白鳥へと贈る歌 作:たんたたんたん
001
白鳥歌野は、この学校において、いわゆる人気者、あるいは中心人物といった立ち位置を与えられている。
常に活発で誰とでも直ぐに仲良くなるし、休み時間になる度に多くの友達に囲まれわちゃわちゃと騒いでいるし、成績も大体ダントツで良いものだからどの授業の先生からも非常に覚えも評判も良い。
老若男女問わず人気を獲得する稀有な人間ということだ。
そんな彼女と、僕は一年、二年……と一本ずつ指を折り、ちょうど五本目が折れるくらいの年数、つまり小学校に入学してから彼女とはずっと同じクラスである訳だが、しかし僕は彼女が風邪で休んだところも、ましてやあからさまに落ち込んだり、涙を流したりと、そういった……端的に言えば弱っている部分、というのを見たことが無い。
もっと言えばおおよそ欠点とでも言うべき箇所を、僕は白鳥歌野という少女に見出したことがないのである。
五年間、同じ空間で過ごしていたにもかかわらず、だ。
確かに僕は彼女とは特段仲が良い、という訳では無いがしかし、五年という年月はそれなりの重さを持つ。
それこそ、彼女ほど目立つ存在であれば、当然それに嫉妬する人間も出てくるわけで、そういった関係も考えれば白鳥のこういうところがあんまり……といったところが見えてきても何らおかしいことでは無いのだが、それでも僕は彼女のそういう面を見たことが無かった。
とは言え、彼女に苦手な分野がまったくない、という訳ではない。
例えば彼女の美的センスはあまりよろしいものではない、それこそ担当の教師が苦笑いを浮かべるほどではあるのだが、しかしそれを欠点と呼ぶのは少し違うだろう。
美的センスなんてものは時代と共に流れていくものだからで、正解というものはどこにも存在しないからである。
これが算数や国語の話であり、まるで計算が出来ない、もしくは漢字が読めない、といったようなものであれば欠点とは言わなくとも、それでも"比較的出来ない部分"として挙げられるかもしれないが、それだって大体の場合努力でどうにかなるし、そうでなくとも彼女はいっそ完璧と言ってよいほどによく出来ていた。
友達はとても多い、というか少ない訳が無い。
何せ休み時間や帰宅時、掃除の時でさえも彼女の周りは人が絶えず、一人でいる時を探す方が難しいくらいだ。
勿論、上で挙げたようにそのあまりの人気具合や、良く整った容姿、いっそ理想的とも言えるその性格に僻み等を持つ人間はいたが、そんな子達とも仲良くなってしまえるのが白鳥歌野という人間だった。
僕の主観的に彼女は、完全無欠ってやつなのである。
まぁ、主観と言ってもこの認識は彼女と関わりのあるどの人間にも共通する認識であるのは間違いないだろう。
と、まぁここまでつらつらと彼女のその超人っぷりを語った訳だが、上記の通り僕は別に彼女と仲が良いわけでは無い。
むしろ友達であると名乗って良いのからすら怪しいレベルで、辛うじて知り合い……顔見知りと名乗るがギリギリ許される、その程度の関係だ。
しかしその事実が問題であるかと言えば別にそんなことはない。
ただでさえこの学校に通う生徒は何百人もいるのだ、その中の全員と平等に、仲良しこよしするのは白鳥歌野でも不可能であろう。
そしてそういう不可能であった存在が、偶々僕みたいなやつであった、ということである。
そのことに、僕は大してなにか思うことはない。
僕が白鳥を人気者だと思い、それ以上の感情を持ち合わせないように。
白鳥もまた、僕をただのクラスメイトとしか認識せず、それ以上の感情は持ち合わせないだろう。
だが、それで良いのだ。
彼女は彼女で、自分にとって意味のある人と交流し、僕も同じようにするだけで、そうしていつか大人になっていくにつれて互いに忘れていくのだろう。
思い出からも徐々に消え去って、完全にいなくなる。
僕らはそういう関係性なのだ、そのことに悔いも無ければ名残惜しさも無い。
そう、思っていた。
けれども。
夏のある日のことだった。
それを詳しく、しかし端的に言うのであれば、それは僕らの学年が遠足に行った日だった。
当時はちょうど諏訪大社とかいう見てても大した面白みのない、けれどもちょっとした凄みを感じる神社へ到着した頃で、先生の有り難い話なんかをぼぉっとしながら聞き流していた日のことである。
突如、世界は揺れた。
否、正確に言えば世界は"激しく"揺れた。
前後不覚、立っていられるかどうかも分からないほどに揺れて、揺れて、揺れて、そうして
暗く立ち込めた雲に幾つも穴が空き、そこから終わりの使者が続々と顔を出しその口を大きく開く。
あれは何なのか、と思う暇はなかった。
ただ呆然と見ていればそれは猛然と寄ってきて、そうしてクラスメイトの一人をバクリと、何の躊躇いも無く、何の前触れも無く、その巨大な口に収めたのだ。
