VillainのVはVOICEROIDのV   作:捩花

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Voice30 一年ヒーロー科A組 一学期期末 実技試験・後

 緑谷出久がヨロイムシャと戦っている中、爆豪勝己とラビットヒーロー・ミルコは既にボロボロの状態でありながら、お互いに壮絶な笑顔を浮かべながら拳を交えていた。

 個性で発生する爆風を物ともせず、爆風を利用して大きく距離を取ったミルコは鬱陶しそうに四肢についている重りを引っ掻いている。

 

「ああもう。 重り、本当に邪魔だな!」

 

 爆風を食らっても余裕を崩さないその様子に、爆豪がヤジを飛ばす。

 

「重り程度で一対一に苦戦するヒーローじゃねえだろ、ギア上げてかかってこいや!!」

 

 彼の煽りに、ミルコは一瞬だけ真顔に戻る。 すぐさま獰猛な笑みを浮かべ、地面に四つん這いになって言った。

 

「言ったな! 後悔するなよ!」

 

 ミルコが地面を蹴ると、先ほどよりも勢いを上げた速度で爆豪に突っ込む。

 飛ぶように迫りくる相手の攻撃を、爆豪は手の平から爆発を発生させて身をよじり、間一髪ミルコの攻撃をかわした。

 僅かに足が引っ掛かり、左腕のサポートアイテムが粉砕されるのを伝わる振動で理解しながら、予想よりも早くなった相手に爆豪は心の中で悪態をつく。

 

(まだ本気でもねぇ。 だが、反応できるギリギリで打ってきたのは解る。 ……舐めやがって、クソッタレ!)

 

 以前に近場の個性使用許可場で手合わせをしたロボットに比べ、明らかに手加減をしている事が分かる相手の実力。 

 施設管理をしている子供にしか見えない女性の説明から、ロボットは自動的に相手に合わせて出力を調整すると言われていた。 爆豪本人としては模倣であってもオールマイトと全力で戦いたかったのだが、偏った模倣ロボット一覧にその名前は無く、仕方なくその中で最もヒーロービルボードチャートの位が高いホークスを選んで施設を利用した。

 たかがロボットと思っていた相手に、爆豪の攻撃は一度も届くことなく、一方的に嬲られる結果となったのは記憶に新しい。 予想以上に容赦のないロボットに、爆豪は帰り際に施設担当者へ皮肉を吐き捨てるも、『個性の相性ですので』と一蹴される。

 相手がロボットと分かっていても、現役ヒーローを模したと謳う備品との実力差に顔を歪めながら、次に選んだのはランキング上位で同じ近接戦闘を行うミルコ。 が、戦いが始まってしまうとホークスのロボットと同じく、一撃も攻撃を当てる事ができなかった。

 

(兎耳女ですら、体の一部に個性を当てるのが限界だったってのに!!!)

 

 何故か爆豪が行くときには空きのある施設で、回数に回数を重ねてロボットと拳を交え、直近では耳に攻撃を当てる事ができた。

 そしてまさかの期末試験で、ミルコが試験官として来たのは喜びを隠せなかった。

 ロボットでしか知らない相手の実力を直に感じることができる。 意気揚々と挑んでみれば、通っていた施設管理者の言う通り、まるでロボットと同じように手加減されている空気をひしひしと感じて爆豪は歯噛みした。

 対して、今の彼女は煩わしい装備を付けている事すら忘れるほどに、凶暴な笑顔を浮かべて爆豪に攻撃を仕掛けている。

 

(そうだ、ヒーローはこうでなくっちゃな! ヴィランをぶっ飛ばす、それだけでいい!)

 

 実力差があるにも関わらず食いついてくるヒーロー志望の子供を相手に、彼女が仕事を怠る理由は無い。 むしろ、ヒ―ローの根本の一つである、敵を倒すための純粋な闘争心をぶつけてくる爆豪に好感を持った。

 本気で手合わせをしたいという思い。 叩けば伸びると確信できる相手に闘争心が膨れ上がり、建前も理性もかなぐり捨てて拳を交えたい衝動を抑える枷が外れかけた時、意識外から飛来した緑色の物体を直感で避けた事で我に返った。

 飛んできた人間が地面を跳ねて壁にぶつかっている姿に、戦いを妨害された爆豪が悪態をつく。

 

「邪魔すんな、デク!!」

 

