のように語り、ピンっと勢いよく何かを引き抜いた音が百の耳に届く。 同時に、百のいる近くの崖壁が盛り上がり建築重機のようなヘルメットを被った人物が飛び出した。

 

「これ以上生徒に手出しさせるか!」

「っパワーローダー先生!」

 

 百からは後頭部しか見えなかったが、茜の頭が〈掘削ヒーロー〉パワーローダーの方へ僅かに向いたと同時に。

 

BOMB! 

 

 ヴィランの頭がはじけ飛んだ。

 

 

 


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