人の肉体が弾けて砕ける音が響き渡る、初めて見た人の死体は下半身だけになった女の子で、それも直ぐに食われて無くなった。
自然と、怖いとは思わなかったのを覚えている。
ただ、代わりにあぁ、ここで僕は死ぬのだ、と思ったことも。
それを証明するように僕の足は一歩たりとも動かず、只管に減っていく知り合い、友人を眺めるだけだった。
別に足が動かなかった訳ではない、逃げようと思えば逃げることはできただろう。
けれども、その行為は無駄であると、僕の頭は至極冷静に理解していたのだ。
理解したと同時に、頭のどっかのネジかタガなんかが外れて飛んだんだろう。
だからこその棒立ちだった、
もしそうだとしたら、僕、運が無さすぎるだろ……と。
そう思いながら視線を走らせる。
終わりの使者は巨大な白い袋に、人の顎をつけたようなやつで、どの生物に似てるかと言われれば返答に悩むような形をしていた。
そんな形容し難い化け物が、徐々に宙を漂いながら寄ってくる。
その巨大な厳つい顎を大きく広げ、呑み込まんと、噛み砕かんと迫ってきて──そして、光が走った。
滑らかに撓った光が化け物を弾き、瞬間それはまるで腐るように溶け落ち消える。
一体何が、と思うのと。
白鳥歌野の姿を目に収めたのは、全くの同時だった。
彼女は今日、着ていた服ではなく、どこか劇の衣装にも見える服を纏っていて、その手には美しく発光する鞭が握られていた。
そうしてそれを振るい、真っ向から化け物共を撃ち落としていく。
それを半ば口を開きっぱなしにしながら見ていれば、彼女は僕を見て、薄っすらと笑みを浮かべた後に此処は任せて、逃げて、とそう言った。
そう、あの化け物共が世界を終わらせる者達だったとするならば、白鳥歌野はその逆で、世界を救う者──いわば、勇者だったのである。
002
「で、お兄ちゃんはすごすごと逃げて隠れて結局助かったって話でしょ? それもう何度も聞いたよ」
一つ離れた妹──夢見柑菜は窓の外を見ながら平然と、それこそ言葉の通り聞き飽きた、といった様子でそう言う。
「いやいや、妹からの『暇だから何か話して』とかいうありがち、かつ難易度の高いお願いへの返事としてはパーフェクトな回答だっただろ、何せ10分近く喋り倒したんだぜ?」
「これが初めてならまだしも3回目ともなれば聞き飽きるに決まってるよ……」
当然の感想であった。
けれども僕には割とこれくらいしか話せるような話題が無かったし、それを柑菜も理解しているはずであろう。
であれば、こうなるものまた当然であると言えるのではなかろうか。
「て言ってもさ、犬だって歩けば棒に当たる時代だし、お兄ちゃんにも何かあってしかるべきじゃない?」
「僕と犬を比較するのはよせ、それだと何にも遭遇していない僕が犬以下みたいじゃないか」
というか僕だって歩けば棒にくらいは当たる、躱しているだけだ。
「いや躱しちゃ駄目じゃん! 当たろうよ!」
「ばっかお前当たったら痛いだろうが」
人もイベントも、棒と変わらず当たれば痛いものだし巻き込まれたらたまったものではない、そういうものだ。
「もう、めんどくさいなぁ……あ、じゃあさじゃあさ、白鳥さんと何かあったりはしないの? あれから色々手伝いしてるんでしょ?」
「んー、まぁ、してないと言えば嘘にはなるが、それでも……その、なんだ、所謂勇者業の方はほとんど手伝えてないからなぁ、特に何かあったりはしないよ」
「そんなもん?」
「そんなもんさ」
意外とね、と付け加えれば柑菜はそっかぁ、と残念そうにまた窓の外を見やった。
そこに広がっているのは何てことの無い町並みだ。
けれども妹はそれをどこか懐かしそうに、羨ましそうに見ていた。
否、事実羨ましいのであろう。
何せ柑菜は──愛すべき僕の妹は、この無機質さすら感じる真っ白な病院から、抜け出すことが中々叶わないからである。
端的に言えば、身体が弱いのだ。
どれだけ弱いのかと言えばもう、滅茶苦茶弱い、としか言いようがない。
季節の変わりに目には必ず身体を崩し、しかもこじらせる。
頻繁に高熱出して倒れるし、最近だと食べられる量も減ってきていて元から小さな身体が更に細くなっている。
要するに病院とはもう切っても切り離せない、そういう関係性という具合であるのだ。
故に、柑菜はあの日も病院にいて、そして、だからこそ助かった。
僕らのいた神社も、僕らの通っていた学校も、僕らの親が努めていた職場も等しく襲われた。
壊された、殺された、何もかもを奪い去られた。
けれども
そう、幸運だったのだ。
此処が襲われず、柑菜が死ななかったのは、間違いなくこれ以上無い程の幸運だった。
とはいえそれは不幸中の幸い、というやつにしか過ぎず、僕らはただ親を失い友を失い、そして兄妹は生き残った。
