物語には影響ないので見直さなくても問題ありません
独自設定が出始めましたのであとがきに補足を入れます
ご了承ください
雄英襲撃の翌日。 夕暮れ時に臨時休校となった学校の会議室へ教員が集まっていた。
重症で入院したスペースヒーロー13号、A組教師のイレイザーヘッドこと相澤消太の二人以外で動ける教員達は現在、警察の塚内直正から敵連合に関する調査結果の報告が行われている。
集まった教員の中でも一際目を引く存在、動物の姿をした根津校長。 彼は情報とこの場に出た意見をまとめ、敵連合の暫定主犯格である死柄木弔の人物像を総括した。
「
「どれほどの脅威となるのか……。 捕らえられなかったことが悔やまれます」
ヒーローとしては細い体躯に骸骨のような風貌をした男……トゥルーフォーム姿のオールマイトは完治していない傷に響くのも気にせず、組んだ手を折れそうな程に強く握り締めた。
敵連合の情報が一区切りして、塚内は次の資料を見るよう促して説明を始めた。
「次に、今回の件で死亡した三人の敵についてです」
「どれどれ。 一人は仲間割れで、二人は自決……か」
資料をめくっている厳つい風貌の教師、ブラドキングが文章を視線で追って呟く。
資料には調査した情報と敵の似顔絵が書かれており、二枚目には金髪の女性、三枚目には赤い紐飾りをした少女の似顔絵も添えられていた。
「昨日、襲撃現場にいた上鳴電気君と八百万百さん、耳郎響香さんから任意の事情聴取を行いました。 死亡した三人ですが、敵連合所属の男性ヴィランは二枚目の女性、マキと呼ばれたヴィランに殺されたとの事です」
「仲間割れかぁ?」
サングラスを掛けたトサカのように髪を逆立てている男……プレゼントマイクの発言に塚内は首を振る。
「敵連合と共に乗り込んできましたが、そもそも協力関係ではなかった可能性が高いと推測されました」
「
「はい、女性ヴィラン二人の遺体にメモが二つずつ。 そして一枚ずつは共通の内容がかかれていました。……こちらです」
プレゼントマイクの言葉に塚内は机の上に置いてある証拠品袋を二つ持ち上げ、全員に見えやすいように掲げた。
ハウンドドッグが中身のメモを睨みつけながら読み上げる。
「”Vに名を連ねる者”……」
「
ミッドナイトは顎に指を当てて首を傾げ、隣でカウボーイハットを被ったスナイプが手早く携帯端末を操作し情報を探った。
「同じグループでわざわざ頭文字だけ主張する意味は……無いわよね?」
「
スナイプの言葉に塚内は頷き、メモを机に置いて説明を続ける。
「二人目と三人目のヴィランからは発言の中に”マスター”という存在の証言がありました。 確定ではないですが、敵連合とはまた違う組織……襲撃に加わったヴィランの上位者であるマスターを含む、仮称"
「"頭文字V"……」
「生徒への暴行は行われていましたが、不思議なことにかすり傷や軽度の打撲程度で済んでいた所を見ると、生徒達を殺すと明言していた敵連合とは違う意図で動いていることが見受けられます」
「ソウダ。 耳郎響香ヲリカバリーガールニ見テモラッタガ、骨折ナドノ負傷ハ無カッタ……胸部ヲ強ク圧迫サレテイタニモ関ワラズダ」
「ああ、エクトプラズムの言う通りです。 グルル……少なくとも胸骨は折れるか砕ける程に押し込まれていたのを私は目視しています」
状況を思い出し、怒気を放ちながら同意するハウンドドッグ。
その発言に塚内は相槌を返し、説明を続けた。