 ミルコが立ち上がる人間に視線を向ければ、試験前に視界の端でちらちらと映っていたもう一人の雄英生徒である事に気づき、飛んできた方向を見る。

 ビル壁に空いた穴から、赤い鎧を纏った侍が出てくる姿が見えたので、反射的に彼女は叫んだ。

 

「邪魔すんな爺!」

「時間じゃ、本業に戻る。 それにしても、似た者同士じゃのう」

 

 ヨロイムシャは目の前で睨みつけてくる彼女と、同じく緑谷を睨みつけている爆豪の姿に、ため息を吐きながらも朱塗りの木刀を緑谷に向けて構える。

 その様子を見て、ミルコはつまらなそうに肩を落としてため息を吐いた。

 

「くっそー、これから楽しくなりそうだったのに」

 

 明らかにテンションが下がり気迫も無くなった彼女を見て、爆豪もまた横やりを入れたヨロイムシャを睨みつける。 その視線にヨロイムシャは鼻息一つ出すと、ミルコに向かって口を開く。

 

「目的を忘れるでない、今は小僧共の試験。 後で個性使用許可場に赴き、手合わせでもするのが良かろう」

「……よし、さっさと終わらせるぞ!」

 

 老人の提示にやる気を出したミルコ。

 寝ころんでいた緑谷も起き上がり、距離は多少違うが試験開始時と同じ二対二の構図に戻った。

 緊迫する学生を前に、ヨロイムシャは所持している懐中時計を開いて緑谷達に見えるように胸元で掲げる。

 

「さて、残り時間は十分を切った。 私用で時間を使った手前、このまま不合格とするのは理不尽。 故に、今からワシらはある法則の下でお主らと手合わせを行う」

「ある法則?」

 

 学生二人が疑問を浮かべながらも警戒している様子に、ヨロイムシャは気にすることなく言葉を続ける。

 

「うむ。 お主らの組み合わせが選ばれた理由を元に、根津から指示されていた行動をとる。 本来であれば、お主らが自力で気づかねばならぬ事だが、こちらの都合で時間を使ってしまったからの。 尤も、気づいたとしても攻略できるかはわからんが」

 

 挑発的な物言いに、爆豪の目つきがさらに鋭くなった。

 その視線を涼しい顔で受け流したヨロイムシャは木刀を一振りする。

 

「では、始めるかの」

 

 試験再開の合図をヨロイムシャが発すると同時に、ミルコが爆豪に向かって飛び掛かった。

 爆豪は彼女の攻撃を躱しながらも、敵意の篭った目を相手へ向けると、小馬鹿にするように一言言い放つ。

 

「ハッ! やる事は結局、同じじゃねえか!!」

 

 爆豪が手の平から爆発を発生させながら、加速させた拳を繰り出す。 突風の様な拳撃と蹴撃を、ミルコは余裕の表情でひょいひょいと掠めることなく避けていく。

 何度か攻撃を仕掛けた爆豪は、先ほどとは違う相手の戦い方に気づいて目を吊り上げた。 彼女が先ほどの戦闘で出していた攻撃の鋭さは消え、攻撃は爆豪の隙を狙い撃つ一撃に止め、曲芸を披露するような避け方で爆豪の攻撃を全ていなしていく。

 徹底的に避けへ転じた相手に、爆豪が苛立ちの声を上げる。

 

「おちょくってんじゃねぇ、兎耳女ぁ!!」

「これも仕事だ、悪いな!」

 

 その近くで、ヨロイムシャと緑谷もまた戦いが始まっていた。

 個性によって驚異的な加速で迫る木刀を、緑谷はギリギリの所で避けて老人に拳を放つ。 しかし、既に相手の姿は無く、視界端で姿勢を変えているヨロイムシャを見て緑谷は身をよじった。

 

「くっ!」

 

 間一髪、彼はヨロイムシャの姿勢から剣撃の軌道を予測し、避けることに成功した。 しかし、また視界に入った老人が姿勢を変えて襲い掛かる。

 立て続けに襲い掛かる相手に、辛うじて避け切った緑谷を見て、ヨロイムシャは満足そうに頷いた。

 

「うむ。 良き、良き。 やはりお主は観察からの予測を主軸にする方が良いの」

 

 彼はわざと緑谷の見える位置で構えを見せ、対処できるかを試した。 先ほどの私事でOFA(ワン・フォー・オール)の実力を見定めた老人は、自分なりに少年の美点を見つけるべく試練を課し、思ったよりあっさりと見つかった事に彼は僅かに頭を上下させた。