それだけだ。
だからこそまぁ、そんな妹のためにも話題を持ってこようと頻繁に街に出てはいるのだが、この生来から持ち合わせているコミュニケーション能力とかいうやつのせいで、僕は未だに新たな話題を獲得するには至っていなかった。
そう、つまり新たな友人を作れたという訳でも──あ。
そういえば。
「藤森に呼び出されてたなぁ、何時の約束だっけか」
「藤森って……あの?」
「そ、あの藤森……えぇと、そう、水都」
「いい加減、毎日会う人の名前くらいは覚えようよ……」
「いや、ちゃんと思い出しただろう!?」
それはそうだけど……と言葉を切って、それからゆっくりと柑菜は「でも今度聞いたらきっと忘れてるよ、お兄ちゃんはそういう人だ……」と言う。
お前は僕を何だと思っているんだ……と僕は、少々ため息ながらにそう返した。
藤森水都。
白鳥歌野のことを、世界を守る勇者と言うのであれば、彼女はその白鳥歌野を支える
そう、巫女。
言葉の通り、神に仕える女性。
僕らが今こうして生活している諏訪という地域を、あの化け物共(バーテックスと名付けられた)から守る土地神の声を聞く──即ち神託を受け、それを民に伝える、それが巫女の役割だ。
一見それは簡単なことのようにも思えるが、その実そうではない。
僕が言うこの"巫女"という存在は、決して、僕ら……所謂平民が選んだわけでもなく、彼女が神社の家に生まれたからそうなった、とかそういう訳でもないからだ。
つまり、
幾ら多くの人がバーテックスに殺されたと言っても、それでもまだたくさんの人が生き残っている。
その中でたった一人しか選ばれなかった、その事実を含めて考えてみればむしろ楽であると思うのはお門違いであるのは言われなくても分かるであろう。
特別、というのはその言葉面だけ捉えれば確かに憧れを持たれるようなモノかもしれないが、しかしそれは言い方を変えれば異端であり、例外なのだ。
彼女の悩みも、辛さも、苦しさも。
僕らのような持たない者には分からない、選ばれていない者には理解らない。
否、それはきっと、同じ"特別"である、勇者にも。
「ていうか、呼ばれてたなら速く行きなよ、待たせてるかもだよ?」
「そうしたいのはやまやまなんだがな……」
ぶっちゃけ時間どころか待ち合わせ場所すら覚えていないのである。
「シンプルに最低だ!?」
「ついでに言えば何の用なのか全然予想できなくて行くのがちょっと怖い、はっきり言えば行きたくない」
「情けなさすぎるよおにーちゃん!?」
「いやだって……怖くないか? 最近良く会うようになった程度の仲の女子に一人、呼び出されているんだぜ……?」
何をされてしまうのか、わかったものじゃないじゃないか!?
「いくら何でもチキンがすぎるよお兄ちゃん……」
ていうか御託を並べてないでさっさと行ってきなよ、実は時間も場所も覚えてるでしょ、と柑菜。
さっきまでのテンションが嘘のように冷たい目線である。
そこにはもう既に、反論が出来るような余地はまるで無くなっていて、僕は溜息混じりに仕方ないか、と席を立った。
そんな僕を見ながら、柑菜は口を開く。
「次は、いつ来てくれる?」
「それ、毎回聞いてくるけど意味あるのか?」
「あーるーの、何事も口に出すことが大切なんだよ」
そう言って柑菜は外すこと無く僕と目を合わせた。
まるで言わないと帰しはしないと言わんばかりに。
その姿は不可解で、けれどもとても愛らしくて、少し笑った。
「はいはい、じゃ、また明日な」
「うん、また明日! 約束だからね!」
そうして、僕は真っ白な病室を出た。
003
病室を出て、ゆっくりと、静かに扉を閉める。
小さくガタン、と音を立ててちゃんと閉まったのを確認してから、少しだけ立ち止まって上を見た。
そこに何かがある訳ではない、強いて言うのであれば白く明るい蛍光灯と、無機質に白い天井が広がっているだけだ。
では何をしているのか、と言われれば当然、僕は考え事をしていた。
柑菜は如何にもお前のことはお見通しだぜ! と言わんばかりの口調で、ああ言っていたが、正直なところ僕は真面目に覚えていなかったのだ。
いや、これだけの情報だけだと僕が最低な野郎だと思われるかもしれないし、事実そうなのではあるのだが、しかし言い訳だけはさせてほしい。
あの日の僕はちょっと普段とは違った状態に陥っていたのだ。
具体的に言うのであれば、いつも手伝っている農作業に加え、ちょっと色々あって、あの日僕は……そう、実に、実に疲れていたのだ。
疲労困憊、目を開けるのも辛い、まともに歩くこともできない、そういうレベルで疲弊しきっていた。
そんな中で、藤森に声をかけられたのである。
それも加味して考えれば、情状酌量の余地くらいはあるのではなかろうか?
