「こっちだ」
ここは旧紅魔館近く、先に到着していたベリーとユウが他のメンバーの到着を待っていた。
「まずはメンバーの確認を」
メンバーの名前を一人一人呼んでいくべリー、その場にいる呼ばれたメンバーは返事を返す。
「いないのはガナッシュね、通信から推測するにハーメルンとぶつかったはずだけど」
何か知ってることは、と尋ねるが沈黙が返ってくる。それを受けてベリーは一つ大きな溜め息をついて次の確認作業へと移る。
「ぶつかった相手についてだけど明、紙縒、グレイウルフは生きているのよね?」
その問いに足して名前の挙がった人物と直接ぶつかったメンバーが同意する。
「明の件は私から全員に通知しているから気にしなくていいわ」
「分かりました」
「次に翳理、ルトラ、ハーメルンは死亡でいいわね」
さっきと同じようにぶつかった人物がそれぞれ同意する。ということは門前に立ってるやつ以外に邪魔者はいないわけか、ベリーは情報を整理する。
よし、そう呟いてベリーは全部含めて説明するわ、よく聞きなさいと言って再び作戦の説明を開始する。
「まずエルグを除けばあそこ、旧紅魔館の門前に立ってるトニーが最後の敵よ」
そう言ってベリーはちらりとトニーのほうへ目を向ける。
「旧紅魔館はウィンテラの働きで跡形もなく吹き飛んだわ、つまり見えてるアレはトニーの能力によるものよ」
「つまりトニーを殺せば能力が解けて建物そのものが崩落する危険があると?」
「いえ、崩落については問題ないわ、むしろ中を好き放題いじられる方が厄介よ」
例えば空間をいじられて永遠にエルグのもとにたどり着けないようにされたりとか、ベリーは苦い顔をしながら想定している妨害を口にする。
「そこで翔魔、葵、あなたたちで奴を釘付けにしなさい、内部に手を加える暇なんてないくらいに」
「状況によっては殺しても問題ないか?」
「ええ、崩落に関して気にすることはないわ。思いっきり相手してやりなさい」
「分かった、足止めは任せろ」
「そして二人がトニーを相手しているうちに残る全員でエルグのもとへなだれ込む」
数に物を言わせて抑え込むのよ、最後は私がこれで仕留めるわ、そう言って懐からリボルバーを取り出す。
「お嬢、その銃は?」
「全員奴の殺し方は知ってるわよね?」
「ああ、大罪の器を用いるんだろ?」
あられがそこまで言って全員がハッとする。
「ご明察、大罪の器を全部溶かして作った弾丸を込めてあるの」
これを忌々し奴の眉間にブチ込めばいいって寸法よ、そう言ってくるりとリボルバーを一回転させる。
「いい? 泣いても笑ってもここがラストチャンスと思いなさい」
次はないわ、もし私が死んでも誰かがコイツを奴にブチ込めば私たちの勝利よ、そう言ってぐるりと全員を見渡して理解できたかを確かめる。
「理解できた? できたなら行くわよ」
すべての悲劇の元凶たるエルグの待つ旧紅魔館の最奥部へと向かう一行、迎え撃つは最後の砦であるトニー・マクブライド。
* * *
トニーの前へ臆することなく歩き出す翔魔と葵、二人に気づいたトニーはまず周りを見渡す。
その隙を狙って葵が攻撃を仕掛ける、それにトニーが対処したのと同時に翔魔の能力で空間ごと透明化した残りのメンバーが中へと進む、それを確認した翔魔は自分も戦闘に参加する。
「入れたわね。けど油断は禁物よ、進めるだけ進みましょう!」
無言で館の中を進み続ける一行、しかし曲がり角に差し掛かったところでベリーが待ったをかける。
「眷属よ、かなり居るわ」
ユウ、リルポ、沙羅、あられ、焔稀、茨、ザクロ、そして明、その場の全員が無言で正面突破の意思を示す。
「分かったわ、突っ切るわよ」
同時に曲がり角を飛び出す、唐突な接敵に一瞬硬直した眷属たちを吹き飛ばし、蹴散らしながら廊下を奥へと進む。
