早朝都内某所
ここはステーキ店橘の地下にある秘密のショッカーライダー製造プラント
外はまだ薄明かりの中、前日の動物園の騒動で合理的との判断の元に自爆し散華したショッカーライダーの再製造が行われていた
「よう、目ぇ覚めたかミコト」
「応!ばっちりだぜ親父さん!」
改造手術用の寝台に乗っていたミコトはすっくと立ち上がると部屋着の作務衣を着ると体の調子を確かめるように伸びをしてみたり体を捻ったりしている
「さぁて腹が空いたぜ」
「それはそうだろうよ、最後の晩餐ならぬ最初の朝食だな」
「ははは、最初の朝食か!確かに違いないや」
ちなみに昨日の鯨ステーキの事はすっかりと忘れている
どうせすぐには帰って来ないだろうと自分の分を食べ終えた青川 モヨ子がぺろりと平らげてしまった事が知れたら暫くブーブー文句を言いそうだったので記憶を消去しておいたのだ
厨房の隣の冷蔵室の床の一部に隠された秘密の出入口から出てくると既に件のモヨ子女学生が朝餉の準備をしていた
「あら、おはようミコトさん!それに親父さんも、もうすぐ朝御飯が出来ますから少し待っていて下さいね」
「よう!モヨ子ちゃんおはよう!」
「おぉう、モヨ子、何か手伝おうかい?」
「うぅん、大丈夫よぉありがとう親父さん!でも親父さんも疲れているでしょう?ゆっくりなさっていて下さいな」
「うん、それではそうさせて貰おう、ただこっちの食いしん坊が腹を空かせて居るようなんでな、ははは!」
「おいおい、恥ずかしい事を言わないでくれよ親父さん!だがなるべく早く頼むぜモヨ子ちゃん!」
「はぁい!任せておいて頂戴」
ステーキ店橘の居住スペースにある食堂と、言っても長テーブルに椅子が六脚あるだけなのだが店の親父こと橘 燐太郎はパイプに火をつけてパッパッとやっては旨そうに紫煙を燻らせミコトは既にショッカー配達員(郵便は国営基ショッカー営である)が配達していたショッカー参謀本部検閲済みの印の押してある新聞へと目を通す
「やっ、親父さん昨日の事が記事になっているよ、幸いな事に街では怪我人は出れど奇跡的に死者は出なかったそうだ」
「おぉう、良かったじゃねぇかミコトお前ぇの活躍だぜぇ」
「そう言ってくれるのはうれしいが親父さん、俺の活躍じゃあなくてショッカーの活躍だよ俺は…俺達はショッカーの一部なんだから」
「違いねぇや、とと、そろそろ朝飯だな」
「はぁいお待たせぇ!」
男二人で駄弁っていると程無くしてモヨ子が犬の尻尾のようにお下げにした髪をフリフリさせながら二人分の朝食を持ってくる
お盆の上に乗せられて来たのは梭子魚の一夜干しと白菜の香物、熱々の味噌汁の実は豆腐とワカメ
お櫃からよそわれた白飯はミコトだけ器が丼である
「お茶を淹れてきますねぇ」
そう言って再び出ていったモヨ子を他所に二人は手を合わせる
「「いただきます」」
目が覚めるような熱い味噌汁をズルズルと啜り梭子魚の身をむしって口に放り込むとその勢いで白飯を頬張りそれに飽きてきた頃合いで香物を齧りまた味噌汁を啜る
一連の動作はさながら鏡合わせのようであり血の繋がりは無くともさながら親子のようであった
「あらあら、朝から二人とも仲の良い事で」
急須と湯飲みを持ってきたモヨ子が二人に茶を寄越すとこれも同様に「ん」と返しては一息つく
「朝からも何も俺と親父さんはいつも仲良しさ、なぁ親父さん?」
「んん?いやぁミコト、俺ぁお前さんと仲よくなった覚えなんてぇ無ぇぜ?」
「まーた、そういう事を言う、はははっ!」
「…ふふふ」
「もー二人とも、あー可笑しい可笑しい!ふふっ」
そこには確かに家族の姿があった
程無くして二人が食事を終えてモヨ子が自身の食事を食べ始めると二人は身支度を始める
「ミコトやい、今日はお前さん大学だったかい?」
「ああ!その後部活もあるから今日は一日居ないぜ」
「あいよ、頑張んな!」
「応!親父さんもな!」
ニッと歯を見せて笑うミコトに燐太郎も目元だけで微笑みを返すとお互いのやるべきことの為に支度をする
このような平穏な生活こそショッカーの管理の賜物、ショッカーライダーはこういった何気ない日常を守る為に戦っているのだ
時計の針は進んで講義を終えて帳面を纏めたミコトは仲間連れだって狩猟を楽しむべく準備をしていた、今回の獲物は鹿の予定である
「よぅミコト!前回は大きさも量もお前が一番だったが今回は負けないぜ!鹿どころか猪だって羚羊だって、何だったら熊だって撃ってやる」
「そいつぁ結構な事だがこの前雌鹿の若いのにおちょくられてたのは何処の誰だったかな?それに今の時期に熊に出会したっていうなら穴持たずだろう、逆に餌食になっても知らないぜ?」