そう、自分を励ましながら一先ず病院を出る、季節は冬の面影をチラチラと見せ始めていた。
つまり、普通に寒い。
もう一枚上に羽織るべきだったかな、なんて余計なことを考えながら、ゆらりと歩き出す。
前述の通り、指定の時間も場所も、僕はこれっぽっちも覚えてはいなかったが、しかしある程度の予想はついていた。
なんせ相手は巫女である藤森だ。
大体の場合において、勇者:白鳥と行動を共にするあの藤森である。
となれば必然、今日の彼女も白鳥の近くにいることは間違いないだろう。
あの二人は病的に仲がいい。
それさえわかれば後は簡単だ、この時間であれば、白鳥は間違いなく野菜とイチャイチャしてる。
あの女、勇者になってから病的なまでに農業に夢中になるようになったのである。
「ま、時間は分かんないんだけど、それはそれ、これはこれってことで」
早速行くか、ともう一言付け足し一歩踏み出すのと同時、背後から「夢見くん」と声をかけられた。
その声を、誰かと判断する前に振り向く。
否、その声が誰のものであるか、反射的には理解していた。
だから、その理解を頭で把握する前に、振り向いていた、というのがもっとも正しいであろう。
かくして、そこにいたは今まさに、僕の頭で思い浮かべていた人物であった。
つまり──藤森水都、その人である。
彼女の身長は僕よりは低い(因みに僕は160cmだ、一般的な小学生と比べれば些か大きい方と言っても過言ではないだろう)、そのため、自然と彼女は見上げるように、僕を見る。
「きっと病院にいるなぁって思って来たんだけど、すれ違いにならなくて良かった」
そう言って、彼女は安心したようにほっと息を吐く。
その態度を鑑みるに、おそらく僕は約束の時間を余裕でぶっちしていたのだろう。
それを察して、一先ず僕は頭を下げた。
「あー……その、何だ、すまなかった。これはもう、僕が全面的に悪い。好きなだけ罵ってくれて構わないし何なら何でも言うことを聞こう……」
と、しょげていく言葉尻をそのままに、そう言えば藤森は少々呆気に取られたように口を開き、それから少し笑った。
なにかおかしなことをしてしまっただろうか?
そう思っていれば顔に出ていたのか、藤森はえっとね、と口を開く。
「うたのんが『あの様子じゃ彼、見事にフォーゲットしてるわよ。だから、待つのはあまり得策じゃないわね』って言ってたんだけど、本当だったなぁって思って」
クスクスと、藤森は面白そうに笑う。
それに対して僕は、何て言っていいものなのか分からず、少しの気恥ずかしさと共に頭をかいた。
そんな僕を見て、彼女はあ、ご、ごめんね、と言ってからこほん、と一息つき、それから
「伝えなくちゃいけないことがあるんだけど、ここじゃちょっと、その、あまり良くないから、移動しても大丈夫?」
と言って、僕は当然のように頷いた。
そうして歩くこと十数分、僕らが着いたのはここ諏訪で最も立派な神社──つまり諏訪大社上社本宮であった。
木々に囲まれ、薄っすらと陽の光を浴びるその姿はどこか神秘的でもあり──そして、どこか恐ろしげ雰囲気すらある。
とは言えそれは仕方のないことだと言えるだろう。
なぜならここには、僕ら人間が昔から口に出す"神様"ってやつが、
その神の名は──建御名方。
古事記において、大国主神の御子神であり、事代主神の弟神とされている神……まぁ手っ取り早く言うのであれば、滅茶苦茶偉い神様の子供の神で、超偉い神の弟の凄い神様である、ということだ。
物凄く偏差値が低そうな説明ではあるが、概ね間違ってはいないだろう。
ここ、諏訪は、そんな神に守られている。
バーテックスという、あまりにも未知である生物に対して結界なるものを張り、それによって常時襲撃される、といったような事態を防いでくれている上に、白鳥に、勇者としての力を与え、巫女である藤森に神託を授けている。
神から与えられる、この三つの要素によって、この諏訪という場所は守られている。
そのことに僕は、何にも思わない訳ではなかったが、しかし何か思ったところで意味はない。
僕には戦う力なんてものは無いのだから。
あるのは精々、同年代よりも多少、ほんのちょっぴりだけ大人びた精神、それくらいのものだ。
そんな僕に、何の用なのであろうか。
昨日から何度も考えていたことを考えながら、藤森を見れば、彼女は彼女で緊張したように息を吸い込み、そして吐いてからようやく僕を見た。
「さ、さて、夢見くん。私が今日夢見くんを呼び出したのは、とある事情があったからなんだ」
「だろうね、でなきゃ藤森がたった一人で僕を呼び出すもんか」
で、その事情ってのは? と尋ねれば、彼女は少し悩んだように目を伏せた。
