VillainのVはVOICEROIDのV   作:捩花

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Voice33 街角の一幕

 東京の繁華街の一角にある高級料理店「銀色水流」。

 勇ましいカジキマグロの看板に偽りなく、魚料理は勿論の事、野菜彫刻と飴細工等による精密な魚類の造形によって作り出される料理は、皿の上の水族館と呼ばれるほどに芸術的な食事を提供している料理屋があった。

 その店の一室で、やせ細った骸骨の様な姿をした八木俊典ことオールマイトは汗を垂らしながら縮こまっていた。

 相向かいに座っている小柄な老人、ヒーローネーム・グラントリノの名を持つ男、酉野空彦がたい焼きを片手に口を尖らせている。

 

「まったく。 こんな上品な場所でなくとも良かったってのに」

「根津校長のおすすめで、ここならば相談しやすいと教えてもらいまして……」

「だろうな! 人助けに明け暮れていたお前が探し出せるような場所じゃないしな!」

 

 グラントリノは笑いながら、持っているたい焼きを頬張った。

 オールマイトも魚群の意匠を凝らしたサラダと、グラスに入った野菜ジュースを少しずつ口に含む。 過去の激戦によって胃袋を全摘した為に、小食にならざるを得なかった英雄はゆっくりと食事をしていた。

 しばらくして、グラントリノは手に持っているたい焼きを皿の上に置くと、元教え子へ声をかけた。

 

「顔色がいいな。 体の調子が良さそうじゃないか、俊典」

 

 話題を振られたオールマイトは師へ頷いて答えた。

 

「根津校長の伝手で……整体師やセラピスト、マッサージ師等を毎日のように呼ばれていまして」

「がっはっはっは!! 今までのツケだ! 体の手入れをせずに人助けして、ボロボロになった結果を甘んじて受け入れろ」

 

 体調を整える事と教鞭を振るう事に手一杯で、ヒーロー業まで手が届いていないオールマイトの現状を、グラントリノは鼻息一つであしらう。 残っていたたい焼きを口に放り込み、緑茶で喉を潤して一息つくと、改めて元教え子の目を見て口を開いた。

 

「で、根津が密談に使うほどの場所で相談ってのは何だ」

 

 雰囲気の変わった元教師に思わず背筋を伸ばしたオールマイト。 彼も静かに一息ついて心を落ち着かせてから、用件を切り出す。

 

OFA(ワン・フォー・オール)についてです」

 

 強大な悪と戦うためにオールマイトが受け継ぎ、今は緑谷出久へ渡った個性。 長年連れ添った個性に拘わらず、先日のある出来事で予想外の動きを見せた個性の事を後継者から伝え聞き、悩んだ末に彼の思いつく限りOFAに詳しいであろうグラントリノへ内容を打ち明ける。

 

「昨日、ショッピングモールでヴィランに襲われた際、緑谷少年は体が勝手に動いたと言っていました。 肉体にかかる負荷を無視するほどだったらしいのですが、先代にもそのような事はあったのでしょうか」

「無いな」

 

 即座に否定するグラントリノ。

 

「少なくとも、体が勝手に動くなんていう話は聞いたことが無い。 お前こそ、思い当たる節は無いか?」

 

 老人の問いにオールマイトは無言で首を横に振った。

 

「となると、原因は相手側か」

「結月ゆかりを名乗ったヴィランですね」

「『頭文字(イニシャル)V』だな」

 

 食べかけのたい焼きを口へ放り込み、お茶で喉を潤してから続きを語る。

 

「保須市でも連中らしき小娘と戦ったが、聞いた連中は揃いも揃って個性があやふやだ。 ほれ、ヒーローネットワークに載っている京町セイカというヴィランも、霊体のような体で幻覚を見せる個性の可能性有りと、断定されている物が何一つない。 先日の結月ゆかりによって小僧が掛けられたのも、その場に縫い留める能力と個性発動を阻害するという複合個性らしい……ってな」

 

 グラントリノは警察から送られてきた資料を机に置いて言葉を続けた。

 

「おまけに警察の調べた情報には、京町という娘は半年くらい前にとある企業へ、企画の持ち込みをしていたらしいじゃないか。  何の企画かは……記録どころか説明された役員も記憶がないってのは怪しいがな」

 

 オールマイトも資料に目を落とす。 幾度となく目を通した資料には『頭文字V』メンバーの情報が纏められているが、ほとんどが数行で終わるほどの内容。 今、言及されている京町セイカの情報もまた同様だった。

 

「そして間を置かずにヴィランへ。 今を考えれば悪党の資金源になっていた可能性を防げたことは良い事だが」

「一度の失敗でヴィランへ転身したというのは……」

「ま、元々そういう方針だったんだろう。 資金確保に失敗したから本業に戻ったって可能性が高い」

 