「あ、あれは調子が悪かったんだい!しっかしあれだけ撃ったのを全部持ち帰るお前もすげぇよな、あの後どうしたよ?」
「あー、あれな、結局親父さんに手伝って貰ってどうにか解体して今でも店の冷蔵庫の一区画を占領してるよ、親父さんに怒られちった」
「ああ、橘ステーキ店の!流石持つべきものは肉の扱いに詳しい知り合いだなぁ」
「はいはいそこ二人、談笑も良いがそろそろ出立するぞー!」
「アイアイ、よっし!行こうぜミコト!」
「ああ!今日も俺の猟銃が火を吹くぜ!」
「ははは、火を吹いちゃ駄目だろ」
そんな時である、ミコトがショッカー参謀本部からの連絡を受信したのは
『ショッカー参謀本部ヨリショッカーライダーへ指令、現在〇〇美術館ガ暴徒ニヨリ襲撃サレテイル、速ヤカニ現場ニ急行シコレヲ殲滅セヨ』
ピタリと動きを止めたミコトが途端に険しい顔つきになると先程まで談笑していた青年が訝しげな視線を向けてくる
「どうしたよミコト?急にそんな怖い顔をして何んかあったか?」
「悪いが急用が入った、今日の部活動は休ませて貰うから部長に言っといてくれ」
「お、おい本当にどうしたんだよ」
「どうしたもこうしたも無いさ」
自分が持つ筈だった装備を下ろすとミコトはその青年の肩を軽く叩く
「俺にしか出来ない事があるんだ」
「お前にしか出来ない事?」
「そっ、じゃまたな!」
颯爽と駆け出してゆくミコトを同じ部の青年はポカンとした顔で見送っていた
所変わって連絡のあった件の美術館、ミコトが到着した時には既にショッカー憲兵隊も整列していた
「イー!憲兵隊諸君、上官は誰かね」
「イー!私です、ご説明致しましょう」
その憲兵の一人が言うには海外の何とかという画家の作品の展示を行う企画だったのだがその作風に反感を持っていた人間が集まり暴徒化して博物館内で破壊活動を行っているという
しかも館長始め博物館のスタッフも捕まって人質とされていると言うのだ!
「正門以外にも複数の出入口があります!今少しすればショッカー戦闘員の方々も来られますのでそれから突入を…」
「必要ない」
「はっ?」
「必要無いと言っているんだよ、君達は出入口の封鎖を頼む、突入に割く人員をそちらに回せば全ての出入口を封鎖出来るだろう一刻も早く暴徒を殲滅するのが先決だ」
「だがいくらミコトさんでも一人では…」
「大丈夫だ!俺とて偉大なるショッカーの一員、命を惜しむような軟弱者では無い!」
「…御武運を!」
「応!!」
ショッカー憲兵隊をバックにミコトは美術館の入り口を睨み付けるとワナワナと怒りに震える拳を強く握り締める
「ショッカー!」
怒りの形相で怒号を一発、足を肩幅に開き右腕の握り拳を大きく肘を引いて顔と水平にすると指先まで伸ばした左腕を右下に強く振り下ろした
「変身…っ!」
ミコトの姿が白い閻魔蟋蟀を彷彿とさせるショッカーの秩序番人ショッカーライダーに変化すると一陣の旋風に青い迷彩柄のストールをたなびかせ敬礼の姿勢を執る
「これより作戦を遂行する!総員その一命を持ってして出入口を死守せよ!イーーーーー!」
「「「「「イーーーーー!!!!!」」」」」
唱和と共に正面の入り口をショッカー体かましで破るとショッカーイヤーで人の気配を察知したショッカーライダーはその音のする方へと雄叫びを上げながら疾駆する
「ホキョキョキョキョーーーーーーーーーーーー!!!!!」
程無くしてショッカーライダーは件の画家の作品が展示されているブースにて破壊活動を行う暴徒らを発見した
「待てぇい!」
そこは長い廊下のようになっていて壁の両面に作品が展示されるような作りとなっており30m程のその場所をショッカーライダーは砲弾のように駆ける
そのショッカーライダーの姿にギョッとしたように暴徒は小型小銃で発砲を行うがショッカーライダーにはそんなもの霧雨程度にも感じはしない
「ホキョキョキョキョー!偉大なるショッカーの技術の粋たる私にそんなオモチャが通用すると思うてかぁ!とぅ!」
一瞬にして距離を詰めたショッカーライダーの暴徒達の目の前から消える
素早く横に跳んだショッカーライダーは姿勢を変えて壁に着地しその際の力を壁の破壊ではなく両足に溜め込むと壁を蹴ってその勢いを込めたライダー殴を暴徒にぶちかます
跳躍力に腕力を乗せたその名も
「ショッカー水平殴!」
その威力は暴徒を数人纏めて壁のシミにした
「き、貴様は何奴!?」
「私の名はショッカーライダー!偉大なるショッカーによって作られた秩序の番人だ!」
「ち、秩序の番人だと!?ではなぜこの様な状況を許容する!!」