 その言葉に緑谷は言葉を発することはできず、荒い息で答える。

 さらに彼の後ろでは、隙を見せた爆豪にミルコの強烈な飛び蹴りが腹部へ突き刺さっていた。

 

「ほらそこ、ガラ空きだぞ!」

「ぐぉ!?」

「かっちゃん!?」

 

 吸い込まれるようにミルコのカウンターが爆豪へ決まったのを見て、緑谷は咄嗟に幼馴染の方へ飛んでいき、ミルコを引き離すべく走りながら拳を構えた。

 そこで、彼は違和感を覚える。

 

(ミルコがこっちを見ない?)

 

 向かっていく緑谷に一度は視線を向けた彼女は、しかし興味が無いと言いたげに爆豪の方へ視線を戻す。 緑谷が彼女に向かって拳を突き出した瞬間でさえ、視線を向けるだけで反撃どころか避けようともしない。

 

(あれ、何もしない?)

 

 ミルコに届きかけた緑谷の拳は、横から現れた朱塗りの木刀を腹部に叩きつけられて届くことはなかった。

 

「が!?」

「やれやれ、運が良いようじゃのう」

 

 ヨロイムシャの妨害で緑谷は吹き飛ばされ、再び建物へ衝突する。

 壁に人型の窪みをつけた彼はよろけながら立ち上がりつつ、痛む背中を忘れるくらいにヨロイムシャの言葉に思考を巡らせた。

 

(運がいい? ミルコが僕に何も反応しなかったのには理由がある? わざわざ行動に条件があること教えてくれたんだ、考えろ!)

 

 緑谷は疑問を解くべく再度ミルコに接敵しようと試みる。 しかし、ヨロイムシャの攻撃を掻い潜る事は難しく、手をこまねいている間に、再度ヨロイムシャの攻撃をもらってそのまま爆豪へ向かって吹き飛ばされた。

 爆豪が彼を避けるのをヨロイムシャは眺めながら、懐中時間を取り出して残り所間が僅かになった事を宣告した。

 

「さて、残り五分。 逃げるか抗うか、そろそろ決めねばならん時じゃろう」

「簡単には逃がさねーけどな!」

 

 爆風で少しだけコスチュームが焦げているミルコを爆豪が睨みつける。

 

「逃げる訳ねえだろーが!」

 

 いきり立っている彼に、緑谷が声をかけた。

 

「かっちゃん、一緒に」

「ウルセェ、俺に指図すんな!!」

 

 爆豪はクラスメイトの申し出を一蹴してミルコへ向かう。 迫ってくる相手の迎撃に、ミルコも同じく爆豪へ向かった。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」

「はは! 威勢のいい生意気な子供だ!」

 

 爆豪の攻撃をいなし、カウンターを決めるミルコ。 既に何十回も見た光景に、緑谷も突っ込んでいった。

 

(ここで僕もミルコに行けば……!)

 

 彼女は爆豪の攻撃をかわしながらも、先ほどと同じように近づいてきた緑谷を一瞥して無視する。 先ほどは偶然だったが、今度は明らかに緑谷を無視して視線を爆豪へ移したのを見て、緑谷は彼女が意図的にこちらをスルーしている事が間違いでないことを確信した。

 彼は腰にぶら下げていたハンドカフスに手を伸ばす。 そこで再びヨロイムシャの攻撃が襲い掛かった。

 

「ワシを無視するとはいい度胸だ、小僧」

(ヨロイムシャもかっちゃんの近くに行っても見向きもしないで僕ばかり狙う。 もし、二人とも同じ条件で行動しているならば!)

 

 予め、妨害してくるであろうと予測していたヨロイムシャの攻撃をかわし、緑谷は幼馴染へ声をかける。

 

「かっちゃん! ヨロイムシャに向かって」

「指図すんなクソデクゥ!!」

 

 緑谷の提案を聞くことなく爆豪はミルコへ向かう。 軽々と攻撃を避けられてカウンターを入れられ、同時に緑谷の方はヨロイムシャの攻撃が直撃した。 二人は仲良く吹き飛ばされ、建物の自動ドアを突き破って室内に飛び込んでいく。

 その様子を退屈そうに見ていたミルコは、横目でヨロイムシャを見ながら口角を上げる。

 

「あの弱虫っぽいやつ、気づいたな」

「行動は変えるな。 これはあくまで小僧達の試験」

「解ってるっての」

 

