VillainのVはVOICEROIDのV   作:捩花

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Voice7 甘味遠征部隊・前

 敵連合の襲撃から二日が経ち、治りきっていない重傷も気にせず教壇に立った担任の相澤が雄英体育祭の告知をした日の放課後。

 既に夕暮れの陽光がまぶしいヒーロー科A組の教室前には人だかりができていた。

 教室から出ようとしてた目つきの悪いツンツン頭の少年、爆豪勝己(ばくごうかつき)が通行の邪魔になっている人だかりに言い放つ。

 

「敵情視察のつもりなら意味ねぇからどけ、モブ共」

「とりあえず知らない人の事をモブって呼ぶことをやめよう、爆豪君!」

 

 入り口で口の悪いクラスメイトを中心とした騒ぎを遠目に、面倒事を予感して八百万百の席まで退避してきた耳郎響香がため息をつく。

 

「あいつ、本当にヒーロー志望なの?」

「……」

「八百万?」

「あ、はい何でしょうか?」

 

 心ここにあらずといった様子の百。

 彼女は敵連合の襲撃以降、目の前で命を散らしたヴィランの言葉が脳内にこびりついて離れないでいた。

 

(私が捕縛していれば、あのヴィランは死なずに済んだのでしょうか)

 

 

※ ※ ※

 

 

 ヴィランが目の前で死んだ時、生々しく濃厚な血肉の匂いを嗅いで百は気を失った。

 次に目を覚ましたのは女性用保健室のベッドの上。 襲撃からそれほど時間の進んでいない時計をぼーっと眺めているとリカバリーガールが部屋にやってきて手早く診察を始めた。

 

「擦り傷や軽い打撲だけだね。 気を失っていた時に吐いたけど、胃の方は十分休まったから、水分をとってそのまま横になってなさい」

「はい……。 あの、耳郎さんは」

「いっしょに運び込まれたさ。 ピンピンしてたから先に教室へ行ったよ」

「そう、ですか……」

 

 会話が途絶え、リカバリーガールのペンを走らせる音と時計の針が進む音だけが聞こえてくる。

 

「ヒーロー、まだ目指すかい?」

「え?」

 

 リカバリーガールの呟くような問いかけに百は顔を向けた。 彼女は手を動かしながら、独り言のように言葉を続ける。

 

「時々いるのよ。 あんたと同じで本格的な活動を始める前に人の死を見ちまう若い子がね。 在学中でも就労体験(インターンシップ)で見ちまって塞ぎ込んだり、ヒーローの道を諦める子もいる」

 

 ペンの音が止まる。 作業が終わったらしい彼女は椅子を回転させて百の方を向いて言った。

 

「ま、今回はおかしなヴィランに絡まれたと思って忘れちまいな。 大切な人ならともかく、良くわからないヴィランの事は気に病むほどの事じゃないさ」

「おかしなヴィラン……ですか?」

「自決するヴィランなんてアタシゃ初めて見たよ。 長年ヒーローをやってるけどね、ヴィランってのは自分の命が一番惜しいのさ。 どんなに凶悪なヴィランでも、ヒーロー相手に自分の命と引き換えに……なんて行動はね、それこそ何かを盲目に信じている狂信者がやることなの。 例外にしても稀すぎる相手なんて、考えていたところで時間の無駄さね」

「はぁ……」

 

 百が遭遇した存在に、ヒーロー歴が上から数えても長いリカバリーガールが珍しいと言い切った。 彼女は椅子から降りると保健室入り口前にテクテクと歩いていき扉の前で振り返る。

 

「それじゃ、ちょいと行ってくるけど、何かあったら近くの机に呼び鈴あるからそれ押して呼んどくれ」

「はい……」

 

 扉が閉められ、保健室に一人となった百は再び天井を見上げる。 休もうと目を閉じれば、ヴィランの命が消える幻が暗闇の中に浮かび上がった。 部屋にあるはずの無い血肉の匂いが鼻孔に広がり、何もない胃から吐き気がこみ上げてくる。

 

(ヒーローになったら、コレにも慣れなければならない……立ち止まってしまっては、助けられる人も助けられない。 思っていた以上に厳しい世界なのですね)

 