変身と同じポーズを決めて気合いを入れるショッカーライダーに暴徒の男の一人が食って掛かる
「この様な状況だと?無論貴様らのような連中が存在することは許容ならん!殲滅する!」
「違う!これだ!」
暴徒が指差す先には件の画家の絵があった
「この絵が何だと言うのだ!妙な事を言って時間稼ぎをしようとしたってそうは行かんぞ!」
「そうだはない!これを良く見てみろ!」
その暴徒の指差す絵にはブリッジした男の胴体の上にティーセットが置かれているという絵だった
「ほう、私は絵画には明るく無いが写実的なタッチで非日常を描いている作品なのだな…それが何だと言うのだ!」
「これを見て何とも思わんのか!人をさながらモノや消耗品として扱う!もしも真似をするような輩が出てきたらどうする!こんな不愉快極まりない物を許容しておいて何が秩序…」
「ショッカー殴ぃ!」
まだグダグタ何がわめき散らす暴徒にショッカー殴を繰りだし口を閉じさせると共に廊下の突き当たりの壁にめり込ませる
「良いか暴徒どもよ聞けぇぇぇい!」
ショッカーライダーは私用でも使っている板チョコ程の携帯端末を取り出すと画面をスクロールしてアプリケーションを起動、絵画の横のショッカーのエンブレムをカメラに映すと『ショッカー参謀本部検閲済み』の印と作品についての細かい説明が表示された
「これらの作品は何もショッカー参謀本部による検閲を受ける事でショッカー臣民の目にも触れて良いとの判断を下されている!それを貴様らの一方的な不快感やら勝手な憶測で破壊するその行為はショッカーに対する背任!断じて許さん!!!」
そう喝破するとショッカーライダーは強く拳を握るとその拳が炎に包まれ赤々燃える
「ショッカー炎熱殴!」
その威力たるや目の前で腰を抜かしていた暴徒を炭化させると共に粉砕し、それを目の当たりにした暴徒たちは一目散に逃げ出す
「一人として生きては帰さん!!!!」
我先にと逃げる暴徒達をショッカーライダーは上層階へと追い詰めてゆくが暴徒も二手に別れるとなんとその一方は窓から身を投げるではないか
「はっ、この下はまさか!!」
感づいたショッカーライダーが窓から慌てて階下を見下ろすと美術館の中庭、その一角の池に飛び降りたようで暴徒たちがあっぷあっぷしながらも装備を擲って岸に揚がろうとしていた
「おのれぇ…許さん!とぅあーっ!」
ショッカーライダーも空かさず窓から飛び降りると空中回転を加えながら池へ着水、何とかと逃れようと釈迦無二になる暴徒に雷を落とす必殺の
「ショッカースパーク!」
体内のショッカーリアクターから取り出した大出力の高圧電流が池を駆け巡る、忽ちの内に感電した暴徒や池の生き物がプカリと水面に浮かぶ事となった
「ショッカーライダー!あれを!」
「むぅっ!」
池を包囲していたショッカー憲兵隊の声にその指差す方を見れば暴徒が屋上からヘリコプターで逃げようとしているではないか
「おぉのぉれぇ…このショッカーライダーをコケにしおってからに!ウォークリケットーっ!!!!!」
いよいよ怒りの炎が燃え上がるショッカーライダーの叫びに呼応してウォークリケットが駆けつけるとショッカーライダーは大きく水面から飛びあがりなんとそのままウォークリケットの砲身へと収まってしまった
「ふぅ、さしもの改造人間であろうとも空までは飛べまい」
「り、リーダー!あれは!!!」
「ゆぅぅぅぅぅるぅぅぅぅぅさぁぁぁぁぁんっっっっっ!!!!!」
ショッカーライダーを振り切ったとばかりにほくそ笑む暴徒であったが次の瞬間には顔を青くする
なんとショッカーライダーは自らウォークリケットの砲身に収まり射出される事で空のヘリへと追い縋って来たのだ!
加速された渾身の力と怒りを込めた鉄拳が今炸裂する
「ショッカー砲弾殴!!!!」
ヘリと暴徒化を諸共に貫いたショッカーライダーは炎上爆発するヘリをバックに博物館の屋上に着地した
「勝った!ショッカー殴の勝利だ!!」
変身時と同じポーズを決めると眼下に犇めくショッカー憲兵隊や戦闘員に敬礼の姿勢を執る
「イーーーーー!!!!!」
「「「「「イーーーーー!!!!!」」」」」
響き渡るショッカーライダーの敬礼に帰ってくる返礼、ショッカー参謀本部を通じて既に連絡を取り合っている為にその中には既にショッカー清掃員の姿も見えた
この後奇跡的にも館長と職員は地下の金庫に閉じ込められていたのが発見され事態は終息したのだった
戦えい!ショッカーライダー!今回のような己の心の動きに惑わされ道を踏み外した時人は秩序を乱す!だがそんな連中に声を上げさせよう物ならこの美しい社会は危うい!