 二人揃って歩を進める。 建物の中から言い争いが聞こえてくる様子に、ヨロイムシャは小さく息を吐く。

 

「しかし、あれでは……試験を乗り越える事は無理のようじゃの」

「あははははは! あの生意気な子供が早々に言う事を聞くか!」

 

 あっけらかんと笑うミルコを横目に、ヨロイムシャは歩を進めて室内に入った。

 試験官二人が外で会話をしている頃。 室内へ叩きこまれた爆豪がヨロヨロと立ち上がり、体を揺らしながらも外へ向かおうとする。

 同じく立ち上がった緑谷が声を張り上げて幼馴染に声をかけた。

 

「かっちゃん、話を聞いてよ!」

「デクは黙ってろ!」

 

 聞く耳持たない相手に、緑谷は諦めることなく声をかけ続ける。

 

「突破口が見えたんだ! それには二人で協力しなければ」

「黙れ! テメェの手を借りるくらいなら負けた方がマシだ!」

 

 向かい合って言い争いをしている二人の元へ、蹴撃と木刀が振るわれる。 引っ掻けられるように放たれた攻撃に、緑谷達は再び入ってきた壁穴から建物の外へ吹き飛ばされた。

 わざわざ回り込むように移動して攻撃したヨロイムシャ達は、避けられなかった二人へ檄を飛ばす。

 

「お主たちが今、追い詰められている事を忘れるでない」

「無駄に時間を使って余裕だな!」

 

 土煙を上げながら、道路の半ばまで跳ねて倒れる緑谷達。 建物の内へ外へと吹き飛ばされ、満身創痍の二人は気力を振り絞って立ち上がった。 荒い息を吐きながらも一人で敵へ挑もうとする爆豪に、緑谷は建物から現れる相手を指さした。

 

「ミルコを見てよ! いつも一人で事件に突っ込んでいくあの人だって、他のヒーローに背中を任せるときもあるし、今はヨロイムシャと共闘している! 負けた方がマシだなんて言うなよ、今は僕を使うくらいしてみろよ!」

「……」

 

 彼の声に反応したのか、肩を揺らしながら立ち止まる爆豪。 緑谷は彼の背中をじっと見つめて答えを待つが、動かない相手に痺れを切らしたミルコの飛び蹴りが襲い掛かる。

 

「余裕だな!」

「チッ!!」

 

 爆豪が攻撃を避けると、片手で目つぶしの爆発をミルコに放ち、もう片方の手を地面に向けて爆発を発生させ、爆風の勢いで体を一回転させて踵落としを放つ。

 疲れていようとも鋭さの失わない攻撃を、ミルコは目を瞑ったまま頭を横にずらすだけで回避し、さらに爆豪の足を掴んで素早く爆豪に背を向けて一本背負いの要領で地面に叩きつけた。

 顔を強かに打ち付けた爆豪を見て、緑谷が彼に向かうべく身をかがめる。

 

「かっちゃん!」

「させんよ」

 

 そこに、すかさずヨロイムシャが一瞬で近づき、両手で握った木刀で袈裟斬りを放つ。

 幼馴染に向かおうとしていた緑谷は一転してヨロイムシャに向き合うと、振り下ろされる腕を掴んで受け止めた。 相手の攻撃を防いだが、アスファルトに膝を打ち付けた緑谷は、痛みを堪えながら爆豪を呼ぶ。

 

「かっちゃん! ヨロイムシャにハンドカフスを!」

「あ˝あ˝!?」

 

 立ち上がった爆豪は目を吊り上げる。 ヨロイムシャが腕力だけで押さえつけてくるのを必死に押し返している緑谷が叫んだ。

 

「二人はお互いに決まった相手にしか攻撃しない! そして、目標と別の相手には迎撃しない! だから混戦に持ち込んで、一人でも数を減らせば勝て……グゥ!?」

 

 急にヨロイムシャの腕が持ち上がり、腕を掴んでいた緑谷は突然の事に対応できず、振り上げられた勢いに釣られた魚のように空中へ放り出される。 腕振り上げたヨロイムシャはそのまま緑谷の肩に向かって木刀を振り下ろした。

 ヨロイムシャは地面に叩きつけられ藻掻く彼を見下ろす。

 

「向こうへ行くと見せかけて受け止める。 今のお主では良き手筈だが、その後が続かなくてはな」

 