 グラントリノは食べ終わった食器を机の端に寄せて結論を出した。

 

「十中八九、後ろはAFO(オール・フォー・ワン)だな。 敵連合襲撃時に死んだ娘が二人、保須市で暴れた娘が一人、ヒーローネットワークに載っている霊体の娘が一人。 そして、小僧と顔を合わせた一人を合わせて五人。 全員が可笑しな個性をもっているのが、混ぜ込んだような個性の持ち主が複数人、偶然で済ませられるわけがない」

 

 脳無という例外を除けば、複数の個性を体に宿す人類は希少である。 そんな存在をグループ単位で生み出せる者は彼らの知る限り、AFO一人しかいない。

 その考えに二人は既に辿り着いていたが、一つだけ引っ掛かる出来事をオールマイトが呟いた。

 

「しかし、AFOを仄めかしたのも彼女達です」

 

 黒幕を知る切っ掛けを与えたのも『頭文字V』だったという事に、グラントリノは肩を竦めながら一蹴した。

 

「内部分裂でもしたんじゃないか? どうにも『頭文字V』はマスターと呼んでいる人物の下にいるのは確かだ。 ……そう考えると『頭文字V』の人数は知る限り六人って事か」

 

 得体の知れないグループに顔をしかめながら、グラントリノはお茶を飲み干す。

 喉を潤した彼は口を曲げながらも言葉を続けた。

 

「ま、連中が小僧に影響を及ぼした理由は分からず仕舞いだが。 ……そういえば、雄英高校の近くに『頭文字V』を名乗ったヴィランの身内がいたらしいが、そっちはどうなんだ?」

 

 グラントリノの問いに、オールマイトも飲み物で口の中を軽く潤すと、友人の塚内から聞いていた事を伝える。

 

「東北じゅん狐堂に勤めている琴葉葵少女ですね。 警察やヒーローが監視していますが、特に目立った行動は起こしておらず、保須市の事件時には付近にいたそうです。 その時、ヒーロー殺しに襲われていたヒーローを見つけた第一発見者のようで……」

 

 オールマイトが机の上の資料をめくって彼に見せる。 グラントリノが目を向けると、現場にいた自分の見えない所で起きていた、ヒーロー殺しの現場である小道の写真、その隣に書かれている証言の内容をかいつまんで読み上げた。

 

「暴風が小道から吹いていたので覗いてみると、その場にヒーロー殺しはおらず、散らかった裏路地の中で倒れていたヒーローのみ……か」

 

 襲われていたヒーローが保須市で共闘したインゲニウムと知り、少なくない凶悪事件を起こして逃げ延びていたヒーロー殺しの魔の手から逃れていた事に感心している。

 共闘の記憶を思い出しつつも、彼の意識は最近立ち寄った店の方へと移っていった。

 

「にしても、東北じゅん狐堂か……ずんだ味のたい焼き美味かったなぁ。 そういや、その琴葉っつー娘の身内が雄英襲撃で死んだヴィランの一人らしかったが、どうなったんだ?」

「はい。 本人はとても嫌がっていましたが、家族という事で遺体を引き取り供養したと、塚内君から聞いています。 もう一人のヴィランも、馬鹿な姉の友人だったろうからと引き取っていったそうです」

 

 なぜそんなに嫌がっているのかグラントリノは疑問に思ったが、「姉は身勝手だった」という事をオールマイトから聞いて肩を竦め、頭を振った。

 

「ま、こんなご時世だ。 いつ誰が死ぬともわからん。 供養してくれるだけマシだ。 ……結局、今ある情報を見直してもAFOと『頭文字V』に繋がりそうな情報は無し。 相手を見つけ次第、ふん縛って吐かせるくらいしか思いつかんな」

 

 結局、今持っている情報ではAFOと繋がる線は見えず、本人たちから直接情報を聞くという結論に至った。

 他にも心当たりがないかと二人が話し合っている時、ふとグラントリノが耳に挟んだ話を切り出す。

 

「根津から聞いた。 林間合宿を強行するらしいな」

「はい、各学年のヒーロー科だけ、かつ合同という形になりますが。 行先は根津校長と合宿先のプロヒーローだけ、そして雄英から数人の護衛も選出されましたが、当日まで行先は知らされないと聞いています」

「念には念を、か。 上手く行くかねぇ」

 

 ヴィランに屈しない姿勢を見せながらも、グラントリノの自宅にやってきて飲み明かした中で愚痴を吐き、頼み事を言ってきた根津を思い返してため息を吐いた。

 

「なんにせよ、何も起きないことが一番だがな」




感想、誤字報告、指摘ありがとうございます


短い上に迷走しすぎてこれでいいのか状態
俺はこの先が書きたいんだよ、ということで投稿

さあ次は林間合宿編だぁ……
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