VillainのVはVOICEROIDのV   作:捩花

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Voice4 山岳エリアの崖下で Side耳郎 響香

 吹き飛ばされた耳郎響香は崖壁に叩きつけられ悲鳴を上げる。

 

「んぐぅ!?」

「はい止まらない! しっかり相手を見ないとやられ放題だよ、そぉい!」

 

 響香の体が土の中からイヤホンジャックを掴まれて引っ張り出された。 響香とほとんど身長の変わらない金髪の女性は倒れる響香を蹴り上げ宙に浮かすと両足を強く握りしめて一回転、八百万 百のいる方向とは反対方向へ放り投げる。

 

「っこの、いい加減に!!」

 

 地面に転がった響香はすぐさま起き上がりながら足のサポートアイテムにイヤホンジャックを差し込む。 余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)と歩いて近づいてくるヴィランに対して、自身の心音を爆音に変えるサポートアイテムから攻撃を放つべく立ち上がった。

 

「……? サポートアイテムが!?」

 

 しかし、いくら音を送ってもサポートアイテムは沈黙したまま。 その間にもヴィランは歩みを止めず、指を鳴らしながらにやりと笑う。

 

「やー、道具はちょっと壊させてもらったよ。 正直、あっちと違って個性の使い方で語る事は無いし。 というわけでカラテ! カラテあるのみ!」

「何でカラテ!?」

 

 喋っている間にも拳や蹴りが響香に向かって放たれる。 先ほどまでとは打って変わって大振りで響香でも余裕でよけることができる程度の遅い攻撃。

 しかし避ける回数に比例して速度が上がっていき、時折フェイント交じりに放たれる拳と蹴りに何度も体を揺さぶられる。 体内に響く打撃によって動きが止まれば、ここぞとばかりに拳の嵐を浴びせてくるヴィランに響香は反撃を試みるが、軽々といなされてしまう。 隙を見てイヤホンジャックを差し込み爆音で怯ませようにも、それすら避けられ逆に掴まれてしまい地面にたたきつけられた。

 必死の攻防の中、マキは涼しげな表情で響香の攻撃を受け流す。 響香が攻撃の手を緩めれば反比例して彼女の猛攻が襲い掛かり、派手に吹き飛ばされている間が休憩時間と思えるほどに響香は殴られ、転がされ、吹き飛ばされた。

 どれくらいたっただろうか。 時間感覚すらなくなるほど暴力の嵐を受け、あおむけの状態から立ち上がることすらできない響香を前に、ヴィランはいい運動だったとかいていない額の汗を拭っている。

 

「そろそろお迎えの時間かなー?」

 

 マキの言葉に暴力の嵐から解放されると思い浮かべた瞬間、響香の胸部が急激に圧迫された。 マキが片足を胸に乗せて徐々に体重をかけている。 軽く乗せられているように見えて肋骨が悲鳴を上げているほどの力をかけている彼女は腕組みしながら唸っていた。

 

「正直、体術やら体力やら一日で身に着けるもんじゃないし、どう教えた方が良かったものか。 雄英体育祭でほどほどに結果を出してマスターを驚かせたいんだけどなぁ」

「はぁ!? アンタの勝手でボコボコにされたの!? ふざけんじゃぅぐ!?」

 

 抗議の声を上げる響香をマキがさらに体重をかけて黙らせる。 ゴキリと嫌な音が響香の胸から響いたが、マキは気にすることなく少しずつ足を下ろしていく。

 

「そうだよ? 私の勝手で貴方を鍛えようとしたんだ。 けど……うん、うまくいった気がしないなぁ」

「何っで、そんな事っあが!?」

「どうにかして君を活躍させないといけないんだからね。 未来のただのモブさん?」

 

 圧迫された肺で必死に空気を求める響香へマキは何の感情も宿っていない視線を送る。

 

「十で神童十五で才子、二十過ぎれば只の人。 雄英に入れた才子でも、そこから先はわからないっと。 少なくともマスターは貴方の活躍を見たいと思うくらいには活躍しないんだよねー」

 

 言いたい放題なヴィランに反論しようにも、段々と沈む胸部とその激痛に言葉一つでない響香。 マキはその様子を見て顎に手を当てる。 そして名案が思い浮かんだのか笑顔で人差し指を立てた。

 

「痛みに耐える訓練……か。 殴り合うなら必要だよね? よし、やろう!」

「や、やめ……!」

 