「他にも崖下まで落とされた時、そして耳郎響香さんは助けが来るまで暴行を受けていたにも関わらず目立った負傷がなかった等、ヴィランの個性だった可能性が高いのですが……」
塚内の言葉にハウンドドッグが片手を上げて待ったをかける。
「奴らは物を生成する個性だったのではないのですか? 私の目の前で自決したヴィランは首を掴む直前に、何の動作も無く手榴弾を口へと咥えていました」
「襲撃された生徒の情報で、"頭文字V"と思われるヴィランは虚空から銃器や拘束具を作り出していたとの証言がありました。 両方とも生み出した物は違いますが、同じような個性と考えられます」
「
「複数個性を二人も抱えていたヴィラングループ……しかも使い捨てに出来るなんてどう考えてもおかしいわ。 思っていた以上に危険なヴィランね」
ただのヴィランから、特異な存在に昇華された"頭文字V"。 ミッドナイトの言葉にこの場にいる者達の表情が硬くなる。
手を組み俯きながら情報を聞いていた根津校長が顔を上げると、全員の視線が集中した。
『個性ハイスペック』。 動物でありながら個性を得て人間と同等以上の頭脳を持つ彼は、自身の脳から導き出された結論を語りだした。
「状況を聞くに、創造の個性と相手の認識を惑わせる幻覚の個性とすいそくするのさ。 血のつながった家族が同じ個性を発現するのはそう珍しくないのさ。 それに複数の個性に見えて、根本は一つの個性である可能性も有りえる。けれど、異種の複合個性はとても珍しい。 資料には個性登録に該当なしとなっているけれど、調査するならばまず二つの個性に近い者を洗い出してみるべきなのさ」
校長は持ち込んでいたミネラルウォーターを一口飲み、一息ついてから天を仰いで呟くように続けた。
「現状、関連性の全くない複合個性は確認されていない。 生徒の轟君は熱と氷……温度を操作する個性であるし、脳無もショック吸収と超再生という身体に関係する個性という共通点があるのさ。 全く関連のない、幻惑系の個性と物質を生成する複数個性……もし新発見ならばヒーロー、ヴィラン問わず人類の歴史においても重要な情報なのさ。 動物に個性が宿ったボクみたいにね」
教員達は発言の内容に息を飲む。 ヴィランという存在に目を奪われていたが、世界でも類を見ない存在であったならば実験動物のように扱われる可能性は低くない。 ましてや、動物や犯罪者になれば社会の裏側で何をされるかわからない。 現在でも希少な存在であるが故に、過去で人間によって人体実験を受けた根津校長のように。
「犯罪者には同情しないのさ。 けれど……もし研究の為に犠牲にするというならば、例えヴィランであってもヒーローが……いや、ボクが単独でも助けるのさ。 HAHAHAHAHA!!!」
「……はい、"頭文字V"についてはもう一度、個性登録の洗い出しからの追跡を試みます」
かつての出来事を思い出し情緒不安定になりかけている根津校長の
オールマイトすら引く迫力を放つ校長の気を逸らすため……否、まだ見せていないメモの入った証拠袋を持ち上げた。
「そ、そして残り二つのメモなのですが……まずはこちらを」
教員たちが見せられたメモにはたった一行の文が書かれている。
『
校長の放つ重圧に冷や汗を流していた一同の緊張が一気に緩んだ。
「ただの悪口メモじゃない」
「特別な意味は……なさそうだな」
「ええ、そうだと思います。 少なくとも現在のヒーローに対して不満を持っているという情報だけで意味は薄いかと」
「グルルル、ふざけたヴィランだ……」
「Hey hey hey hey!
