VillainのVはVOICEROIDのV   作:捩花

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Voice31 皆集まれ敵連合

 まばらな雲が浮かぶ晴れの日。 神野市にある廃ビルの一つへ、世間からはヴィランと呼ばれる人間が人知れず集い始めていた。

 戸棚には様々なビンが並び、カウンターテーブルとそれに沿って並べられている数個の椅子、部屋の奥にパソコンのモニターだけがポツンと置かれているだけの殺風景な一室。 バーとしては設備が少なすぎる場所に、六人ほどが顔を合わせている。

 カウンターと棚の間で入り口を見ているのは、黒い靄の様な体でグラスを磨いている男性、黒霧。 彼とカウンターを挟んで、顔を掴むように手のアクセサリーを身に着けた男、死柄木弔が椅子に座っている。

 彼の気だるそうな視線は部屋の入り口にいる四人へ向けられていた。

 

「で、そいつらは?」

 

 握りつぶしていた何かをパラパラと地面に落としながら、入り口にいる右前歯が欠けた男に問いかける。

 光加減では腸にも見える色と形をしたマフラーを首に巻き、小さめの丸いサングラスをかけた男は口にタバコを咥えながら問いかけに答えようとして、その男が口を開く前に三人のうち二人……セーラー服にミニスカートを身に着けた女の子と、彼女より頭一つ高いボサボサした黒髪に目の下や下顎の皮膚が焼け焦げたような色をしている男。 

 二人はそれぞれ言いたいことを発言した。

 

「ねえ、ステ様の仲間だよね! 入れてよ、(ヴィラン)連合!」

(ナマ)で見ると……気色悪いな」

 

 好き勝手言い放つ二人の横で、セーラー服の少女と同じくらいの背丈をした金髪の女性は、片手にぶら下げていたジェラルミンケースを足元に置くと、頭から二葉のように跳ねている癖っ毛を揺らして呆れている。

 案の定、死柄木は機嫌を損ね、黒霧にこの場から取り除くよう指示を飛ばす。

 

「餓鬼と、礼儀知らず。 俺の大嫌いなものがセットできやがった。 黒霧、飛ばせ」

「まあまあ、せっかくご足労頂いたのですから……話だけでも伺いましょう」

 

 黒霧が宥めていると、三人を連れてきた男……裏世界では大物ブローカーで知られている義爛(ギラン)が紹介を始める。

 

「まずそっちの可愛い女子高生。 メディアが個人情報を護ってくれてはいるが、連続失血死事件の容疑者として追われているトガヒミコちゃん。 そしてこっちの男は目立った罪は犯していないが、ヒーロー殺しの思想にえらく固執している」

 

 先に紹介された女の子、トガヒミコは拳を軽く握りながら言葉を発する。

 

「トガです。 トガヒミコ! 生きにくい世の中を生きやすくしてほしいです。 ステ様になりたい、ステ様を殺したい! だから入れてよ、弔君!」

「意味が分からん。 破綻者かよ」

 

 死柄木の短評に義爛が肩をすくめる。

 

「会話は一応成り立つ。 きっと役に立つさ」

 

 彼の言葉に、顔に着けた手のアクセサリーで見えにくいが、見ればわかるくらいに死柄木は顰める。 次いで義爛の紹介でこの場に来た男が一歩前に出て口を開く。

 

「今は『荼毘』で通している。 ヒーロー殺しの意思は俺が全うする」

「通すな、本名を名乗れよ」

 

 死柄木の言葉には反応せず、荼毘と名乗った男は死柄木とトガヒミコを見定めるように、全身へ視線を這わすと顔をしかめた。

 

「この組織は本当に大義があるのか? そのイカレ女も入れるつもりじゃないだろうな」

 

 上から目線の態度に、死柄木の機嫌がますます傾いていく。 その様子を見て、黒霧が宥めようと持っていたグラスを置くと同時に、今度は今まで黙っていた女性が口を開いた。

 

「私も自己紹介していいかな?」

 

