My Reverie   作:ユウ/伽藍堂(本舗)

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第11話 「不退転の覚悟」

 翔魔は空間ごと隔離したベリーたちが中へ入るのを確認する。

 

 「行ったか」

 

 そこへ葵が吹き飛ばされてくる。吹っ飛んできた葵を翔魔は受け止め、吹き飛ばした相手がいるであろう方向を睨む。

 

 「......あんたがエルグに協力する理由は大体わかる」

 

 相手に反応はない。チッと舌打ちをして能力のほうへ意識を向ける。

 

 「前衛は任せたぞ」

 

 「はいはーい」

 

 そういって葵はトニーへ向かって突進していく。

 

 「トニー・マクブライド、はした金で敵に回すにはめんどくさいな」

 

 ――トニー・マクブライド、自分を中心とした一定の範囲の空間を機械のように扱う能力を持つ。

 能力の効果範囲にいれば即死させることすら可能なベリーたちにもひけを取らない強力な能力だがその性質故に翔魔が足止めに抜擢されたのだ。

 翔魔の能力を用いればトニーが持つ空間を操る権限を取り返せる、ありていに言えば能力を打ち消すことができる。

 翔魔もトニーと同様に能力を発動すればほぼ確実に勝つことができる、ゆえに相手に空間を操る権限を奪われた瞬間、敗北が決定する。

 だからこそ翔魔とトニーは相対した瞬間から全力で空間の権限を取り合っているのだ。

 

 「まあ、葵が前衛を張ってくれている分だけ俺のほうに分があるが」

 

 権限を奪われまいとしつつもこの持久戦をいかに早く終わらせるかを翔魔は考えていた。

 先に集中力が切れて権限を奪われた方が負けるという綱渡りな状況のままにらみ合うのは悪手としか言いようがない。

 そもそも相手の能力ができることを全て把握していない状態で睨み合うこと自体がリスキーすぎる。

 

 「常に予防線を張り、確実に堅実に勝ちに行け、だっけか?」

 

 無茶なことを、とは思わない。

 自分が確実に勝てる状況でないうえ、自分の勝敗に仲間の命もかかっているのだからそれは当然のことだ。

 

 「何か策は......」

 

 額に汗を浮かべながら翔魔は思考を巡らせる。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 「あー、クソッ! のらりくらりと!」

 

 葵はそう毒づきながら翔魔が権限を奪うサポートをしていた。

 あわよくば仕留めるという気概だがのらりくらりといなされる、葵も翔魔と同じようにこのいつ終わるともしれない持久戦をどう終わらせるかを考えていた。

 また一人生み出した魔獣が仕留められた、戦線を維持すべくすぐさま新たな魔獣を放とうとしたところで閃く。

 

 「そういやあいつを吸収してたわね」

 

 そういって葵は先の異変で吸収していた六魔をけしかける。徐々にトニーが押されていく。

 あと一押しするために葵は意を決して自ら戦線に混ざる、少しずつ少しずつトニーがじりじりと後ずさりをしていく。

 

 「いっけえええ!!!!!」

 

 もう一歩踏む込む。

 その瞬間、その場にいる全員が吹き飛ばされる。

 

 

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 「これは......」

 

 お互いに衝撃波によって吹き飛ばされようとも権限の奪い合いをやめてはいない。しかし今の衝撃波で戦線は崩壊、生み出した魔獣も全て吹き飛ばされてしまった。

 

 「隕石ね、原因は」

 

 すぐさま原因を突き止めるが原因が分かったところで何かが変わるわけでもない。

 

 「まずいわ」

 

 自分が前線を張っている状態で互角だったということは自分の妨害がなくなればトニーは翔魔から権限を奪い取りうる。それを避けるには同じように巻き込まれたトニーが状況を把握しきれていない今しかチャンスはない。

 

 「やるしかない」

 

 葵の決断は早かった、というより反射的に体が動いていたと表現する方が適切かもしれない。

 

 ――冥王の牙(バビロン・ゲルグ)

 

 突如としてトニーの足元に底なし沼が広がる。トニーは即座に底なし沼から離脱しようとするが葵に覆いかぶさられたことで離脱できなくなる。

 すぐさま翔魔は空間の権限を奪い、仕留めようとするがズブズブと沈みながらもトニーは頑なに権限を手放そうとしない。そのまま葵とトニーは底なし沼へと沈んでいった。

 沼に沈んでなお、数分の間トニーは権限を渡すまいと抵抗していたが遂に権限が翔魔へと渡る。翔魔はすぐさまトニーを仕留めようとするが既にトニーの生命反応は消失していた、そして翔魔も限界を迎え、倒れこむ。

 

 「クソ......、ここまでか」

 

 いくら翔魔といえど数十分にわたる全身全霊の能力行使の反動は大きく、すでに自分の意志で動くことはできない。数分と持たずに完全に消滅するだろう。

 

 「どうやら俺はここまでらしいな、葵の奴もくたばっちまったか」

 

 視線の先、コポコポと音を立てながら徐々に小さくなっていく底なし沼は葵が絶命したことの何よりの証拠だ。トニーの死亡も確認した、任された役目に対しての後顧の憂いは存在しない。

 術者を失った幻影の旧紅魔館はやがてその実態を保てなくなり露と消えるだろう、その際に中にいたなら幻の消滅に巻き込まれるかもしれない。だが翔魔はそれについて微塵も心配していなかった、自分が消滅しかかっていようともベリーたちへの信頼が消えることはない。

 翔魔は安らかな、だがあいつらなら心配しなくともやり遂げてくれるという自信に満ちた笑顔を浮かべたまま、自分たちの勝利を確信したまま消滅した。

 

 ――残るはクソ野郎(エルグ)だけだ。あとは任せたぞ。

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