伏せてから、少しだけ弱々しい声音で言う。
「えぇっとね、まず事実だけ言うと、夢見くんに関して、神託があったんだ、」
え、と思わず言葉を漏らす。
その言葉を一瞬理解できなくて、けれどもその直後に言葉の意味を飲み込んだ。
「神託って──あの?」
「夢見くんが何と比べて言ってるのかはわからないけど、うん、そう。ここにいる土地神様からの、神託になる」
「そりゃまた……なんで僕なんかに……」
素直に思った言葉が、そのまま口から零れるように落ちる。
そんな俺を見ながら藤森は、何故だか申し訳無さそうな顔をした。
なんだか嫌な予感がするな、と背筋を流れる汗を意識しながら思う。
「私には良く分からなかった部分もあったんだけど、一先ず伝えられたことだけ先に言っちゃうね」
「あ、あぁ、頼む」
僕の返答を聞いた藤森は、んんっ、と喉の調子を整えてから
「
と、静かにそう言った。
004
今から約十一年とほんの少し前のことである。
僕は、この世界に転生を果たした。
今や小説に漫画、アニメでも良く見るような、ありがちかつファンタスティックな設定でしかない"転生"であり、大手を振って言えば頭がおかしいと思われても仕方ないようなことなのではあるのだが、とにかく僕は転生を果たしたのである。
誰かの手によって行われた、だとかそういうのは一切覚えていない。
気付けば僕はここにて、夢見真幌、という人間として生きていくことになった、それだけである。
そしてそのことに僕は、特に何の感情も持ち得なかった。
これで前の世界に未練がある、とかそんなことを思えたのであるのなら、もしかしたら何かしらあったかもしれないが、しかしそんなことはなかった。
そう、無かったのである。
とはいえこれで僕が感情の起伏がまるでない、厨ニチックな無感情マンと思われたらそれはそれで困るので、一応の理由は説明しておきたいと思う。
端的に言えば、
前の世界の、それこそ生きていた証明とも言うべきその時の記憶が、全く一切合切存在しないのだ。
皆無を通り越して絶無と言っていいだろう。
ただ、以前に歩んでいた人生があった、という実感だけが強くある、それだけだ。
お陰で、前の人生で学んだから勉強も楽々だぜ! とかそういうこともできない。
ただ不思議と疑うことすらおかしいと思える程の実感が胸の中に存在しているだけなのだ。
そういうわけで、僕としては日常的に意識することも無い程度にはどうでも良いことであったのだが、しかし土地神様からすればそうではなかったらしい。
まさか戦え、と言われるとは。
上記の通り、僕には戦う力なんて無いんだけどな……。
とはいえ相手は神様だし、何か策があったりするのか?
そう、たっぷり数秒考えてから、諦めて口を開く。
「神託って……今ので、全部なのか? 他には何か無かったの?」
「あ、えっとね、それで真幌くんをここに連れてくるようにって」
「あぁ、なるほど。そういうことか……」
直接お呼ばれされていたらしい。
それはつまり、僕がここに来なければならない理由がある、ということに他ならない。
それが何であるのか、薄々と察してはいたがしかし、僕に逃げるという選択肢は無かった。
理由は幾つもある。
折角仲良くなった藤森に格好悪いところを見せたくない、だとか。
神様が実在する以上、逃げたら呪われそう、だとか。
逃げたなんてことを白鳥に知られたら、どんな顔をされてしまうのだろうかと考えてしまった、だとか。
色々あったがしかし、それ以上に僕は、期待していた。
期待してしまっていた。
それは別に特別な存在になれるかもしれないだとか、そんなことではなく。
ただ、いざとなった時に妹を守れる力が手に入るのかもしれないという、小さな期待であった。
「祭壇の方にでも行けば良いのか?」
「うん、それで多分、大丈夫だと思う」
その言葉に小さく頷いて、祭壇の方へと向かう。
祭壇は少しだけ荒れていた、恐らく、最初の襲撃の際にこうなったのだろう。
それを見ながらどうしたものか、と藤森を見れば彼女は少しだけ悩んでから「取り敢えずお参りみたいにすれば良いんじゃないかな……?」と言う。
ふむ、そういう感じか、と言われた通りにすれば、直後に僕の身体には稲妻が駆け落ちた。
否、実際に落ちた訳ではない。
落ちた訳ではない──がしかし、それに匹敵すると思えるほどの衝撃が僕の脳天から足先までを貫いていた。
「ぐっ、あぁ……!?」
思わず絶叫しそうになるのを抑えるために服の袖を全力で噛みしめる。
自然と涙が零れ落ちていて、心配したように近づいてくる藤森を手で制した。
痛いとかってレベルじゃない……!