 その場にいた全員の視線が彼女に集まる。

 敵連合の首魁とその側近、複数人を殺した少女にヒーロー殺しの意思を継ぐという男、そして二人を紹介しに来た裏世界の大物ブローカー。 その中に居れば一般人とも見える、この場に合わない雰囲気の女性が軽く頭を下げて自己紹介を始めた。

 

「弦巻マキです。 一応、少数メンバーのリーダーで、ヴィラン活動をしています」

 

 マキの言葉に、タバコを吸っていた義爛が補足した。

 

「別嬪さんの連れは三人。 琴葉茜、京町セイカ、そして紲星あかり。新参グループだが、実力は折り紙付きだ。 この中で一番ヤバイ奴だと俺は思うね」

 

 ブローカーの言い方に、死柄木が眉を上げる。

 

「へぇ。 聞いたことの無い名前ばかりだが、そう言うくらいならトガより殺しているんだろ?」

「えーっとね、半年くらい前からなら……」

 

 彼女は周囲を見渡すと、人差し指を立てて答えた。

 

「ここにある、指の数を二倍してからは数えてないかな」

「あん……?」

 

 はっきりとしない回りくどい回答に、死柄木も釣られて集まっている人間を数えていると、荼毘が先に答えを言った。

 

「最低でも六十人ってか」

 

 彼の言葉に、マキはクスリと笑って首を振る。

 

「残念、はずれ」

「……おいおい。 どういうことだよ」

 

 同じ答えに辿り着いていた死柄木が答えを否定されたことに、再び顔を歪めた。 その様子に、マキは自身の足を指さして回答を述べる。

 

「一人の指は手と足で二十本、それが六人分。 それと死柄木君の顔についている手も含めてプラス五本。 でも、黒霧さんは指が見えないので除外して五人計算とすれば、五に二十を掛けて百プラス五人……かな。 あくまで、それからは数えていないって事だけどね。 多分、黒霧さんの分を足しても足りないと思うよ?」

 

 さらりと宣った人数に、目を見開いたり眉を上げる者はいたものの、驚きの声を上げる者はいなかった。

 全員が思う疑問を荼毘が口に出す。

 

「四人で割って一人二十人くらいか。 しかし、それだけド派手にやっているらしいが、そんな話は聞いたことがないな。 でまかせにしても大げさすぎる」

 

 胡散臭そうに彼がマキを見ていると、黒霧が口をはさんだ。

 

「いえ、彼女の言っている事は本当でしょう」

「何で本当だってわかるんだ。 それだけ殺したなら、ニュースが静かな訳がないだろ」

 

 根拠を求める荼毘に、黒霧がマキを見ながら答えた。

 

「半年ほど前から声をかける候補に挙げていたヴィラン達に連絡が取れず、大半が消息を絶っています。 確認したヴィランは五十人足らずでしたが……全員が行方不明、もしくは拠点で死亡していました。 貴女の証言通りであるならば、その下手人が彼女達でしょう」

 

 黒霧の語ったマキ達の所業に、死柄木は軽く笑って手をぶらぶらさせる。

 

「おいおい。 数を誇るのはいいが、ヒーローを狙えよ」

 

 相手の態度に、マキは口から舌をチョロっと覗かせて弁明した。

 

「ごめんね? こそこそと手土産を集めていたら、随分と興に乗っちゃって」

 

 彼女の足元に置いてあったジェラルミンケースを持ち上げ、蓋を開けて中身を死柄木に向かって見せる。

 その中身を見せられた敵連合の二人は絶句した。

 

「ざっと一億。 襲った連中の所持財産がピンキリあり過ぎて、時間かかっちゃった」

 

 彼女が持つ入れ物の中にはぎっしりと詰まった札束。 金額を聞いたトガヒミコはマキへと身を寄せて、荼毘も視線だけではあるがケースの中を覗き込む。

 予想外の品物に、死柄木は頭に手を当てて体を揺らした。

 

「ははは、こりゃ確かにイカレているな」

 