 知らされていないヒーローの裏側。 華やかな映像報道からは隠されていた現実に百の気分はどん底まで落ちていった。

 

 

※ ※ ※

 

 

 暗い雰囲気の百に響香が肩を叩く。

 

「ねぇ、八百万。 これからどっか店寄らない?」

「お店ですか?」

 

 突然の提案に百は目を丸くしてオウム返しで返事をした。 響香は視線を逸らし、イヤホンジャックを合わせながらもじもじとしている。

 

「あのさ、あたし達だけ変なヴィランに絡まれたじゃん。 八百万なんて……その、ヤバイもの見せられたって先生から聞いたしさ。 せっかく体育祭でみんな盛り上がってるし、今のまま挑んだら本調子出せないだろうし……」

 

 響香はしばらく手元をいじっていたが、意を決して真剣な目で百を見る。

 

「……気分転換、そう気分転換! このままだと絶対いい結果でないだろうし、どっか行こうよ!」

「はぁ。 車で登下校していますので、どのようなお店があるかわかりませんが……」

「でしょ! ちょっと散策してみない? 学校の近くなら人気(ひとけ)は多いし、ヒーローも多いからヴィランは余所から間違って逃げてきた連中くらいしか見かけないらしいし!」

 

 了承を得たことで笑顔で捲し立てる響香。 自分を気にかけてくれる彼女の様子に申し訳なく思いながらも、その優しさに思わず微笑みがこぼれる。

 そこにぬっとタラコ唇が目を引く男子が現れた。

 

「どこに寄るのか、決まってないのか」

「うわ、なんだよ砂藤。 びっくりした」

 

 響香よりも頭一つ背が高く体格のいい男子生徒、砂藤力道(さとうりきどう)。 A組の中でも大きい体の彼は指を合わせながら頼み事を口にする。

 

「いや、行きたい菓子店があるんだが……よかったらついて来てくれないか? 学校のすぐ近くにあるスイーツ店なんだが」

「お、何々? スイーツと聞いたら私が黙ってないぞ!」

 

 砂藤の発言に近くにいた浮いている制服、葉隠透(はがくれとおる)が反応して見えない手を上げた。 砂藤が若干「げっ」と顔を強張らせたが、次の瞬間には笑顔で葉隠を迎えた。

 

「おう、学校の下見に来た時に一度寄った店でな。 味は保証するぜ!」

「おおお、これは期待しちゃうよ!」

 

 きゃっきゃっとはしゃぐ葉隠。 そんな教室後ろでのやり取りを近場で見ている生徒が二人。 ひょろりとした体格の瀬呂範太(せろはんた)と鳥のような頭部の生徒、常闇踏影(とこやみふみかげ)。 そして常闇の個性である黒影(ダークシャドウ)が入り口の騒動よりも興味がわいたのか砂藤たちを眺めている。

 そして入り口の騒動から逃げ出してきた、黒いボールが幾つか頭にくっついているような髪型の峰田実が砂藤の周囲を眺めると擦れた目で台詞を吐き捨てた。

 

「程よくつぶれたドーナツみたいな口の砂藤がハーレムかよ」

「どんな表現だよ腹減ってきたわ」

「男の嫉妬は見苦しいぞ、峰田。 甘味は女性も好む。 砂藤が誘うのは必然だ」

「甘イハ、美味イ!」

 

 クラスメイト二人と一匹? に突っ込まれながらも眼力を緩めない峰田を白い目で見る響香。

 いつの間にか人だかりの中心となっている砂藤は手で顔を覆った。

 

「中学校の帰り道でスイーツパラダイスに誘ったら、男友達にそのチョイスは無いわって滅茶苦茶引かれてな……それ以降、誘い辛くて」

「そのチョイスは無いわ。 普通はファミレスだろ」

「ゴフッ」

 

 峰田の容赦のない言葉に砂藤が胸を押さえて片膝をついた。

 そこへ彼を護るように葉隠と常闇が峰田と砂藤の間に入り、表情は分からないが怒っている葉隠と鳥のような鋭い目で常闇は峰田を睨みつける。

 

「砂藤君が死んだ! 峰田、きっさまー! お前には人の心がないのかー!!」

「万死に値するぞ、峰田ぁ!」

「常闇が切れた!? 何で!?」

 