「……」
なんてことない内容の文字列。
呆れ返る教師たちの中、オールマイト一人だけがわずかに目を開き凝視する。 『アフォ』の文字上に書かれた小さなAFOという文字列に。
(
「最後の一つは……オールマイト、まずは君から見てほしい」
「……塚内君?」
思考の沼に入り込む直前、名指しされたオールマイトは塚内を見る。 眉間にしわを寄せる彼の表情に困惑を隠せないオールマイト。 塚内は折畳んだ袋を机の上に置いた。
「内容がね……個人情報が含まれているので、公表するのは君が目を通してから決めてほしいんだ。 上司の許可も取ってある」
「? どれ……」
『オールマイトへ
後継者育成に手をつけるのが遅いんだよボケ
教えるなら付きっきりで指導できる環境にしろ阿呆
もしくはグラントリノにさっさと後継者を鍛えてもらえポンコツ骸骨』
「ド直球の罵倒ッ!!!」
「オールマイト!?」
血を吐いて叫ぶオールマイトに驚く一同。 唯一、内容を知っていた塚内はあえてオールマイトの前に立ち、自身と資料を盾にすることで血の分散をいくらか防いだ。
「すまない塚内君!!」
「ああ、スーツが台無しだ。 気に病むなら今日一日はしっかり休んでくれ。 できれば完治するまで休養してほしいくらいだ。 そうしてくれるならスーツ代なんて安い安い」
「ぐっ……そうくるか!! いや、皆さん失礼しました。 ちょっとびっくりしただけです、大丈夫」
「血吹キ芸ハヤメテクレ。 心臓ニ悪イゾ、オールマイト。 ソレデ、中身ハ何ト書イテアッタ?」
エクトプラズムの言葉に一瞬っだが言葉を詰まらせ、一刻も早くこの話題を終わらせるために言葉を濁して答えた。
「あー、私宛てに書かれた悪口です。 中身は……公表するほどの内容では無いかと」
「……ヒーローに不満を持つ者だ。 その旗頭に一言、言いたかっただけだろうな」
口ごもるオールマイトを見て察したスナイプの助け舟もあって、内容が発表されることはなくなった。
内心で安堵のため息を吐き、心を落ち着かせるため静かに息を吐くオールマイトを余所に、塚内が資料を回収し敬礼した。
「以上で敵連合及び"頭文字V"の報告を終わります。 何かあれば警察へ連絡をお願いします」
塚内の言葉と共に会議は解散の運びとなった。
それぞれが自分のペースで会議室から出ていく中、オールマイトの心は最後のメモを見てからの動揺が収まらないでいる。
("頭文字V"……確実に私が弱っていることを知っている! この姿、知人にしか知られていないはずのトゥルーフォームを的確に言い当てていた。 しかも後継者を……恐らく緑谷少年が後継者である事も育て始めた事も知っている可能性が高い。 さらにはグラントリノとの関係も……一体何者なんだ)
「HAHAHA、どうしたのさオールマイト」
「っ校長!?」
熟考していた所に話しかけられ、肩が大きく跳ねたオールマイト。 ナンバーワンヒーローの珍しい動揺に根津校長は一切触れることなく話しかける。
「部屋の掃除が入るからそろそろ退出しよう、主に君の吐血跡を掃除しなければならないのさ!」
「あ、すみませんでした」
部屋を汚した申し訳なさに押され、すぐ立ち上がり部屋を出るオールマイト。 その後ろに続いて校長も会議室を出た。
「何か困ったことがあれば誰でもいい、相談してほしいのさ」
「……え?」
教員室で考え直そうとしたオールマイトを追い越して歩いていく校長は振り返らずに声をかける。
「一人で抱え込んで押し潰されてしまったら、周りの人も悲しんでしまうのさ。 この学校にいるのはヒーローなのだから、助けを求められて手を拒む者はいないのさ」
「……校長先生」
オールマイトが見送る根津の背中はとても大きく見えた。
誰もいなくなった会議室。
部屋の隅に置かれた観葉植物の鉢の中にはクリーム色の花が咲いていた。
ゆらり、ゆらりと風もなく揺れている小さな花。
花弁はとても不思議な形をしていた。 まるで一本の癖っ毛と二つのおさげのような。
「わぁ」
誤字脱字報告有難うございます。 以下補足です。
ここおかしいとちゃうん? てな所があったら指摘してくださると喜びます。
補足
:複合個性について
原作では轟と脳無とAFOとOFAだけしか出ていないので(オバホは合体の為除外)
この作品では希少かつ似通った個性でしか生まれないことになりました
:AFOの知名度
直接的な関係のあるオールマイトとグラントリノ、雄英高校のトップである根津校長など地位の高い人物と付き合いの深い人物以外は知らないことになりました
多分、ヴィランが担ぎ上げないように情報規制に加え、AFO本人も表へ出ず裏側に君臨していたためと予想。 オーバーホールが自分の世代では都市伝説と呼ぶくらいなので、少なくとも二十年以上は潜伏していたのでしょう
五年前の決戦は恐らく対面したのがオールマイトだけ、戦闘の余波で大災害、他のヒーローは救助作業に誘導されて目撃者がいなかったんじゃないですかね。
校長もAFOに感づいていますが、因縁の深いオールマイトから話してくれるのを待つ先達ムーブ
:わぁ
わぁ(あかり草を検索してね)