まるで全身がかき混ぜられて、何かを練り混ぜられて造り直されている。
言葉にするのであれば、そんな感覚だった。
「っ……あぁ、あ……!」
同年代と比べれば、僕は比較的痛みは我慢できるタイプの人間だ。
記憶も何も無いが、しかし転生した、僕は今よりずっと年上だった頃がある。
そういった不思議な自負から、少しだけ達観したような感覚を持ち合わせていたが故だろう。
が、しかし。
この痛みはそんなものではどうしようもできないものだった。
いや、だって、無理だ!
無理、無理、無理無理無理!
耐えられない、耐えられる訳が無い!
声を堪えることすらもう、できそうにない!
もう、ダメだ──と。
そろそろ意識を保つことすら無理そうだと、薄っすらと思った直後、それは嘘のように霧散した。
フッと、まるで夢か幻だったかのように僕の身体から痛みは抜けて、けれども磨り減った体力はそのままで、僕は「ぐえっ」と受け身も取れずそのまま突っ伏して──そしてプツンと張り切った糸を斬るように、意識は容易く地に落ちた。
005
ふと、眼を覚ます。
稀にある、スッキリとした目覚めのような感覚に近く、けれどもどこか違和感を感じるような目覚め。
自分が自分でなくなったようで、けれどもやはり自分であるといったような奇妙な感覚。
まるで身体は随分と心地の良い目覚めだと言っているにも関わらず、魂がそれについてきていない。
言語化するなら、そんな感じであった。
まぁなんだ。
要するに──
「気持ち悪いな……」
この一言に尽きた。
とはいえ前述の通り、体調事態は万全だ。
故に僕はかかっていた布団をゆっくりと押しのけて、それからまたしてもゆっくりと、視線を張り巡らせた。
と、言うのも。
ここは僕の家ではない──どころか、全く見当もつかない、と言っていいほど見覚えのない部屋だったからである。
一言でまとめてしまうなら、和風の部屋、といったところだろうか。
真っ直ぐ視線を向けたその先にある襖から、光が溢れて入ってきているのを見ながら、静かに考える。
うーん、どこ? ここ……。
「考えられるとすれば……藤森の家、か? いやでも、まさかな……」
ありえない可能性ではないが、しかしやはりそれは無いであろう。
彼女の家と神社がどれだけ近かったとしても、彼女の力で僕を運ぶのまず無理だ。
となればここは──。
そう思うと同時、答えは向こうの方からやってきた。
襖がトン、と軽やかに開かれる。
同時、踏み込んできたそいつは僕を見て、やけに嬉しそうな顔で口を開いた。
「グッモーニン、随分寝坊助さんだったわね?」
綺麗な声音が耳朶を打つ、けれども同時、僕ははぁ、と息を吐き出した。
「色々あったんだよ、僕だって好きで寝ていた訳じゃあない」
「そう? その割にはとってもキュートな寝顔だったけど」
「人の寝顔をマジマジと見るな……」
恥ずかしいだろ、とそう言えば彼女──白鳥歌野は別に、今更のことじゃない、と小さく笑って言った。
いや、確かにそうではあるが、それはそれ、これはこれ、というやつである。
同い年の女子に寝顔見られるなんてこと、慣れてたまるか。
「まぁ、そんなことより、だ。一応聞いておくんだが、ここはお前の家ってことで良いんだよな?」
「えぇ、正解。みーちゃんが泣きながら呼びに来たときは何があったのかと思ったんだから」
「あー……悪い、迷惑かけたな」
「ノー・プロブレムだけど……何があったかは、聞いても良いかしら」
その言葉に、当然疑問符が浮かび上がる。
「藤森からは、なにも?」
そう聞けば白鳥はちょっと動揺しちゃったみたいで、と軽く笑って濁す。
これは相当心配かけたやつだな……別に僕が悪いわけじゃあないが、後で顔は見せにいった方が良さそうだ。
そう思いながらもう一度白鳥の顔を見て、それから事の顛末を手短に話し始めた。
何度でも──それこそ、本当にしつこいくらい言うのだが、白鳥は頭が良い。
それは勇者に選ばれ、学校にも行けなくなったとしても当然変わることはない。
つまり、彼女は僕の思い出しながら紡ぐ、辿々しい説明にもふむふむ、と口を挟むこと無く滑らかに理解していった、ということである。
それが実際、どのくらい理解しているのかは、こちらから聞かずとも、話を聞くにつれて苦々しげな顔になっていくのを見れば、明白なことであった。
要するに、彼女はこの数時間(恐らくではあったが、日の傾き具合からそう時間は経っていないだろうことは確かだった)で起こったことのその重要性に、完璧に気づいているのだ。
となれば、彼女が僕にする唯一の質問は──
「ね、真幌。転生者って何?」
これしか、ないであろう。
この話を聞けば、誰だってそう思うし、聞かれることになるのは避けられないことだった。
当然のことである。