 唯一、驚くことのなかった義爛が補足を加える。

 

「ちなみに、この子からは紹介料を貰っている。 今なら紹介料金はロハ(無料)。 大変リーズナブルだ」

 

 その情報に黒霧が黄色いラインのような目を広げ、カウンターから僅かに身を乗り出す。 黒霧は心を落ち着かせるように大きく息を吸い込み、一呼吸置いてからマキに向かって問いかける。

 

「とても美味い話ですね。 ですが、そこまでする理由は?」

 

 彼女はケースを閉じてカウンターの上に置くと、死柄木の隣に座り、天気の話をするような軽い口調で話し始めた。

 

「君がこの世界に、一石を投じそうだから」

 

 紡がれた言葉に、死柄木が顔を彼女へ向ける。 マキはお構いなしに、黒霧から出された飲み物をためらうことなく一口つけてから続きを語った。  

 

「つまらないんだよね。 単純に、現在()が。 個性が自由に使えない、窮屈な世界。 誰もが自分の持つ力を惜しみなく使える未来を、私は見たいんだ」

 

 そこでまた言葉を区切り、死柄木に顔を向ける。

 

「そんな時に貴方達、敵連合が現れた。 ステインの影に隠れているけど、それも意図的なんでしょ? これから何か、大きい事を起こす……そんな予感がしたから、ここに来たんだ」

 

 死柄木はしばらくの間、マキを見つめる。 そして、不意に体を揺らし始めると静かに笑い始めた。

 

「ククク、随分と買い被ってくれるじゃないか」

 

 喜びの感情を隠すことなく彼女へ向ける死柄木。 そんな彼に笑顔でマキは言葉を伝えた。

 

「私はただ、君が次にどんなことをしてくれるのか……近くで見ていたいだけだよ」

 

 まるで二人だけの世界を作っているような雰囲気に、トガヒミコは退屈そうにナイフを弄び、荼毘は彼らのやり取りに喉の下を掻いている。 目の前の黒霧ですら居心地悪そうにしている中、死柄木は人差し指を天井に向けて言った。

 

「ビルの好きな部屋を使え」

「死柄木弔!?」

 

 決定を下した彼に黒霧が諫言を挟もうとするが、死柄木は札束の入ったケースを指三本で救い上げて黒霧へ放り投げて黙らせる。

 

「紹介料はタダ、持参金も持ってきた。 理由も十分。 敵連合がやる事を手伝ってもらおうじゃないか」

 

 彼にとって十分な答えを持ってきた相手に歓迎の意を示す。 黒霧もまた、懐事情はあまり良くないため、歓迎したいのだが、マキに視線を向ける。 笑顔で死柄木を見る彼女を信用できるかと言われれば、その胡散臭さに否と答えるであろう。

 義爛が愉快そうに煙をふかしているのを背景に、マキは眉尻を下げながら頭を下げた。

 

「ごめん。 部屋は私の連れがもう使ってると思う」

 

 彼女がそう言ったと同時に部屋の扉が勢いよく開く。 近くの壁に背を預けていた義爛は驚いて転びそうになりながらも、たたらを踏んで体勢を立て直す。

 彼が入り口を振り向くと、グレーとブラックのマスクに身を包んだ人物がまくし立てていた。

 

「おいおいおい、まだお話し中か!? っと悪かった義爛、俺は悪くねぇ!」

「どうした、トゥワイス」

 

 死柄木が今いる者たちより先に受け入れたヴィラン、トゥワイスはやってきた方向を指さすとマスクの上からでも泣きそうな表情がわかるくらいに顔を歪めて叫ぶ。

 

「いきなり美人が三人、部屋を好き勝手に改装しやがった! あいつら怖いんだけど!? 両手に花だからもっと話してていいぜ!!」

 