 急に笑顔になったヴィランに悪寒が走り、必死に声を張り上げた。 しかし、急に上機嫌になったヴィランは聞く耳持たず、体を揺らしてリズムをとっている。 いつ襲い掛かるかわからない状況が響香の恐怖心をひたすらにあおり続けていく。

 

「大丈夫、大丈夫! ちょっと肋骨全部折れるぐらいの痛みだけだから! 何なら背骨の骨折体験もついでにやっとこうよ! せーっの!!」

 

 そういってマキは響香の胸部に全体重をかけるべく片足立ちになろうとしたその時、横殴りに吹き飛ばされて崖壁へ吹き飛んだ。

 マキの立っていた後ろには、長身の獣人が太い腕を振り切っている。 口元に黒のセーフティマスクをつけ、逆立った髪を怒りで揺らしていた。

 

「バウッ! グルゥアガウッ!! バウバウバウァッ!!!」

「スマナイ、遅クナッタ」

「ハウンドドッグ先生、エクトプラズム先生……!」

 

 人語を忘れるほどに怒っている雄英高校教師、ハウンドドッグ。 そして黒いフェイスマスクとダブルボタンマントのヒーロー衣装に身を包んだ、教師エクトプラズム。

 ヒーローに抱え上げられて響香の体から力が抜けた。 目を閉じ気を失った彼女を見てエクトプラズムはヴィランに視線を向ける。

 へこんだ岩壁にもたれかかるマキはため息をつき、叩きつけたことが効いていないのか呑気に頬を掻いていた。

 

「タイムアップだねぇ」

「アア、何カ言イタイ事ガアルナラバ、刑務所デ聞コウカ」

 

 エクトプラズムの言葉と同時にハウンドドッグが駆け出す。 壁に埋まっているヴィランに詰め寄り首根っこを掴んだ。 ハウンドドッグが引っ張り出すため腕を引いて相手を睨みつけ……口元にある物を見て目を見開く。

 

「Good Bye」

「っ!? 耳を塞げぇ!!」

 

 頬の近くにあった手には小さな金具。 筒状の何かを咥えながら、笑顔で流暢な英語を喋るヴィラン。 ハウンドドッグはすぐさま手を引き後方へ飛びながら、顔の前で腕を交差させる。

 同時にヴィランが咥えていた物が爆発した。

 

 BOMB!!! 

 

 ヴィランの咥えていた筒が爆発し、爆音と衝撃波がハウンドドッグに襲い掛かる。

 攻撃型手榴弾。 パイナップル型の破片を飛ばし広範囲を攻撃するそれと違い、狭い範囲の敵を爆風と衝撃で無力化もしくは制圧するための武器である。 自決用にも用いられる武器を至近距離で受けるのは危険極まりない。

 幸いにも距離をとったことでハウンドドッグは少量の破片による腕の負傷と酷い耳鳴り程度で済み、エクトプラズムは自身の体を盾にすることで響香への影響を可能な限り抑えた。

 

「ハウンドドッグ、傷ハ!?」

「グゥゥゥゥ……、動ける。 ヴィランめ!!」

 

 防御を解いたハウンドドッグの眼前には、爆心地に横たわる酷い有様のヴィランの姿があった。 その無惨な状態をハウンドドッグはしばらく睨みつけた後、細く息を吐いてエクトプラズムの方を向く。

 

「ヴヴ、上のヴィラン共を捕縛してきます。 死んだ以上、構っている暇はない」

「二人ツケル。 頼ンダ」

 

 エクトプラズムが生み出した分身達と共に崖の上へと向かっていく。 彼らを見送り、エクトプラズムは動かなくなったヴィランへと視線を向ける。

 

「他ノ ヴィラン トハ違ウ、命ヲ散ラス事スラ厭ワヌ貴様達ハ何者ダ……」

 

 ひとり呟き崖の間を進んで戻ろうとした直後、施設の入口とは反対方向からパワーローダーの声が上がった。

 

「おーい! エクトプラズムはいるか! こっちの生徒をリカバリーガールへ連れてってくれ! 俺は上の連中を捕縛する!」

「ワカッタ、分身ヲ送ルゾ!」

「助かる!」

 

 再び分身を生み出し奥にいたパワーローダーから青ざめた顔の八百万 百を引き継ぎ、生徒たちをリカバリーガールの元へ送り届けるべく施設内を駆け抜けた。




誤字報告に感謝です。

蛇足追加
エクトプラズムさん使い易すぎる

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