 葉隠が怒るのは分かるが、予想以上に反応した常闇に心底びっくりする峰田。 その常闇は片目を手で覆い、ドドドドド、という効果音が聞こえそうなポーズを構えた。

 

「スイーツパラダイス……そこは禁じられし知恵の果実が実る楽園。 聖域を汚す者は何人たりとも許さん! 行け、黒影(ダークシャドウ)!」

「リンゴ、美味シイダローガ!」

「常闇の地雷踏んだギャアァアァァァッ!?」

 

 黒影に捕らえられシェイクされている峰田を無視しながら、響香が砂藤に尋ねる。

 

「で、今から行くスイーツ店ってどんな店?」

 

 話を振られて砂藤は立ち上がりながら、鞄からパンフレットを取り出して机の上に見えやすいように広げた。

 

「ずんだ専門店でな。 目的のずんだ餅の他にもずんだロールケーキとか、ずんだケーキとか、ずんだシェイクとかもあるぞ」

「わー、緑一色! 目によさそう! おお、キャラメルもあるじゃん! これは行かねば損だ!」

 

 好物を見つけた葉隠の後ろでは、店の話題に傍観していた瀬呂がパンフレットを見るため立ち上がり、気絶した峰田を机に置いた常闇は残念そうに肩をすぼめている。

 

「へえ、体によさそうじゃん。 俺も行くわ」

「知恵の果実は置いてないのか。 今日は用事もある、遠慮しておこう」

「おう、また今度。 んじゃ、一緒に来てくれるのは八百万、耳郎、葉隠、瀬呂だな?」

 

 メンバーが決まった所で教室の前方からピンク色の肌をした芦戸三奈(あしどみな)、かえるっぽい見た目の蛙吹梅雨(あすいつゆ)がやってきた。

 

「おーい。 廊下の人だかり、なくなったよー」

「やっと帰れるわね、皆」

「お、ちょうどいいところに! これからスイーツ食べに行くんだけど二人も行かない?」

「ちょ……!?」

 

 自然体で誘った葉隠に待ったをかけようとして、とっさに自分の口を塞ぐ砂藤。 しかし芦戸は悔しそうに眉尻を下げ、蛙吹も首を横に振った。

 

「わーん、ブッキング! 今日は先約あるから無理ー!」

「ごめんなさい、弟たちのご飯を作らないといけないの」

「そっかー。 残念だね……砂藤君、どうしたの?」

「いや何でもないぞ!」

 

 葉隠にほっと息を吐いている所を見られて慌てて誤魔化す砂藤。 響香は背中越しでもわかる若干不審な彼を訝しげに見ながら、右手に鞄を持ち直し左手で百の手を取って歩き出す。

 

「あの、耳郎さん!? 歩けますので……!」

「ダーメ、放っといたら壁にぶつかりそうだからこのまま行くよ。 ほら、もう四時半過ぎてるじゃん。 早くしないと店に寄る時間無くなるぞー!」

「おー! 急げ―!」

「あ、鞄持ってくるからちょっと待ってくれよ!」

「おい、置いてかないでくれ! 場所分からないだろう!? 正門から右に進めば三分で店が見えるぞ!」

 

 既に帰る準備が終わっていた女性陣が歩いていくのを見て、慌てて自分の机に戻り荷物をまとめて走る砂藤と瀬呂。 各々がにぎやかに部屋を出ていくA組生徒達を常闇は気絶している峰田の横で見る。

 

「陽光の狂騒曲。 八百万の気分もまぎれるだろう。 ……? 砂藤はパンフレットを忘れたのか。 場所がわかっているなら不要。 机に置いてくれ、黒影(ダークシャドウ)

「アイヨ!」

 

 黒影(ダークシャドウ)が伸び、パンフレットを砂藤の机の上に置いた。 表に大きく載っている写真には、都会では珍しい瓦屋根の古風な民家風の店に『東北じゅん狐堂』と書かれた看板が映っていた。




誤字脱字報告、感謝です。

追記:雄英高校周辺
雄英高校の地域状態がわからず、独自設定となります。
漫画見なおしたけど学校の周辺描写見つけられなかった_:(´ཀ`」 ∠):_
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