 彼の特徴である、先に言った事が本音であることを知らないトガヒミコと荼毘が奇妙な言い回しに首をかしげていると、トゥワイスの腕に女性らしき手が伸びてがっしりと掴む。

 銀色の長髪に黄色いガラスのはまった髪飾りをつけ、三つ編みをぶら下げている女性がふくれっ面で彼の腕を引っ張った。 見た目よりも腕力が強いらしい相手に抗うも空しく、トゥワイスはカートゥーンアニメのように扉の前から姿を消す。

 

「ちょっと、トゥワイスさん! 途中で抜け出さないでください! 次はピザ十枚チャレンジですよ!」

「ぁぁぁあああ助けて大丈夫だぁぁぁぁぁぁ」

「大丈夫ですか! それなら次の炭酸飲料二リットル一気飲みも準備しておきますね!」

 

突風のように現れ、そして消えていった二人。 呆気にとられている面々の中で、その状況を引き起こした女性の仲間であるマキは苦笑しながらも、トゥワイスがああなっている原因を打ち明ける。

 

「あー、もう食事の用意が終わっているみたい。 トガちゃんと荼毘君もディナーはどう?」

 

 彼女の申し出に、トガは笑顔でお腹を擦りながら部屋の入り口に向かった。 荼毘も横目でマキを見てから、トガの後へ続く。

 

「わー、ちょうどお腹ペコペコだったんです!」

「……貰える物は貰っていく」

 

 一言残してさっさと出ていった二人。 トゥワイスが消えて間髪入れず退出したトガと荼毘に、自分には何も言わなかったことで死柄木は機嫌を斜めにしながらも椅子から立ち上がり、壁にぶら下がっているフード付きの黒いトレーナーを着て入り口へ歩き出す。

 

「……チッ、こっちの返答も聞かずにいなくなりやがって。 少し外をぶらついてくる」

「死柄木弔?」

「あいつらはステイン目当てだが、連合に引き入れとけ。 お前が言う大物ブローカーが連れてきた連中なら、利用する価値はあるはずだ。 都合よく金もあることだしな」

 

 現金が詰まったケースを指さして、死柄木はフードを被って外へ出る。

 義爛は黒霧に視線を向けると、取引先が頷くのを見てケースから札束を一つ取り出す。 ペラペラとめくって中身を確認すると、ジャケットの内ポケットに入れて手を振った。

 

「毎度あり。 商談成立ってことで、俺もお暇するよ」

 

 扉を閉めて義爛は立ち去った。 残ったのは黒霧と弦巻マキの二人。

 彼女は持っていた飲み物を煽って半分程流し込むと、静かにグラスを置いて黒霧を見る。

 

「さて」

 

 先に口を開いたのはマキ。 テーブルに肘をつき、上目遣いに黒霧を見上げて言った。

 

「皆いなくなったことだし、この先の予定を聞いておきたいな。 必要な物があるなら、できる限り調達するよ」

「その前に、こちらもお聞きしたいことがあります」

 

 黒霧は彼女の言葉を遮り、自身の持つ記憶と齟齬が無いか確認をとる。

 

「貴方は雄英襲撃のメンバーにいましたね?」

「うん」

 

 あっけらかんと答える相手に、彼は一度黙り込みながらも次いで疑問を投げかけた。

 

「私以外では雄英高校のヒーローが集結した、あの襲撃場所から脱出する術を持っていないはずです。 どうやってヒーローの手から逃れたのですか」

「個性のちょっとした応用」

 

 真面目に答える気の無い彼女の様子に、黒霧は小さくため息を吐く。 彼は頭をわずかに動かして、相手の用件を言うように促した。

 

「死柄木君が『先生』って呼んでいる人に会わせてほしいな」

「……どこで知りましたか」

 

 死柄木と自分、そしてもう一人の『ドクター』と呼ばれる協力者しか知らないはずの黒霧の上にいる存在。 その呼び方を知っている事に動揺を隠しながらも、黒霧は静かに聞くと彼女は顔を傾けて部屋の奥にあるモニターを見ながら言った。

 

「知っているから。 ただそれだけだよ。 それで、どうかな? 会わせてくれる?」

「……」

 