 そう言うと、視線を爆豪へ向けた。

 まるで好機を逃したのは自分だと責めているような空気に、爆豪が歯ぎしりを上げそうなほどに食いしばっていると、相対するミルコが小馬鹿にした態度をとる。

 

「だからお前は子供なんだよ」

 

 目をさらに吊り上げた爆豪に、彼女は胸を張って言い放った。

 

「今を全力で生きろ、死ぬ気で息をしろ! 私だってな、本当は試験補佐官とかやりたくなかった! けどな、どっかの誰かが私を模したロボットをぶっ壊そうと挑んでいるのを耳に挟んだ。 子供の癖に半壊まで追い込んだと聞いておいて、そんな面白そうで生意気な奴を放っておいたら私は絶対に後悔する。 だから此処に来た!」

 

 この試験に現れた理由を唐突に告白するミルコ。 呆けたように口を開く爆豪の事などお構いなしに彼女は捲し立てた。

 

「嫌な奴がいる? 適当にあしらえ! 嫌いな事に関わるのが嫌だ? なら、さっさと終わらせろ! 自分のしたい事をする為に、遠回りをするな! 生意気な子供らしく、一直線に最短距離を走ってこい!!!」

 

 ミルコが力強く胸を叩いた。

 彼女の言葉は、爆豪の心に絡みついていた何かを無理やり引きはがしていく。 本人ですら分からない心の動きに、彼は雄叫びを上げながらミルコへ飛んでいった。

 

「……クソがぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ミルコが構えると同時に、腕についている手榴弾型サポートアイテムのピンを引き抜く。 直線状の攻撃をミルコは易々と避けて迎撃の構えをとると、視界に入ったのは緑谷達の方へ向かう爆豪の姿だった。

 

「……はは! そうだ、さっさと終わらせろ!!」

 

 追いかける姿勢をとりながら、彼女は声援を飛ばす。

 緑谷もまた、幼馴染が向かってくるのを視界に収め、残っている力を振り絞ってミルコへ向かう。

 ヨロイムシャもまた、彼を追うべく構えをとるのと同時に、緑谷と爆豪がすれ違った。

 

「かっちゃん!」

「さっさと終わらせるぞ、このクソ下らねぇ試験を!」

「うん!」

 

 二人はハンドカフスを構え、それぞれ向かってくるヒーローを捕まえるべく振りかぶった。

 一瞬の交差。 爆豪と緑谷がそれぞれ追ってきた相手の攻撃を食らい、地面を転がって倒れる。 試験官の二人は互いに視線を合わせ、ヨロイムシャが片腕を上げた。

 その腕にハンドカフスがぶら下がっているのを確認して、老人は木刀を仕舞う。

 

「ふむ、終いじゃの」

 

 彼がそう言うと同時に、スピーカーからリカバリーガールの放送が流れた。

 

『爆豪・緑谷チーム、条件達成さね』

 

 聞こえた内容に、力尽きて立つことすらできないでいる緑谷が呆けた声を上げる。

 

「え? 何で?」

 

 理解できない状況に、ヨロイムシャが緑谷を担ぎ上げながら理由を話した。

 

「根津からの指示はもう一つあっての。 一人でもカフスを掛けることができたならば、そこで試験は終了と言われておった」

「……聞いてない!!!」

 

 思ったよりも元気そうな彼に、老人は施設の出口へ向かいながらもため息を吐く。

 

「当然。 言ってしまったら、片割れが勝手に合わせ……と、いかんいかん。 ここでバラして(答えて)しまうと試験の意味が無いわい」

 

 のっしのっしと歩くヨロイムシャに揺られながら、試験を突破できた事を実感していない様子を見て、ヨロイムシャが言葉をかける。

 

「何にせよ。 試験突破、おめでとう。 その個性()に驕れる事無く、精進を怠る事なかれ」

「…は、はい!」

 

 二人の横では、緑谷と同じく満身創痍の爆豪がミルコに引きずられている姿があった。

 

「終わった終わった! さあ、個性使用許可場に行くぞ!」

「イデデデデデ!! バンダナを引っ張るんじゃねぇ!!」

 

 そのまま外に飛び出しそうな勢いで走り出したミルコ。 乗り物を使わずに集合場所へ向かっていく姿を見て、緑谷は悲鳴を上げている爆豪に同情した。




感想、誤字報告、指摘ありがとうございます

細部変化×状況変化×原作にない戦闘描写=素人執筆難易度∞
ちかれた でも空想を形にするの好き

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