「妖精ごときが吸血鬼に勝てるとでもッ!?」
私はそう叫びながら押し寄せる妖精たちを吸血鬼の腕力は伊達ではないと言わんばかりに蹴散らす。魔理沙や咲夜たちもマジックアイテムやナイフなどを駆使して妖精を退けていた、能力をエルグたちによって封じられているとはいえ私たちは妖精ごときが何とかできる相手ではない。
「あらかたは倒しましたね、お嬢様」
「そうね。ところで美鈴、霊夢の様子はどうかしら?」
「さあ、けれどパチュリー様がついてますし平気かと」
「一応見てきてもらえるかしら?」
美鈴がわかりました、と中へ戻ってから数秒後、私の頭上からグレイウルフが降ってきた。
――がきぃん!
硬質な音がこだまする。
「やっぱりきたわね」
「ん? 嬢ちゃんはたしか......」
「前の異変ではちゃんと挨拶できなかったわね、レミリア・スカーレットよ」
グレイウルフの攻撃をいなした私はそのままスカートの裾を軽くつまみ上げながらお辞儀をする、そんな私をポカンとした顔で見るグレイウルフ。
あら? 挨拶を返してくれないのかしら、そうクスクスと笑いながらお辞儀をして視線を切るのが怖いの? と言葉を続ける私に向かってグレイウルフの爪が返事の代わりに振り下ろされた。
私はグレイの振り下ろした爪を右手に握られた赤い槍を使って受け止める。
すぐさま右足が私を蹴り上げる。グングニルで脚そのものは受け止めるが勢いは殺しきれず私は蹴り飛ばされる。グレイウルフはそれを見て着地したところを攻撃しようと駆け出した。
それを見た私は無理やり空中で体勢を立て直し、グングニルの穂先を下に向け体重をのせる。
――穂先がグレイウルフめがけて落ちていく。
自分に向けて上から降ってくる槍を強引に弾き飛ばそうと腕を振るグレイウルフ。
穂先と腕が衝突し、相手と反対の方向へ吹き飛ぶ私とグレイウルフ。吹き飛んだ先で即座に体勢を整え、構え直す。
――能力によってでたらめに強化されたグレイウルフの四肢と、同じくデタラメな身体能力で振るわれる槍が幾度にもわたり、火花を散らす。
* * *
「こいつッ......! 」
「霊夢! 早く逃げなさい! 」
紅魔館内で私たちはルトラと対峙していた。
ルトラによって操られ、館内を徘徊していたゾンビは咲夜や美鈴によって倒されたがゾンビを操る元凶はこうして私たちの前に立ちはだかっている。
「霊夢さん、抵抗せずに捕まってくれませんか?」
丁寧な口調で聞き分けのない子供に言い聞かせるように言い、そのあとに女王様のティ―タイムが近いのです、と続けるルトラ。
「女王......、翳理のことね」
横でパチュリーがレミィから聞いていたけどやっぱり生きてたのね、とつぶやく。
「それは......、そうですね。」
簡単には殺させませんよ、と言いながらルトラはゾンビを私たちに突進させる。パチュリーがしかめっ面のまま炎魔法で突っ込んでくるゾンビたちを焼き払う。
私たちはパチュリーの放つ魔法の熱を背中に感じながら走る。私たちはルトラによる襲撃から紅魔館もそう遠くないうちに包囲されると考え、紅魔館から咲夜の先導によって脱出をしようとしていた。
「パチュリー様も早く来てください! 早く!」
咲夜がルトラに私たちを追わせまいと踏ん張るパチュリーを呼ぶ。
咲夜に呼ばれたパチュリーは先ほど放った炎魔法に水魔法とぶつけた。
――大質量の水が熱せられ、廊下が水蒸気で満たされる。
その中をパチュリーが抜けて私たちに追いつく、そのまま私たちは中庭へ飛び出す。
* * *
――ッきぃん!!
ひときわ大きな衝突音がこだまする。空からグレイウルフが私の前に登場してから数分、時間としては短いがその数分の間にグレイウルフの腕と私のグングニルは数えきれない火花を生み出した。
私とグレイウルフの周囲の物体はことごとく破砕され、吹き飛ばされていた。
――夜の帳を統べる王と月下に吼えるルー・ガル―の戦闘はそれほどに熾烈なものだった。
「なかなか強いわね」
「嬢ちゃんこそな」
「まだ続けるかしら? 私としてはこれ以上散らかしたくないのだけれど」
グレイウルフは考える素振りを見せる。互いに戦闘経験豊富な手練れ同士、このまま本気でやりあっても戦闘が長引くのは火を見るより明らかだ。しかしエルグの命令には背けないのか、はたまたルー・ガル―としてのプライドが譲歩を許さないのか。
そこへ霊夢たちが扉を壊さんとする勢いでやってきた、その後ろからはぐっしょりと濡れたルトラとそれに追従する屍の姿。
「これは、少しマズい展開かしら......」
私は槍を握り直しながら呟く。
「グレイウルフ!?」
「グレイウルフさん!?」
私とルトラが同時に驚きの声を上げる。
「ルトラやんけ! おまけに博麗の巫女も!」
グレイウルフも素っ頓狂な声を出す。
互いが互いの目を見る、自分の思考が視線を通して相手に通じると言わんばかりに。
「霊夢! 挟まれてるわ!」
逃げなさい、そうレミリアが叫ぶ。
――凍り付いた空気は打ち砕かれ、張り詰めた空気へと変貌する。
「あんたたち、逃げるわよ!」
レミリアの大声で我に返った私はそう叫び、混乱している魔理沙たちをこちらに引きずり戻す。
そのまま挟撃される前に包囲を突破しようと走り出す。
――正門を抜けたとたん、頭をブン殴られたような衝撃が私を襲う。
いや、実際に殴られたのだ。待ち伏せをしていたハーメルンによって。
角待ちなんて単純な方法で私は捕まるのか。そんな考えを抱きながら私の意識は暗闇に沈んだ。