そして、それに僕が上手く答えられるのかと言われれば、それは酷く難しいところでもあった。
いや、普通に考えてほしいのだが同い年の少年、もしくは少女に『別の世界で死んでここにやってきました。記憶はないけど確信はあります』なんて言われてみろ。
誰だって、普通に頭がおかしくなったかと思うに違いない。
それほどまでに、この"転生"というやつは荒唐無稽なものなのである。
つまり、ちゃんとした説明をするのがすこぶる面倒くさい。
故に僕はその問いを前にして若干躊躇ったし、少しの思考を張り巡らせた。
どう説明するべきかな、と頭を抱え、それから僕はふぅ、と脱力して息をその場で吐いた。
見ようによっては溜息にも見えるだろうそれを見て彼女は「溜息を吐くと幸せがエスケープしちゃうわよ」なんて言いたげな顔をしたが、しかし黙って僕を見る。
いや、なんで僕はこいつの台詞を頭の中でシュミレーションしちゃったんだ……。
なんて、余計な思考を挟んでから
「なぁ、白鳥。僕には前世の記憶があるって言ったら、信じるか?」
と、如何にも軽い冗談のようにそう言えば、彼女は少しだけ呆けたように口を開けて、それからやはり笑った。
「貴方が言うなら信じるわ、当然でしょ」
そもそも疑う必要がないわ、と。
そこまでストレートに信頼をぶつけられると、いくら僕でもいささか恥ずかしい。
いや、見栄を張ったな。
正直に言おう、めっちゃ恥ずかしい……。
まぁ、それも相手があの白鳥であるから仕方ない、と言えば仕方なくはあるのだが。
それが彼女の、美徳でもあるのである。
信頼には信頼を返す、されてなくても自分が信頼できると思えたならば、信頼を全振りする。
彼女はそういう人間なのだ。
人の悪性を知っておきながら、しかし信じることを続けられる、善の人。
「お前……本当、そういうところだぞ」
「え、何が!? ホワイ!?」
「良い良い、わかった、面倒とか思った僕が悪かった、一から話すから、飲み物でも持ってきてくれ」
喉が乾いちゃってな、と言えば白鳥は少しだけ苦笑いした後に「もう、仕方ないわね」と軽やかに部屋を出ていった。
006
「ふぅん、つまり真幌も良くわかっていない、そういうことでオーケー?」
と、全てを聞いた後に白鳥はそう言った。
少しも考える素振りを見せず、ただ淡々と僕の抱えた事実を聞いて、それを深く考慮することもなく──否、するまでもなく、彼女はそう断定したのである。
これで少しでも間違いがあれば可愛げがあったのだがしかし、図星も良いところであるのが痛いところであった。
「ま、そういうことだ。だから今回の神託も、転生も、何が関係しあってるのかも、僕には正直良くわかっちゃいない」
悪いな、と呟けば彼女はうーんと、それこそ女の子らしく、右頬に人差し指を当ててから可愛らしく唸った。
「土地神様に聞ければ苦労はノーなんだけれども……そうはいかないし、少し仮説を立ててみましょうか」
「仮説、というと?」
「ちょっと強引だけど、それっぽい理屈付けはできるのよね」
この女、本当に言っているのか?
確かに僕は、僕の事情も、神託の内容も包み隠さず、全てを話した訳だが、それでもある情報といえば酷く少なく、また曖昧だ。
それこそ、長年この事情と付き合ってきている僕が、考えることを諦めるくらいには。
そう思う僕を見て、彼女はやはり、不敵に笑う。
「流石にこれは知っているとは思うのだけど、そもそも転生ってのは広義な意味としては"肉体が死んだ後に新たな器を得ること"じゃない?」
「うん、そうだな。それについて異論は無い。」
「私がここで焦点を当てたいのは、じゃあその新たな器──この場合は、肉体のことなんだけれども──は、どこの誰が作ったの? ていう点」
「そりゃあ──それは、僕の親だろう。人間は皆人間から生まれてくるんだからさ」
「そう、普通はそうね。でも──転生者って、そもそもそんなプロセスを辿る必要はあるのかしら」
「……? どういうことだ?」
「わざわざ"人から生まれる"という過程を辿って、例に習って普通に生まれることに、明確な意味があるとは思えない、そう思わない?」
だって、そこには必ず何者かの──もう、断定しちゃんだけど、神様の意思が介在しているのだから、むしろポンって既に人として生まれた状態で、この世界に放り投げられていた方が自然だわ。
何故なら神様が転生をさせたのであれば、その器を与える、もしくは創るのもまた、その神様なんだから、と白鳥はそう言った。
これが、それこそ数ヶ月前であれば鼻で笑っただろう。
神様だなんだ、それに近い何かだなんだと言われたところで、フィクションとノンフィクションを混同するなよ、と。
けれども。
今の時代は──その、神様の存在が確立したものになってしまった。