 相対するヴィランが放つ、得体の知れなさに黒霧は冷や汗を流す。 そこに助け舟とばかりに、奥にポツンと置かれていたモニターの電源が音を立てて起動した。

 映し出されたのは黒い椅子に座り、ワイシャツの胸元を緩めた背広姿の人間。 頭部は意図的なのか画面から見切れており、辛うじて首元に刺さっている何かの管を揺らしながらその男はマキへ声をかけた。

 

「先ほどの茶番。 弔が見抜くのは酷とはいえ、あまり煽てないで欲しいね。 弦巻君」

「ふふふ、ちょっかいをかければ出てきてくれると思ったからね。 オール・フォー・ワン」

 

 悪びれる様子の無い態度で相手の名前を口にするマキに、黒霧は警戒を強める。

 オール・フォー・ワン。 巨悪、もしくは悪の帝王とも呼ばれていた存在。 数年前にオールマイトと戦い、激戦の末に生き延びた彼は今、生命維持装置を繋いでいないと長期間の活動ができない体になっていた。

 現代の若いヴィランでも、都市伝説程度の情報しか出回らせていない程の隠蔽力でヒーローの目を掻い潜っていた、敵連合を裏で操る男。 癒えきらぬ体の傷跡を晒しつつも、液晶画面越しでもわかるほどの気迫を放ちながら、男は本題を尋ねる。

 

「ふむ、用件は何だい?」

 

 マキはグラスに残っていた液体を全て飲み干すと、立ち上がって一礼した。

 

「組織のトップに挨拶を。 と、いうことで改めて初めまして。 オール・フォー・ワン。 弦巻マキです」

 

 気迫をものともせず会話をしている彼女。 黒霧は義爛が言っていた『この中で一番ヤバイ奴』という発言に偽りが無い事を見せつけられている中、オール・フォー・ワンもまた挨拶を交わす。

 

「初めまして、弦巻マキ」

 

 オール・フォー・ワンが言葉を終えた瞬間、黒霧は近くから発せられた殺気に当てられて、心臓が止まったと錯覚した。 喉が潰れたかと思うほどに濃厚な殺意の発生源を見れば、弦巻マキが笑顔のまま高密度の殺意をオール・フォー・ワンへ向けている。

 雰囲気が一変した彼女に戸惑いながらも、オール・フォー・ワンへ異常を伝える口が動かない黒霧。

 その様子を知ってか知らずか、オール・フォー・ワンは次の言葉を発しない彼女に続きを促す。

 

「それで、用件は本当にそれだけかい?」

 

 その言葉と同時に彼女の殺気が霧散する。 知らずのうちに息を止めていた黒霧はカウンターに手をついて大きく息を吸っていると、マキは何事もなかったかのように、顎に指を当てて首を傾げていた。

 

「そうだなぁ……もし、話しても問題ない事ならば。 雄英の内部に潜ませている、内通者が誰なのか知りたいな」

「……!?」

 

 今度こそ黒霧は目を見開いてオール・フォー・ワンを見る。 彼ですら知らなかったことを平然と言い放つヴィランに対して、オール・フォー・ワンもまた顎に手を当てて考え込んだ。

 

「ふむ……」

 

 黒霧は自身が入り込めない領域で話している二人に挟まれ、居心地悪くなっている彼は空になっているマキのグラスに飲み物を注ぐ。

 マキが喉を潤していると、オール・フォー・ワンは首に刺さっている太いチューブを擦りながら口を開いた。

 

「弔に小遣いを持ってきてくれた礼として、それくらいなら答えてあげよう」

 

 黒霧もグラスを磨きつつ聞き耳を立てている中、オール・フォー・ワンは内通者の名前を口にする。

 

「______」

 

 伝えられた名前に、マキは僅かに目を見開いて少しの間だけ沈黙する。 そして、持っていたグラスの中身を一気に飲み干すと、心躍っているのか弾むような明るい声で独り言を呟く。

 

「ああ、そっか。 あの子かぁ……」

 