走り続ける一行、追いかける眷属たち、鬼ごっこの様相を呈したまま数キロメートル進んだところでリルポが異変に気付く。
「いくらなんでも広すぎない!? 絶対空間いじられてるわよ」
「奇遇だな、俺もそう思う。お嬢どうするよ」
判断を迫られベリーは一瞬瞑目するがすぐに案を出す。
「目的地は地下、ならこの階層ごとブチ抜くわよ!」
「しかしそれだとエルグに気づかれて逃げられてしまうのでは?」
沙羅が眷属を消滅させながら異議を唱える。
「どうせ気づかれてるわよ、どいて。私がやるわ」
そういってベリーは能力を使用、追いかけてきた大量の眷属から寿命を抜き取り、力を増幅させる。
「全員落下と衝撃に備えなさい!」
リルポが大声で警告する。それとほぼ同時にはぁッ! という掛け声とともにベリーが床を全力で殴る。
ヒビが広まるよりも早く床が衝撃を支えきれなくなり陥没する、そのまま数枚の床と天井をぶち抜き一行は地下へと落下する。
飛べるものは飛ぶことで床との激突を避け、飛べない人物は能力を使い同じように床との衝突を避ける。
「ちッ! 案外ブチ抜けなかったわね」
リルポの能力で階層の数はおおかた把握していた、しかし今の攻撃でブチ抜けたフロアの数は二から三。明らかに足りていない。
「参ったわね、確実に気づかれてるでしょうけどあと五フロアはブチ抜かないと」
飄々とした口ぶりだがベリーの左手ははた目からでも分かるほどの変形している、時間経過で再生するとはいえすぐさま同じ威力のパンチを打つことが不可能なのは明らかだ。
「あと五フロアだな? お嬢」
そう言ってユウがヨロヨロと立ち上がった。
「......やるの?」
「ああ、やれる」
まあ、動けなくなるのは見えてるから誰かに残ってもらわなきゃならんがな、そう言ってユウは肩を竦める。
「なら俺が残ろう」
すぐさまあられがユウの護衛に立候補する。それを受けてベリーはユウに向かって頼むわ、と許可を出す。
「任せろ」
それは、地上の命という命を死滅させた大気圏外から降り注ぐ無情にして冷血な天災。地上の繁栄を許さぬという神の意志か、はたまた増えすぎた種を間引く自然の自浄作用か。
幻の館に大いなる天から裁きが降りそそぐ。
――穿て!
* * *
「派手にやったな、外の三人も巻き添えになってるんじゃねえか」
「生憎、細かい調整とか手加減とかは苦手でね」
「あんたが出張ってるところを見ねえ理由が分かったよ」
眼前に広がるクレーターを眺めながらあられは魔力を使い切り、地に伏せるユウに向かってそう話しかける。
リルポがユウが叫んだ技名を聞いた瞬間に空間ごと隔離したおかげで何事もなかったが実体を伴った幻であるこの旧紅魔館はエルグが潜む最深部を除いて崩壊。
屋根に当たる部分に至っては落下してきた摩擦で超高温に熱された無数の隕石が衝突したせいで気化してしまった。
しかしこれでエルグへ向かう道は拓かれた、ユウとあられは先へと進んだベリーたちがことを成し遂げることを信じて待つだけだった。
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「これは......」
エルグが潜む最深部へ辿り着いた一行は眼前に聳える巨大な扉への対処を迫られていた。
「悩む時間が惜しいですね。ここは私たちが道を開きます」
そう言って焔稀はちらりと明を見る。明は焔稀の意図を察知し、刀を抜く。
同じように焔稀も刀を抜き、二人同時に満身の力を込めて刀を突く。
――覇国!
放たれた突きが扉にかけられた魔法陣や術式。その全てを切り裂き、突き穿つ。
最後の砦であった扉が破られたことで大量の魔獣が発生するが焔稀と明、そして沙羅がそれを引き受けベリーたちは奥へと走っていく。
「任せたわよ!」
「ええ、そちらこそ!」