今までは"いてほしい"、"在ってほしい"と思われてきた──語弊を恐れずに言うのであれば、存在していないものとされてきて、信じようとされてきたものが、ある日ひょっこり"本当にいる"ということを証明されてしまった。
つまり
創作だけで楽しまれてきたものが、現実になってしまった、ということなのである。
要するに彼女の台詞を、僕は頭ごなしに否定することができない、ということだ。
理屈としては、荒唐無稽という訳じゃあないのだから。
「だけどそれって──結局、過程が違うだけで結果は転生者が生まれる、っていう結論にたどり着くんだから、そこまで深く考えるところでも無くないか?」
「んー、それはどうかしら。例えば転生者という存在を、バーテックス達の親──つまり、天の神様にバレないように最大限の努力をしたって考えれば、何となく理解できない?」
「それって、意味あるのか? だって、やつらへの対抗策はお前たち、勇者だろう?」
「えぇ、現状は確かにその通り。土地神様から力を、武器を貸して貰って、それでようやく僅かばかりの抵抗ができている。それが勇者。でもわざわざそんな手間かけるくらいなら、生身に直接土地神様の力を与えてもらって、そのまま戦えた方が効率は良くないかしら?」
神の作り出した敵を倒すのに、同じ神の力が必要だと言うのであれば、神の力を直接生身で振るえるほうがずっとイージーでしょう? と、白鳥は言う。
バーテックスが現れるたびに、勇者の衣装と武器を取りに行っている彼女だからこそ言える、重々しい言葉だった。
「それは……でも、そんなことをしたら、人の身体は耐えられないからこその勇者システムだろう? 土地神が、天の神へ対抗するために考えた、言わば苦肉の策で、だからこそ勇者適性なんてものがあって、それで白鳥は──あれ?」
そこまで言ったところで、僕はふと、言葉を止めた。
勇者が振るう力は──確かに、基を辿れば神様の力だ。
この諏訪を守る為に結界を作り、維持し続けている土地神様の、不思議な力。
それを与えてもらって、貸して貰って、彼女たちは戦っている。
神に直接選ばれた人間が……神が、この人になら力を託せる、この人なら戦えると、そう信じられた人間だけが、勇者となって戦っている。
その選定基準は僕には良く分からないが──それでも、その身に神の力を宿すことが出来る、ということは一つの基準なのではないかと、僕は思った。
というか多分、白鳥はきっとそういうことを言っていた。
それを踏まえてみれば、自ずと答えはするりと零れるように口から溢れ出る。
「神に身体を作られた転生者は、ある意味勇者適性100%っつーことで、その存在を、土地神様は天の神に悟らせまいとした……?」
「グッド! そう、それを言いたかったのよ!」
白鳥は僕の出した答えを聞いて、満面の笑みでそう宣う。
つまりは、だ。
転生者とは、土地神様が天の神に悟られぬよう、ひっそりと用意していた対抗策、ということである。
基からあった人の魂を、神の造り上げた器に宿し、それを人と人の間にできた人のように仕立て上げ、いつか来る戦いに備えて用意した。
端的に言えば、土地神様は神の力を最も効率良く身体に宿せる存在がほしかったのだ。
それが偶々僕だった。
もしかしたら僕の他にももっと多くいたのかもしれないが、諏訪で生き残ったのは僕だけだった。
もしくはその中で選ばれたのが僕だった。
それは別視点から見れば、土地神様は転生者、という都合の良い兵が欲しかった、ということにもなるだろう。
けれども僕は、そのことに対して特に何かを思うことはなかった。
理由は前述のとおりである。
もしかしたら、その辺も含めて、僕が選ばれたのかもしれないな……。
「まぁ、と言っても結構強引な仮説でしかないんだけどね」
今回のその──力の譲渡? がこんなにも遅れた訳を説明できないし、メイビー土地神様がテキトーに選んだだけかもね、と白鳥は言い切ってグイッと水を煽った。
それに合わせて、一口水を飲む。
多少ぬるくなった液体が、喉を潤して落ちていく。
まぁ、確かに。
何だか熱くなってしまったが、所詮これは僕ら二人の仮説、もしくは妄想でしか無いのである。
二人で語り──というか、白鳥に誘導された形ではあったが──互いが納得し合う、それだけの行為だ。
そこに意味は、特にあまりない。
何せ答えもわからないのだ、だから、あまり深く考えすぎても時間の無駄というものなのである。
つまり、今のこれが一先ずの答えであると、僕らは結論づけた。
「さて、クエスチョン。真幌がこれからすべきことはなんでしょうか?」
一心地ついていた僕に、白鳥は唐突にそう言った。
これから、すべきこと……?
一眠りする、とか?
「ざんねーん、タイムオーバー!
白鳥は、にこやかに、そして心底嬉しそうにそう言った。
ガバは見逃してくれ、私は雰囲気でssを書いている……