 黒霧が心当たりに記憶を探っている横で、楽しそうにカラカラとグラスの中に入っている氷を転がしている。 上機嫌な彼女の様子に、オール・フォー・ワンは彼女に問いかけた。

 

「それを聞いてどうするのかな?」

 

 有無を言わさず、答えなければならないという重圧を巨悪が無意識に放つ。 常人では白目を剥いてもおかしくない状況にもかかわらず、マキはただ肩をすくめただけで悪の帝王へ返答する。

 

「雄英の情報をどうやって集めていたのか、ただ単純に聞きたかっただけ」

「では、私からも一つだけ聞かせてもらおう」

 

 オール・フォー・ワンの言葉に、マキがモニターを見る。 相変わらず頭部の見えない映像が彼女に向かって言葉を紡ぐ。

 

「先ほど弔に語った言葉が本心では無いだろう。 君がなぜこの組織に入ったのか、私に聞かせてくれないか」

 

 彼女が死柄木に語った言葉。 当たり障りのいい台詞で死柄木を煽てているのは第三者、特に黒霧と義爛も理解できる程に薄っぺらいお世辞なのは明白だった。

 オール・フォー・ワンを見つめる彼女の顔は、端から見れば微笑みを浮かべている。 にも関わらず、傍にいる黒霧は感情が欠落していると思ってしまうほどの違和感を感じていた。

 彼女は先ほどと同じ様に、明るい声で答える。

 

「変わらない景色、動かない物語。 退屈な世界へ手を加えることができるなら、弄ってみたくなるでしょう?」

 

 マキはそう言って立ち上がると、モニターに向かって一礼する。

 

「それでは。 皆の所に行きますので、失礼します」

 

 退出の言葉を最後に彼女は部屋から出ていった。 遠のく靴音が聞こえなくなった頃に、オール・フォー・ワンが口を開く。

 

「黒霧。 次に行う弔の作戦まで、彼女達を見張っておきなさい。 幸い、人手と資金が転がり込んできた。 人員補充に凶悪犯を見繕っていたが、その必要もなくなった。 外へ出るのは控えて英気を養っておきなさい」

「……畏まりました」

 

 敵連合を裏で操る首謀者の指示に、先ほどの殺気を放っていた事を尋ねようか迷っていた黒霧は頷く。 オール・フォー・ワンは不穏分子を承知の上で受け入れた事に彼が口を出せるはずもなく、得体の知れないヴィランが消えた扉へ視線を移す。

 

「しかし、弦巻マキ……彼女は死柄木弔に悪い影響を与えかねないですね」

 

 彼の懸念に、オール・フォー・ワンは問題ないと一蹴した。

 

「それ以上に、気にかかることはあるけれど、ね」

「……何か彼女に?」

 

 弦巻マキを他より、一癖も二癖も有りそうなヴィランと捉えていた黒霧。 それとは違う別の何かを感じ取ったらしい影の支配者を見ると、オール・フォー・ワンは手を軽く振って話題を打ち切った。

 

「まあ、些細なことだ。 弔を頼んだよ」

「はい」

 

 その会話を最後にモニターの電源は切れた。

 

 

 

 閑散としたバーの一室とは別の場所、ゴチャゴチャと機械の置かれている薄暗い部屋。

 一つだけある黒い椅子に座っている人物は、大部分が瘢痕で覆われている頭を仰ぎ、唯一無事である口を僅かに動かす。

 

「あの声はどこかで……。 いや、覚えていないのであれば、その程度という事か」

 

 先ほどまで会話をしていた相手の声に、妙な懐かしさを掻き立てられた男は頭を振ってその感情を追い出した。




感想、誤字報告、指摘ありがとうございます

ヴィランサイドの話なのにUSJ編から始まって
三十話で敵連合が出てくる二次創作があるらしい……


あ、ボイロ組が入ったので君ら出番無しね
マスタード、ムーンフィッシュ、マスキュラー、マグネ「!!??」
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